「まちエネ大学」京都スクールの最終回。スクール受講生のほか、審査員として地域の金融機関の方や再エネ事業者、自治体、運営に携わった環境団体の方など、さまざまな方が参加されています
エネルギーやまちづくりに関心のあるグリーンズ読者の中には、
・再生可能エネルギーを広げることは大切だけど、具体的にどう行動していいか分からない
・再生可能エネルギーを地域で活用するアイデアはあるけど、なかなか行動に移せない
という人もいるのでは?
意気込みはあっても、知識やスキル、お金、資源、人、そして情報がないために二の足を踏んでいる…。そんな人の背中を押し、必要な学びが得られる場。それが「まちエネ大学」です。
「大学」というだけあって、ただ知識を与えられるだけではありません。自ら考え、発信し、議論し、同じ思いを持った仲間と関係を深める中で、成長できる場です。
この「まちエネ大学」からは、再生可能エネルギーを通じて地域を盛り上げるプランが多数生まれており、実際に地域で活動を始めている人もたくさんいます。例えば、宝塚すみれ発電代表の井上保子さん(記事はこちら)。自治体と市民とが連携し「ご当地電力」を生み出しています。
また、中之条電力の山本政雄さん(記事はこちら)。日本初の自治体の新電力を立ち上げ、電気の地産地消の実現を目指しています。
さらに、NPO法人世田谷みんなのエネルギー理事長の浅輪剛博さん。
東京都下北沢の教会の屋根の上に10kWの太陽光発電システムを設置して「カリタス下北沢ソーラー市民協同発電所」をつくり上げました。その後も教会や神社、お寺、学校、公共施設などの屋根を借りて発電所をつくる計画や、東京各地の地域団体と共同で合同会社東京市民ソーラーを立ち上げるなど、精力的に活動されています。
再エネ活用のキーパーソンを輩出する「まちエネ大学」、何だかすごい存在感ですね!
今回は「まちエネ大学」の京都スクールに参加させていただき、記事の前半ではそのレポートを、後半では事務局長の木村麻紀さんへのインタビューをまとめました!
卒業生は300人以上!地域を盛り上げる人を育てる場
京都スクール第一回講座の様子。事業プランを作成するグループとグループリーダーを決め、早速プランニングに入っていきます
そもそも「まちエネ大学」とは、一言で言えば「持続可能なまちづくりの推進に向けて、再生可能エネルギーの活用による、地域での新しいビジネス創出のための人材育成プログラム」。
つまり、再エネを使って地域を盛り上げていくビジネスリーダーを育てる講座、ということです。「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクト「わたしたち電力」と同じく資源エネルギー庁Green Power Projectの一環として位置づけられています。
地域のリーダーを育てる、ということで開催場所は全国各地。2013年からスタートした第1期は、北海道、東京、滋賀、和歌山、山陰(鳥取/島根)の5ヵ所で実施されました。2014年の第2期は、神奈川・横浜、秋田、宮城・仙台、京都、長野で行われました。
第1期は約180人、第2期は約150人が参加されたので、「まちエネ大学」の卒業生は約330人に上ることになりますね!
ちなみに京都スクールの参加者は16人。小水力発電を活用した地域活性化を目指す神田貴夫さんのほか、大阪府交野市で環境学習ができる太陽光発電施設の建設を目指す今谷浩昭さん、エネルギーや衣食住をシェアできるコミュニティスペースを構想する李勇熙さんをリーダーとする3つのプランが発表されました
全4回の開催の中では、地域の再生可能エネルギーに関わる事業者のトップランナーを講師として招き、それぞれの活動や経験をお話しいただきます。
京都スクール最終回の審査員、サステナジー株式会社代表・山口勝洋さん。「南信州おひさまファンド」などを実現させてきた経験から、発表に対してコメントされました。再エネのプロから直接アドバイスをもらえるのが「まちエネ大学」の特徴です
講師のアドバイスや、講座の議論を通して、グループで構想している事業計画をブラッシュアップしていき、全4回の講座の最終回にプランの集大成を発表。そこでカリキュラムを修了し、受講生は事業計画を携えて地域に帰っていくのです。
スクールの最終回は練り上げたプランの集大成を発表
今回は、第2期の京都スクール、最終回に参加しました。3人のグループリーダーが練り上げたプランを発表する重要な回です。グループリーダーをはじめ参加者には、程よい緊張感が漂っていました。
グループリーダーの一人、神田(こうだ)貴夫さんのテーマは「小水力発電を使った地域活性化」。日本の原風景が残る京都府南丹市美山町で株式会社を立ち上げ、小水力や風力、バイオマス発電を活用した再生可能エネルギー事業と観光事業を行うプランです。
発表にはその目的だけではなく、参加を求める地域のプレーヤーとの役割分担や売電計画、プロジェクトの進行スキームなど、具体的な内容が盛り込まれました。これなら「夢物語」で終わらず、すぐにでも動き出すことができそうです。
発表する神田さん。普段は美山にある「きぐすりや」という旅館の経営に携わっています
ただ、「最初は一人だけでアイデアを膨らませていました」と神田さんは話します。「まちエネ大学」を知り参加する中で、次第にプランが具体化していったようです。全てのカリキュラムを終えた神田さんは「本当に勉強になりました」と満足そうでした。
プランの発表後は参加者が付箋にギフトメッセージを記入。発表者への応援やアドバイスを込めて、ふせんに書き込み、発表者の前に広げた模造紙に貼り付けます。会場にいたほとんどの人からコメントが集まりました。
全ての発表が終わった後は、参加者全員による投票です。一番良いと思ったプランにシールを貼ります。今回の京都スクールでは、神田さんの「小水力発電による地域活性化」が優秀プランに選ばれました!
プランを発表したグループリーダーには、審査員から修了証が手渡されます。これで全4回の「まちエネ大学」は修了。学んだ受講生それぞれの地域でプランの実践を目指します。
真剣な発表者に対して、審査員や受講生、主催者がそれぞれの立場で真剣に言葉をかける。熱くて刺激的な時間でした。
参加者の世代や立場、目的は極めて多様!
ここからは、「まちエネ大学」事務局長の木村麻紀さんの話を交えて、「まちエネ大学」を掘り下げていきたいと思います。
木村さんはフリージャーナリストとして活躍しながら、全国各地で行われるスクールの運営を支えています
京都スクールに参加してまず感じたのは、「まちエネ大学」の参加者は、世代も立場もバラバラ、ということ。再生可能エネルギーの事業化を真剣に目指している人はもちろんですが「1年間まずは勉強したい」という方もいらっしゃいました。
京都スクールのグループリーダーの一人、環境団体「交野みどりネット」で活動する今谷さん。もともとはボイラー技師だったそうです
そして最終的な目的も参加者それぞれ。必ずしも「再生可能エネルギーの普及」だけが目的というわけではありません。「むしろそこが狙いです」と木村さんは語ります。
そもそも、エネルギーって暮らしの手段ですよね。私たちは発電するために生きているわけではありません。エネルギーを手段として使い、地域をどう暮らしやすくしていくか? それが大切だと思っています。
再エネの導入量自体を増やしていくことも必要ですが、「まちエネ大学」の目的はそれだけではありません。
再エネを使って持続可能な地域をつくっていく。それを実行する人たちを育てたい。そんな人たちのフォロワーとして応援していきたい。そして、そんな人たちによる人材豊富な地域コミュニティをつくりたい。
そんな考えを持っていますから、やはり軸は地域=まちなんですね。だから「再エネ大学」ではなく「まちエネ大学」なんです。
京都スクールのグループリーダー、京都府西京区で活動する李さん。子どもが生まれたことをきっかけに環境や食の安全に対して関心を持つようになったそう。障害のある子どもたちの生活支援や「町の縁側」的な機能を果たすエコヴィレッジを計画中。
「止まり木」としてのコミュニティを
京都スクールにて。質疑応答中
地域を盛り上げたい。持続可能なまちづくりがしたい。そういう思いがあっても、一人だけではどうにもならない…。そんな悩みを抱えている方が多い中、「まちエネ大学」は参加者同士がつながる場としても機能しています。
一人でモノを考えるのは、どんなテーマにせよ、どんなシチュエーションにせよ、限界があると思うのです。そんなとき、同じことを考えてくれる仲間がいてくれると本当に心強い。全く異なる視点からアイデアがもらえる関係性が得られる場も少ないのかなと思っています。
また「まちエネ大学」を修了して地域に帰り、いざ活動を始めても、多様な地域の人と一緒に進めるのはやはり難しいことですし、時として気持ちが折れてしまう場面もあります。
それも仕方がないと思うんです。それ自体がいけないということでもない。ただ、そんなときに戻ってきて立ち直れる、「止まり木」のようなコミュニティを「まちエネ大学」として残したいと思っています。
京都スクールの今谷さん。スクールの最後に「たくさんの人と出会い、いろいろな情報やエネルギーが力になった」と満足げに語っていました
自然と議論を引っ張るリーダーシップ
また、物事をみんなで決めるための「作法」と「マナー」を身につけてもらうことも、意図していたことの一つだそうです。ワークショップで議論する際は「よく聞く、否定しない、自分も提案する」を黄金ルールに。これを徹底してもらうことで、良好な雰囲気で話し合うことができたといいます。
スーパーまちエネ大学でのグループワーク
印象的だったのが、全国の「まちエネ大学」の受講生と第1期の修了生が一堂に会するセミナーとワークショップを行った「スーパーまちエネ大学」でのこと。
地域での再生可能エネルギー事業のコーディネートする「再エネプロデューサー」の役割をテーマにグループワークをした際、まちエネ大学に初めて参加した人たちも含めてグループ分けをしました。
このようなグループワークは、ともすれば緊張したり遠慮したりしてしまいがちです。しかしいざワークが始まると、自然とまちエネ大学の修了生たちが議論を引っ張ってくれたのです。「はい、付箋に書いて〜」と言って仕切ってくれる(笑)
特に強くお願いしたわけではないのですが、そこかしこにリーダーシップが芽生えていることが実感できました。
皆さんも最初から議論を引っ張ることができたわけではありません。熱意を持って学び続ければ、人って変わるんですね。
そして木村さんは、こう付け加えます。
こんな人が100人いれば、絶対地域は変わると思うんですよ。
キーワードは「大きくやろう」
ところで、第2期の「まちエネ大学」でキーワードになったのが「大きくやろう」でした。何かアクションを起こす際「できることからやってみる」というアプローチもあります。しかし、あえて「まちエネ大学」では、大きな一歩を踏み出してみる大切さにフォーカスを当てました。
大きく行動すれば、賛同者が出てきてくれますし、弱い部分を担ってくれるようなパートナーが出てきてくれます。そうした人の募り方もさまざまな方法があっていい。
こうしないと格好が悪いとか、外からどう見られているかとか、あまり気にせずやった方がスケールの大きいことができると思います。
プロジェクトを大きくすることは、多くの人が抱えるお金の問題の解決にもつながる可能性があります。
京都スクールに最終回に審査員として参加された、京都銀行 営業支援部 地域活性化室長の秋野稔さん。健全な事業運営の観点から金融機関としての率直な意見を語っていただきました。
スケールが大きいと今の金融機関もお金を貸しやすくなるんです。地域の金融機関も貸し手に困っており、地域活性化につながる事業に出資する大切さを理解していますから。
既存のビジネスや社会の仕組みは強固です。それに伍していくためにも、ある程度活動を大きくすることに意義があると思うのです。
修了生が活躍できる地域とは
今年は第3期の「まちエネ大学」が始まります。現在構想を練っている段階ですが、今後力を入れていくべき取り組みがいくつかあるそうです。
例えばスクール横断的なコミュニティの醸成。スクール単位では修了生が自主的に集うことも多いようですが、「まちエネ大学」全体となるとまだ弱い部分があります。また、修了生のフォローアップとレベルアップに向けた支援体制の強化も必須です。
そして、修了生が地域でいかに活躍できるかは、地域のステークホルダーの存在が大きなポイントになります。
スクール開催地の行政。当該地域で関わっていただいた金融機関。そして運営に携わっていただいた、見識も人脈も実績もあるような環境・エネルギーに関する団体。この3者の存在が、地域にとって非常に大切です。
理想を言えば、スクールを通して、修了生と自治体、金融機関、環境団体が恊働できる関係がつくり上げられると良いですね。
「まちエネ大学」としても地域のコミュニティを維持していくためにどうしたらいいか、具体的なあり方を提示したいと考えています。
京都スクールのファシリテーターは地域コーディネーターの南村多津恵さん。オリジナルのアイスブレイク「パーでんねん」(合図に合わせて拍手をする)で緊張がほぐれ、スイッチが入ります。司会進行は下村委津子さんが担当されました
「まちエネ大学」が描く未来予想図
修了証を受け取ったグループリーダーと審査員のお二人
2012年7月、固定価格買取制度が始まったことにより、日本の再生可能エネルギー、特に太陽光発電は爆発的に普及が進みました。
ただその中には、地域にゆかりのない大企業が中心となって土地を開発し、その収益がなかなか地域に還元されないようなメガソーラー案件も含まれています。
だからこそ、地域恊働型の再生可能エネルギー事業はますます重要になってくる。「まちエネ大学」は、地域に根ざした再生可能エネルギー事業、再生可能エネルギーを通じた持続可能な地域づくりを行える人材を育てていくことが目的です。
そして事業者だけでなく、地元のステークホルダーの皆さんにいかに応援してもらえるか、その枠組みを形づくっていきたいですね。
金融機関には地方創生につながる事業の掘り起こしを。行政には相談役を。弁護士には金融、法的なリスクのアドバイスを。大学には学問的な立場から意見を。産官学民で地域恊働型の再エネを進めていく基盤づくりこそが、私たちの役割だと考えています。
次の時代に残せることって、環境と人ですよね。だから私は未来を担う人を育てたいですし、いろいろな角度からアプローチしていきたいと思っています。
ところで、「まちエネ大学」が描く地域のビジョンとはどんなものなのでしょうか。木村さんのイメージを語っていただきました。
地域のエネルギーが全て、再生可能エネルギーによって回っている、ということでなくてもいいと思うんですね。ただ、みんなが「ここに住みたいね」とか「ここで暮らしたいね」と思える地域には必ず、再生可能エネルギーが溶け込んでいる風景がある感じ。
そこに住む皆さんは、いろいろなかたちで個性を発揮しながら、なるべく環境の負荷が少ないような暮らしを営んでいる。そんなイメージですかね。「まちエネ大学」で学んだ人が5人、10人と地域にいれば、そんなコミュニティが生まれるのかな、というイメージを持ち始めています。
地域のことを真剣に考える、多様な人たちが集まる場。集った人が意見を交わし、お互いに刺激を与えながら高め合える場。そして、再生可能エネルギーを手段として、地域を変える知恵と技術が得られる場。「まちエネ大学」から得られることは極めて多様です。
「得られること」は一言では言い表しにくいのかもしれません。再生可能エネルギーの事業者として求められるスキルとは、直接関係のないこともあるかもしれません。
でも、一つの正解があるわけではない地域づくりにおいては、一言では言い表せない多様な経験が役に立つことがあるのだと思います。
「まちエネ大学」はあらゆる人に門戸が開かれています。
まずは一歩を踏み出してみませんか?