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原発事故でバラバラになった地域の絆を取り戻したい!福島県・いわき市のコミュニティ発電所がつくる、エネルギーの未来

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島村守彦さんと「おてんと号」

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

全国をめぐりワクワクするエネルギーの取り組みを伝えている、ノンフィクションライターの高橋真樹です。全国で起きている自然エネルギーを活かしたユニークなまちづくりの様子は、拙著『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)でもたくさん紹介しています。

今回お伝えするのは、福島県南部のいわき市で震災後に始まった、地域づくりのムーブメントです。ここでは、ボランティアを巻き込んで被災者といっしょにつくる太陽光発電所や、オーガニックコットン、そしてオフグリッドカーを使った自然エネルギー学校を開催するなど、体を動かして手づくりすることにこだわった取り組みを進めています。

その背景には、原発事故でバラバラになった地域の絆を編み直す思いがありました。

オフグリッドカー「おてんと号」で自然エネルギー学校

活動を担うのは、「いわきおてんとSUN企業組合(以下:おてんとSUN)」。震災直後にいわきに避難した被災者の支援活動を続けていた3つのNPOが協力してつくった団体です。今年できたばかりのオフグリッドカーについて話してくれたのは、エネルギー担当の島村守彦さん(「おてんとSUN」事務局長)です。

このおてんと号は天ぷら油を燃料に発電するので、これを電源にして再生可能エネルギーだけのイベントを行っています。ご当地アイドルのイベントなどは盛り上がるんですよ。

島村さんは、再生可能エネルギーを活用したイベントの開催に加えて、周辺地域の学校などで年間10回以上の自然エネルギー学校を実施してきました。子どもたちとともにソーラーパネルを手づくりしたり、ソーラークッカーで調理をします。

そして今年度からは、新しく完成したこの「おてんと号」を含む2台のオフグリッドカーによって、より充実した授業ができるようになりました。鮮やかなイラストが描かれた「おてんと号」は、天ぷら油で走るだけでなく発電もできるスグレモノ。

今年3月に開催された「国連世界防災ジュニア会議」で「グッド減災賞優秀賞」を受賞しました。もう一台の名前はまだ決まっていませんが、こちらにはソーラーパネルを手づくりできるラミネーターという機械などを積んでいます。そこでつくったソーラーパネルは、学校の防犯灯の電源などとして活用されています。

自然エネルギー学校では、直接体験することを大事にしています。子どもたちは、手づくりしたパネルが発電していろいろなものを動かすので、楽しくなって休憩もせず夢中でつくりますよ。授業をきっかけに、将来はエネルギーの世界に進みたいと言っている子どももいます。

強い日差しを浴びてそう語る島村さん自身が、とても楽しそうです。 
 
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ご当地アイドルのイベントの電源をまかなう

あえて手のかかるオーガニックコットン栽培を

事業の始まりは、震災によって打撃を受けたいわきを建て直すことでした。

福島県で最大の面積を誇るいわき市では、震災前まで農業や漁業を始めとする一次産業と、温泉やリゾート施設などによる観光業が盛んでした。

しかし原発事故の放射能の影響で観光客が激減。また農業をあきらめる人が増えて、耕作放棄地が広がりました。このままでは地域が危ないと考えた「おてんとSUN」のメンバーは、一時的な緊急支援だけでなく、将来を考えたプロジェクトを手がける必要性を考えました。

そこで農業では、食用ではない生産物を育てて農業者を支えようと試みます。栽培するのはオーガニックコットンで、Tシャツやタオルづくりなどを通して、新たな産業を起こそうというものです。手作業が多いオーガニックコットンづくりは、大変な労力と時間がかかります。でも、その大変さを逆に利用しました。
 
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栽培したコットンはすべて手積みする

地元の農家の人たちだけでは手が足りないため、地域外からボランティアを呼びます。また、いわきに避難している人たちにも呼びかけて、一緒に作業をしてもらいます。

地元の人、避難者、首都圏からの支援者は、それぞれ背景も立場も違い、見えない壁もありました。その人たちが協力してコットンづくりをすることで、顔の見える関係性ができ、新しいコミュニティができていったのです。この3年間で、コットン畑に来た人は1万人を越えました。

パネルから手づくりしてライフスタイルを見直す

エネルギーについても同様に、手づくりにこだわってきました。

その理由のひとつには、震災後のエネルギーをめぐる状況が関係しています。震災後の福島県は脱原発を掲げ、自然エネルギーを増やすと宣言、実際に太陽光発電などの事業がかなり増えました。

ところがその事業の7割は、県外の企業が主体になったものです。さらにその7割のうちの7割は、海外に拠点を置く事業者です。これでは福島の人たちのためになりません。本来、福島の人のためにあるべき自然資源を、海外の人が買い占める構造になってしまっているのです。
 
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子どもたちがソーラーパネルを手づくりする自然エネルギー学校

だからこそ、この活動ではソーラーパネルづくりから建設工事まで、全て地元の人とボランティアの共同作業で手づくりしました。設置場所は斜面なので作業は大変でしたが、重機を使わずツルハシとスコップだけで汗を流して完成させたのです。

こうしてつくったコミュニティ発電所は4ヵ所で、合計出力がおよそ300キロワット(一般家庭約75軒分)にまで増えました。売電収入は地域活動のために使われますが、島村守彦さんは単にパネルの量を増やしたり、電気を売って収益をあげることには興味がないと言います。

私たちの目的の一つは、こうした発電所づくりを通じて、いわきを訪れた方に地域への愛着を感じて欲しいということです。実際、自分たちでつくった発電所をまた見に来てくれる人もいます。また、地元の人も含めて今までの生活スタイルを見直すきっかけになったらいいということもあります。

これまでのように外から送られてくるエネルギーに依存しきった生活スタイルを、この福島から変えなければいけません。その可能性を示していきたいですね。

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パネルの設置工事もすべて手がける

課題解決をともに考える場に

このようなコットンづくりや発電所づくりを中心とするボランティアツアーには、昨年度だけで4,000人以上が参加しました。震災当初とは地元のニーズだけでなく参加する側のニーズも変わってきていますが、「衰退していく地域の活性化」という全国共通の課題への取り組みとして、より注目されるようになってきているのです。

島村さんは、「地域の課題解決の方法を、全国の人たちと一緒に体験して、学ぶ場になれば」と考えています。
 
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イベントに「おてんと号」が出動して電源をまかなう

一方で、財政面では厳しい状況を迎えています。

2015年3月までは福島県の復興関連事情には助成金が出ていましたが、震災から4年経ってその多くが打ち切りになりました。「おてんとSUN」の運営状況も厳しくなりそうですが、コットン事業や発電事業、そして自然エネルギー学校を充実させていくことで、自立への道を模索しています。島村さんは言います。

今はいろいろな意味で分岐点に来ています。これからは、コットンづくりに来た人が農家民宿に泊まれるようにしたり、手づくり太陽光でつくった電気でコットン製品をつくったりと、総合的な事業にしていきたいですね。たくさんの人たちに応援してもらってきたので、その期待に応えることができればと思います。

先進国の中で日本は、少子高齢化をはじめとする新しい課題だらけの「課題先進国」と呼ばれるようになりました。中でもこのいわきは、放射能の影響によってその課題がさらに早く訪れているような状態です。

こうした地域での試みとしては、よく「億単位の費用をかけた最新システム」や、自治体による補助金を利用した巨大プロジェクトなどがマスメディアで注目を集めます。

でもむしろ僕は、とっても地味ですが、このいわきの取り組みのような「人と人とをつなぐ試み」が本当に求められていることなのだと思っています。

財政面など苦労は多いとはいえ、顔の見える信頼関係を増やして行くこうした地域づくりが、じわりじわりと効果を発揮していくはずです。

(Text: 高橋真樹) 
 
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高橋真樹(たかはし・まさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ〜楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう〜地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)、『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など多数。