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“成長、してもしなくてもいい場所”をつくる。「NPO法人アカツキ」永田賢介さんが描く、ありのままの自分を持ち寄る社会

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特集「マイプロSHOWCASE福岡編」は、「“20年後の天神“を一緒につくろう!」をテーマに、福岡を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、西鉄天神委員会との共同企画です。

あなたは、人とのコミュニケーションの中で、自分の声や価値観を押し殺したことがありますか? あるいは、名刺交換をしたときに、相手の肩書きが眩しすぎて後ずさりしたことはありませんか?

私はどれにも当てはまります。これまでの人生で、“生きにくい”と思ったとしても、年齢を重ねるにつれて、“なんとなく“平気になってしまったり。

自分を隠したり、殺したりしているうちに、次第に本来自分の中にあった声や熱量がしぼんでいく。いつしかそれは、”モヤ“となって自分の奥に蓄積していく。

そんなことを気にしなくていい空間をつくる人が、福岡にいます。それが「NPO法人アカツキ」の永田賢介さんです。

永田さんは、NPO法人のファンドレイジングを中心としたコンサルティングだけでなく、「エンガワの夕げ」というイベントで、人と人が肩書きや能力などで試されずに、ありのままでいられる居場所づくりをしています。

今回はこの活動をはじめたきっかけや、これからのビジョンについてお話を伺ってきました。
 
profile
NPO法人アカツキ 代表理事 永田賢介さん

永田賢介(ジン)
2006年、西南学院大学児童教育学科卒業後(保育士資格取得)、福岡女学院大学職員として学生対応やブランディング業務に従事しながら、イベント企画のコーディネートやデザイン支援を行う「Joy-Box」代表、本のシェアを行う「物々交換のモノクル」主催として活動。離職後1年間、東京の「クルミドコーヒー」や「NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」などでインターン修行を行う。2012年福岡で、ファンドレイジングを中心にしたNPO対象のコンサルティングと、コレクティブスペース「エンガワ」の運営を行う「NPO法人アカツキ」を立ち上げ代表理事となる。2014年度より北九州市立大学非常勤講師、2015年度より西南女学院大学非常勤講師。ほかに、福岡市共働促進アドバイザー、日本ファンドレイジング協会認定ファンドレイザーなど。

参加と協力の仕組みをつくり・育くむ NPO法人アカツキ

永田さんが代表理事を務めるアカツキは、NPO法人に対するファンドレイジングや、ウェブ制作などのコミュニケーションに関するコンサルティング事業を行うNPO法人です。

とはいえ、ファンドレイジングという言葉を初めて聞いたという方もいるかもしれません。そもそもそれはどんなものなのでしょうか?

NPO法人にはお金がないというのは、世間的にはよく聞く話しです。”想い”はあるけど、その活動を持続させていくためには、ある程度の資金が必要。そこで、寄付や助成金を集めるための活動がファンドレイジングです。

ただ、アカツキでは、単純な”資金調達”の方法を支援するということではなく、そのプロセスを最も大切にしています。

資金を調達するという“結果”だけが価値なのではなく、人々が社会に関わるきっかけをつくることが重要と考えているからです。

内閣府の調べによると、「資金面では、寄付を十分に得ることができていない」と回答するNPO法人が、全体の7割を超えるといいます。

その中で、単純な資金の獲得を目的としない、”プロセス”を丁寧に扱い、支援しているのはどうしてなのでしょうか?
 
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支援先のNPO法人と共に、参加と協力の仕組みを徹底的に話し合う

NPO法人が取り扱う社会課題に対して、自分の日常生活が忙しく、関係がないと決めつけていた人も多いと思います。

しかし、そのNPO法人が、「なぜその社会課題に取り組み・どんな解決策で・どんな社会を目指そうとしているのか?」を、相手の立場に立って丁寧にわかりやすく伝えていけば、これまで全く目を向けなかった人々が、その活動や、社会課題そのものに想いを寄せてくださることがあります。

だからこそファンドレイジングでは、活動のための”資金”を集めることではなく、”仲間”を増やすことが大事だと永田さんは続けます。

極端なことを言えば、実際に寄付という形でお金につながらなかったとしても、成功だと思うんです。社会の課題と自分の暮らしは実はつながっているということに、想いを寄せてくれる”仲間”を一人でも多く増やすことが、NPO法人が事業で成果を出し続けていくことにつながるからです。

それは同時に、支援者側をも勇気づけます。「困っている子どもを笑顔にするため。まちを元気にするため。あなたにもできることがあります。あなたの力が必要です。一緒にやりましょう」と。

そうやって参加や協力の機会を提案し、関係性を紡いでいくことこそが、NPO法人の大きな役割であり、特徴でもあります。

こうした参加と協力の仕組みを、さまざまなNPO法人に提供し、ともに育んで行くことで、ひとつのNPO法人だけでは解決しえない、複数の社会課題に向き合うことができるようになる、と永田さん。

団体名である「アカツキ」という言葉の由来にも、永田さんの想いやスタンスが、明確に現れています。

アカツキ=暁の意味は「夜明け“前”」です。

社会にはたくさんの悲しみや、憤り、不条理、苦しみがあって、時に真っ暗闇のように思えるかもしれない。まだ誰も手をつけていない、社会課題最先端のNPOほど理解を得にくい。

けれど、アカツキはそんな中で「最初の希望」になりたいんです。

その団体の隣に我々が寄り添って、「きっと理解してくれる人はいる、支援者、仲間ができる。」と信じてともに働きかけ続ける。

そして、いつかきっとそこに参加し、協力する多くの普通の人たちこそが、真の夜明けを切り拓く主人公なんです。

「社会の中でうまく生きられないという実感」から漕ぎ出した

永田さんが、NPO法人アカツキを立ち上げることになった背景には、子供時代から積み重ねられた人生経験が、大きく関係していました。

正直、「いつもキラキラ輝いているgreenz.jpの取材でこんな話をして良いのか?」という戸惑いもありますが、自分の活動の核にもなっていることですので、できるだけストレートにお話しますね。

僕が育った家庭は、常に家族ゲンカの怒号が飛び交うような環境だったんです。

原因は、母親なのですが、七夕のたんざくに「両親が離婚しますように」と書いた記憶があります。幼いころは父が、大きくなってからは僕が、僕が大学生になり家にいる時間が減ると、今度は妹が母とケンカをしていました。

そんな家庭環境で育ったためか、僕は人とのコミュニケーションが苦手でした。どこかでいつも、友人や学校、社会とのズレを感じていたように思います。

”この社会とのズレ、違和感”を封じることもできず、一時は自殺も考えたという永田さん。その後、高校卒業後の引き篭もり時代から、模索を開始します。

大学ではジャーナリズムに目覚め、「自分の頭で考えること」や「自由に発信すること」をタブー視せずに、積極的に活動をしていきました。

そこには、声なき小さな声や誰かの心のさざなみを大切に取り扱おうとする、永田さんの今の活動の“根っこ”が見え隠れします。

大学時代は、「世界にはこんなに沢山の嘘や不条理があるのに、みんな知らずに生きている。マスメディアや権力の発信することばかりに頼って生きていてはダメだ!」と息撒いていました。

そこにある”社会への違和感”を、無きこととして扱うことに我慢ができなかったのです。

結局最終的には組織論やカルトの研究に至り、「サークルという国家」というなんだかトンデモの匂いのする卒業論文を書き上げて学内で配布したりして(笑)

大学ではだいぶ浮いた存在だったと思います。

もう一つの原体験。「守りたい」と「依存」の狭間で。

その後、大学を卒業した永田さんは、福岡にある女子大の正規職員として就職します。大学時代に、自分の活動を支えてくれた職員さんのように、教育現場の裏方にニーズを感じたからだそうです。

また、そこそこ程度給与が安定していて極端な深夜残業なども無いため、プライベートでNPOの活動時間をきちんと確保できる状況を活用し、永田さんはあるマイプロジェクトを開始します。それが、Joy-Boxという任意団体の設立でした。

環境NPOの活動に、音楽ライブを企画・提供したり、食育NPOのチラシにイラストレーターを紹介したり、はたまた大学祭のステージコーディネーションをして、同時に国際協力学生団体の資金調達をプランニングしたり。

それらは、今のNPO法人アカツキの活動の原型のようなものでした。
 
SnapCrab_NoName_2015-3-9_6-32-1_No-00キャンドルナイトに音楽とワークショップをコラボするなど、今の活動の原型となった、Joy-Box。

しかし、その後大きな転機が訪れます。当時一緒に活動していたパートナーが自殺してしまったのです。

元々、精神的に傷を抱えていた彼女を、支えられるのは自分だけと思っていましたし、彼女も実際、自分を頼ってくれていました。しかし、結果、彼女を守ることができませんでした。

その時に、僕が”守りたい”と思っていたことは、実際には、依存されることに”依存”していただけだったのだと痛烈に感じました。

もし彼女に、僕だけでない、幅広い、小さな支えが点在していれば、それが網の目ようになって、救えたのではないかと考えるようになりました。そしてそのような関係性をつくらせず、自分だけに依存させて支えようとしていたのは僕の驕りです。

生きている自分がこれからできることは、彼女が生きていけたかもしれない社会を当たり前につくっていくことだと思っています。

パートナーの死後、永田さんは、不要な本を持ち寄り、そこから欲しい本を持ち帰るという物々交換で人とひとが支えあう場づくり、「モノクル」などの活動を経て、東京に1年間の修行に行きます。
 
SnapCrab_NoName_2015-3-9_6-32-17_No-00不要な本を持ち寄り、欲しい本を持ち帰ることができる。「モノクル」の場を通して、価値観を交換する対話が生まれた。

そこで、greenz.jpの記事にもなった、「クルミドコーヒー」や「NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会」で、自分の生き方の”師”と出会うことになり、福岡に戻ります。そして新しい覚悟を手に、NPO法人アカツキを立ち上げたのです。

試されない関係性と、互いのありのままを受け止め合う、”空間”をつくる。

ファンドレイジングともうひとつ、NPO法人アカツキが取り組んでいる事業が、対話と交流を軸にする、コミュニティ事業です。その事業活動の一環として、コレクティブスペース「エンガワ」の運営があります。

この「エンガワ」で、隔週金曜日に行われている「エンガワの夕げ」では、参加者とともに一緒にご飯と味噌汁と、家庭的なもう一品をつくり、みんなで食卓を囲みながら、自分の中にある”モヤモヤ”を共有しているといいます。
 
SnapCrab_NoName_2015-3-9_6-32-44_No-00能力などを気にすることなく、夕食を囲み”モヤモヤ”を共有する、「エンガワの夕げ」

「成長、してもしなくてもいい場所。交流、してもしなくてもいい場所。」というコンセプトで運営される「エンガワ」。ここで行われているのは、肩書きや能力、外見などにとらわれることのない関係性づくりです。

テーマや目的のもとに人が集められるのではなく、人ありきのゆるやかなコミュニティをつくり、エンガワ以外の社会のあらゆる場所にも、こういった関係性を広げていくことを目的としています。

誰にとっても楽しくて仲間ができるような、一律にすばらしい理想のコミュニティを期待して目指すのではなくて、分かり合えないことや、その場を離れるという選択すらも受け入れられる、多様なコミュニティの存在が、社会には必要だと思っています。

「参加と協力の仕組み」と「試されない関係性」

永田さんが描いているのは、社会の中の”私たち”ひとりひとりが、生きられる状態を毎日つくり続けること。「社会の変化は、その結果として起こることでしかない」と言います。

”私たち”とは、”皆”と”私”の中間を表現した言葉だと思っています。

”皆”と完全に価値観や行動を統一していく必要はないし、とはいえ、”私”だけでは生きられない。

だから、そのどちらでもない、”私たち”というあり方で、対話し、互いの違いをゆるやかに認め合い、少しずつでも、重なり合う部分を主体的に探して、合意をつくっていくことが、これからの社会に求められているように思います。

社会のなかで、イキイキと充実して生きている訳ではなく、かと言って救いが必要なほど困っている訳でもない。でも、漠然とした不安や苛立ち、もやもやを抱えたグレーゾーンな人々が、自分も含めて一定数いるということ。

そんな”私たち”がゆるやかに関われる空間をつくり、その想いを共有していくことで、一人ひとりの中にある何かが顕在化して、少し気持ちが楽になったり、やりたいことが見つかるかもしれない。

例えばNPO法人をつくるとしても、ものすごく社会貢献意識の高い個人からではなくて、「普通のひとたちの『ちょっと困ったな』や『見逃せない』を持ち寄ることが”種”になっていく」と永田さんは言います。

これからの社会づくりを考える重要なテーマとして、ダイバシティ(多様性)やサステナビリティ(持続性)という言葉が頻繁に語られる中、その言葉の響きや、仕組みづくりに囚われすぎてはいないか?

足元を見ることや、声にならない声にあらためて耳を傾けてみることの大切さを、永田さんのお話から感じ、考えさせられました。
 
最後に、ほしい未来を一緒につくる仲間として改めてみなさんに質問をさせてください。

あなたの中にある本当に大切にしたい価値観に、耳を澄ますと今、どんな声が聞こえてきますか?

そして、その価値観から、どんな未来をつくりだしていきたいですか?

(Text: 須賀大介)