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ハブとなる人が増えれば、地域のぬくもりも増えていく。「タウンキッチン」北池智一郎さんがこだわり続けた、つながりをつくるための場づくり

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ソーシャルデザインの担い手を紹介する「マイプロSHOWCASE」スタートから約3年。greenz people(グリーンズ寄付会員)のみなさまの会費をもとに展開する新連載「マイプロものがたり」は、多くの共感を集めたマイプロジェクトの「今」を伝える、インタビュー企画です。

「おはようございます!」
「今日はいい天気ですね」

ご近所さんとの何気ないコミュニケーションは、日々の暮らしに小さな安心感を与えてくれます。

しかし、都心に住んでいると隣に住む人の名前も顔もわからないという人も多いのではないでしょうか?

冠婚葬祭、子育て、防犯、防災、お祭りなど、昔は地域社会の中で行うことが当たり前だったことも、今では多くの地域でそうではなくなってしまいました。

このような、つながりの希薄さから生まれる様々な課題に対して、地域コミュニティを見直すことで解決していこうと、東京・小平市の商店街の一角に生まれたのが「学園坂タウンキッチン」。

2010年11月、“地域がつながるおすそわけ”をコンセプトに、地域の食生活を地域で支え合うためのお惣菜屋さんとしてはじまりました。

このあたたかい取り組みは前回の記事でも大きな反響を呼びましたが、タウンキッチンの活動はあれから3年半が経ち、食という範疇を超えて人と人のつながりをそこかしこに生み出していました。

その背景にある想いとこれまでの歩みを、「株式会社タウンキッチン」代表の北池智一郎さんに聞きました。
 
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(PHOTO:寺島由里佳)

北池智一郎(きたいけ・ともいちろう)
大阪大学工学部を卒業後、外資系コンサルティングファーム、ベンチャー人材支援企業を経て、2010年に株式会社タウンキッチンを設立。現在、同代表取締役。暮らしを豊かにするアイデアやチャレンジが増える地域づくりを目指して、行政、大学、企業等と連携しながら、創業支援やコミュニティ支援に取り組んでいる。東小金井事業創造センターKO-TO指定管理者、食の小商いプロジェクト(学園坂タウンキッチン)、立川シェアオフィスTXTなど。

一人ひとりの「つくりたい」を表現するシェアキッチンへ

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にぎわいを見せる現在の「食の小商いプロジェクト(学園坂タウンキッチン)」。

オープンしたころの「学園坂タウンキッチン」は、地域に住むおかあさんやおばあちゃんがタウンシェフとなり、家庭の料理をお惣菜として提供する場でした。

しかし、現在はスタイルが変わり、10名弱の主婦が料理やお菓子など、日替わりで小商いを行う場所となっています。

このように、「ボランタリーな主婦らによるお惣菜屋」から「個人のつくりたいものやこだわりのものを提供する食のプラットフォーム」となった理由を、タウンキッチン代表の北池さんはこう話します。

もともと「学園坂タウンキッチン」は、食を媒介とすることで地域の人のつながりをスムーズにつくれるのではないかと考えて立ち上げました。

でも、当初のやりかたでは、思っていたほどつくり手とお客さんとの関係づくりを進めることができなかったんです。

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食の小商いをはじめたいと思う地域の主婦が、思い思いの料理やお菓子を提供している。

実際、つくり手はキッチンの奥で調理をし、お客さんと直接顔を合わせるのは北池さんをはじめとしたレジに立つわずかなスタッフだけ。

また、「わたしがお店の全面に出るのはちょっと…」と、お客さんとのコミュニケーションに尻込みしてしまうつくり手も多かったのだそう。

つながりというのは人と人との間に生まれるもの。だから、まずはつくり手側に“人とつながろうとする意識”がないと、お客さんとつながることは難しいですね。

北池さんの言うように、たしかにコミュニケーションは一方通行では生まれないもの。また、やはりお店という場所では、まずはそこに働いている人からのアプローチが必要です。

自らつくりたいものをつくっている人こそが、自発的にコミュニケーションを取る。つまり、地域コミュニティをつくるにはそうした“ハブとなりうる人”の存在が大事なんだと気づきました。

しかし、お店のコンセプトを、途中から「地域コミュニティをつくるハブとなる人が担う場所」として方向転換させていくのは、やはり簡単なことではありませんでした。

リニューアルのために、お店を一旦閉めるという決断

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「ひとつの素晴らしい場をつくりたいのでなく、ひとがつながれる場をいろんなところに広げて行きたい」。(PHOTO:寺島由里佳)

当時はお店に立つことも多く、時間的にも精神的にもまったく余裕がなかった北池さんは、オープンから約1年経った2011年の冬、お店を一旦閉めるという決断をしています。

まわりに評価されてメディアに持ち上げられることも多かったんですが、どれだけがんばっても、地域にぬくもりを生み出せている実感がまるでなかったんですよね。

お店を一時的に閉めたのも当初の理念を達成するためには必要なことだったと思います。

やがて、お店のスタイルを、“自分のつくったものを食べてもらいたい人たち”による、“一人ひとりが当事者のシェアキッチン”へと思い切ってリニューアル。

「学園坂タウンキッチン」は「食の小商いプロジェクト」として生まれ変わりました。

「自分がつくったものを食べて欲しい!」という強い動機は、お客さんとコミュニケーションを取ることに直結します。

自発的な働きかけをできる人がそこにいることで、コミュニケーション量も増えて、人と人とのつながりもできてくるんですよね。

新しいスタイルになってからは、“自分のつくったものを売る自分のお店”という意識から、宣伝も率先して行い、お客さんも彼女らの個性を打ち出した料理やお菓子を目当てに足を運ぶようになったといいます。

理念を実現するために広げていった活動

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“生活に近いところに働く場を定めようとする人が未来の仕事と暮らしについて考える”ための「未来キャンプ」。

「学園坂タウンキッチン」のリニューアル後には、北池さんが自由に使える時間が増えたことで、タウンキッチンとしての新たな展開が生まれていきました。

そのころは、「週3日は必ず夜に外で人と会ってごはんを食べる」という自分ルールをつくって、面白そうな活動をしているところにどんどん顔を出していったんです。

様々な人たちとの接点をつくっていく中で活動のヒントとなることを学び、ネットワークもどんどん広げていきました。

東京にしがわ大学の共催、多摩信用金庫の協力で、“暮らしのそばに仕事をつくる”ための「未来キャンプ」を行ったり、国立市で地域活性を行う「やぼろじ」と一緒にイベントを開催したのもこの頃でした。

また、タウンキッチンとしても、空き物件を地域のコミュニティ拠点の実験として、西荻窪に「シェアするまちのお茶の間」をコンセプトとした「西荻サードプレイス」を立ち上げ、小金井市では市民ライターによる街のフリーペーパー『184 magazine』もつくりはじめました。
 
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小金井を再発見するフリースタイル・ペーパー『184 magazine』。(PHOTO:寺島由里佳)

やりかたは少しずつ変わってきましたが、そのどれもが、「思いやりのあたたかさが伝わる社会をつくるために地域のコミュニティをつくる」という当初の理念に基づいて行っています。

しかし、タウンキッチンをあくまでも「まちのお惣菜屋さん」として見ていた人からは、「なんだか変わってしまったね」と言われてしまうこともあったといいます。

でも、もしあのままのスタイルでお惣菜屋を続けていたら、タウンキッチンは理念を実現できずに、本当に普通のお惣菜屋になってしまっていたと思います。

変えていいのはどこで、変えてはいけない部分はどこかということを自分で自覚できていたからこそ、活動を広げていくことができたんだと思っています。

“地域のハブとなる人を育成する”シェアオフィス

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『東小金井事業創造センターKO-TO』。

現在、タウンキッチンは「学園坂タウンキッチン」と並行して、ふたつのシェアオフィスを手がけています。その目的はやはり同じ。“地域のハブとなる人を育成すること”。

そのうちのひとつ、「東小金井事業創造センターKO-TO(コート)」は、小金井市が公共施設としてつくり、運営をタウンキッチンが担う形ではじまりました。

利用者は約30名。都心と違って地域における介護や観光に関わる人も多く、子ども、高齢者、コミュニティといったテーマでビジネスをつくっていく場でもあります。

地域に根ざし、暮らしに近い場所で仕事をつくりたいという人をソフト的な面で応援していけたら。

一番の理想は、ここに集まるひとたちが地域のハブとなって地域コミュニティの核をつくり、それが渦となってさまざまな活動を地域で広げていってもらうことなんです。彼らにはその可能性が十分にあるはず。

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『東小金井事業創造センターKO-TO』の利用者は、“自転車で通える距離”に住む地域住民が多い。(PHOTO:寺島由里佳)

また、タウンキッチン単体で事業を行うよりも、行政やまちづくり会社などと協働していくことも、北池さんが活動を続ける中で意識的に行うようになったこと。他者とつながることによって、より大きな効果を生み出せるということは、北池さん自身が経験によって得た学びでもあります。

「東小金井事業創造センターKO-TO」でも、この場に集う人たちのつながりが、やがて地域を豊かにしていくきっかけになるのでしょう。

「『タウンキッチン』の名前を変えようと思ったこともあった」

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(PHOTO:寺島由里佳)

「学園坂タウンキッチン」から始まり、シェアオフィスなども手掛けるようになっていったタウンキッチンですが、食以外に活動が広がったこともあり、一時はその名前を変えることも真剣に考えたといいます。

でも、さんざん考えた挙句、やっぱりタウンキッチンというのはいい名前だなと思えてきて(笑)

地域には、人、農産物、自然、公園というような資源がたくさんある。じゃがいもだって、それだけだと生では食べられないけど、塩を振って煮込めばおいしく食べられる。

ぼくは地域の人が集まって、つながりの中で価値が高まっていく “場”をつくっていきたいんです。

素材が集まり、可能性が広がっていくことで、どんどんおいしい料理に仕上がっていくキッチン。しかもそれらの人材も外から持ってくるのでなく、“地元産”。

2015年中には国立大学法人の附属図書館に併設したカフェもオープンする予定。この場所は大学と地域の交流拠点となり、新しい協働が生まれていく“場”として、様々な機関との連携を図っているのだそう。

タウンキッチンの周りに、まちぐるみの台所がこれからもどんどん増えていきそうです。

いろいろなことがありましたが、どれも続けてきたから見えてきたことであって、一年目のころにはこうした状況は想像すらしなかったですね。

でも、事業を続けていくことを難しいと思ったことは一度もないんです。誰かにお願いされてやっているわけでなく、自分がやりたくてやっていることだし、自分ひとりになってもやる! と思えば絶対続けられますから。

そう力強く語る北池さんに、数年前の自分自身にもしアドバイスを送るとしたら?と聞いてみました。

“そのまま進めばいい”かな。失敗を通してはじめて成長することがあるし、やっぱりひとつずつ経験してクリアしていくしかないですから。

地域につながりとぬくもりをつくるタウンキッチンの活動は、これからも続いていきます。しかし、北池さんもお話ししていた、“自発的につながること”はわたしたちにだって、きっとできるはず。

なによりも、わたしたち一人ひとりが目の届く範囲の小さなつながりを少しだけ意識することが、まちをあたたかくする一番の近道なのかもしれません。

「おはようございます!」

たったひとつのあいさつから、豊かなまちづくりをはじめてみませんか?