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大事なことは、大人の在り方でしか伝わらないから。福岡県糸島市にこども園を開園する「くらすこと」藤田ゆみさんに聞く、子どもとともにありのままに生きるということ

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社会全体で子どもの育ちを見守る文化を育むために。「世界と日本、子どものとなりで」は、子どもを中心とした社会づくりに取り組む方々の声を聞く連載企画。greenz people(グリーンズ会員)からの寄付により展開しています。

明日4月2日、福岡県糸島市に、小さな森のようちえんが開園します。

園の名前は、「くらすこと こども園 おやまこやま」。3年半前にgreenz.jpで紹介したプロジェクト「くらすこと」が初めて立ち上げる、子どもの育ちの場です。

「くらすこと」といえば、お母さんたちが得意なことで社会とつながる活動プラットフォーム。これまでは東京にアトリエを構え、ワークショップやカフェなど、お母さんのための場づくりを展開していましたが、なぜ今、糸島にこども園を開園するに至ったのでしょうか。

移住、仕事、子どもとの暮らし、そして再会。こども園立ち上げの背景には、代表・藤田ゆみさんの、何かに導かれるような人生のストーリーがありました。

4人の子どもの母であり、園の共同代表となった藤田さんの今の想い、そして人としての在り方。ゆっくりと味わってみてください。
 
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藤田ゆみ(ふじた・ゆみ)
「くらすこと」代表、4児の母。自らの妊娠・出産経験における気付きを軸に、2005年、”子どもと一緒のスローな暮らし”と”わたし自身のものさしを見つける”をテーマに、妊婦さんやお母さんたちをはじめ、すべての女性が参加できる活動プラットフォーム「くらすこと」を立ち上げる。2010年には東京都杉並区にアトリエを構え、食や身体、心に関するワークショップやお茶会を開催する他、カフェやオンラインショップも展開。2013年、家族とともに福岡県糸島市に移住。様々な出逢いの中で、2016年4月、「くらすことこども園 おやまこやま」を開園、園の共同代表となる。写真は、4番目のお子さん、1歳1ヶ月の柚朱(ゆず)ちゃんと一緒に。
http://www.kurasukoto.com/

“土に近い”暮らしを探して

前回、藤田ゆみさんにお話を聞いたのは、2012年12月のこと。当時、3人のお子さんを育てながら、子育て中の女性の居場所や活躍の場を次々に生み出していた藤田さん。「子どもと過ごす時間も自分のやりたいことも大事にしたい」という等身大の想いに、「私もやってみたい」「勇気をもらいました」と、多くの女性から共感の声が集まりました。

あれから約3年半。現在は福岡県糸島市で、1歳、6歳、9歳、13歳の4児の母として暮らしています。

震災を経て、ここ4〜5年は、働き方、食べること、どう生きていくか、そんな自分のベースとなる部分を、ひとつひとつ「本当にこれでいいのかな?」と、再構築していくような時期でした。

当たり前だったものが当たり前じゃなくなったり、安全だったものがそうじゃなくなったり。子どもも小さかったので、それがけっこう衝撃だったんですよね。

「日々食べるものぐらいは、自分の手でつくれたらいいな」。そんなことを感じはじめた藤田さん。東京での暮らしの中で、一番大きかったのは、お子さんの育つ環境に対する想いでした。

「新米お母さんたちの力になりたい」と思ってやってきたんですけど、子どもも小学生になり、自分の子育てを考えたときに、都会の子育ての…なんというか、難しさや閉塞感を感じていて。

たとえば2番目の子の保育園は待機児童対策で団地の中に建てられた新設園で、「運動会を外でしないでほしい」という匿名のメールが届いたために、お隣の大学の体育館を借りて開催したことがありました。

長男は当時、公立小学校の4年生でしたが、みんな習いごとや塾へ行っていて放課後に遊ぶ子もいなくなってきたり、クラスの半分以上が中学受験するような土地柄で、劣等感を抱きだしているのを感じて。親としてはもちろん認めているんですけど、彼の力をどういうところで発揮できるのかな、って。

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子どもたちをめぐる環境に難しさを感じはじめた藤田さんが直感的に感じたのは、「土に近い暮らしがしたい」という想いでした。

「土」と言っても、農業をやるとか、そういうことではなくて。「くらすこと」の活動の原点でもあるんですが、出産や育児って、自分が自然の一部であることを実感するんですよね。おっぱいをあげることで子どもが大きくなることとか、理屈じゃなく体感するわけで。

子どもが育っていく中で、海や山、自然の近くに行くと心が開けていくことを、ここ最近ずっと感じていたので、そういう暮らしがしたいな、と。田舎だからすべてが解決するとは思っていなかったんですが、そうしてみよう、と、移住先を探しはじめました。

出身地である関西も検討しましたが、「せっかくなら全然知らない土地の方がテンションが上がる!」と、九州で探していたときに出会ったのが糸島というまち。空港までのアクセスが良いこと、山と海に囲まれた環境、そして、移住者への理解があることも決め手となりました。

どういうかたちかわからないですが、今まで「くらすこと」として自分がやってきたことを新しい土地ではじめたときに、受け入れてもらえる土壌があるといいな、という想いがありました。

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糸島の風景。海も山もすぐそこです。

何か大きな決断をするとき、変化しようとするとき、必要となるきっかけとエネルギー。藤田さんの場合、それはやはり、お子さんの存在でした。

そのとき、ちょうど2番目の子が小学校に上がるタイミングだったんです。ここを逃すともう難しいな、と、思い切って。

引っ越しは「くらすこと」東京店オープンの翌々日、しかも小学校の入学式の前日で、よくできたな、と今でも思います。いつもこんな感じなんですけどね(笑)

こうして2013年4月、3人のお子さんと、かねてから田舎での暮らしを希望していた、その当時ウェブデザイナーだったご主人とともに、家族5人での移住が実現しました。

意志を持ってやる人がいれば、私じゃなくてもいい

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インタビューの会場は、今年3月にリニューアルオープンした「くらすこと」東京店。京王井の頭線・富士見ヶ丘駅からすぐに佇むカフェ&セレクトショップです。

母としての等身大の想いで決意した糸島への移住ですが、一方で主宰する「くらすこと」は、東京を拠点とした活動です。「自分のやりたいこと」を実現してきた地から距離を置くことに、藤田さんは抵抗を感じなかったのでしょうか。

ここ(東京)で意志を持って場を開いていきたいという人がいるのであれば、私じゃなくてもいいのかな、と思って。

もちろん、方向性を指し示していくのは私なんですけど、そこで人とのつながりや場をつくっていくのは、一緒にやっているみんなです。彼女たちが「やる」と言ってくれていたので、だったらいいんじゃないかな、と。

「実際はそんなに簡単じゃなかったですけどね」と、付け加えて藤田さんは笑います。リーダーが移住してからの3年間、「くらすこと」はその後も“みんな”の手でワークショップやお茶会等、東京での活動を継続。移住直前にオープンしたカフェとセレクトショップは、子連れの方をはじめ、多くのお客さんで賑わうようになりました。

2013年8月には、前回のインタビューで構想を聞かせてくださったウェブマガジンもスタート。今年3月には店内のリニューアルオープンも果たし、着実な歩みを進めています。
 
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お昼前から子連れの方をはじめとした多くの女性客が集い、賑わう店内。スタッフのみなさんも、いきいきと笑顔で働かれている様子が印象的でした。

自分のつくってきた立場に固執しない、しなやかな決断。仲間への揺るぎない信頼。そして、それがまるで当たり前なことのように語る藤田さんの姿勢が、その後の「くらすこと」の活動を根底で支えている。そんなことを感じます。

子どもにも親にも、もうちょっと親しい在り方で

さて、ストーリーに戻りましょう。藤田さんの糸島暮らしは、まず、お子さんたちを見守ることからはじまりました。

最初の1〜2年は、全然違う環境に移った子どもたちが「自分自身でいられる」ということを見守るのが一番の仕事でした。

特に長男はもともと社交的でどこにでも馴染むタイプだったんですけど、5年生からの転校だったので、東京と糸島では遊びも全然違いますし、保育園から1学年1クラスでずっと育ってきている同級生の環の中に入っていくのはなかなか難しかったみたいで。

中学校に入ってやっと、自分の居場所になってきたようですが、時間がかかりましたね。

「子どもたちが毎日安心して過ごせるのを見届けないと、自分の仕事どころじゃない」と、慣れない土地で、まずはお子さんに100%の心を向けて暮らす日々。ようやく落ち着いた頃に、自然と心が向かったのは、子どもの育つ環境のことでした。

震災以降、試行錯誤しながら住まいも移してきた中で、子どもたちには、どんな状況や環境でも、日々の生活の中で自分の楽しみやうれしさ、喜びを見つけて生きていってほしいと願うようになりました。

「生き抜く力」。それを身につけることがすごい大事だと思いましたし、そんな、自分の意志を持ってやっていけるような子どもが育つには、どういう子ども時代を過ごせたらいいのかな、そういう場所をつくりたいな、って考えるようになったんです。

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お母さんと一緒にいたい年頃の柚朱ちゃん。東京出張も打ち合わせも、いつも一緒です。

もともと「お母さんの力になりたい」という気持ちで教室をやっていながらも、「もうちょっと親にも子どもにも親しい自分の在り方に想いがあった」と、自身の源泉をたどるように語る藤田さん。そんなときに再会したのが、のちに「くらすことこども園」の共同代表となる深谷里津子さんでした。

深谷さんは、藤田さんの一番上のお子さんが通っていた東京の小さな幼稚園「はらっぱ園」の先生だった人。自然育児とシュタイナー教育に共感する親たちとともに運営していましたが、5年前の閉園後、自分の保育を実践する場にめぐり会えずにいたと言います。

里津子さんが実践してきたのは、100%子どもの視点から物事を見る保育。その分、親にとっては厳しかったりするので、大人の都合が優先される社会の流れの中で、彼女の保育を実現する場って、なかなか難しいんですよね。

「はらっぱ園」も、週4日で延長保育はありませんでした。それは、子どもにとってすごく考えられた保育時間なんですが、やはり働きながら通うのは難しくて、親たちに受け入れられなくなってしまったんだと思います。私自身も、当時から仕事をしていたのですごく大変でした。

子どもの視点から保育を紡いでいく深谷さん、そして、親の視点から環境を整える藤田さん。ふたりが再び出会ったとき、藤田さんの中でずっとくすぶっていた想いが、あふれ出てきました。

子どもにとってもすばらしい幼児期が過ごせて、親にとっても、自分の得意なことで社会とつながれる。仕事をしながら、親にとっても子どもにとっても、いい時代を過ごせる場所。そういうのができたらいいな、とずっと思っていたんです。ふたりではじめよう、と思いました。

子どもを真ん中にした場所

こうして、糸島での子どもの育ちの場づくりがはじまりました。「“たまたま”家の近所に栗林があって、“たまたま”地元の材木屋さんの親戚の方のもので…」と、不思議な力に導かれるようにして、1500坪にも及ぶ敷地を購入できることに。地元の同意などに時間はかかりましたが、2014年の年末には、その地に園と藤田さんの自宅を建てる計画が始動します。こちらが、新しくできる園のイメージ図。
 
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絵:七字由布

山の麓にあり小川も流れる敷地には、園舎に畑、自然を活かした子どもたちの遊び場などが広がっています。屋外に置かれた大きなテーブルには、子どもと大人、そして動物たちの姿も。

園の一番のコンセプトは、子どもが明日の心配などせず、安心して今だけの子ども時代を生きられるということです。それが大前提で、一番大事だと思っていて。

そのためには、そこに集う親がみんなでみんなの子どもを見ていくような関係性をつくること。たとえば、帰りにひっくり返って、わーって泣いている子がいても、「あの子はもうすぐ妹が生まれるからね、泣きたくもなるよね」ってまわりの大人が見られるのとそうでないのとでは、全然違うんじゃないかな、と思います。

そんな関係性を育むために藤田さんが考えているのは、園を大人にとっても居心地の良い場所にすること。月に一度、大人も子どもも、兄弟も家族もみんなで集まってバーベキューをしたり、ときには親だけで話し合いをしたり。

その他にも、お母さんが有償ボランティアでごはんをつくったり、長期休暇には、保育観を共有できる様々な職種の仲間や、お父さん、お母さんたちにも保育に入ってもらったりすることを考えているのだとか。保育時間も、基本的に9時〜16時ですが、一人ひとりの必要に応じて、8時〜18時の間は保育可能としているそうです。

お仕事をしているお家も、子どもとたっぷり過ごしたいと思っているご家庭も、どちらも通えたらいいな、と思っていて。認可ではなく、小さな集まりだからこそ柔軟に、足りないところにみんなで手を当てられるような体制ができたらいいな、と思うんです。

子どもの場所だけれど、親たちも一緒に、子どもを真ん中にして育てていく場所にできたらいいな、と思っています。

「園が立ち上がって、まずそこがしっかりしてきたら」と言葉を添えた上で、将来的には、近所の小学生や中学生など、子どもがいつでも遊びに来られるプレーパークもできたら、という想いも聞かせてくれました。さらに、「ここで終わるつもりは全然ない」と、藤田さん。

ここでそんな場所がつくれたら、ここをベースに、ひとりでも多くの子どもたちが、幸せな子ども時代を過ごせる場所をつくっていくことができたらな、という想いがあって、今はその第一歩です。

子どもは子どもだけで生きているわけじゃないし、やっぱり家族の中で、子どもも幸せで、親も幸せで、がいいんじゃないかなって。子どもにも負担なく、親も自分のすべき仕事に向かって、どっちもが幸せな子育て期を過ごせるちょうどいいバランスって、あるような気がするんですよね。

そういう親子が、もっと増えていく社会になったらいいな、と。すごい難しいんですけど、見つけていけるんじゃないかって思っています。

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ありのまま、子どもと一緒に生きていく。

「くらすことこども園 おやまこやま」は、明日入園式を迎えます。インタビュー当日は、その約1ヶ月前。さぞかしドキドキしていらっしゃるのかと思いきや、藤田さんは至って平常心な様子。お母さんのための活動からこども園の運営へ、大転換のように見えるこの3年間の動きも、藤田さんにとっては、「いつもの流れの中」にあるのだとか。

いつも何か構想があってかたちにしてきたわけではなくて、流れの中で自分の目の前のやるべきことをやってきた感じです。いろいろな人との出会いがあって、それがお店になったり、園になったり。

自分は何もできないから、これからの未来への希望と言いますか、そこに向けて、これからも今自分が出会ったことを大事にしながら、できることをかたちにしていくだけです。

藤田さんの変わらぬ想いをかたちにした、子どもを真ん中にした場所。入園する子どもたちと、それを囲む大人たちは、これからここで、いったいどんな時間を過ごしていくのでしょうか。

具体的な保育内容も気になるところですが、それはまた、後日。園も子どもたちも落ち着いた頃にでも糸島へ訪れ、現場での空気をそのままに、みなさんにお届けしたいと思います。
 
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建築中の園舎。子どもたちとの出会いを心待ちにしているかのようです。

最後に藤田さんに、園の代表として、ひとりの母として、“子どものとなり”で、どう在りたいかを聞きました。

大人になったときに、「どんな状況に置かれたとしても、自分をいかし生きていける力こそが大事だ」と思うのなら、まずそばにいる自分自身が、そうあらねばならないと思うんですね。

たとえば、「人にやさしくしましょう」とか、「思いやりを持ちましょう」とか、言葉で伝えられることではなくて、子どもとともにいる自分がそうであり、そう生きていくことでしか本当には伝えられないんじゃないかな、と。

親としては、ありのままでいること。「こうありたい」と思ってもできない自分もいて、でも子どもは全部、親の在り方を見ているので、取り繕ったりせずにいたい。何を大事にしているかということも、そのために努力し続けている姿も、子どもは見ているから。

だからこそ、大事にしたいことを大事にする生き方をしていたい。難しいけれども、「そうあれたら」と試行錯誤しながら一緒に生きている。完璧じゃないけれども、一緒に育っていけたらいいのかな、って思います。

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今を大事にすること、言葉ではなく在り方で伝えること、ありのまま、そのままに生きること。

子どものとなりで、慌ただしく過ぎゆく時間の中で、ふと何か大事なものを見失いそうになったとき、立ち止まりたくなったとき、藤田さんの言葉を思い返してみてください。それは「ありのまま」の自分と出会う時間。ありのまま、そのままの自分を認めたとき、子どもと自分の未来への道は開けていくのかもしれません。

(撮影:服部希代野)