greenz.jpでも度々登場する、高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索する、ウェブディベロッパーの池田秀紀と写真家の伊藤菜衣子による夫婦ユニット「暮らしかた冒険家」が、エネルギーの自給の先にある、暮らしかたを、考えます。エネルギーも、インフラも、人間関係も、どんな繋がりをつくるのかを考えるオフグリッドライフな対談シリーズ。
ウェブディベロッパーの池田秀紀と写真家の伊藤菜衣子による夫婦ユニット。高品質低空飛行生活をモットーに結婚式や新婚旅行、住居などの「これからのあたりまえ」を模索中。 100万人のキャンドルナイト、坂本龍一氏のソーシャルプロジェクトなどのムーブメント作りのためのウェブサイトやメインビジュアルの制作、ソーシャルメディアを使った広告展開などを手がける。
今回対談するのは、札幌のカフェ「たべるとくらしの研究所」の安斎明子さんと、同じく札幌の食堂「やぎや」の永田温子さんです。
2014年から札幌に住まいを移した暮らしかた冒険家が「この二人がいなかったら、札幌には住まなかった」と断言するこの二人の魅力はどんなところにあるのでしょうか?この記事を読んだ後、あなたも札幌に移住したくなるかもしれません。
まずは、対談するお二人をご紹介。安斎明子さんは、震災を機に福島から札幌へ移住しました。旦那さんの伸也さんが畑をやっていて、そこで採れた野菜を使って、明子さんがカフェで料理を提供しています。
永田温子さんは「やぎや」というオープンサンドの食堂を札幌市西区で経営していいます。30年ほど前に札幌に来て、やぎやをオープンして10年。やぎを飼ったり、家畜を飼ったり、いろんなものを自給しながら生活しているのです。
ごはんのおいしいお店をやっていて、いろんなことを教えてくれる、DIYライフ、自給自足ライフの大先輩。菜衣子さんは、二人のおかげで3倍速ぐらいのスピードで理想の食べ物のオフグリッドライフをめざすことができていると言います。
札幌の中央区でサンショウウオ
安斎明子 私は旦那が畑で野菜をつくり、私がそれを料理してお店に出すというのがベースなんですけども、去年からは田んぼもはじめて。家族が食べられる分の小さな田んぼなんですが。
あと、もともと旦那の実家が果樹園だったので、その果樹園から来た果物を加工してお店に出したり。家族で食べる分ぐらいの、パンをつくったりとか。
菜衣子 あらためて聞きますが、家はどんな家ですか?
安斎明子 家は、札幌の盤渓という中央区の端っこに住んでいるんですけども、同じ年の友人が育った家を縁があって借りることができました。水は水道ではなく、沢から直接水を汲んで、風呂も薪で温めています。断熱もほとんどないので、冬は水も凍るし、、、。
向かって右が安斎明子さん
菜衣子 この間、ポンプになにか詰まってましたよね?
安斎明子 えぇ、、、サンショウウオが、、、
菜衣子 一応、札幌市中央区での出来事です(笑)
安斎明子 でも、サンショウウオはきれいな水にしか住まないらしいので、あの水はきれいだったっていう(笑)
ーーのっけから、想像しがたい状況にびっくりしますが、札幌市中央区にてこんなことが起きるほど、札幌は都市と自然が近いということ。ちなみに、暮らしかた冒険家が引っ越してくる時には、永田さんが「お水はちゃんと出るの?」と心配してくれたそうです。安斎さんの家は沢の水、やぎやは井戸水を普段から使っていて、水道は当たり前ではない。かといって、山の中にあるわけではないのが札幌。
ジョニー 札幌は都市と自然の割合がすごくいいなですよね。190万人都市じゃないですか。横浜市、大阪市、名古屋市についで、日本で4番目の人口が多い政令指定都市にもかかわらず、こんなに自然が近い。
やぎやには文字通りヤギがいる
菜衣子 それだけじゃなくて、札幌にはとても洗練されているグラフィックデザインの事務所があったり、「たべるとくらしの研究所」や「やぎや」のような良い飲食店もたくさんある。
そういった人たちと一緒に仕事をしたりしながら、家から500mぐらいのところに自分たちの畑がある。こんなに自給的な生活と仕事が両立する場所ってそうそうないと思います。少なくても東京でも熊本でもできなかった。
安斎明子 街にアクセスしやすいんですよね。東京だったら軽トラで銀座は行けないけど、こっちだったら軽トラで札幌の中心部に行くなんてもの頻繁にあるますよね(笑)
東京のイベントが札幌の来ることも多くて、情報もすごく入ってくる。オーガニックショップもあるし、おしゃれな洋服屋さんもある。自分のアンテナを張っていれば、キャッチはすごくしやすい。
菜衣子 欲しい暮らしを買うことも、つくることもできますよね。
安斎明子 どっちもできるバランスがある。それがすごい。
ライフステージごとに変わるDIYライフ
菜衣子 温子さんは30年前に札幌にきて、家を改修しながら住み、そこで幼稚園的なことをしていたんですよね?
永田温子 今から考えれば “教育の自給” みたいなことですかね。既存の幼稚園が嫌だったわけではないんだけど、逆にわざわざ街まで出ていって、通わせるようなところでもないかなと思ったので。
1日遊んでいるならここでいいし、そしたらお友達も来るようになって、だから意識的にやってきたわけではないんです。お友達が4、5人来たので、自然発生的に。10年続けていたら、どんどん人が増えて、待ってる人まで出てきてしまって。親戚に保母さんがいたから、一緒にやってきました。
こちらが永田温子さん
菜衣子 そこも家内制手工業ですよね。温子さんたちは自分たちのライフステージに合わせて、DIYしているものが少しずつ変わってくるんです。
永田温子 そうね、わたしは10年単位でやっていることが少しずつ変わってきて。精神障害の方のための作業所を立ち上げたりとか。そして農的暮らしのレッスンというのをはじめたり。お友達に言われたの「自分の暮らしをオープンにするのね」って。
自分の生活自体が商売道具というか。それでお二人の今回の展示を見て、もう私たちより3歩くらい先に行ってるけど、こういうことだったんだなって改めて思いました。私はもうやれないけど、これが次のステップだったんだなって。
安斎明子 「自分たちは大したことやってない」なんて、いつもおしゃってますけど、本当にすごいんですよ。チーズをつくったり、ソーセージをつくったり。けっこう手間がかかるんですね。
ほぼ毎週、豚肉を燻してベーコンに
ジョニー そういうことを全然平気な顔で、空気を吸うようにやってますよね。
安斎明子 さいちゃんが、札幌に来た理由は私たちがいたからって言ってくれたけど、私たちは永田さんファミリーがいてくれたからなんです。
畑だって1年目、2年目は全然うまくいかなくて、でもそんなときに自分たちが思い描いているものを、実現させている人が目の前にいる。そして、おいしい料理が食べれる。心が折れそうになっても「そうそう。これだ。」って。
シェア畑の収穫物
永田温子 そうやって持ち上げて(笑) 最近は、縄文的な暮らしにすごく興味があって、狩猟、採集、それで1年間を過ごしてみたいですね。
山なら、雪が降るまで、山菜がとれますよね。わらびとかぜんまいとか、本当にいろいろありますよね。この会場に来るまでの道のりでもアカシヤが咲いてましてね。これは天ぷらにしたりとか、お茶にしたりとかおいしいですね。
一歩踏み込むことで分かる無知の知
ジョニー 自給的な暮らしをしようと思った時に、どこから自給すればいいのかっていうのはありますよね。靴下だって、毛糸を買ってきて編むのか、羊から刈るのか、はたまた羊を飼うのか。とか。
永田温子 その人のタイプによると思います。例えば、デザイン性の優れたセーターを編みたい人は、時間やかけれるエネルギーを考えたら、羊を飼うことはできないと思うの。
例えば、10までステージがあるとして、10に興味がある人は10をやればいいと思う。だけど私は、1のところに興味がある。0からスタートしたいという欲望があるから毛糸買ったりとかはしない。でも、表現に興味がある人はそこをやればいいんじゃない?全部はできなから、そこはその人の個性というか。
大きくなりすぎたズッキーニ。プロじゃないから、同じ大きさにならなくたっていいのだ
菜衣子 普通はやっぱり、デザイン重視の10のところに目が行きがちじゃないですか。でも、温子さんは0→1の話をしていて、たとえばジョニーは、0→10を目指しちゃっていっこうにでき上がらないっていうパターン。今回の対談テーマの”だいたいじゃ自給”じゃなくて、ガチで自給したいみたいになちゃって…(笑)
ジョニー 頭のなかでは完璧なんだけど。
菜衣子 そうそう、頭のなかでは。トレーサビリティからデザイン性まで完璧にできているけど、モノはできないじゃない?
ジョニー できないですね。
永田温子 わたしと菜衣子ちゃんと40歳弱離れているでしょ?そうすると見ている世界がぜんぜん違うんだと思う。私たちは小さいころ、親がつくるのを見ているから。その世界が頭にあるの。耕している人も見ていたし、セーターが編むところも見てるし、服をつくるのも見てるから。
ジョニー あぁ、なるほど。僕は全然見たことないですね。
安斎明子 こういうのって、ひとつやり始めると世界が広がるっていうか、見える視野が広がりますよね。一歩踏み込むことで、世界が変わることを感じています。
豚の解体ワークショップの様子
菜衣子 無知の知の扉が、バーンと開きますよね。なぜこれが300円で買えるのか、みたいなことも含めて。
ちなみに、温子さんは、ご飯つくる時に「ここは手抜きでフードプロセッサーを使う」とか、けっこう効率化を考えているじゃないですか。最初は、全部手作業でやってるのかって勝手に思っていたんですけど、けっこう安心しました(笑)
原理主義じゃないというか。こうあるべきだっていうステキ素朴ライフのイメージを一気にいつもぶち壊してくれるんですよね。型がないというか、こんな食卓はじめて見た、みたいな。今日はじゃがいもの日だからっていって、全部じゃがいもでとか。外国みたいな食卓なんですよね。
永田温子 できすぎちゃったりするじゃない、育てていると。普通のお家はスーパーに行って、必要な物を買う。でも、畑をやっていると、多くできたものを使わなきゃいけない。
ジョニー 去年「たべけん(たべるとくらしの研究所の略称)」ともシェアしてる畑では、去年、シシトウがめちゃくちゃとれちゃって困ったみたいなことありましたよね。うちは完全にもてあましてたけど、あっこちゃんは、すごかったよね。
安斎明子 びん詰にして保存食にしたり。全部使い切ることが快感なんです。
菜衣子 二人の知恵がすごくて。でき過ぎちゃっても、干しておけばいいとか、酢漬けにすればいいとか。そうやって、うちにも少しずつ瓶詰めが増えていくんですよ。
安斎明子 野菜は苦労してつくってますから。その労力って半端じゃないわけですよね。しかも、自然栽培のものだったりすると、買うと高いですから。これは大事にしなくちゃ申し訳ないなと。野菜に。
畑の収穫祭
菜衣子 2人は豊作すぎて困っちゃうことすら楽しんでいるように見えます。
ジョニー 自然は待ってくれないですもんね。こっちが合わせなくてはいけない。
菜衣子 どうやって折り合いをつけてるんですか?自然のスピードもあるけど、カフェの都合もあるし。
安斎明子 その時は頭を悩ませますね。
永田温子 この間、伊予柑が届きすぎちゃって、マーマレード一緒にやりましょうみたいなワークショップやってたわよね。
安斎明子 そうですね、そういう風に。
永田温子 わたしは、何十年も札幌にいますから、夏に豆とかを植えておくんですね。それで豆の料理をつくったり。じゃがいも、たまねぎ、にんじんはけっこう保存できますから、そういうのに特化した料理とか。それに西の方から送ってもらったりもするし。
菜衣子 温子さんは岡山のご出身で、お母様が畑をやっていて、アーティチョークとか、おしゃれなものもつくって送ってくれるんですよね。
永田温子 これ植えておいてって頼むと植えておいてくれたりします。あとはモヤシもいいですね。冬は冬の食べ物があるからおもしろいですよね。アイヌの人は昔からの知恵で生きてきたわけですから。いろんな食べ物を塩漬けしたりね。文献見ると勉強できますね。
菜衣子 この間、本見ればだいたい分かるって言われて渡されたチーズのつくり方の本が洋書でしたから!1カップの単位違うよ!みたいな。
「やぎや」の薪窯。これは永田さんたちが自作したもの
永田温子 オンスとかね。温度も華氏だし(笑)
菜衣子 めっちゃ電卓使いました(笑)ちなみに、たべけんも年々自給率が上がっている感じしますが。。。
安斎明子 素材が攻めてきますから、それを使う前に買う訳にはいかないみたいな(笑)
菜衣子 たべけんのランチプレートは大根料理が2品ぐらいありますよね。でも、ぜんぜん違うものになっていて、見事なんです。
わたしなんか保存の仕方をしらなかったから、頑張って冬のうちに全部切り干し大根にしたんですけど、ちゃんと保存すれば今(6月)でも全然だいじょうぶなんですよね。わたし何のために刻んでたんだろうみたいな(笑)生まれそうなお腹を抱えて。。。まだまだビギナーなんでね。。。作業に無駄が多いです。
お金持ちじゃない自分たちは、「豊かな暮らし」を自分たちでつくるしかない
永田温子 うちはとっても貧乏ってわけではないけど、世界にはものすごいお金持ちがいて、彼らの価値観が私たちに下りてきて、私たちもそうなりたいと、お金がほしいとか、あれが着たいとか、欲望があるけど、それとは別の価値観を持つことが今、必要で。
それはずっと考えている。それぞれの価値観を持つことでしか、上から降りてくる価値観に対抗できない。だって、世界の1%の金持ちにはなれないんだから。
ちなみにスモーク用のチップは敷地内で取れる胡桃の木
菜衣子 温子さんは「お金持ちの人がもっともっとお金持ちになる社会というのが見えていて、そのときに、私たちは今更お金持ちにはなれないのよ」って話をしていたのをよく覚えています。
「だからこそ、お金持ちじゃない自分たちは、自分たちでつくるしかないじゃない」って言っていたのに本当に共感していて、だからといって、わたしも頭でっかちで、全然つくれていないし、ますます温子さんはそういうことを30年前からやっていて、ただただ尊敬というか。
永田温子 スペインでは、ミルクのランクがたくさんあるの。お金がある人は上のものしか買わないし、お金がない人は下のものしか買えない。これに対向するのは自分でつくるしかないのよ。とっても高いものに対向するために、自分でつくるの。安全なミルクが買えないんだから。まずいミルクで生きていくなんて嫌なの。だから、つくるの。
安斎明子 日本もそうなっているんじゃないかと思うんですよね。北海道は湿度が低いせいか、薬を使わなくても農業やりやすいんですよ。他の地域だと、虫がすごいから。
安斎家の台所。水道オフグリッドにつき、飲み水用はポリタンクに入っている
菜衣子 うちも熊本で家庭菜園成功したことないんですけど、札幌はできてますね。畑はシェアメンバーが良いので言うまでもないですけど、庭先も水菜やルッコラが順調で。
安斎明子 割と簡単にできるんですよね。自然栽培ってすごく貴重だけど、自分たちでやるとあら豊かで簡単!みたいな。立派である必要もないですし。家で食べる分を育てるくらいなら病気もあまり心配いらない。
菜衣子 私たちが農家の見習いになる必要はたぶんなくて、家庭菜園は家庭菜園なりのやり方があって、2人はそういうことをやっているなぁといつも思っています。これからも、いろいろ教えてください。私たちもできること、がんばります。
暮らしかた冒険家が、札幌に移住する決め手になった二人のお話はいかがでしたか?
自然の大きさ、都市の成熟さ、DIYのしやすさ、どれととっても他の都市にはない魅力がありますが、札幌の最大の魅力は、都市と自然の近さでしょう。
しかも、国内格安航空券のおかげで、東京からなら往復1万円以下でいけるというアクセスの良さも光ります。ぜひ、札幌に来て街の魅力を肌で感じてください。
(Text: 葛原信太郎)