一人ひとりの暮らしから社会を変える仲間「greenz people」募集中!→

greenz people ロゴ

日本初! 自治体が「まちの電力会社」を設立。道の駅、小中高から野球場まで電力を供給して、”電気の地産地消”を目指す「中之条電力」

6-PV1
中之条町が建設した沢渡温泉第1太陽光発電所

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

自分の住む場所でつくられた自然エネルギーを、自分の暮らしの中で使う。そんな生活ができる地域を目指して、一歩を踏み出した町があります。

群馬県・中之条町。人口約18000人の、美しい緑に溢れ、豊かな水が流れるこの町で、「中之条電力」は誕生しました。

中之条電力は、町内にある3基のメガソーラーから電気を買い取り、役場や高校小中学校などの公共施設に電気を販売しています。「町の電気屋さん」ならぬ、「町の電力会社さん」といったところでしょうか。

設立の中心となったのは中之条町。自治体が電力会社を設立するのは全国でも初めてのケースです。今、再生可能エネルギーの導入を目指すたくさんの自治体が、これは!と視察に訪れています。
 
10-IMGP7847
遠くには山々が見え、田畑が広がる中之条町。良いところです

中之条電力のビジョンは明快です。「地域全体で電気エネルギーの自立、電気の地産地消を目指す」。そして「中之条町の一般家庭に電気を売り、地域に愛される電力会社になる」。

つまり、中之条町内で太陽や水、木など自然の力を使って発電し、その電気を中之条町内で販売する、ということです。もしこのビジョンが実現すれば、化石燃料や原発に頼らない電気で暮らすことができますね。そんな未来を目指して中之条電力は、地に足をつけた活動を展開しています。
 
07-IMGP7833
中之条電力 理事の山本政雄さん

なぜ町が電力会社を? どれくらい発電しているの? もしかして電気代が高くなっているんじゃ? 電気の地産地消って本当に実現できるの?

など、気になることがたくさんあります! そこで中之条電力の中心的存在である、理事の山本政雄さんを訊ねました。

中之条町ってどんなところ?

12-_AK80004
素晴らしい景色の芳ヶ平の湿原

中之条町は群馬県の北西に位置しており、北は新潟県、西は長野県に隣接しています。東京から足を運ぼうと思えば、上越新幹線(高崎駅まで)と在来線(JR吾妻線)を乗り継いで2時間ほどでしょうか。
 
11-7 shimaonsen
四万温泉

中之条町は「花と湯の町」としても知られています。貴重な高山植物が群生する芳ヶ平をはじめ美しい花が咲くスポットがたくさんあり、四万、沢渡、尻焼など9つの温泉が湧き出ています。
 
20-siriyaki
尻焼温泉

面積の約8割が森林。また、山間地のため標高差があり、町の至るところに小さな川が流れており、とても自然が豊かな地域です。
 
16-_MG_0286
標高789メートル、中之条町のシンボルの一つ、嵩山(たかやま)

実際に町を歩くと、水の流れる音がどこかしらから聞こえてきます。空気がきれいで、遠くには美しい山並みが見えました。「いいところだなぁ」とため息が漏れます…。

太陽光の電力を買い、公共施設に売る中之条電力

5-shisyo_syougakkou
中之条電力の電力を購入している六合小学校(上)と六合支所(下)

さて、その中之条町の町役場が、2013年10月5日に一般財団法人中之条電力を設立しました。代表理事・理事長は町長が務めており、前出の山本さんが中心となって実際の運営を行っています。

中之条電力は、いわゆる「新電力」(特定規模電気事業者=PPS)として資源エネルギー庁に届け出ました。新電力としては全国で100番目、自治体が中心となって設立した電力会社は、全国初です!

ところで、「新電力」とは大量の電力を使う需要家に対し、電力を供給する業者のこと。一般家庭の場合、関東に住んでいるなら東京電力から電力を買うものと決まっていますが、たくさんの電力(契約電力50kW以上)を使う場合、こうした「新電力」から買い入れることができるのです。

中之条町の場合、電力を買う側は、町の公共施設。つまり、中之条町が中之条電力から電力を買い、町役場や学校などの施設で電力を使う、という仕組みになっています。下の図の左側の矢印の動きですね。
 
1-scheme
中之条電力の仕組み(『広報なかのじょう』2013.11)

ちなみに、中之条電力の電力が供給されている施設は計25施設(2014年10月まで)。役場や道の駅、温泉施設、保育所・幼稚園・小学校・中学校・高校、体育館、ホール、野球場、医療センターなど多岐にわたっています。
 
7-PV2
沢渡温泉第2太陽光発電所

では、中之条電力がどこから電力を調達しているかというと、町内にある3ヵ所のメガソーラー。合計5MWの規模を誇ります。そのうちの2ヵ所は中之条町が運営しています。

3ヵ所のメガソーラーの年間供給電力量は6000MWh。一方、供給施設の電力需要量は年間で4500MWhが見込まれています。つまり、1500MWh分も余裕があるということなんです。余った分は卸電力市場へ売電しています。
 
3-PVvitec
バイテック中之条太陽光発電所

ただ太陽光発電は、曇りや雨の日は発電量が少なくなり、夜間は全く発電しません。特に電力が足りなくなる夜間は、卸電力市場から購入しています。

自治体主導で進める再生可能エネルギー

03-IMGP7802

中之条町役場エネルギー対策課長であり中之条電力理事の山本政雄さん(左)、中之条町役場エネルギー対策課主任の山田真邦さん

もともと中之条町では、2006年から住宅用太陽光発電の助成金制度を始めるなど、エネルギー対策に積極的な自治体でしたが、省エネが軸の取り組みが中心でした。

町として再生可能エネルギーの導入を、という方向へ舵を切ったのは2012年1月から。同年7月にエネルギー対策室(現在のエネルギー対策課)ができ、山本さんが担当になりました。

この動きの背景には、前町長が東日本大震災の被災地を訪れ、原発に頼らず地域でエネルギーの地産地消を推進していかなければならないと実感したことがあります。
 
05-IMGP7814
就任当初は再生可能エネルギーや太陽光発電はあまり知らなかったと山本さん。勉強していくうちに「面白いな」と思い始めたそう

最初の計画は、メガソーラーの建設。当初は、町が土地を民間企業に貸し、事業主体も民間で行う予定でした。ただ、計3ヵ所のメガソーラーのうち、1ヵ所は民間企業(バイテック)が所有していますが、残りの2ヵ所は町が保有しています。途中から町が事業主体になる方向へ転換したのです。

町が事業主体にならないと、法的な手続きの問題で計画が進まないことが分かりました。太陽光発電を建設するためには、農地法や森林法などさまざまな法的許可が必要ですが、民間が行うとなると年数かかってしまうのです。

そして、国有林を借り受けて太陽光発電を設置すると、町は民間事業者に土地を「又貸し」するだけになってしまいます。それはちょっとなと。地域で電気の地産地消を目指すためには、自治体が主導して進めるべきだと考えました。

地産地消を「見える化」する電力会社

19-DSC06492
花の駅美野原

中之条町がそうであるように、自治体が再生可能エネルギーを導入する事例は、全国的にも増えています。岩手県葛巻町の取り組みなど、エネルギー自給率が100%を超える地域も少なくありません。さらに、東京都世田谷区など、新電力から電力を購入する自治体も増えてきました。

その中で、中之条町が注目されるのは、町として電力会社を設立したからです。なぜ電力会社なのでしょうか?
 
08-IMGP7835

何より「電気の地産地消」を目に見える形で推進するためです。確かに方法としては、町で発電した電力を東京電力に売ることもできます。

しかしそれでは、使用する側は電気代を東京電力に支払うことになり、発電側と使用者側の距離が遠くなってしまうのです。町でつくった電気を町の電力会社が買う。使用する側は町の電力会社から電気を買う。そうすれば、動きが目に見えますよね。

なるほど。いくら町で発電していると言われても東京電力に電気代を支払っていたら、地産地消をしている実感が得られにくいですからね。(実際の電気の流れとしては、町の太陽光発電で発電した電力は東京電力が持つ送電線を使って配電されるので、他の発電施設の電力と区別はつきません。)

電力会社を設立した理由はもう一つ。固定価格買取制度(FIT)を活用することができるからです。発電施設から電力を購入する際、低炭素投資促進機構から交付金を得ることができます。

この制度を活かして、FITで定められた40円/kWhに上乗せしたプレミアム価格で電力を買い取っています。そして販売する際も、東京電力の電気代より安く抑えることができており、公共施設が支払う電気代は年間で約1000万円も削減することができました。

固定価格買取制度(FIT)は、電気事業者(ここでいう中之条電力)が、再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を一定期間、一定価格で買い取ることが義務づけられています。FITが2012年7月に開始されたことにより、日本の再生可能エネルギー、特に太陽光発電が爆発的に広がりました。

電気事業者が買い取る価格は中之条電力の場合40円/kWhです。ここから仕入れ価格(回避可能原価)を引いた金額を、低炭素投資促進機構*が交付金として支払ってくれます。

※低炭素投資促進機構 再エネ賦課金を全国一律になるように地域間の調整を行う機関。皆さんも月々少しづつ電力会社に支払っている再エネ賦課金を取りまとめ、電力会社に交付する団体。

ごく簡単に言ってしまえば、中之条電力は、FITという制度的な後押しを受けて、太陽光発電所から電気を高く買い取り(結果的に町の収益になる)、公共施設に安く販売することができるのです。
 
09-IMGP7845
カフェや雑貨屋などが集まる交流センター「つむじ」。ここの電気も中之条電力から購入しています

電力会社を設立することは、電気をより身近なものにするという意識の面と、ソロバンの面の両方で、理にかなっていたんですね。それにしても年間1000万円削減とは、すごい効果です!

新しいもの好きの風土も成功の鍵?

13-_AK80053
野反湖の咲くノゾリキスゲ

中之条電力の設立以降、経営上の問題は特にないということなのですが、事業にはリスクがつきものです。だからこそ経営の安定性に重点を置いたと山本さんは語ります。

中之条電力自体の利益が少なくてもいい。卸売市場に売電すれば、たとえ公共施設への小売りがゼロでも組織として存続していくことができるかどうかを重視しました。

下調べには相当時間を掛けましたし、卸売市場への販売価格やスキームの確立には苦心しましたね。その他、発電設備のリース会社、建設会社、運営会社との契約時も、町が負うリスクを最小限に抑えるため、緻密な交渉を重ねました。

山本さん自身再生可能エネルギーの経験はほとんどなかったそうなのですが、全国でも初めての仕組みづくりを実現しました。それは、もともと土木が専門で、上水道の整備を24年間も担当した経験があったからこそ。

土木の本質は複合技術なんですよね。課題に対していかに技術を組み合わせるかを考えるのが土木の発想。それは再生可能エネルギーにおいても同じことが言えます。

また、リスクマネジメントに関してもこれまでの経験が生きました。リース会社との契約は、最後まで直接私が担当しましたよ。

中之条電力設立には、山本さんの存在が欠かせなかったようですね。そして、中之条町の文化も、事業推進の背景にあるのだとか。

中之条町にはもともと、新しいもの好きな気風が根付いているんです。かつては宿場町として栄え、蘭学者の高野長英や歌人の若山牧水らの文化人が訪れるなど、外から入ってくるものとの交流が盛んでした。

新しいものにあまり警戒心を持たず、良いものは取り入れていく風土が、何となくあると思いますね。私自身、新しいもの好きですし(笑)。

ですから、中之条電力設立にあたって、町の住民の皆さんの反応もほとんどが好意的なものでした。

電力完全自由化に向けて

1-EV1
電気自動車のデザインコンクールの授賞式にて

中之条電力の活動は始まったばかり。これからの動きに期待したいところです。

町の電力会社としての大きな役割の一つが地域活性化。地域を盛り上げるイベントへの協力を行っていく方針です。

たとえば11月3日には、町で保有する電気自動車のデザインコンクールを共催しました。また、メガソーラーを見学するバスツアーなども企画する予定です。
 
4-yakuba

そしていよいよ、2016年には一般家庭にも電気を小売りできる、電力の完全自由化が始まります。当然中之条電力としても町内各戸への小売りを視野に入れ計画を進めているところです。

完全自由化すれば、手が足りなくなるのは明確です。中之条電力そのもので人を採用し、地域の雇用に直接つなげたいと考えています。そして、各戸へ売電するためには安定した電源が必要です。

現在、小水力発電の設置を具体化させており、バイオマス発電も検討しています。あとは群馬県企業局がもつ発電所など外部調達で安定電源を確保していきたいと考えています。

中之条町の電気を使い、足りない分は群馬県の電気を買う。まさに電気の地産地消ですね!

中之条電力のビジョンとしては、対馬など地域の電源だけで自立している離島をイメージしています。

太陽光はもちろん、小水力やバイオマスを加えて、中之条という地域全体で電力需給のバランスを取り、他地域との電力のやり取りもする。ハード面の課題も多いですし法整備も必要ですが、そんな時代になればと考えています。中之条電力がコアになって、需給調整を行うことができるようになるのが理想です。

地域に愛される存在へ

14-_AK80192
白砂渓谷ライン

そんな電力会社は、地域に住む人にとってとても、身近で親近感の湧く会社になっていくのでしょう。今はまだ中之条電力の姿は見えません。名前もあり、実際に事業を行っていますが、仕組み上の存在です。

だから早く、人が増えて、目に見える存在になって、地域に愛される存在になることが大事だと思っています。

そして、地域の電力会社である以上、価格だけではなく地域ならではのサービスがあると思います。町の新電力、というポジションに甘えていてはいけませんね。競争原理が働いても残っていく組織を目指していきます。

原発に頼らない地域を目指して、歩みを始めた中之条町。その試みは夢物語ではなくどこまでも具体的です。地域のエネルギー的自立を実現するため、事業としても持続可能な形で、取り組みが進められています。

中之条町に住む子どもたちが、

町のソーラーパネルでつくられた電気が使いたいな!

中之条電力から電気を買おうよ!お得だし環境に優しいって聞いたよ!

大きくなったら中之条電力で働きたいんだ!

なんて話す日は、そう遠くないかもしれません。