スモールハウスなどの様々な住まい方の選択肢から、豊かな暮らしを考えるウェブメディア「未来住まい方会議」の運営やイベントの開催などを行っている「YADOKARI」。その彼らの新たな試みが、スモールハウス「INSPIRATION」の販売です。
その一棟目の制作資金はMotionGalleryのクラウドファンディングで集められました。
299人の出資者から、目標の300万円を上回る約320万円が集まり、見事に成功、実際にスモールハウスも完成し、先日行われた「小屋フェス」でお披露目もされました。
MotionGalleryでのクラウドファンディングページ
今後は、長野県軽井沢町に場所を移し、「YADOKARI」のお二人の二拠点居住の拠点と使うと同時に、コレクターを始めとするファンたちの宿泊体験に使うなど、実験的な設備として活用していくそうです。
どうしてクラウドファンディングでお金を集めようと思ったのか、そしてその結果何が生まれたのか。「YADOKARI」のさわだいっせいさんとウエスギセイタさんに話を聞きました。
(左)さわだいっせいさん (右)ウエスギセイタさん
共同代表兼アートディレクター。ウェブ制作会社、コスメブランドのデザイナーを経て2009年独立後、2012年「YADOKARI」を始動。YADOKARIではコンセプトワーク、トータルデザインを手掛けています。逗子在住。築40年、海近、庭付の平屋を改修したり、庭作りしたりなど、豊かさを生む空間づくりを目指し奮闘中。嫁と1歳の娘の3人家族。
共同代表兼プランナー。長野県生まれ。法政大学キャリアデザイン学部卒。2012年 YADOKARI 始動。平行してdigiper Co. Ltd.の取締役としても活動。「これからの暮らし、これからの働く、これからの価値観」をテーマにパラレルキャリア、ポートフォリオワーキングを実践中。YADOKARIでは、企画戦略立案・ディレクション・PRを主に手がけています。
クラウドファンディングの理由
まず、ふたりが強調したのは、「目的はお金ではない」ということでした。いったい、どういうことでしょうか?
さわださん 僕らは建築については素人なので、「こういうライフスタイルをしたいからこんな家が必要だ」というような、住まい手側からのボトムアップ的な目線とスタンスを重要視しているんです。
だから同じような想いを持つユーザーさんと手を取り合って波を起こすには、クラウドファンディングという手法が一番マッチするんじゃないかと考えました。
資金調達も考えたのですが、それだと広がりが生まれないので、共感してくださる皆さんにも「自分ごと」化してもらうためにやって、「INPIRATION」について深く知ってもらおうと思ったんです。
ウエスギさん せっかくこうやってメディアやコミュニティをつくってきたのに、僕らが自分たちでつくってしまっては、つまらないと思ったんです。一棟目は実験施設としてつくろうと思っていたので、クラウドファンディングという形でつくる部分に参加してもらい、できた後は宿泊体験などをしてもらえるようにしたいなと。
実際に、クラウドファンディングを実行したら、「小屋のムーブメントをいいなと思ってるけど、自分ではできないからあなたたちに賭けたい」というメッセージをもらって背中を押してもらえたり、メディアに取り上げてもらえたことで、スモールハウスが定着していくのを実感したそうです。
セーフティーネットとしてのスモールハウス
「定着してきた」と感じられたとはいえ、まだまだ認知度も低く「ムーブメント」と言えるまでは広がっていないスモールハウス。
しかし来年度からは、無印良品が200万から500万の小屋を販売する予定で、他の住宅メーカーも参入してくるそうです。無印のような会社が参入してくれば、ムーブメント自体が盛り上がりそうですが、「YADOKARI」が考えているのは、小屋を売るだけではなく、「1つの選択肢」を提案することだといいます。
さわださん 無印やほかの住宅メーカーがやろうとしてるのは、別荘としての使い道や自宅の離れとして庭に置くというようなイメージだと思いますが、僕らが提案しているのは、小屋に住むことなんです。
僕らはユーザーの目線から、新築を買うか高い家賃を払うかという二択だけじゃない、住宅のコスト自体を抑える別の選択肢の提案があった方がいいと考えているんですね。だから、そのために必要なインフラだとか、スモールハウスが集まるような土地とか、コミュニティとか、そういうもの全部をYADOKARIの活動の中で提供していこうと。
そういう提案を伝えるために、まずはインパクトのあるものをやらなきゃいけないと思い、こういう形で実現させました。
ウエスギさん 別に狭い家がいいっていうんじゃなくて、ダウンサイジングすることで時間の使い方や家族の距離感を考えるきっかけになる。こうして既存のものをリデザインすることが、次の豊かさにつながるんじゃないかと思ってるんです。夫婦ふたりで会社を休んで育児に専念してもいいし、海外に行ってもいいし、地域の活動に専念してもいい。住宅コストは、総所得の6割から7割を占めてるとも言われていますが、僕たちはそのコストを減らすことで、可処分所得も増えて暮らしが豊かになるという未来を目指しています。
家賃を払うために働いているような、今の暮らしから逃れるために小さい家に住む。そんな選択肢があってもいいと、2人は考えるのです。
もちろん、大きな家でゆとりのある暮らしをするために今は頑張るという生き方を否定するわけではなく、どちらを選んでもいいし、どちらを選んでも恥ずかしくないような社会を目指しています。
さわだいっせいさん
また、ウエスギさんは「ミーハー度合いも大事にしている」ともいいます。ただ小屋を安く売るだけではダメで、小さな暮らしがかっこいいと思われるような環境をつくり出していくことも必要だというのです。
ちなみに、家を小さくすることによって生活を豊かにするという点では「タイニーハウスムーブメント」と共通する考え方のようにも思えますが、「YADOKARI」が目指すところは、それともまた違うようです。
さわださん タイニーハウスの場合は、DIYっていうのが上位にあるじゃないですか。僕ら自身がDIYはあまり得意じゃないというのもあるので、その優先順位はあまり高くなくて、安く小さいお家が手に入るという選択肢があることが大事だなと。
自分で行動してDIYで家をすべてつくることができる人は、そうすればいいと思います。僕らが提案しているのは、躯体のベースはしっかりとあって、DIYで一部を自分色にカスタマイズできるというようなモデルです。
タイニーハウスと一つ違うのは、僕らはITのような最新技術も導入していきたいと思っているところかもしれません。
ウエスギさん 自給自足の方におもいっきり振ってしまうと、やれる人とやれない人に分かれてきてしまうので難しいですよね。僕らは、ITもインターネットもエアコンも使いたいし、科学の恩恵は取り入れていきたい。そのいいバランスを見つけて、発展させていきたいんです。ある意味では僕らがマスの代表で、僕らでもできることを見せれば、後ろにいる人たちもやってみようかなと思えるはず。それでやってみて、15平米じゃ狭すぎたかなとか、自分のライフスタイルを編集していけばいいんで、僕らもいま住まいとの距離感を編集しているところなんです。
簡単に言ってしまえば、どれくらいの家で暮らすのが自分にとって本当に快適なのか、それを問うために小さな家に住んでみるのもいいというスタンスなのです。
それは、我慢して小さな家に住むのではなくて、「快適に住めてコストも安い家を見つける」という、私たちが普段やっている家探しの延長上に、「小屋」という選択肢を置こうとしているということなのかもしれません。
小屋のさらなる可能性
8tトラックに載るサイズ
クラウドファンディングで制作した一棟目とは別に、「INSPIRATION」は既に予約販売を始めています。
実際に販売を始めてみたところ、1ヶ月で350件もの問い合わせが来て、返事が追いつかないくらいなのだそう。そして意外にも、その問い合わせの中で半分近くを占めたのが、年配の方たちからの問い合わせだったというのです。
「小さい家は掃除が楽だし、階段の昇り降りがなくていいから終の棲家として考えたい」という彼らの声から、小屋の別の可能性も見えてきたといいます。
ウエスギさん 例えば、今ある5LDKの母屋には息子と孫に住んでもらって、庭に小屋を建てて自分たちはそこに住めば、家族団らんできる素敵な場ができるとか考えてるんです。
戦後を生きてきた世代の人たちですから、長屋のこれくらいの広さの部屋で家族4人で暮らしたりしてきていて、これで十分だよねって。ちょっと感動しましたね。
そんな方たちが気にされてたのは、バリアフリーとか介護の部分なので、その辺りに対応できるユニバーサルなスモールハウスがあるといいねとか考えさせられました。
そして、ゲストハウスや老人ホームといった用途の問い合わせもあり、小屋を集合させることで商業用にも活用できる可能性があることにも気づいたそう。
彼らは想定していなかった小屋のさらなる可能性をユーザーから得られたことで、「住まい手の住宅リテラシーがすごい上がってるので、僕らはきっかけを与えることが重要だ」と感じたとウエスギさんは言います。
小屋が彼らのイメージとは違う使われ方をすることで、さらに暮らし方の新しい可能性が生まれる。それは彼らが実現しようとしていることが、自然にその想定を超えて発展していっているということです。私は、そこにワクワクするような未来があるのではないかと感じました。
クラウドファンディングをやってみて感じたこと
クラウドファンディングで資金を調達した一棟目も完成して、いよいよリターンを提供するところまできました。
これから宿泊体験などのリターンを通してコレクターの方たちと交流していくことになるわけですが、ここまでの成果とこれからの活動に対してお二人はどのようなことを感じているのでしょうか。
ウエスギさん 完成させるということに対するプレッシャーはありましたね。自分たちのお金で建てるだけだったら、頓挫したかもしれない。
コレクターさんにリアルなイベントでも会ったりすると、「いつ頃できるの」とか言われて(笑) それがいい意味の叱咤激励になりました。それは大きかったですね。
あと、それに限らず責任感が増しました。応援のメッセージも「日本の資本主義を見直すきっかけに」とか、「温暖化対策に」とか、「復興支援住宅として」とか、熱いメッセージをたくさんいただいて、僕らも社会的責任を少し持とうって、いい意味で火が着きましたね。
さわださん ちゃんと建てるとこまで来たのは、本当にクラウドファンディングのお陰ですよ。クラウドファンディングは、資金調達というよりも、コミュニケーションのツールだと思うんです。つながるための熱量が、お金に変わるシステムというか。
特にMotionGalleryって、すでにあるコミュニティに対して紐付いてる印象があって、僕らのコミュニティがあって、それに対して払うという関係がある。
だから今回お金を払ってくれた人との関係性を考えても、建った後にそれを使ってどう世の中を変えていくかに注目されていると思っていて、そこで裏切っちゃダメだなと。だからまたいつか、新たな提案をクラウドファンディングでしたいですね。
ウエスギセイタさん
クラウドファンディングについていろいろ話を聞いたり、調べる中で、私もクラウドファンディングというのはコミュニケーションのためのツールだと感じました。
ある人を応援したいという時に、言葉で応援するだけでなくなにか力を貸したい、でも何をしてあげればいいのかわからない、そういう時にクラウドファンディングはお金という形で必要な物を提示してくれます。
払う側もリターンをもらうためにお金を出すというよりは、応援したいからお金を出して、リターンはそれに対する応えだという感覚なのでしょう。
ちなみに、今回のクラウドファンディングでは、「300万円で実際にスモールハウスを買える」という選択肢も用意したものの、それに出資する人は誰もいなかったのだそう。これは300万円が高かったからではなく、この応援とその応えというコミュニケーションに、うまくはまらなかったからかもしれません。
新しいお金の流れとして、さまざまな気づきを与えてくれるクラウドファンディングの可能性。ぜひみなさんも、お金以外の目的のために、活用してみませんか?
– INFORMATION –
MotionGalleryが2015年度 グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」を受賞!
10月30日(金)から東京ミッドタウンで開催される、最新のグッドデザイン全件が集まる受賞展「グッドデザインエキシビション2015(G展)」会場で、MotionGalleryが本年度受賞デザインとして紹介されます。
[グッドデザインエキシビション2015(G展)]
会期:10月30日(金)〜11月4日(水)
会場:東京ミッドタウン(東京都港区六本木)
http://www.g-mark.org/meeting