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自分のくらしを自分たちの手でつくる「リノベーションまちづくり」のこれまでとこれから。アフタヌーンソサエティ清水義次さん×greenz.jp編集長鈴木菜央対談【後編】

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

清水義次さん×鈴木菜央対談(前編)」では、清水さんがリノベーションまちづくりを実験しながら生み出し、理論化し、実行する人が重要であること、行政との連携の必要性に気づくところまでをたどってきました。

後編ではそこから一歩進んで、リノベーションまちづくりの“リノベーション”の対象になるものについて、また今後の展開の可能性についてもうかがっていきます。
 
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清水義次(しみず・よしつぐ)
都市再生プロデューサー。神田・裏日本橋、新宿歌舞伎町、北九州市小倉などで現代版家守業の実践に挑む。岩手県紫波町では、まちの中心をつくるオガールプロジェクトに携わっている。株式会社アフタヌーンソサエティ代表取締役、公民連携事業機構代表理事、3331 Arts chiyoda代表。

リノベーションの対象になるのは目に見えるものだけではない

菜央 建物だけがリノベじゃない! ということで、僕も「うんうんそうだな」って思うんですが、それでも清水さんが不動産をベースにしているのはなぜですか?

清水さん それは、不動産の価値毀損が激しいからです。今、日本では人口は減る一方なのに、新築が増え続け、余剰な建物がどんどんできています。経済的に見たときに、これは大きな問題です。
 
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菜央 たしかに。「老後を安心して暮らしていくために、不動産を持っていれば安心」という時代ではなくなりましたね。

清水さん こんな発言をすると、「清水さんは新築否定派なんですね」と言われることがありますが、決して新築を否定しているわけではないんです。

不動産の価値毀損が激しいので不動産をベースにしていますが、リノベーションの対象になるのは、目に見えるものだけではありません。委員会もそうだし、道路の使い方や公園の使い方などもリノベーションの対象になります。

菜央 ハードの面だけではなく、ソフトもリノベーションしていかないと追いつかない。
 
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清水さん そうです。今、リノベーションの焦点が“形あるもの”から“形のないもの”へ移っているという感覚があります。かつて経済学者の宇沢弘文さんが説いたように、縮退する日本社会は「制度資本のリノベーション」の時期を迎えつつある。これは行政と取り組んだからこそ気づけたことです。

成熟した社会で通用するのは午後の倦怠の中で生み出されるソフト

清水さん もともと、「アフタヌーンソサエティ」という社名は、画家をしていた兄がつけてくれたんです。昼食のあとに、のんびりとワインを飲んでいるときのような、そんな昼下がりの倦怠の中で生み出すソフトをつくれ、と。成熟した日本で通用するのは、それくらいしかない、というんですね。

菜央 ええっ! そんな由来だったんですね!

清水さん そして、独りよがりになってはだめだと。ソサエティ(=集合知)によって、成熟した社会に通用するソフトを生み出せというんです。

バブルの崩壊後、社会は縮退するけれど、それは“ベースができた社会”の縮退であって、貧しくなるわけではない。基本的には豊かなんです。そんな時代をいかに面白く生きていくのか、“質的な成熟”がテーマだと。
 
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菜央 うーん、みんなの気分を言い当ててると思います。本当にそうですね!

清水さん 成熟した社会を一回体感すると、二度と逆戻りはできない。それが存在しなかったところには戻れない。ウォシュレットみたいなもんですね(笑)

過渡期をいかにやり過ごすか

清水さん 今の日本では、制度が世の中の変化に追いついてなくて、むしろ障害になることもあります。たとえば、リノベーションのニーズがたくさんあるのに、建築基準法は“新築”基準法と言われるくらい、現状に即していない面があります。

菜央 それは僕も小屋をみんなでDIYで建てたときに痛感しました。
 
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清水さん ただ、やがて変わらざるをえないけれど、だからといって急進的に物事が進むのもよいとはかぎらないと最近では考えるになりました。

今は、過渡期をいかにしのぐのかという課題設定で議論した方がいいんじゃないかと思うんです。

菜央 なるほど。

清水さん リノベーションを始めるまでは、この先、世の中はどうなるんだろうと思っていました。でも、実際にリノベーションまちづくりをやるようになって、現在の社会は意外と捨てたもんじゃないと感じます。

それぞれが自立してまちづくりができる時代になっているんです。

菜央 リノベーションスクールは、そのことに気づいた人たちの出会いの場になっていますよね。

清水さん そうですね。自分が属している社会で、今までの当たり前に疑問を感じていた人たちが、スクールに来て仲間と出会い、ムーブメントの一部になる面白さを感じてくれていると思います。
 
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リノベーションスクールのようす

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セルフビルドで施行する受講生たち

日本で市民社会が根づきはじめている

清水さん リノベーションスクールをやってみて驚いたことがあるんです。それは、20〜30代の若者を中心に、市民社会が根づきはじめているということ。観察者として見たとき、これは一番大きなトレンドだぞ、と。自分たちの世代に比べて、明らかにパブリックマインドを持っている若者が増えているんですね。

民間から、とくに若い人たちの中から、“自立して物事を考えられる人”が出てきているのを実感します。私のような年配の人間にも、はたらきかけていかないといけないですね。
 
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菜央 リノベーションスクールをやってみたことで、観察者として気づいたわけですね。とくに“自立している”ということがひとつキーワードになりそうです。

清水さん 自立して生きるということができていないと、まちづくりはできません。パブリックマインドを持つこと以前に、営業して生活力をつけることが大切です。私も若い頃は営業に苦手意識を持っていたことがありました。

でも、実際に挑戦してみて、結果を出して、営業が楽しいと思えると自由になった感じがしました。営業の力を身につけさえすれば、独立しても、あとは楽しくできるものです。

リノベーションスクールに集まる人たち

菜央 リノベーションスクールでは、すでにリノベーションの可能性がある空間があって、小さい規模からスタートするという点でとっつきやすさもありそうですね。そして、集まるメンバーも、0から1を生み出すのが得意な人もいれば、1を100にするのが得意な人もいる。

清水さん そうですね。0を1にするのが得意な人ばかりが集まると解散しやすい(笑) リノベーションスクールは、いろんなタイプの人が、いい割合で集まっていると思いますね。

ある種のカミングアウトの場になっていると言えるかもしれません。自分の住む地域では、自分のような考えの人間は異質だと感じていた人が、リノベーションスクールに来てみたら、自分と同じようなことを感じたり考えたりしている人がほかにもたくさんいることに気づける。
 
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リノベーションスクールのパーティ

清水さん リノベーションまちづくりでは、今まで通りのやり方を続けていてもだめだし、成功事例をそっくりまねしていてもうまくいかない。本質的なことを学んで、自分の場所に帰って、その地域に合ったやり方で実践してみるというのが大事です。

菜央 リノベーションスクールに満ちている“熱さ”というか、あの場に独特の空気感も大きいですよね。

清水さん そうですね。今まで「まちづくりなんて堅苦しくて自分には関係ない」と思っていた人が、飛び込んできてくれる場になっています。

仮説を学び、実践して、新たな仮説を発明してほしい

菜央 リノベーションまちづくりをしていくうえで、気をつけることはどんなことでしょうか。

清水さん まず、言われたことを鵜呑みにして信じこむのはやめた方がいいですね。

菜央 健全な批判精神を持とうということですね。

清水さん そう。それを持ったうえで、仮説の構築とその実践というやり方を早い段階で学んでしまった方が楽だと思います。そして、現場で実践してみる。仮説が物事の推進を助けてくれます。この、現場で仮説をローカライズしていくのが面白いんですよ。そして、自分で新たな仮説を発明してほしいですね。

いろんな人が、いろんなタイプの実践をしてくれることで、リノベーションまちづくりはどんどん面白くなっていく。こういうのは、本来は大学の役目なんでしょうけどね。

菜央 たしかに。リノベーションまちづくりは、みんながそういうプロセスを共有することで、まち全体がみんなにとって言わば「ラーニング・シティ」になるということなのかも。

まちづくりに関して全くの素人の場合、最初の一歩はどうやって踏み出したらいいのでしょうか。

清水さん リノベーションスクールで出会った仲間と、とりあえずはじめてみることではないでしょうか。ひとりでスタートするより、3〜4人ではじめるのがいいでしょうね。相談相手がいて、悩まなくてすみます。あとは走りながら考えればいいんですよ。ユニットマスター陣もみんなそうなんじゃないかな。
 
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菜央 リノベスクールは、世界的にも日本で先進的に起きている縮退社会の中の、興味深い実験だと思うんです。だから世界で求められるようになるだろうなと思うんですけど、今後海外への展開も考えているんですか?

清水さん 現時点で、実際に台湾と韓国からオファーが来ています。台湾や韓国でも、日本社会と同じような現象が起きているんですね。ノウハウ移転はできると思います。

菜央 これからリノベーションまちづくりは海を越えてどんどん広まっていくわけですね。わくわくします。ところで、清水さんをリノベーションまちづくりに向かわせるモチベーションって何ですか?

清水さん なんでしょうねぇ。面白い人が集まる場にいるのが楽しいんじゃないでしょうか。いろんなことを考えるし。若い人たちは素晴らしいですよ。

今、世の中が面白くなっていて、希望がたくさんある。できることなら、もう一度生まれ変わりたいですね。若い人には今こそ楽しくやってほしいです。

菜央 ほんとに清水さん、楽しそうです(笑) インタビューの間、終始ニコニコされていましたね! 今日は本当に、ありがとうございました。
 

(対談ここまで)

学生時代から社会風俗の観察が趣味であり、それがやがて仕事になり、今に至るという清水さん。そんな清水さんの口から「今、世の中が面白くなっていて、希望がたくさんある」という言葉を聞くと、勇気づけられる想いがしました。

5月24日(火)〜29日(日)に3331 Arts Chiyodaで開催される「リノベーションまちづくりサミット2016」では、全国各地のリノベーションまちづくりの活動と実績を見ることができます。リノベーションまちづくりに興味があるなら足を運んでみると、きっとさまざまな刺激を受けることでしょう。

そして今、あなたが自分の居場所で地域の課題を感じながらも、何から手をつけてよいかわからないという歯がゆさをおぼえているとしたら、はじめの一歩として、リノベーションスクールに参加してみてはいかがでしょう。きっと同じ志を持った熱い仲間との出会いが待っているはずです。