市民による自然エネルギー100%の未来をつくること。「グリーンタートルズ」は、そんな壮大なビジョンを胸に、千葉県を中心に自然エネルギーの普及活動を行っています。
その活動は多岐にわたっていて、なかなか全貌が捉えきれないほど。たとえば、20W革命と称して独立型太陽光体験教室を開いてみたり、環境イベントでソーラー発電での音響を担当してみたり、農地にソーラーパネルを設置し、農業と発電を同時に行うソーラーシェアリングをベースにした市民出資発電所をプロデュースしてみたり。
この多彩かつユニークな活動をしているグリーンタートルズの中心人物が、“ガッシーさん”こと、東光弘さんです。
東さんってどんな人? グリーンタートルズってどんな活動をしている団体? ガッシーさんに、千葉で着々と進行している自然エネルギーへの取り組みについて聞いてみました!
1990年、これからエコロジーがジャーナリズムのテーマになると思った
この地球上に生きるすべての人にとって、とても重要な問題、それがエネルギーです。
日本でもとくに、3.11が起きてからというもの、エネルギーについて無関心ではいられなくなった人も多いのではないでしょうか。
「自分が使っているエネルギーのことを知っておきたい」「選ぶことができるなら環境にやさしいエネルギーを選びたい」「どうせなら自分で使うエネルギーを自分でつくってしまいたい」。そんなふうに考える人もどんどん増えてきています。
でも、エネルギーって、なんだか難しそう。テーマとしても、広くて、深そうなので、そもそもどうやって取り組んでいいかがよくわかりません。
現在、千葉を拠点に、自然エネルギーの普及活動に取り組んでいるガッシーさんこと東光弘さんも、若かりし頃は、似たような課題に直面。そのなかで試行錯誤を繰り返しながら、一歩ずつ、前に進んでいるのだそうです。
いまから30年くらい前。僕が大学生だった頃、僕は新聞社や出版社に入りたいと思っていました。当時はフォトジャーナリストに憧れていまして。
と語るガッシーさん。「時代の流れから見ると、そこに飛びこむのには遅すぎた」といいます。
僕らの世代が取り組むべきことはなんだろう。そう考えたときに、これからはエコロジーだなって思ったんですよ。時代は1990年頃で、バブルの末期でした。でも、それはそれで早すぎたテーマだったみたいで。
新聞社や出版社の面接を何社も受ける中で、しばらく環境問題は取り上げられないなと早々に気づいてしまいました。そこでモノの流れを一つのメディアと捉えて流通業界に就職することにしたんですよ。
当時、環境に負荷を与えているのは流通業でした。だから、業界に入ることで直接環境問題の改善に取り組もうと考えたのです。
ソーラーシェアリングの様子
熱血サラリーマンとしてしゃにむに働きはじめたガッシーさんでしたが、会社は9ヵ月で退職。
結論ありきの会議や付き合いのカラオケなどがどうも体質がなじまなくて。それでフリーとして生きていこうと決心して、できたばかりの「GAIA」という有機八百屋に飛び込みました。
店舗をメディアとして捉えて、思いを持ったメーカーさんや農家さんの商品を扱うことで、環境問題に取り組もうと思ったのです。
日本が、東京が元気になるには、地方の盛り上がりが必要
ガッシーさんがそうやってエコロジーをテーマにした有機八百屋「GAIA」に飛び込んだのは25才のとき。コンセプトに共感を集めた「GAIA」は売り上げも上がり、ガッシーさんは32才のころまで、GAIAの運営に携わることになりました。
有機八百屋「GAIA」
GAIAはメディアにも多く取り上げられるようになり、それはそれでよかったのですが、自分達のお店で環境に良い商品を売るだけではなく、もっと全国のエコロジカルなお店と関係を深め、全体の扱い高を増やすことで、さらにエコロジカルな商品の開発やメーカーのサポートをしたいと思うようになりました。
そこで、メーカーとのつながりを深め、地域の生産者と消費者をより深く開拓していく「GAIA Marketing」という卸業も立ち上げたのです。そして、環境的にすばらしい背景を持った商品を店に置いてもらうよう、たくさんの小売店にどんどん働きかけたのです。
商品を扱ってほしいと思っていた400件ほどの店を直接訪ねて、ときには商品を置く棚を店ごとにつくるなどしながら、販路を広げていきました。
そんな中、自分でも地方で小さなお店をやってみないと全体のことが見えないと気づき、GAIAの直営2号店として「Earth Market」をオープン。GAIAが軌道に乗っていただけに「Earth Market」もすんなりうまくいくだろうと思っていたガッシーさん。
ところが、そちらはなかなか売上があがりません。そこで、ガッシーさんは本腰を入れるためにGAIAを離れて、別法人「Earth Market Place」設立へ。
「Earth Market Place」
いろんなお店をまわっていて気がついたのは、オーガニックな商品に関心のある気持ちのいい店は、なぜか商売がうまくいっていないところが多かったということ。
駅から遠い場所に店を構えているとか、うまく商品の説明ができていないとか、あまり商売が上手じゃない。
でも、僕は思っていたんですよね。地方が元気になるには、東京が健康(健全)になる必要があって、東京が健康(健全)になるには、地方の元気があってからこそなんです。だから、まずは地方から地道に取り組んだのです。
自然エネルギーの大切さを謳ってきたけど、間に合わなかった
GAIA、GAIA Marketing、Earth Market Placeといった活動を通じて、環境に配慮した生産物をつくっている農家や、エコロジーに関心の高い小売店とのパイプをどんどん強めていったガッシーさん。
Earth Market Placeの次の展開として、取り扱い商品を提供するオーガニックカフェの運営をスタートします。
オーガニックカフェ「カフェアース」
2002年、35才の頃からは、それまで培った人脈などが活かした「アースデイちば」もスタートさせました。
環境問題に取り組んでいると、やっぱり気がつくのは、ひとりで何かをしようとしてもどうにもならないということです。だから、僕がつながっている人たち同士がつながりながら、さらに多くの人を呼び込める活動を目指しました。
「アースデイちば」の様子
開催当初から「30回の開催」を宣言してはじまった「アースデイちば」。そんなふうにして、じわじわとエコロジーの大切さ伝えてきたガッシーさんでしたが、2011年3月11日、東日本大震災が発生。福島第一原発の事故が起きてしまいました。
NPOグリーンタートルズのロゴマーク
僕の活動では間に合わなかったということですね。有機農業をやっている農家さんなどは、基本的に原発に反対です。わたしもそのスタンスで活動してきました。だからショックでしたよね。でも、この3.11をきっかけに、僕の活動は本格的にエネルギーの問題にシフトすることになりました。
もともと、エコロジーに取り組もうと思ったとき、ふたつのテーマがあったんです。ひとつは「食」、もうひとつは「エネルギー」です。エネルギーは大きすぎるし、活動を続けるうえでの収益を生みにくい。
そんな理由から、「食」に比重を置いた活動になっていたのですが、それ以降は自然エネルギーが重点的に。そして2012年9月、自然エネルギー100%の未来を目指すNPOグリーンタートルズが誕生します。
自然エネルギーに取り組む活動はおもしろいということを伝えたい
グリーンタートルズの活動領域はとても広くて、展開もとても自由に見えます。たとえば、市民発電所の企画運営、出張ソーラーPAの運営、20W革命の実施、環境映画『シェーナウの想い』の窓口、講演活動など、多彩なアプローチを見せています。
ほかにもいろいろな活動をしていますが、自分の中では、やっていることは結局ひとつ。それは自然エネルギーで100%の電力供給が実現した社会をつくることです。
いろんな活動をやっているのは、間口を広げて、多様なアプローチを可能にしたいから。まずは参加してもらって、そして、自然エネルギーを楽しんでもらいたい。
食の問題であっても、エネルギーの問題であっても、掘り下げていくととても深くてマニアックになってしまいます。そうならないようにしたいと思ったんです。
グリーンタートルズは多様な活動を展開していますが、そのアプローチの方法として心がけているのが「楽しいということを伝える」ことだそうです。
自然エネルギーは、マニアックな知識が必要な領域に見られがち。そうじゃなくって、まずは楽しいんだよということを伝えるというアプローチが大切だと痛感したんですよね。
環境問題を扱おうとすると、どうしてもイデオロギー的なものが強く出てしまって、とっつきにくくなってしまいます。でも、そうやって敬遠されがちな状況が続くなかで、3.11は起きました。それで気がついたのです。
まずは、自然エネルギーをたくさんの人に好きになってもらうところからはじめなくちゃって。
環境問題はひとりでは取り組めない。みんなでやりましょう!
そんなグリーンタートルズがいま力を入れている取り組みのひとつが、ソーラーシェアリングです。農地で作物を育てながら、耕作地の上にソーラーパネルを設置して太陽光発電を実施。太陽の光を、エネルギーと食で分け合う仕組みがソーラーシェアリングです。
グリーンタートルズでは、このソーラーシェアリングという発想を造り出したCHO技術研究所の長嶋彬さんと一緒に、普及活動に取り組んでいます。
2014年5月千葉県大網白里市では、発電可能量50kWのソーラーシェアリングをプロデュースしました。面積は一反ぶんくらいの広さがあり、なかなか壮観ですよ。
長嶋さんにご指導いただきながら、完全なセルフビルドでつくりました。学生さんや会社勤めの方などにも手伝っていただきながらね。
触って、つくって、試して、という過程で、自然エネルギーについてのノウハウをどんどん蓄積していくグリーンタートルズ。その流れから、2014年7月には6つの環境団体の有志を集めた市民エネルギー千葉の会も設立。ソーラーシェアリングの普及に本格的に取り組み始めています。
市民エネルギー千葉では、ソーラーシェアリングを普及させるとともに、パネルオーナー制度も導入しています。
2014年9月に完成した35kwのソーラーシェアリング市民発電所ではパネルを一枚から販売して、そこから資金調達を行っています。それを発展させて、セル単位でオーナーになってもらえるようになるといいですね。
たとえば、首相官邸前に原発反対の抗議に行くとしますよね。それだって電車賃がかかるわけじゃないですから。だったら、デモに行く気分で、ソーラーパネルのオーナーになったらどうかなって思うんですよね。
森を守る「立ち木トラスト」のエネルギー版です。環境問題はひとりで取り組もうとしてもどうしていいかわかりません。だから、みんなで取り組みたい。そのための窓口をつくっていきたいんですよね。
未来を生きる子どもたちに何を残すのか。僕たちにはその責任があると思う
市民の手で発電を行う市民発電所を増やしていくためには「3つの重要な要素があると思っています」とガッシーさん。
そのひとつは資金調達、もうひとつは技術的なサポート、そして最後のひとつが物語です。そして3つ目の物語こそが、もっとも重要な要素なんですよね。
なぜその土地で自然エネルギーをやりたいのか、どういう人たちがやるのかが明確になっていないと本当の意味での地域の好循環は生まれません。
自然エネルギーが普及することは歓迎したいけれど、自然エネルギーであればなんだっていい、というわけでもない、と、ガッシーさんは話します。
植民地型ソーラーという言葉があります。これは、よその人がやってきて、その土地で自然エネルギーをつくりはじめることを言うんですね。そこで発電された売電収入などは全部外部に出ていってしまいます。それでは意味がありません。
ちゃんとその土地に暮らす人がやりたいと思って、そして、自分たちの権利と責任において自然エネルギーをつくらないとね。
グリーンタートルズの活動規模は「まだまだ小さなもの」というガッシーさん。でも、たとえばソーラーシェアリングでソーラーパネルを設置しているときに、こんなふうに考えているのだそうです。
つくっている自然エネルギーはまだ微量なものですが、それ以上に僕たちは、未来のDNAをつくる作業をしていると考えています。自分たちが使うエネルギーは、こんなふうに、自分たちでつくっていくんだという気持ち。これをDNAとして紡ぎながら、広めていきたいですね。
グリーンタートルズの目標は、すべてのエネルギーを自然エネルギーでまかなえる未来をつくること。
逆算しているんですよね。自分が死ぬまでに、国内の電力部門100%を自然エネルギーにするために、いま、何をしなきゃいかねいかってことを。やっぱり責任あるから。
僕には子どもがいませんが、その代わりに、世界中の子どもたちのことを、自分の子どものように考えています。まあ、親戚のおじさんみたいな感じかな(笑)。その子どもたちにどんな未来を残してあげたいのか。それについて、本気で考えているんですよね。
大学生の頃から、ずっと向き合ってきたエコロジーの問題。有機野菜を扱う農家とつながり、有機野菜を扱いたいと思う販売店とつながり、自然エネルギーを自分の手でつくりたいという人とつながり、自然エネルギーを広げていきたいという人とつながり……。
「環境問題はひとりでは取り組めない」という言葉どおり、その活動は仲間を増やしながら確実に広がってきています。
確実に千葉の土壌になじんでいくグリーンタートルズのDNA。100%自然エネルギーの未来に向かって、みなさんもつながってみませんか?