まずは上の動画をぜひご覧ください。”We have a dream.” と力強いフレーズからはじまるこのビデオ。初めてこのビデオを見た時、なんて素敵なコピーなんだと僕は心底感動しました。
このビデオをつくったのは 2006 年に誕生した米国非営利法人「B Lab」という団体。そんな彼らの夢は「いつの日か、全ての企業が利益を出すためだけでなく、世界をより良くするために競い合う世の中が訪れること」。
そんな夢を叶えるためにB Labが行っているのは主に二つの取り組み。一つ目は “Certified B Corporations (略称 B Corp)” という「いい会社」の認証制度。会社版フェアトレード認証制度というと分かりやすいでしょうか。そして二つ目は “Benefit Corporation” という NPO でもなければ株式会社でもない、彼ら B Lab の思想を体現した新しい法人格の普及。
こちらは本稿取材時点でアメリカ31州に導入実現しており、代表的な企業で言えばアウトドアブランドのパタゴニア、クラウドファンディングサイトのキックスターターが挙げられます。
では具体的に “B Corp”, そして “Benefit Corporation” とはどんな仕組みで、どのようなインパクトが生まれているのでしょうか。またそんな哲学をもった B Lab の人たちは、どんな思いで働いているのでしょうか。
今回は “B Corp” および “Benefit Corporation” に関して、B Lab コミュニケーションディレクターの Katie(ケイティ)に、そしてB Lab内部で働いている人たちの思いに関して、西海岸のコミュニティマネージャーである Jocelyn(ジョセリン)に、それぞれお話を伺いました。
B LabコミュニケーションディレクターKatieにきく、B Labの取り組みと志。
Communications Director at B Lab
ジョージタウン大学にてアフリカ研究を行い、卒業後 PR フリーランスとして独立。様々な企業のコミュニケーション戦略に従事する傍ら児童書の出版も手掛ける。2010 年よりB Labに加わりB Corpのブランディングを担当し、2014年より Communications Director としてB Corpのグローバルブランドを統括。
筆者サンフランシスコ滞在時の取材のため、Katieは本社のあるペンシルバニアから電話でのインタビューを実施。
三好 本日お話できるのを楽しみにしていました。まずはじめに、冒頭の動画にある “We have a dream. One day…” から始まるコピー。こちら本当に素敵な文章ですよね。
Katie ありがとうございます。そう言っていただける方が多くて、私たちとしてもすごく嬉しいんです。
三好 誰がこの素敵なコピーを考案したんですか?
Katie 実は外部に頼んだのではなく、共同創業者が考えたものなんですよ。共同創業者たちが大枠の文章を考え、肝となる ”Best FOR the world” の箇所は私が最後に加えました。私たちもどうすれば B Lab の思いが伝わる文言になるのか必死に考えたので、こうしたポジティブな反応をいただけるのはとっても嬉しいですね。
三好 日本の多くの方にもこの動画が広まったらいいなと思っています。それではまず最初に、B Corp やB Labについてまだご存じない日本の読者に向けて、簡単にご説明いただいても宜しいでしょうか。
Katie もちろんです。私たちB Labは、その動画にもあるように「企業」の在り方をより良いものにしたいと願っています。株主への利益を最大化させることだけに主眼をおくのではなく、顧客・従業員・地域社会・生態系といったすべてのステークホルダーへの「利益」を最大化させることに目的をおく。
そうした企業の在り方が当たり前の世の中にしたいと思い、主に二つの活動を行っています。それが “B Corp” という認証制度の普及と、”Benefit Corporation” という新しい法人格の普及です。この違いがよく混同されるので、少し掘り下げてみますね。
三好 はい、ぜひお願いします。
Katie まず “B Corp” とは、 NPO 法人である私たち B Lab が定めている企業認証制度です。プロダクトに対してフェアトレード認証制度があるように、私たちは本当に社会にとって、コミュニティとって、また従業員にとってグッドインパクトを与えている会社を審査し、”B Corp” として認証しています。
これによって、消費者、採用候補者、投資家、そしてコミュニティの誰の目にも「いい会社」が明らかになり、結果として彼らに応援がより集まり、「いい会社」が世の中に増えることを期待しています。
一方で ”Benefit Corporation” とは、B Lab が各州政府に働きかけ制定された営利法人格です。ポイントは営利法人格という点で、非営利法人でもなければ、営利 / 非営利ハイブリッドな法人でもありません。株式会社と同様、株主のために利益を上げることを求められます。
しかし決定的に異なる点が三つあります。一つ目は世の中に対してどのようなインパクトを与えたいのかを明確に宣言すること。二つ目にそのインパクトを高めるため、株主のことだけでなく従業員、地域コミュニティ、環境や社会に対しても配慮をし経営の意志決定をすること。そして最後に、こうしたインパクトを “Benefit Report” という形で世の中に対して報告する必要があることです。
*筆者から注釈)Benefit Corporationにより具体的にどんなことが可能となるのか。
例えばあるフラワーギフトのビジネスを行っているとします。毎月利益の 1 %を地域の屋上緑化NPOに寄付するといった経営判断は、株主の利益最大化という観点に背き得るため、株式会社であれば拒否される可能性があります。しかし、Benefit Corporation であれば株主はこの経営判断をむしろ尊重することが求められる場合が出てきます。地域社会への貢献や、従業員の満足度といった指標への貢献、そもそものミッションとの関わりが考えられるためです。このように経済合理性だけでは測れない「利益」に対して意思決定できることが、ポイントの 1 つです。
三好 ちなみにB Corpの認証を得ないとBenefit Corporationの登記ができないのでしょうか。
Katie いい質問ですね。実はそんなことはないのです。B Corp の認証を得ずとも Benefit Corporation になれますし、逆に Benefit Corporation でなくともB Corpの認証は取れます。現状 Benefit Corporation の3分の1がB Corpを取得しています。
B Corpを取得 / 更新する際に “B Impact Assessment” という評価プロセスを行うのですが、それがそのまま “Benefit Report” のフォーマットになるんですね。その業務効率の観点でもB Corpを取得しているBenefit Corporationが多いです。そしてもちろんB Corpの認証を取った次のステップとして、法人をBenefit Corporationに移行する企業もたくさんいますね。
三好 また違う観点ですが、政策をつくっている側の人たちの反応って実際どうなんでしょうか。日本でもあったらいいなと思うんですが、実際そうした政策現場の方々の理解を得るのって大変そうだなと想像してしまいます。
Katie ポリシーメイカーの方々にはいろんな方がいて、まあ人それぞれですよね。ただ全体としては風向きは変わってきていると思います。結局各州で政府が解決できない問題が山積している中、ビジネスセクターがそこを解決してくれるのであれば、と燃えてサポートして下さる方は多いです。
ただもちろん最初は非常に懐疑的な方もいらっしゃいます。特に政治的な理由で。
ただ、最後はビジネスの在り方を変える、というところで共感してもらい Benefit Corporation を導入してもらえています。
三好 なるほど。苦労もあるけど最終的に共感してもらえた結果、31もの州に導入されているんですね。そうして仕組みが整っていく一方、企業側がこのB CorpやBenefit corporationを利用することのメリットについて、どのように考えていますか?
Katie 実際の声として大きいなと感じているのは、掲げたミッションに対してぶれずに事業を成長させることの助けになっている、という点ですね。新しい経営メンバーの参加や、投資家、顧客が変わったとしても、B Corpの認証やBenefit Corporationであることによって、大事なミッションに対してまっすぐに向かっていけるとよく言われます。
三好 他にも採用面でのメリットがあると聞きました。B Corp / Benefit Corporationを取得することで、採用がしやすくなると。実際日本の大学生でも社会貢献に関心のある人達が増え、B Corp的な評価観点は、そのまま今の若者が会社を選ぶときに重要視するポイントと重なっていると思います。
Katie 面白いですね。それは日本のみならず、世界的な若者の傾向としてあると思います。そしてその潮流のおかげもあり、B Corp / Benefit Corporation の企業は他社より採用においてアドバンテージになっているのは事実でしょう。
こうした潮流が生まれている背景にはいくつか要素があるように思います。まず一つ目として 2008 年に起こった金融危機。いろいろ語ることはできますがシンプルに言うと「more, more, more, more…(もっと、もっと、もっと、もっと多くを…)」と求めてきた時代の声に、若者が疑問を持つ契機になったと考えています。
またこうした金融危機のもっと以前から、「自分の内側とつながれる仕事をしたい」というニーズの高まりがあったと感じています。お金を稼ぐ手段としての仕事ではなく、自分が心から気持ちいいと思える仕事を人は求めています。このニーズが金融危機をきっかけに、一気に表出したと捉えています。
最後に、これに拍車をかけたのがテクノロジーの進化ではないでしょうか。私が言うまでもなく、Twitter, Facebook 等のソーシャルメディアの台頭により、情報の流通量と速度が圧倒的に上がりました。表出した個人の仕事に対するニーズと、B Corp のような会社とが以前より出逢いやすくなったのだと思います。
三好 まさにそうした時代の声にうまく応えた仕組みをつくっているように思います。そんなB Labがこれまでにもたらした一番重要なインパクトは何だと思いますか?
Katie 「ビジネスのあるべき姿」に対して一つのスタンダードを創りだしたこと、それによって社会的なビジネスを志向するひとたちの collective voice (集合的な声)を増幅することができたこと、だと思いますね。
三好 collective voiceですか?
Katie B CorpやBenefit Corporationは何も真新しいアイデアというわけではありません。様々な人たちが長い間「ビジネスのあるべき姿」に対してそれぞれのを考え方を持ち、議論してきました。しかし、それらが具体的な一つのスタンダードとして集約されることはなかったと思うんですね。
B CorpやBenefit Corporationが訴える「姿」が唯一の回答だとは思っていません。しかしこのような形でわかりやすく場を提供することによって、「自分の内側とつながる仕事」がしたい人たちや社会的なビジネスを志向するひとたちの声を集め、世の中に拡声することができたと思うのです。これが私個人の考える一番重要なインパクトですね。
三好 なるほど。確かにこれまで点としてばらばらに動いていた個人や企業の声を、うまく集約・拡声する場になっているように感じます。逆に今、B Lab が直面している一番の課題は何でしょう。
Katie このB Labが訴えようとしてる「ビジネスの姿」をいかに世界中へ浸透させていくか、ですね。すでに同じような思いをもった人たちは集まってきてくれています。これからの挑戦は、こうしたビジネスそのものの在り方に疑問をあまり持ってこなかった人たちに、いかに関心をもってもらうか。B Corp の一般的な理解をもっと進めたいですね。
三好 日本への展開はどのように考えていますか?
Katie 日本のみならずアジアへの展開も検討していますよ。イギリスは既に展開をしています。共同創業者たちは何度かアメリカ、イギリス以外への国にも調査のために訪れています。現時点で明確なことはお伝え出来ませんが、より多くの国に私たちの信じる「ビジネスの姿」を広めていけたらと考えています。
三好 アジアにはB Labの考えるビジネスの価値観に共鳴する人たちがより多くいるように思います。アジア圏での活動も楽しみにしていますね。では最後に、日本人読者の皆さんにメッセージをいただけないでしょうか。
Katie ビジネスというものは、人類にとって、世界にとって、もっと偉大な活動になり得ると、私は信じています。
現時点で、人々がどんな思想や意見を持っていたとしても、それぞれの立場の人が、経済活動の在り様を進化させていくことに貢献できるはずです。一緒に歴史をつくっていきましょう。将来何かご一緒にできることを楽しみにしています。
B Lab西海岸マネージャーJocelynにきく。自分の情熱と “Work” がつながる場所。
Katieが語ってくれたように素晴らしい哲学をもっているB Labという組織。では、彼女ら自身はどのように自分たちの「仕事」を捉え、そして中の人達はどのような想いで働いているのでしょうか。
B Lab サンフランシスコオフィスを訪問し、西海岸エリアをマネジメントしている Jocelyn (ジョセリン) にお話を聞いてきました。 BLab 内部での働き方、そして彼女自身がどのように自分の情熱と “Work” をつなげてきたのか、その素敵なストーリーをぜひご覧ください。
Senior Community Services Associate at B Lab
コロラド大学で社会学を学んだ後、世界的な社会起業家支援組織 Ashoka をはじめとする多くの非営利団体にて勤務。その後 Numi Foundation (Numi Organic Tea 社の財団) のプログラム・ディレクターを務める中で、営利企業の持つ社会変革の可能性に魅せられ、2014年に B Lab に参画。アメリカ西海岸の B Corp 認定企業のサポートを行っている。
三好 本日はお時間をいただきありがとうございます。本日は Jocelyn さんのライフストーリーに焦点を当てながらご質問させていただきますので、どうぞよろしくお願いします。
Jocelyn ちょっとどきどきしますね(笑)。こちらこそ楽しみにしていました。何でも聞いてください。
三好 まずB Labで働くに至った背景や、モチベーションの源泉に関して教えていただけないでしょうか。
Jocelyn 幼少期に遡りますね。小さい頃、両親が仕事に出かけていくのをよく見送っていたのですが、ふたりとも遅い時間に帰ってくることが多かったんです。そして私は子どもなりに理解していました。「どうやら私のパパとママは “Work” と呼ばれているものにたくさんの時間を注いでいるらしい」と(笑)
三好 なるほど(笑)
Jocelyn つまり、人生の多くの時間と情熱を注ぐ対象のことを、人は “Work” と呼ぶんだ、と理解していたのです。そしてその “Work” というものが「あなたが誰であるのか」という答えの一部にもなるものだと、捉えていました。そして私たちの世代は、その考え方に賛同できる人が多いと思いますし、それを追求する特権が与えられている世代ですよね。
三好 確かに、その “Work” の意味、そしてそこにつながる「わたしは誰なのか」について考えることができるって、とても恵まれた世代ですよね。昔はそんな余裕なんてなかったわけですから。
Jocelyn そうだと思います。私の場合、幼少期での親に対する理解や、私たちの世代がいかに恵まれているかという気付きから、自分の ”Work” をどうすれば意味のあるものにできるか、ということをずっと考えていました。
でも「じゃあそれって何なの?何がわたしの “Work” になるの?」ってもちろん分からなかったわけです。「一体何が自分の情熱の源泉になるのか」って考えても分からなかったんですね。
三好 同じように悩んでいるひともまた、僕たちの世代には多いはずですよね。
Jocelyn 私の場合、その情熱の源泉を探すためにまずは様々な非営利団体の活動に参加しました。少なくともアメリカでは、世の中のためにいい “Work” をしたいと思うなら、非営利活動に参加するのが一般的だからです。
そして実際に幾つかの非営利団体で働いて分かったのは、非営利団体だからといって、そのミッションのすべてが必ずしも自分の心に響くとは限らないということでした。そしてさらに、働いている非営利団体に対してフラストレーションさえも感じている自分がいることに気づいたんです。
多くの非営利団体は非常に限られたリソースで活動しており、思うようなペースで活動が進まないのはよくあることです。最初の職場では仕方ないと感じていましたが、働く非営利団体を変えてもリソースの問題はどこも抱えていて、時にその問題で組織内で揉めることもしばしば。そのフラストレーションがいつも心のどこかにあったんです。
三好 アメリカのような非営利セクターが進んだ国であってもリソースの問題は常にあるんですね。そのフラストレーションから次にどんな行動に出たんですか?
Jocelyn そこで私は、この非営利団体という世界の外側に、自分の情熱を探るチャンスがないかと探し始めたんです。
そんな中で出逢ったのが Numi Organic Teaでした。Numi Organic Teaというのは営利企業ではありますが、素晴らしい理念の下、オーガニックティーを製造している企業です。その Numi Organic Tea が社内で経営している Numi Foundation という財団で働く機会を得たんですね。そこでの経験があまりに衝撃的でした。
「うそでしょ!過去に働いた非営利団体と同じような活動内容でも、営利企業の中で経営されているだけで、リソースの獲得や事業のスケール、効率性に、ここまでの違いが出るなんて!」と。
さらにその財団の事業を通じて得た問題意識や知見が、本業のオーガニックティー事業に良い形で還元されていたのです。環境保全活動で得たインスピレーションをもとにパッケージをもっとエコフレンドリーなものにしたり、改めて本業のミッションを見つめなおし社員教育に改善を加えたり。
この相互循環にすっかり感動していました。その結果やはり売上も伸びるんですよね。そしてその売上がまた財団の資金へと巡るわけです。その財団資金は助成金のように条件もなく自由に活動へ投資でき、そこでの学びがまた本業へと還元される。
この素晴らしい経験から、私は二つの重要な真実に気づきました。
一つ目は、営利企業であったとしても世の中にとって本当に正しいことをしている会社があるんだということ。
二つ目は、そんな営利企業の「世の中にとって本当に正しいこと」をより効果的にするために、私は彼らをサポートすることに自分の情熱があるんだ、ということです。
三好 素晴らしい気づきのストーリーですね。その経験は本当に人生の価値観を変えたでしょうし、その気づきのためにも非営利団体時代のフラストレーションがあった、と今では言えそうですよね。
Jocelyn ええ、仰るとおりですよ。「営利企業は良くないことをする人たちばかりで、非営利団体こそが正しい人たちだ」なんて考えてる人はアメリカでまだまだ多いと思います。でも結局営利企業の中で働いている人たちも葛藤しているわけです。
どうすれば自分の “Work” をもっと意味あるものにできるのか。そのために実はみんな自分の内面で闘っているんですよね。その手助けをすることが私の “Work” であり情熱なんだ、と今では言えます。
三好 お話を聞いていてとても感動しています。ちなみに今の具体的なお仕事の内容に関して伺ってもいいですか?確かタイトルが “Senior Community…”
Jocelyn 長いですよね(笑)。“Senior Community Services Associate” というタイトルなのですが、要するに西海岸地域のコミュニティマネージャーです。B Corp として認定された西海岸の企業に対して、B Corp 基準のスコアを高めていけるようにサポートを行ったり、B Corp 認定の企業同士のコミュニティづくりが主な仕事ですね。
三好 今の仕事のやりがいはどんなところに感じていますか?どんな瞬間が一番幸せを感じたりします?
Jocelyn 二つありますね。
一つ目は、B Corp企業間のコラボレーションを実現できたときです。私たちから見て「この企業は今こんな点に課題を感じている」と気づいた時、「こういう信頼できる会社が同じ西海岸にありますよ」とよく紹介をしたりしているんですね。こうした B Corp 間のコラボレーションは非常に相性がいいんです。
事業領域が異なったとしても、価値観としてとても近いものを持っていますし、B Corp 認定企業としてお互いに信頼がもてます。そしてそのコラボレーションの結果、お互いのソーシャルインパクトが相乗的に高まることがよくあるんですね。
三好 素晴らしいですね。こうしたコラボレーションは B Corp 企業同士だと非常に円滑に進みそうですし、それを見るのはきっと嬉しいですよね。ちなみに何か事例はあったりしますか?
Jocelyn もちろんです。良い事例がありますよ。Pulm Organicsというオーガニック・ベビーフードのメーカーがあります。ここのベビーフードは小さなパウチのパッケージに入っていて、プラスチックのキャップがついているんですね。
Pulm Organics はこのパッケージ自体もサステナブルで地球にやさしいものにしたいと考えていたんです。ただ会社の規模もまだそこまで大きくなく、リサイクル技術を導入する余裕がそこまでなかったんですよ。
そこで Preserve というプラスチックをリサイクルして別の製品パッケージへ再生産している会社を紹介しました。私も正直何気なしに紹介したのですが、この紹介で実現したコラボレーションは本当に感動的でした。
Pulm Organics のパッケージキャップは回収され Preserve に送られます。そして Preserve でそのプラスチックキャップはオーガニックスーパー大手 Whole Foods 内で販売されるオーガニックフードのパッケージへと再利用される流れが実現できたのです。
つまり Pulm Organics で使用されたプラスチックは、常に人々のオーガニックライフを支えるために循環し続ける流れをつくることができたのです。まさに Win-Win-Win の提携ですよね。
こんな素敵なストーリーが他にも多く生まれているのです。これが今私が感じているやりがいの一つ目ですね。
三好 とても感動しました。これも B Corp という制度があったからこそ円滑に進んだ提携の例ですよね。本当に素敵です。これに続く二つ目の幸せな瞬間とは何でしょうか。
Jocelyn 二つ目は我々 B Lab の仲間たちとの出会いに他なりません。アメリカのみならず世界中に多くのメンバーがいるのですが、みんな愉快で面白く、スマートで、そして何より自分の信じる使命に対してまっすぐな仲間たちです。みんなとてもいい笑顔で笑うんですよ。これも自分の心にまっすぐに生きているからこそだと思うんですね。
三好 Jocelyne さんもまさにそれを体現しているように見えます。
Jocelyn ありがとうございます(笑)。嬉しいです。
三好 では最後に、日本の読者の皆さんにメッセージをお願いできますか?
Jocelyn まず、消費者としての皆さんにお伝えしたいのは「購入する製品に対して意識を一緒に高めていきましょう」ということです。
少し大げさに聞こえるかもしれませんが、「あなたが買うもの」は「あなたがどんな会社の姿勢を支持するのか」、もっと言えば「あなたがどんな世界を見たいと思っているのか」を表明するものなんです。
私たちは毎日選択しているんです。「どんな世界を見たいのか」を。それを助けるために B Corp の認定制度やフェアトレード認証がありますが、まだまだ十分ではありません。
いい会社を見極めるのは難しいですが、ぜひ製造元に興味をもってもらいたいですし、毎日の購買行動を通じて未来を創れることの可能性を、意識してもらえたら嬉しいです。
そして日本の起業家の皆さんに。私たちB Labが果たしたいことは、B CorpやBenefit Corporationの仕組みを通じて「企業」の再定義を広めることです。株主への利益最大化のみならず、顧客・従業員・事業パートナー・コミュニティ・生態系といったすべてのステークホルダーへの「利益」を高める存在へと昇華させること。
そして日本人の皆さんにとって こういった思想は、実は昔から根付いているものだと聞いたことがあります。B Corp は決して新しい思想ではなく、ただの新しいフォーマットです。日本人起業家の皆さんが抱く志を、私たちのできることから応援できたら嬉しいです。
現時点では、Quick Impact Accessmentという事業の社会的インパクトを診断できる無料オンラインツールがあります。ぜひご覧になってみてください。
将来日本の皆さんともコラボレーションが進み、情熱のこもった “Work” をご一緒できる日を楽しみにしています。
Jocelyn と筆者
最後に。
いかがでしたでしょうか。B Corp 及び Benefit Corporation の仕組み自体の素晴らしさもさることながら、その中で働くお二人のいきいきとした姿に、僕はとっても感動しました。
お二人も言うように、僕たち日本人の「仕事観」として、とても親和性の高いムーブメントだと思います。この時代を生きるそれぞれの立場の人が、それぞれの役回りで、「経済活動」そのものの在り方を一緒に豊かにしていけたら素敵ですね。
本稿読んでいただいたことで、何か心に響くものが残ったのなら嬉しいです。Katie さん、Jocelyn さん、そしてお読みくださった皆さん。貴重なお時間を本当にありがとうございました。
(Text: 三好大助)
1988年島根県生まれ。バングラデシュのNGO、Google を経て、現在はサンフランシスコのスタートアップスクール Tradecraft でグロース戦略について学んでいる。