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森で過ごすと、なぜだか心からホッとする。深い安心感と人生の方向性が得られる、つながりを思い出す旅「森のリトリート」

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この記事は、「グリーンズ編集学校」の卒業生が作成した卒業作品です。編集学校は、グリーンズ的な記事の書き方を身につけたい、編集者・ライターとして次のステージに進みたいという方向けに、不定期で開催しています。

みなさんは、仕事も人生もうまくいっているはずなのに、なぜだかわからない焦りや、「これで本当にいいんだろうか?」という、そこはかとない不安を感じたことはありませんか?

森のリトリート」を展開する「株式会社 森へ」代表の山田博さん(以下、ひろしさん)も、以前ビジネスの最前線で活躍していた頃は、「このまま勝ち負けにこだわって、突っ走っていていいのだろうか…?」という不安を感じていたそう。

また、ビジネスコーチとして独立してからも、クライアントがまだ何かに追われているように感じていました。

こうした恐れや不安のもとはどこにあるのだろう? なんとか解消する方法は? その答えを探し求める中でひろしさんが行き着いたのが、「森でゆっくり過ごす」ということでした。

森で過ごすことで、その不安はどのように解消されたか。また、どんな変化が起きたのか。今回は森の中で、山田博さんにお話をお伺いしました。
 
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山田 博(やまだ・ひろし)さん
株式会社 森へ 代表取締役。株式会社ウエイクアップ チーフケアテイカー。1964年 東京都生まれ。東北大学卒業後、株式会社リクルート入社。人材採用、教育研修の企画営業、教育研修事業の事業企画の仕事に従事。 自らが受けたコーチングで、人生の方向性を見出せたことをきっかけに、コーアクティブコーチングを習得し、2004年、プロ・コーチとして独立。2006年からは、自然の中で自分を見つめ、感じる力を解き放つ活動をスタートさせ、2011年、人が自然、大地とのつながりを思い出し、ずっと先の世代までこの地球ですべての生命と共に平和に暮らす、という願いを込めて、株式会社 森へ を設立。同時に「森のリトリート」を開始。2016年、森へ設立5周年を記念して、電子書籍『RETREATー森と共に、歩む日々。』を出版。

森に委ねる時間

「森のリトリート」とは、仕事や家庭などの日常生活を離れ、ひとり森の中でゆっくり時間を過ごしたり、焚き火を囲みながら人とゆっくり対話をする時間を過ごす2泊3日の宿泊型ワークショップです。

今までに、IT系ベンチャー企業の経営陣、大手企業の次世代リーダー層、公務員、大学教授、主婦、学生、中小企業の経営者など、幅広い層の方が参加しています。
 
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人生や仕事について、じっくりと自分と向き合う時間を持ちたいと思っている方や、ただ自然の中でゆっくりとすごしたい方などが参加される「ライフ編」。経営陣がビジョンの作成や事業の方向性作りのために参加したり、チームビルディングのために組織で参加する「ビジネス編」。ふたつのコースが用意されています。

滞在中は、できる限り携帯電話やパソコンには触れず、原生林の森の中で五感を開いて自然を感じ、自分自身を振り返る時間を持ちます。そして対話の時間には、森で感じたことや、その時の感情をお互いに語り合い、さらに内省を深めてゆきます。

そこにあるのは「深い安心感」

森のリトリートに参加した方々は、どのようなことが起きるのでしょうか?

代表的なことの一つは、安心感を得るということです。大丈夫だな、とか。ほっとしたとか。何かをやらなくても、ちゃんと生きていけるという感じの安心感。

がんばり続けて、追い立てられるようにやらなくても、そこには大地があるし、何も言わずに受容してくれる。そういうことを感じるから、安心するんですね。それはもう、ほぼ全員に起きているんじゃないかと思います。

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ほかにも「二つの変化がある」とひろしさん。

まず、人生やビジネスの方向性、指針のようなものを得るということ。「迷っていたけれど、思っていた方向でいいんだ」「こっちの方に進もうと新たな道を見つけることができた」、そんな声がたくさん届いているようです。

そして、一緒に参加した人たち同士の深いつながり。会社づきあいを超えた、人と人としてお互いにわかりあえた感じは、特別なものがあるようです。

それにしても、どうして森に入るとこんなことが起こるのでしょうか?

森が何かをしてくれているんでしょうね。ただ森を歩いたり、一人で過ごしているだけなのに、それまで感じていた「そこはかとない不安」が小さくなるのを感じるんです。

不思議なことに、誰を連れてきても、都会にいるときと顔つきが変わる。理由はわからないけど、確かにそうなっている。


正直、その理由は正確にはわかりません。自然に入ると脳にどのようなことが起きるのか、という研究もあるようですが、私が感じるのは、人間はもともと大地から生まれ、森にいたからじゃないかなということです。元いた場所に戻ったから、それを思い出して、安心するんじゃないかと感じています。

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森へと誘われた複数の兆し

このような不思議なことが起きる森へと、ひろしさんが周りの人を連れて行くことになった背景には、いくつかの大きなきっかけがありました。

一つは、会社員としてのご自身の体験です。17年間、会社員として激しく働いていたとき、なんとも言えない行き詰まりを感じはじめたのだそう。それは勝ち負けですべて評価されたり、果てしない成長が善という価値観への違和感でした。

いちばん肝心の、「あなたは何がうれしいの?」「将来どうなりたいの?」「本当は何に困っているの?」といった、本当のその人の話をすることはほとんどない。そこでひろしさんは、感情やビジョンを扱うビジネスコーチとして独立することを決意します。

そうしてコーチとして、人の内側に入り込む仕事に取り組む中で、小さい頃に遊んでいた森のことを思い出す機会が増えていったのだそう。外側ではなく、内側に意識が向いたとき、体の中に残っていた自然の記憶を思い出したのでしょうか。次第にひろしさんに、「森に行きたい」という衝動が湧いてきます。
 
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もう一つのきっかけは、クライアントの内側の世界にアプローチし、その奥深さに触れる中で気づいたことです。

コーチとは、簡単にいえば「目指す姿に向けて、その人が行動を起こしていくために、会話を通じて支援する仕事」です。コーチングを続けていくと、クライアントはビジョンを思い出し、イキイキと着実に歩んでいくようになります。

結果的に非常にパフォーマンスが上がり、評価もされて昇進し、充実感も感じていく。しかし、どこかいつも、なんとも言えない不安のようなものに追われているな、ということをひろしさんは感じていました。

本当になりたい自分を人生で初めて考えたとき、まったく新しい世界に踏み出したいと思っていても、「本当にそれで大丈夫なんだろうか?」と怖くなってしまう。そうした気持ちをを和らげることはできないのだろうか? という問いがいつもあったそうです。

とはいえ、考えていても仕方ない。試しに森に行ってみよう。そうすると、先ほどのとおり、一緒に行った人の「そこはかとない不安」が小さくなっていくのを感じたのです。そして、気になる人を連れて行くたびに、同じようなことが次々と起きていったのでした。
 
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こうして徐々に森に導かれていったひろしさんに、さらなる兆しが訪れます。

例えば、トラッカースクールという、ネイティブアメリカンといわれる人たちから、何万年もかけて自然と共に生きてきた知恵を学ぶ機会。そこで、大地とつながることの大切さに改めて気付いたそう。

さらに決定的だったのが、2011年の東日本大震災。震災や津波を通じて自然の力の恐ろしさを知るとともに、被災した方々が自然に対して文句を言うのではなく、そこからまた自然とともに生きようとする姿を目の当たりにしたひろしさん。

「人と自然をつなぐ旅のガイドとして、つながりを思い出してもらうことが自分の役目。いよいよ本格的にやるとき」と、「森のリトリート」の立ち上げを決意したのです。

大地とのつながりを取り戻すきっかけとなる場所

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森で得られる深い安心感の要因は、“つながり”だと思うんです。それは自分自身とのつながり、人とのつながり、そして大地とつながりです。中でも一番大きいのは、大地とのつながりでしょう。本人は気付いていないけれど、端から見ているとそう見えます。

都会でコーチングをやっていても、自分や人とのつながりは感じられます。そこで、安心して涙したりするのですが、なかなか大地とのつながりは都会では感じられない。それが森にはあるんです。

大地とのつながりを思い出すことで、地球も人も自分自身とも全部つながっていることを感じる。そうして切り離されていなかったという安心感を取り戻す。そんなとき人は、生かされていることへの感謝とともに、その人らしくありのままでいられるようになる、とひろしさんは言います。

森に来る前は競争原理が強かった組織でも、本音を出し合えるようになったり、未来が不安だった人も、自分の可能性をすべて解き放ち、その人らしい納得のいく意思決定ができるようになるのです。
 
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柔らかなインタビューを終えて、森を抜けるとき、敢えてこんな質問をしてみました。森ではなくいつもの暮らしの中で、つながりを取り戻すためにできることはあるのでしょうか?

いちばん簡単な方法はゆっくりすることです。例えば、歩くスピードを半分にする。そうすると、それまで視界に入ってこなかったものが入ってくるようになります。それから五感が開き始める。感覚が鋭敏になり始める。

音が聞こえてくるし、匂いもする。そうすると、実は都会にも自然が結構あることに気づくんですよ。街路樹とか、公園とか。空があって、風も吹いている。

確かに、見渡してみると、近くには四季折々の自然がすぐ近くにあったりします。森ほどではないとしても、大地とのつながりの入り口があるとしたら、「ゆっくり」と過ごしてみることで、そのドアの“取っ手”に手がかかるくらいまではできるのかもしれません。

みなさんも通勤や通学の道を、いつもの半分のスピードで歩いてみませんか? きっと、いつもは見逃している大切な何かに気づくはずです。

(Text:菊野陽子)
 
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菊野陽子
1979年徳島県出身。インタビューを通じて、ビジョン(最高の未来の可能性)を描いて可視化する、”夢の絵描き”(ビジュアライズコーチ)。対話を通じて自業をうみだすプロジェクト「小布施インキュベーションキャンプ」や、森のリトリートなど、ひとのほんとの力が輝くための活動に従事。