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逗子の魅力を伝える”カルチャー配信基地型”映画館って? シネマアミーゴ館長・長島源さんに聞く「脱都市型ライフスタイルのつくり方」

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みなさんは映画館と聞くとどんな場所が目に浮かびますか? 多くの方は複数のスクリーンでたくさんの映画を一度に上映できる、複合型の建物シネマ・コンプレックスかもしれません。

これからご紹介する「シネマアミーゴ」も複合型の映画館のひとつです。とはいえ、一度にたくさんの上映スクリーンを持っている映画館、というわけではありません。逗子という地域や人や食、音楽に映画、様々なものが複合する”カルチャー発信基地型映画館”なのです。

今回はシネマアミーゴ館長、長島源さんに、地域のカルチャー配信基地シネマアミーゴの魅力と、街と人を結ぶ映画館の仕掛けについてお話を伺いました!

カルチャー配信基地「シネマアミーゴ」

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R134と呼ばれる海沿いの道から一本入った住宅街に静かに建つシネマアミーゴ。

神奈川県逗子市。海も山もある自然豊かなこの街に、シネマアミーゴはあります。

もともと住まいとして建てられた物件を、長島さんが仲間とともに手を動かしリノベーション。1階は22席ほどの小さな映画館と昼はランチ、夜はバーとなるオープンキッチンがあり、2階はシェアオフィスとして使用されています。

貸切のパーティーやお料理教室などのワークショップ、マルシェなども開催されるなど、コミュニティースペースの顔も持つところがシネマアミーゴの魅力。まさに「映画館」という肩書きを大きく飛び越えた”カルチャー配信基地”なのです。
 
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落ち着いた雰囲気で映画の世界を楽しめる館内。

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ランチタイムの上映はなく、ランチだけお目当で楽しむこともできる。

東京ベースから逗子ベースへ。都市に集中するから地方に分散へ。

オープンから今年で5年目を迎えるシネマアミーゴですが、「最初から、映画館をつくることが目的ではなかった」と、長島さんは言います。

シネマアミーゴは僕を含め、東京をベースに働いていた仲間3人と立ち上げました。

以前、音楽中心の空間を横須賀の秋谷という場所でやっていたときからの仲間なんですが、全員このエリア出身なんです。それで、できれば地元をベースに自分たちがやりたい仕事ができる場がほしいと思っていたんですね。

そんなとき、ちょうどこの物件が空いて、「じゃあ、どんな切り口でやろうか」と考えたとき、このエリアに映画館がないことに気づいたんです。映画館なら音楽、映像などいろんなテーマを盛り込めて、カルチャー発信基地には最適だなと思いました。

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シネマアミーゴの館長を務める長島源さん。ミュージシャン、モデルという顔も持つ。

もうひとつ、長島さんが東京ではなく逗子にこだわる理由も、シネマアミーゴ誕生につながっています。

今はちょうど転換期だと思うんですが、今まではクリエイティブな仕事をするとなると、どうしても東京ベースになるじゃないですか。でも、やたらと都市に人が集中しすぎている”アンバランス”な状態に、もともと疑問があったんです。

都市から離れた場所にベースをおき、もっと地域の中でエネルギーや仕事がまわる社会が必要なのではないか。都市から地方に移り住む一つの形を提案したいという思いもありました。

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館内の一角には音楽スペースも。カルチャーならどんなジャンルでも、という長島さん。

既に逗子周辺には、おもしろいことを仕掛けている人やアーティスト、ミュージシャンや作家がたくさん集まっています。「逗子のシネマアミーゴはいつもなにかおもしろいことやってるよ!」と配信するための面々は、豊富にあると長島さん。

入り口はいつも開けておくから、まずは逗子のカルチャーに触れてみて、気に入ったら逗子においでよ、っていうスタンスでいます。

もっと言えば、こんなに個性豊かな面々が豊富に溢れるこのエリアで、脱都市型ライフスタイルが実現できなければ、他でもできないでしょって思ってる(笑)

現在もミュージシャンとして逗子を飛び出し、パフォーマンスを行う長島さんですが、シネマアミーゴができたことで、旅先でつながったアーティストたちともさらによいつながり方ができるようになったそう。

場所があるとつながり方が早いし、そこで終わらないで次につながるんです。例えば自分のライブや旅先で出会ったミュージシャンに、「今度はアミーゴでライブしてよ」って言える。

それは新しいつながりを逗子に持ってくることなんです。ミュージシャンとしてやってきたことも活かされてると思います。

都会からきた人をローカル化する”しかけ”をつくる

カルチャー配信複合基地として様々な展開をしているシネマアミーゴですが、さらにもうひとつ、実際に逗子という街で働き、住まうことをイメージできるための仕掛けもつくっています。

例えば、館内にある「アミーゴキッチン」では、隔日日替わりシェフがランチを担当。逗子でいつかお店を持ちたいという人や、お店をしているけどもっと地域とつながりたいという人、あと、出店前にブラッシュアップしたい人たちなどが腕をふるっているのです。
 
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シネマアミーゴはカルチャーの配信基地ですが、もうひとつ、逗子という街のネットワーク機能も果たしているんです。

例えば、都内から逗子に移住してキッチンのメンバーになったシェフが、最近、逗子の街にお店をオープンしたんですが、既に逗子の人たちとアミーゴでつながっていたので、オープン間もない頃から「ローカル化されている」という現象が起こるんです。

キッチンが様々な得意ジャンルを持つ食のクリエイター集団の基地になっているように、フリーランスで活動する個人がここに拠点を持つことで、地域に根ざした経済圏を一緒につくっていこうとしているというところがミソですね。

そのために「映画だけではなく、地域の食や人、ものをフィーチャリングしたい」と長島さんは続けます。

アミーゴはカルチャーの配信基地だけど、配信するだけではなくて、みんなが関係性を持つきっかけの場になればいいと思っているんです。シェフが日替わりだと、「次は誰にときにこようかな」なんて楽しみも増えるよね。アミーゴキッチンもそんな場のひとつなんです。

続ける粘り強さを持つ

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30歳を機にシネマアミーゴをつくり、カルチャーの配信と”脱都市型ライフスタイル”の提案に取り組んできた長島さんが、この5年間で感じたことや学びは何だったのでしょうか?

実は、映画館としてオープンしたものの、最初はこんなに映画って人が集まらないものかってくらい運営は苦しかったですね(笑)

運転資金も日々下り坂…それだけでなく、映画の配給会社の敷居の高さにも長島さんは驚いたそうです。

自分の知り合いや、そのまた知り合いなどの手も借りながら、ちょっとづつ映画を配給してもらってましたね。最近では取引できる配給会社さんも増えて、いろんな番組構成ができるようになってきたけど、立ち上げ当初は本当に大変だった。

立ち上げから3年ほどは、モデルとミュージシャンの仕事をしながら、配給会社とのやりとり、アミーゴで開催する様々なイベントの調整、夜のバーテンダーをすべてひとりでこなし、「シネマアミーゴに貼りついた状態だった」と長島さん。

そこまでしても、アミーゴを続けられたのは「30歳から始めることは、続けようと決めていた」という強い決心にありました。

18歳から26歳まで、葉山にある海の家のバーの運営に関わっていたし、音楽もモデルの仕事もあった。ある意味フットワーク軽く、興味のあることはなんでもやってきましたが、そろそろひとつのことを続けたいと思ったんです。

都市に人が集中しすぎることでアンバランスが起きているこの時代の流れで、このコンセプトは間違いないと思っているので、続けていれば本物になる。まだまだここで仕掛けたいことは山ほどありますし、5年続けてやっと認められて、動きはじめた感じです。

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非日常に浸ることのできる空間づくりも長島さんのならではの仕事。

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シネマアミーゴという映画館をつくろうと思いついて、形になるまで4ヶ月。アイデアや自分の中のコンセプトに”芯”さえあれば、動いてしまった方が話は早い。たいていのことは覚悟を決めれば形にする所まではなんとかなると僕は思います。継続は忍耐ですね(笑)

苦しいときはこれからもあるだろうけど、シネマアミーゴで生まれた出会いや瞬間とか意味あるものが生み出せている感覚があるから、やってこれています。

決して順風満帆ではないスタートでしたが、今や逗子ではなくてはならないランドマーク的存在となったシネマアミーゴ。今ではその発想を参考にしようと、視察にくる人たちも増えています。

逗子という街や映画館つくりに興味がわいたら、シネマアミーゴを訪れてみませんか? あなたのほしい未来につながるヒントが、きっと何かあるはずです。
 
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