みなさんは「オフグリッド」という言葉を聞いたことがありますか?
電力、ガス、水道などのインフラから自立するという意味の「オフグリッド」は、3.11と福島原発事故以降、注目されるようになりました。
「そもそも、それってどういうこと?」「でも、むずかしくないかな?」という問いに「まずは見て、触って、楽しんじゃおう!」とつくられたのが、軽トラックにオフグリッドした小屋を乗せて走る、その名も「オフグリッド号」です。
今回は、小さなこどもから大人までオフグリッドって楽しいよと伝えるためにつくられた、走る教材「オフグリッド号」をご紹介します!
オフグリッド号ってどんな車?
オフグリッド号の正体は、オフグリッドした小屋を荷台に乗せた軽トラックです。
オフグリッド号の荷台。オフグリッドを体験できる、さまざまな機材が満載です。
折りたたみ式の屋根には100wのソーラーパネル。さらに一番上の屋根には太陽光温水パネルを搭載。温水パネルで温まったお湯は太陽光パネルの電気で動くポンプで循環し、シャワーから出るしくみになっています。
パネルで発電した電気は小屋内部のバッテリーに充電。
小屋の側面にはバッテリーからつながる可愛い直流の冷蔵庫。その隣にはDC/ACインバーター、チャージコントローラーと呼ばれる制御装置、そして、「今どれだけ発電しているか」を見るためのメーターがついています。
直流の冷蔵庫。一般的な冷蔵庫は、交流です。バッテリーは基本的に直流なので、直流で直接つなげると、効率が良いのです。これでビールを冷やして飲んだら、美味しそう!
独立型太陽光発電に必要なシステムが並べて展示、配線されています。
さらに下には電気の消費を可視化し、わかりやすく伝える「パワーアナライザー」。
左側のフィラメント電球と右側LED電球、どちらがどれだけ電気をつかっているかが数値とグラフでわかるものです。
「つくってみたい!」につながる教材をつくる
オフグリッド号は「NPO法人チーム東松山」の代表理事・松本浩一さんの考案のもと、はらっぱ技術研究所の佐藤明さんの手でつくられました。
松本さんが運営するNPO法人チーム東松山では、環境まちづくり事業の一環として、子どもたちと自然体験や農作業を通じて環境を考える「東松山こどもエコクラブ」や省エネ、創エネワークショップ、手を動かしながら考えるエコタウン市民プロジェクトなど、様々な環境活動をしています。
また、「はらっぱ技術研究所」は、子どもの外あそびをより楽しく快適にするものづくりを研究する佐藤明さんの研究所。このふたつが出会い、オフグリッド号は誕生しました。
考案の理由を松本さんはこう話します。
松本さん これまで、エコタウン市民プロジェクトでは、親子でつくる太陽光発電ミニシステム講習会や大人向けオフグリッドシステム講座なども開催してきましたが、時代の流れはメガソーラーのような大きなシステムや投資目的の売電にのみ関心があるような方向に進んでいることに疑問を感じていたんです。
そうではない方向としてオフグリッドシステムの魅力や意義を伝えたいと痛感するようになったんですね。
温水パネルで温まったお湯を子どもたちに体験させる松本浩一さん。長らく高校の教師として「環境教育」「持続可能な開発のための教育」に取り組む。地域分散型エネルギーやエネルギーの地産地消(自産自消)に興味をもち、太陽光発電や太陽熱、バイオマス利用を教材化する試みを10年ほど前から実践中。
当初は建築確認の必要がない3坪ハウスをつくる計画があったそうですが、はらっぱ技術研究所の佐藤明さんが製作した「1坪屋台」と出会い、この技術で軽トラックに乗せたハウスをつくり、そこに太陽光発電システムや太陽熱利用システムをつければ一目でオフグリッドライフのしくみがわかるのではとひらめいたそう。
また、はらっぱ技術研究所の子どもが外あそびから体験を通じて学ぶというコンセプトとも相まって、松本さんは佐藤さんとお会いしたその日に軽トラハウスを発注したそうです。
こちらがオフグリッド号のきっかけになった1坪屋台。組み立て式になっており、どこでもゲリラ的に子どもたちもお店をひらけるというもの。
今年4月に目黒区林試の森フェスタにてクラフトコーナーのシンボルとして使われました。
松本さん 太陽光発電の100Wシステムくらいならば、テレビや冷蔵庫、照明やオーディオなどを動かすことも可能です。
また、手づくりの太陽熱温水パネル(柏市のNPO法人エスコットがつくったヒートルパネル)を使うとお風呂に入るイメージも沸く。それを小屋にして軽トラックに載せれば移動が可能でイベント会場でもアピールできると直感的に思いました。
そして、こうした想いを形にできる佐藤さんの技術があったからこそ、オフグリッド号は誕生したんです。
一方で、製作にあたった「はらっぱ技術研究所」の佐藤さんは、オフグリッド号にこめた想いについてこう話します。
佐藤さん はらっぱ技術研究所は「子どもたちが外遊びをするにあたり、快適に楽しく遊ぶことを研究する」をコンセプトにものづくりをしています。研究所といっても私ひとりですけど(笑)。
私は本来電気関係のエンジニアなので、オフグリッド号が伝えたいこと、例えば太陽光発電のしくみやLEDライトのしくみについてわかるけど、なかなか子どもたちにはわかりづらいことだと思うんです。
でもオフグリッド号に乗って遊ぶことで、子どもたちはすでにもうオフグリッドを体験してるんですよね。成長してエネルギーの話や勉強に触れたとき、「子どものころ、オフグリッド号で見た!」という気づきにつながればと考えたんです。
「はらっぱ技術研究所」佐藤明さん。DIY好きが高じ、外あそびを快適にするものづくりを始める。さらに製作したものを子どもが使うことで体験から学びにつながるきっかけを研究しているはらっぱ技術研究所。
オフグリッドとは、ソーラー発電などの独立電源を使い、大きな電力会社から独立すること。独立した小屋で電気を使う体験は、子どもたちにも「独立していること」が伝わりやすいのです。
3ヶ月ほどで完成したオフグリッド号ですが、「あくまで楽しさ、面白さを伝えたい」という佐藤さん。そこにはこんな想いがありました。
佐藤さん 今、オフグリッドを取り入れている人や環境問題に取り組んでいる人が増えています。
いろんなやりかたがあると思うんですけど、大きなゴールはみんな一緒で「地球を大切にする。未来をよいものにする。」ということだと思うんですよね。
その未来を担うのが今の子どもたちだからこそ、子どもの頃から身近に「未来を大事」にする術を知っていたほうがいい。そのきっかけは楽しい、面白いほうが子どもにはいいじゃないですか。
オフグリッド号もまずは「楽しい!」を体験してもらうために工夫しました。
今年10月に開催された東松山市の環境みらいフェアでの展示実演の様子。子どもだけでなく大人にも大人気だったそう。
太陽熱を利用したシャワーの下には人形が。小さな女の子に大人気のしかけです。
小屋の中にはテレビも!
「動くオフグリッド教材」から「自分で手を動かしてつくりたくなる事例」へ
展示、体験の場としてスタートしたオフグリッド号ですが、実際にオフグリッドを体験してもらう中で、見えてきた”気づき”や”学び”について松本さんに聞きました。
東京ビックサイトで開催されたものづくりの祭典「Maker Faire Tokyo 2014」にて展示の様子。みなさん興味津々。
松本さん オフグリッド号のなかに入ってみると、子どもだけでなく、大人も心地のよい空間を感じてもらえるんです。
ソーラーパネルも手に届く範囲にあり、そこから発電した電気がバッテリーに貯まり、その電気でテレビや冷蔵庫が動く。
目に見えるから、それが「すごい!」につながる。電気や熱は自給できるんだというイメージがオフグリッド号の「楽しい空間」で伝わっていく。まずはそこからかなと。
現在、展示・実演という形で各地をまわるオフグリッド号ですが、今後はもっとオフグリッドのイメージを膨らませ、さらには自分も手が動かしたくなるように「オフグリッド号で暮らす・遊ぶ」という機会を設けていきたいそうです。
松本さん 雨水利用や床暖房など、オフグリッド号の可能性を広げるアイディアを付け加え、実際にペレットストーブやロケットストーブで調理を行うというイベントも計画中です。
「暮らす・遊ぶ」の実践は、私たちが主宰する東松山こどもエコクラブの冬休みの活動として行いたいと思っています。「すごい!」から、「つくってみたい!」へ発展させることが今後の課題ですね。
軽トラックの荷台にオフグリッドした小さな小屋を載せ、旅をしながら生活する人。荷台にお店を載せ、ケータリングカーとして仕事をする人。軽トラモバイルカーを自分でつくる人。
かつてはマニアックな印象だった“つくる人”が、少しずつ増えています。
大量に生産されたエネルギーをただ消費して暮らすのではなく、自分に必要なエネルギーのことを考え、ときに自分の手でつくり、選択をする暮らしかた。そんな暮らしが増えていけば、多くの問題は解決していくのではないでしょうか。
はらっぱ技術研究所のブログには、オフグリッド号の小屋づくりが具体的に掲載されています。行動してしまえば、オフグリッドは誰でも簡単にできるのです。
オフグリッドのこと、軽トラモバイルカーのこと、エネルギーのこと、自分ごとにしたい!と思ったら、まずはオフグリッド号に会いにいってみませんか?
そこからあなたのオフグリッドライフが見えてくるかもしれませんよ。