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「つくるだけ」から「使いこなす」へ。再エネ電力のマネジメントで地域づくりを目指す、宮古島の挑戦

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、「採用について」をご覧ください。

太陽光発電や風力発電が増えていくと、今までの送電のしくみでは配りきれなくなってしまうことをご存知でしょうか?

すでに、東京電力・関西電力・中部電力以外の7つの電力会社が管轄する地域では再生可能エネルギーの発電設備を送電線につなげられないという問題が発生し、普及のボトルネックになっています。

いちはやく問題が顕在化した沖縄県宮古島市では、この課題の解決策のひとつを4年間(2011年度~2014年度)にわたる公共事業「島嶼(とうしょ:大小さまざまな島のこと)型スマートコミュニティ実証事業」で試し、今もチャレンジを続けています。

実験のゴールは、再生可能エネルギーでのエネルギー自給率を上げること。そして、発電に化石燃料を使うことでかかるコストやCO2排出を減らし、地域に新しい仕事を生み出すことです。

事業の柱のひとつである「すまエコプロジェクト」を中心に、地域ぐるみでエネルギー問題に取り組む宮古島を取材しました。

送電線が足かせになって再生可能エネルギーが増やせないってどういうこと?

そもそも電気には、送電網の中でつくる量と使う量が常にバランスしていないと、周波数が変動して品質が下がったり、最悪停電する、という性質があります。

そこで、需給バランスを維持するため、電力会社は太陽光や風力の発電量が増えたら火力や水力の発電量を減らす、という細かい仕事をしています。

ところが、調整のしやすい火力や水力の発電設備の調整能力には限界があり、その限界までしか太陽光や風力を増やせない、というのが送電線の現実です。

沖縄県宮古島市は、宮古本島を中心とした6つの小さな島々に約5万5000人が暮らす地域ですが、2008年にエコアイランド宮古島宣言をして、市役所にエコアイランド推進課を設置。2009年には国の「環境モデル都市」認定を受け、2020年度に2003年度比-23%、2030年度に-44%、2050年に-69%という高いCO2排出削減目標を掲げています。

2015年9月の段階で、4.8MWの風力発電と4MWのメガソーラー、合計16.856MWの小規模のものを中心とする太陽光発電が導入済み。島全体の年間電力消費量は26万2,500MWhで、試算上(※)では12.4%を風力と太陽光でまかない、残りを重油を使ったディーゼル発電に頼っています。
 
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4MWの「宮古島メガソーラー実証研究設備」。島きってのリゾートエリア「シギラリゾート」と随一の名勝地「東平安名崎(ひがしへんなざき)」を結ぶ県道235号線沿いにあります。合計4.1MWの蓄電設備を併設。太陽光発電や風力発電の「発電量が変動する」という課題を、多すぎるときに蓄電し、足りないときに放電することで解決するアイデアを試しています(経済産業省資源エネルギー庁の離島独立型系統新エネルギー導入実証事業)

また、2011年に立ち上がった「すまエコプロジェクト」は、住民を巻き込んで電力消費量を減らしたり、使うタイミングを最適化するプロジェクト。

これまでの「コンセントにつないで使い、使った分だけ料金を払う」というスタンスを、いつどこでどの部屋でどのくらい使っているのかを見える化することで、「ムダをなくし、使うタイミングを考えて使う」というスタンスに変えていこうという取り組みです。
 
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「すまエコプロジェクト」Webサイト

具体的には、 200世帯の家庭と25の事業所に、電力の使用状況をリアルタイムで知らせるシステムとタブレット端末を設置。どこでどのくらい使っているかを見える化することで、省エネを促しました。

また、そのデータを集約して全体での使用状況を把握し、島全体の電力消費量がピークを迎えるタイミングで、省エネの協力依頼メールを送る「ディマンド・リスポンス」を試行。この機能を活用して、太陽光発電や風力発電の発電量が多いときに使い、少ないときは使わない、という動きをみんなでできれば、再生可能エネルギーの導入余地が広がります。

すまエコプロジェクトは当初、住民主体の省エネにより島全体の電力コストとCO2排出量を下げる目的で始まったプロジェクトですが、2012年7月のFIT(固定価格買取制度)開始により太陽光発電が急増。

CO2フリーで地産地消の太陽光発電は、「環境モデル都市」としての目標にアプローチする有効な手段にもかかわらず、需給バランスの問題が足かせとなってこれ以上増やせない、という課題が表面化したことにより、「再生可能エネルギー導入の余地を拡大する」という第3の意義が加わりました。
 
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「宮古島は、住民どうしが声をかけあえるつながりの強い地域。みんなでやれば、自給自足も夢じゃない気がします」

実際に「すまエコプロジェクト」に参加した島民の人は、どんな効果を感じたのでしょうか。

「琉球王国さんご家」は、島内では知らない人がいないという居酒屋さん。県産食材を半分以上使用している飲食店などを県が認定する「おきなわ食材の店」でもあります。オーナーの平戸新也さんは、以下のように話してくれました。

平戸さん みんなで「せーの!」で節電することで、全体としてムダがなくなり島のエネルギー事情の改善に役立つと聞き、参加しました。

宮古は、地元の人が多くて人と人のつながりが強い場所。声をかけ合える環境なので、みんなでやればいつかは「自給自足」もできそうな気がします。

続けていけば進歩していくでしょうし。すまエコプロジェクトへの参加をきっかけに、16時まではエアコンをつけなくなり、電球もLEDに変えました。行政が旗を振ってくれると、従業員に「節電して」って言いやすい、といううれしさもありました。

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「各家庭に再生可能エネルギーと蓄電池を設置することを支援しては?」

「面白いかな、と思って参加した」という主婦の下地克子さんは、すまエコプロジェクトに参加することで、夏場は毎月1,7000円から25,000円かかっていた電気代が、年間を通して毎月2,000円から5,000円削減できました。

今は10,000円を目標にしているとのこと。「行政のプロジェクトに参加する、と言うと家族を巻き込みやすい」という点で、前述した「琉球王国さんご家」さんと同様の効果を実感したようです。

下地さん 電気はコンセントにプラグをさせば使えるもの、となんとなく使っていた意識から、エアコンの待機電力をやめたり、21時になったら外灯を消すことをルール化するなど、意識が変わったことで行動が変わりました。そして、行動は2年ぐらいで習慣になることを実感しています。

また、エネルギー利用に関して考えるようになったことで、「緑のカーテンを増やしたり、外に出るライフスタイルを推奨しては?」「最終的には、再生可能エネルギーを各家庭で蓄電池に貯めることを支援しては?」といった、さまざまなアイデアが湧いてきたようです。
 
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「前年同月比で、電気代が10万円節約できました。屋根では20kWの太陽光が稼働中。ゆくゆくはオフグリッドにしたい」

下地さんと同様、「節電効果を実感した」と語るのは「障害者総合支援施設 青潮園」の下地徹さんと下地和彦さんです。「無料の資源があるのだから、使わない手はない」と、10年前から再生可能エネルギー発電に興味を持っていたことがプロジェクト参加の動機。

青潮園は100名の利用者と30名のスタッフが過ごす施設で、年間1000万円近い光熱費を支払っています。タブレット端末によって「どこにどのくらいムダがあるのか」が明らかになり、大きな節減効果が得られました。

実証が始まった2014年7月から年度末までの電気代は570万円。これは、前年同期間の580万円と比べて2%減という実績です。

下地徹さん・下地和彦さん 大人数で大きな施設を管理しているので、これまでは気づけなかった”うっかり”がたくさんありました。見える化されていれば、窓を開けっ放しでクーラーをつけていたら、すぐにわかります。

施設の屋根では、20kWの太陽光発電システムが稼動中。現在は売電収入を得ており、「ゆくゆくはオフグリッドにしたい」という展望を持っています。
 
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「冷蔵庫とエアコンを買い換えました」「電気を使う量の目標を決めて、3分の1や3分の2に到達するとメールが来ました」

5人家族で暮らす嵩里公敏さんは、「タブレットひとつで、家じゅうの家電のON OFFがすぐにわかっておもしろかった」と話します。導入後に冷蔵庫とエアコンを省エネ性能の高いものに買い換え、外出先からもスマホで使用状況をチェック。

家にいる子どもたちがルールを破ってエアコンをつけていることがわかり、電話してやめさせたこともあるそうです。「コーヒーメーカーの保温機能を使うと、すぐに電力消費量が上がることがわかった」と話すのは、宮城さん。

プロジェクトに参加したことで、就寝後にタイマー機能でクーラーを消すように工夫したり、LEDへの買い替えを検討したそうです。

宮城さん 毎月の電力消費量の目標に対して、3分の1や3分の2に到達するとメールが来ます。これが来ると「どこかに無駄はないかな?」と意識しますね。

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宮古島市役所エコアイランド推進課のみなさん。一列目の左端が事業を担当した三上暁さんです。

参加した住民の間では、意識の変化が実感できたようですが、事業を担当する宮古島市エコアイランド推進課係長の三上暁さんは、

三上さん 「すまエコプロジェクト」の名前は知られてきたけれど、まだまだ「再生可能エネルギーを増やして電力自給率を上げることにつながる」という意義の部分の理解が進んでいない。

と話します。そこで、事業の一環として開発したのが「すまエコシミュレーター」。これまで電力会社が担ってきた電力の需給調整の仕事を体感するゲームです。
 
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すまエコシミュレーター。需給バランスを維持するため、太陽光や風力の発電量が増えたら火力や水力の発電量を減らす。電力会社がしている細かい仕事を体験することで、再生可能エネルギーについての理解が飛躍的に深まります。画面左の需要と供給がぴったり同じ高さになるように、画面右の火力発電の発電量をマウスを使ってコントロールするゲーム。

すまエコプロジェクトに4年間、現場で携わった三上さんは、

三上さん 家庭単位で独立するオフグリッドは「わたしたち電力」じゃなくて、”わたし電力”なんじゃないかと思うんです。

なんでも効率を優先する考え方は好きではないですが、電力供給に関しては、家庭単位で発電や蓄電を行うより、地域単位で考えたほうが効率がいい。

地域のみんなで、電気をつくって賢く使いこなすことを理解し、ジブンゴト化することが、わたしたちが目指す「わたしたち電力」です。

と事業が基盤とする考え方を語ります。
 
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宮古島市エコアイランド推進課係長の三上暁さん

この世界観を実現し、再生可能エネルギーで電力自給率を高めるために、地域にひとつ、電力の需要量と供給量を把握し、必要に応じて節電を促したり、使ったほうがいいときは農業揚水ポンプなどの大規模設備を動かす会社をつくる。4年間の実証事業を終えた今、宮古島市が目指すのは、こういった新しいコンセプトの”起業”です。

起業への展開を一緒に模索しているのは、地元ケーブルテレビ局の「宮古テレビ」。

宮古テレビは、メディア(テレビ・広告)と通信サービス(インターネット・電話)を担う民間企業で、すまエコプロジェクトでは、普及啓蒙と、各家庭で見える化した電力使用データを中央管理システムに集約する通信機能を担いました。

いち企業としての成長戦略上、テレビ、インターネット、電話に続く次の一手が必要な時期だったことから、すまエコ事業が宮古テレビにとっての新規事業に成長するかもしれない、という期待もあったようです。
 
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地元のケーブルテレビ局「宮古テレビ」の大窪将介さん。宮古テレビは、メディア(テレビ・広告)と通信サービス(インターネット・電話)を担う民間企業で、この事業の民間のカウンターパートです。

大窪さん この4年間で、実証事業の参加者を募るための認知度向上や、一般家庭への電力消費計測機器やデータを飛ばすためのルーターの設置など、地味な作業を積み重ね、なんとか実証にこぎつけて結果が得られたところです。

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普及啓蒙を目的に、宮古テレビの発案で実現した戦隊ヒーロー「雷神ミエルカ」。放映が始まるやいなや島の人気者となり、「すまエコプロジェクト」の認知度向上に大きく貢献した

新会社(設立は未定)の働きで、沖縄電力は燃料の消費や発電設備の数を削減でき、家庭や事業所は電気代を削減できる。電力会社・家庭・事業所が、削減分の一部をこのサービス会社に支払うことで、この会社は収益化している。

島の送電網に、知的で機動力の高い需要調整機能が加わることで、送電網に入れられる再生可能エネルギーは増え、地域全体のエネルギー自給率が上がり、燃料コストが下がってCO2排出量は減り、新しい雇用が生まれる、という発想。

地域レベルでの「エネルギーのジブンゴト化」がすまエコプロジェクトの収益化に帰結するゴールを見据えながら、宮古島市のチャレンジは次の3年間へと続いています。
 
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今、日本全国で地域で地域の電力供給をマネジメントするチャレンジが始まっています。みなさんが暮らす自治体の取り組みに、注目してみてくださいね。