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考えるのではなく、感じることを。暮らしの“当たり前”を学び合う、コミュニティ農園「リベンデル」代表・熊澤弘之さんに聞く、未来に継ぐ場のつくりかた

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どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。

「自分にとって大切な場所は?」と聞かれたら、どんな場所を思い浮かべますか?

例えば昔遊んだ公園や大好きなおばあちゃんの家など、自分にとって大切な場所は、私たちひとりひとり心の中にそれぞれあるのではないでしょうか。

今回は、自分にとって大切な場を未来に継いでいきたいという想いから、祖父の土地に、会員制の貸し農園+イベントスペースとして、農を中心としたコミュニティをつくり出し運営する「グリーンコミュニティリベンデル」代表の熊澤弘之さんに、みんながその土地を残したくなる場づくりについて聞きました。
 
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リベンデル代表 熊澤弘之さん。会社員を務めながらBeGoodCafeのスタッフに。その後、パーマカルチャーとの出会い、自身の身内に起こった土地の課題を機に脱サラしリベンデル立ち上げへ。湘南を中心としたアーティスト集団「おめで隊」福隊長という一面も。

農と暮らしから、日々がもっと楽しくなる学びの場所「リベンデル」

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神奈川県茅ヶ崎市。公道から少し住宅街を抜けると突然現れる、風情のある古民家と、畑。

リベンデルは、会員制の貸し農園と、古民家をリノベーションしたコミュニティスペースのふたつを持つ農と暮らしの複合コミュニティ。

2011年4月、熊澤さんの祖父の土地を熊澤さん考案のもと、古民家再生を手がける茅ヶ崎の「エコラボ」がリノベーションを行いリベンデルは誕生しました。

湘南・茅ヶ崎といえば、海のイメージが先立ちそうですが、つい数十年前までは豊かな田畑が広がる農業が盛んな土地だったそうです。

熊澤さんの祖父もまた米農家でした。祖父亡き今は、農園では様々な地域、年齢層の会員さんが野菜を育てるだけではなく、暮らし方や人とのつながり、自分の価値観を育てていく場に。

母屋のコミュニティスペースでは、「自然と暮らす」をテーマに日々の暮らしが楽しくなるような学びの場として、様々な講座やイベントを開催。

昔ながらの発酵食づくりから「半農半Xという暮らし方ーあなたのXはなんですかー」と題し、「半農半X」の実践者の声を聞く講座など、幅広いテーマから自分の興味があることで人が集い、農や暮らしを楽しみながら学ぶ「リベンデル」として息づいています。
 
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築50年という祖父の母屋をリノベーションしたコミュニティスペース。広間を「グリーンコミュニティ」としてイベントやマルシェに解放。玄関から奥のプライベート空間はリベンデル会員の更衣室や憩いの場に。

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祖父が過ごした居間は佇まいはそのままに会員さんの休憩所になっている。目の前に畑が広がるくつろぎの空間。

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築年数不明という離れをリノベーションした囲炉裏の間。修繕には祖父が保存していた建具を使用。冬はみんなで囲み暖をとる。

コミュニティスペースでは毎週、フラやヨガ教室として利用されているほか、地域のお店やアーティスト、ママたちが主催するマルシェなども開催。

もともとお客さんだった人の、「こんなことやりたい!」の声から始まるイベントが数多くあるのも魅力です。
 
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近所のお店やアーティスト、セラピストが集うリベンデルマーケット。ここで出会ってお店の常連さんになることも多いとか。

また、リベンデルでは、身近なエネルギーのことや、食や農のこと、焚き火を囲みワインを飲む満月ワインバーなど、日々の暮らしが楽しくなることをテーマにワークショップや講座を開催する場にもなっています。

私たち、ひとりひとりが自分のモノサシで「幸せ」を見つけるための価値観を磨く「暮らしの教室」の会場を始め、例えば、年間を通じて全4回開催された「茅ヶ崎エネルギーカフェ」では、”陽・火・暖・涼”を各回のテーマに設け、ソーラークッカー研究家西川豊子先生によるソーラークッキング講座やロケットストーブ講座など、私たちとって身近な太陽や火などのエネルギーを改めて考えるきっかけをつくっています。
 
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エネルギーカフェの様子。ロケットストーブにピースオーブンを使い、鎌倉POMPONCAKESさんのケーキを焼きながら楽しくエネルギーを学ぶ。

さらに、もうひとつ。リベンデルでは子どもたちに向けて、普段、当たり前のようにある食事や、暮らしにあるもの、もっと大げさにいうなら「生きていること」を、様々な体験を通じ、ふと感謝することに気づく、そんな教室を開催しているのも特徴です。
 
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納屋をリノベーションしたキッチンでタイ料理のプロから鳥のさばき方を学ぶ子どもたち。(c)リベンデル

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”物について考える”「地球に染まろう泥温泉ワークショップ」粘土質な土に実際触れ、さらに土器つくりにも挑戦。土を肌から学ぶ体験に。(c)リベンデル

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祖父の畑は農体験を通して食だけではなく、環境、暮らしを考える場に。ビオトープや鶏、果樹やオフグリッドした小屋など、パーマカルチャーを取り入れたつくりになっている。

鶏のさばき方や味噌づくり、畑で賑やかに行う芋掘りや、フィールドで思いっきり遊ぶキッズキャンプなど、子どもにむけた学びの場をリベンデルが手がける背景には、未来を担う子どもたちだからこそ、生きることを学んで欲しいという想いがあります。

英語のカリキュラムや算数のあれこれは学校で学ぶことができる。そこにはないものを伝えたい、そう考える熊澤さんは「考える事より、感じてほしい。教えるのではなく、学んでほしい」と言います。

体験を通じて、学ぶ。ごく普通にある食べ物がどうやってできていくのか、そこから広がる「暮らし」のことを体で感じることで、「当たり前だけど大切なこと」を学ぶ。

リベンデルは自分にとっての豊かさを知り、生きるために必要なことを学ぶ場でもあるのです。

自分の暮らしが祖父の土地に寄り添う生き方

わたしたちの暮らしに役立つ気づきやヒントを得る場として、また、子どもたちの学びの場としてもランドマーク的存在のリベンデルですが、リベンデルの誕生の背景には、今も、これからも各地で起こるだろうと予想される“土地”の課題がありました。
 
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現在、奥様、息子さんとリベンデルのそばで暮らす熊澤さん。

実は、リベンデルを立ち上げる前は普通の会社員で、農業にも場づくりにもまったく興味はなかったんです。

会社員時代は、いわゆる「出世コース」を歩んでいましたがこれでいいのか?というモヤモヤした気持ちがいつも心のどこかにありました。

それで、何か違う世界を見てみようという気持ちから、興味のあるイベントや講演会に足を運ぶようになりました。

そんなとき、”素敵ないいことを始めよう”をコンセプトにいろいろなアクションを展開している「BeGood Cafe」に出会った熊澤さん。

土日を使い、スタッフとして参加を始めた後、「BeGood Cafe」が出店予定となった「愛・地球博」の会場で、パーマカルチャーデザイナーである四井真治さん指導のもと、パーマカルチャーデザインの畑やビオトープを会場につくるという計画を知ります。それがパーマカルチャーとの出会いでした。
 
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リベンデル母屋の裏庭につくられたロケットストーブ型釜戸。

その場づくりに携わったことを機にパーマカルチャーの理念に触れた熊澤さんは、今までの消費する生活、また自分も組織の中で消費されている暮らし方に疑問を持ち、持続可能な場づくりへの関心が深くなっていったそうです。

そんな時、熊澤さんの祖父と祖母が他界。残された家と土地は熊澤さんのお父様の手に委ねられます。
 
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祖父の果樹園にたつ大木に竹の筏がぶらさがる「木登り」スポットからの眺め。子どもにも大人にも人気。

親父から更地にするという話がでたとき、自分が大切だった場所、たくさん遊んでただただ楽しかった場所が失くなってしまってもいいのかと自分自身に問いたんです。

とにかくこのまま大切な場所を失いたくないと思いました。場所を残すための活動をやろうと決めて、「ここで自分にコミュニティづくりをやらせて欲しい」と掛け合いました。

もちろん、最初は親父も大反対ですよ(笑)リベンデルの構想を立て、説得して会社を辞めました。今は親父の方が、リベンデルにいるんですけどね(笑)

みんなの記憶がつまっている場づくりへ

リベンデルが誕生して今年で5年目。熊澤さんはリベンデルを「あたり前だけど大切なことに気づく場所」として自分が死んでもなお継がれていく場でありたいと言います。

そこには、「生かされている」ことに感謝する大切さについて、身を持って感じた熊澤さんの体験がありました。
 
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2年前、体調を崩して病院に行ったら、余命宣告を受けました。動揺もしましたし、悲しかったです。おれ、死ぬんだって。

死が身近にきたことで、生かされていることの重みを知ると同時に、自分がやってきたことは世の中に残らないかもしれないと思いました。

人は必ず死にます。幸いと言うか、僕の余命宣告は誤診だったのですが、自分がいなくなってもリベンデルを未来に継ぐためにどうしたいのか、あらためて考えました。それで、ここがたくさんの人の大切な記憶のつまった場所にしたいと思ったんです。

自分がリベンデルをつくるのではなく、みんなにとって楽しく、大切な記憶がたくさん生まれるような場にする。

熊澤さんは、みんながここでやりたいこと、ここで叶えたいことをやっていける場づくりが未来までリベンデルを継ぐ「しかけ」のようなものになると言います。

みんなの暮らしのひとコマ、例えば記念日に寄り添えたり、ちょっとここで嬉しい出会いがあったり、何気ないことでいいと思うんです。

そこでふと感謝したり、リベンデルが記憶に残ったりすればいいなと。僕はそのサポートをしたいと考えています。

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子どもたちの五感に響くわくわくした気持ちをリベンデルで体験させたいと熊澤さん。(c)リベンデル

リベンデル立ち上げからまもなく、ふらりと遊びにきたおばあちゃんのやりたい!という想いから始まった精進料理教室は、今ではレシピ本がでるほどの人気に。

そんな大ブレイクをしたおばあちゃんたちの生き生きした姿を見ることで、またひとつリベンデルが誰かの大切な場になっていくのを感じるそうです。

今年は、リベンデルでケータリングをしている店主の結婚式を畑で開催予定。人の生業に寄り添いながら、楽しい記憶がつまっていく。そんなストーリーがリベンデルにはありました。

「暮らしの豊かさ」=「暮らし」×「暮らしにかける時間」

祖父の残した土地を、誰がどう生かすのかという課題から始まったリベンデルですが、高齢化社会において、空き地の課題は私たちのまわりでも起こり得ることです。

「家はもらうもの」なんて聞きますけど、これからはマイホームのために働くのではなくて、そこにあるものを生かすための技術を身につける働き方にシフトしていくんじゃないかなと思います。

例えば、古い家を修繕できる技術、暮らしをつくる技術を身につける時間の方が価値が出てくるんじゃないかと。

暮らしに手間をかけることこそが、本当の豊かさだと熊澤さんは言います。そして、自分だけでは終わらない、未来まで継いでいきたいと思う暮らしそのものこそ、多くの課題を、本当に豊かな暮らし方に変えていくのだと教えてくれました。

みんなの楽しい暮らしに寄り添う場、リベンデルをつくった熊澤さんは、新たに、食べられる森であり、子どもたちが自由に駆け回ることのできる”100年先に続く桃源郷”というコンセプトの森づくりを始めています。
 
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杏子、すもも、ブルーベリー…様々な果樹を植え、食べられる森をつくる”100年先に続く桃源郷”

完成は熊澤さんが死んでしまったずっと後。でも、完成しないことが重要なのだと。

熊澤のじいさんが森の完成を見たがってたよな、なんて未来で言われていたいんです(笑)

この森が育っていく間にも、ここで結婚式や、小屋づくりをしたいと思っています。そのうち、たくさんの果樹が実って、子どもたちが木登りをして、果樹をかじって。

そうやってみんなと育っていった森は簡単には失くならない。想いが森を継いでいくんです。

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社会課題という大きなことも、何を未来に残したいかを考えて、自分にできる一歩を始めてみる。

何か疑問が生まれたら、立ち止まって、未来へ続くバトンをどうしたら一番いい形で渡せるかをひとりひとり意識することが、自分も未来もどんどん楽しくなっていくきっかけになるのかもしれません。

自分の大切な場所のこと、未来に継いでいきたい景色のことが気になったら、リベンデルと森を訪れてみませんか?

(Photo by Photo Office Wacca : Kouki Otsuka)