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たった20枚の画像で世界中に友人をつくる。東京生まれのプレゼンイベント「PechaKucha Night」が110カ国787都市に伝播中!

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(c)Michael Holmes

20秒ごとに切り替わる20枚の画像を見せながら、アイデアをプレゼンする「PechaKucha(ペチャクチャ)」をご存知ですか?

このプレゼン・フォーマットは2003年に東京で“発明”され、クリエイティブなテーマに関心があれば誰でも発表・参加できるイベント「PechaKucha Night」とともに、今では世界110カ国787都市に拡大中。

ほとんどのイベントが「私もやりたい!」と手を挙げた、地域のオーガナイザーによるボランティア活動だというから驚きです。
 
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東京六本木のイベントスペース「Super Deluxe」が「PechaKucha Night」発祥の場所。毎月最終水曜日の夜(8月と12月を除く)スタート、美味しいビールを片手に個性豊かなゲストのプレゼンを楽しむことができる。(c)Michael Holmes

「PechaKucha Night」の会場となっているのは、開放的なビーチ、使われなくなった刑務所、街の中心にある教会、小さなカフェから数千人が入るイベントホールなど、さまざまです。

アジア、ヨーロッパ、アメリカやアフリカなど、世界中のあちこちで開催されています。今夜も地球のどこかで、20秒×20枚のプレゼンが展開されているなんて……なんだかちょっとロマンチックですね。
 
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PechaKucha Night Catania(イタリア カターニア)

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PechaKucha Night Quito(エクアドル キト)

それにしてもなぜ、PechaKuchaは世界中に拡がっているんでしょう? そして、その目的は何なのでしょうか? いろいろ疑問がつきなかったので、創始者である建築家ユニット「クライン ダイサム アーキテクツ」のマーク・ダイサムさんと、アストリッド・クラインさんにお話を伺ってみました!
 

「代官山 蔦屋書店」などの建築デザインでも知られている、建築家ユニット「クライン ダイサム アーキテクツ」。1998年に来日し、東京を拠点に活動する。イギリス出身のマーク・ダイサム(左)と、イタリア出身のアストリッド・クライン(右)で結成

建築家が仕掛けた「アイデアをシェアする」仕組み

二人がPechaKucha Nightを思いついたのは、彼らがディレクターを務める六本木のスペース「Super Deluxe」の、平日の夜を盛り上げるアイデアを考えていたときでした。

アストリッドさん ちょうど私たちはその頃、どんどん忙しくなってきて、友人や仲間と会えなくなっていた時期。「最近なにやってるの?」「マイブームは?」なんて、軽い共有や情報交換がしたかったんです。

しかも若い建築家やクリエイターには発表の場がない。だったら、美味しいお酒を飲みながら、そういう話を皆にできる場をつくればいいと思ったんです。

マークさん 事務所の中では、スタッフで定例の共有会をやっていたんですよ。大型モニターに自分が手がけている建築現場の写真や、週末に見つけた面白い場所、最近の関心事などを映して語るんです。それを拡げた感じだね。

アストリッドさん そうそう。でも、マークみたいにおしゃべりなクリエイターにマイクを渡したらどんどん長くなるから(笑)

そこで20枚のスライドを20秒ずつ切り替えるというフォーマットができました。

こうして「20×20」がコンセプトのPechaKuchaが誕生しました。初回は、2003年の2月20日20:20スタートという、ナンバーにこだわるあたりも、建築家らしい茶目っ気がありますね。

下手なほうがチャーミング!「20×20」プレゼンの秘密

アストリッドさん いいアイデアや、クリエイティブな情熱を持っているのが、有名な人とは限らないんです。それが面白いし、それこそPechaKuchaがこんなに拡がった理由じゃないかな。

PechaKucha Nightに登場するスピーカーは、プロのクリエイターばかりではありません。時には子どもや主婦などアマチュアのスピーカーも登場します。それぞれが最近手掛けた仕事のこと、趣味や旅行の話といった思い思いの内容をシェアしています。

そんな多様性が生まれる秘密は、20秒×20枚のPechaKuchaフォーマットにあるようです。

アストリッドさん イマドキのプレゼンは、ちょっとビジュアルの表示が速すぎるかなと思います。リッチなイメージが高速で展開されることでインプット量が多すぎて、聞いている側に考える暇がない。

その点、PechaKuchaの20秒ずつ表示というルールはかなりゆっくりでリズムがとりづらいんです。だからこそ、喋るのが下手でも間違っても、そんなに気にならないし、逆にちょっとした “間”にコミュニケーションが生まれたり、人柄がにじみ出たりします。そのほうがチャーミングじゃないかな。

そしてチャーミングなほうが、後からみんなも話しかけやすいでしょう?

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20秒×20枚のプレゼンの間にはちょっと不思議な間があいたり、その合間に呼掛けがはさまったり。

オーディエンスとスピーカーをフラットな関係に。スターによる鮮やかなプレゼンショーではなく、コラボレーションや新しい友達をつくること、自分も話してみたいと思える場づくりを大事にしているのが、PechaKucha Nightが愛される理由のようです。

たしかに、モバイル端末やデジタルカメラで簡単に写真を撮れる時代、20枚の画像さえあれば誰でも発表できますね。そして、ビジュアル重視の資料ということは、言語を越えたコミュニケーションが生まれる大事な条件でもあります。

「私の住む街でもやりたい!」が世界中に伝播した

それにしても、この仕組みが世界787都市に広まった理由は何でしょう? 日本国内で拡がってから世界へ……という順番かと思いきや、2番目の拠点となったのは、スイスのベルンでした。

きっかけは、マークさんとアストリッドさんが本業とする建築家として講演に呼ばれたこと。PechaKuchaの話を聞いたオーディエンスから「私もやりたい」という声があがったそうです。

こうして、最初の数年間は、東京だけで開催されていたPechaKucha Nightの第二子が、スイスのベルンに生まれ、その後アメリカのロサンゼルスや、オランダのロッテルダムなど、マークさんとアストリッドさんの建築家仲間や友人が帰国した先で続々と広まっていきました。
 
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PechaKucha Night Ferrol(スペイン フェロル)

例えば現在、スペイン国内で30都市、スウェーデンで25都市、日本でも25都市。ハワイやニュージーランド、アフリカ、中国などのエリアにも。ふと2014年9月のイベントを調べてみたら、世界103ヶ所でPechaKucha Nightが開催されている日程もあります。すごい!
 

「握手」方式の信頼関係で拡がるネットワーク

では、「自分もPechaKucha Nightをやってみたい!」と思ったとき、どうすればいいのでしょう? 実際にオーガナイザーになるには、ちょっとしたルールがあるようです。

まず、最初は東京にあるPechaKucha本部にメールをいれる必要があります。その後、条件を共有したり、メールでコミュニケーションしたり、なんでイベントを開催したいのかなどを聞いてやりとりして、肌感覚で一緒にやれるかどうかを検討するそう。

アストリッドさん PechaKucha Nightの開催は、1都市に1カ所と決めています。地域のクリエイティブな人のコミュニティを築くのが目的だから、分散しては駄目なんですね。

そして1年に最低4回開催すること、テーマがクリエイティブであること、プレゼンはビジュアルを重視して言葉だけの資料や動画はNG、宣伝だけの目的もだめ。それに、オンラインプラットフォームを共有すること。

そうしたルールを守ってオーガナイザーになると、「ハンドシェイクアグリーメント」という、“握手”をかたどった書類を交わします。握手のイラストのところにサインすることで、契約というよりも、「あなたを信頼するよ」と誓いあう意味を込めているのです。

マークさん たとえば、初めてイベントを開催するときには必ずビデオメッセージを送ったりと、各地域のオーガナイザーと東京のPechakucha本部とのやりとりは丁寧に進めるようにしています。やはり細やかなコミュニケーションが大事ですね。

世界中のクリエイティブコミュニティを大事にするていねいなメンテナンスがこうやって仲間を拡げる秘訣なんですね。
 

写真は「東京デザイナーズウィーク」で開催した「PechaKucha Night」の様子。

デジタル to フィジカルの時代

もうひとつ、リアルイベントとともに重要なのが、オンラインプラットフォームです。

PechaKucha Nightの公式Webサイトには、各地域での開催情報はもちろんのこと、今までのプレゼンがビジュアルと音声、そしてプレゼンテーターのプロフィールとともに整えられてアーカイブされています。どんな人がどの都市で、どんなアイデアをシェアしたのか? そんな情報にアクセスできるとてもリッチなウェブサイトになっています。

これも東京の本部チームがプラットフォームとルールを用意し、各地域のオーガナイザーがそれぞれログインして運営しているそう。
 

「PechaKucha Night」公式サイトには世界各地のプレゼンテーションがアーカイブされている

アストリッドさん 最初はプレゼンをデータ化したくなかったんです。なぜなら、リアルな出会いが一番だから。実際の場所に来て欲しいし、人とつながってほしい。でもね、あんまりにもプレゼンが面白いので、残さないのはもったいないと思いました!

マークさん デジタルアーカイブをはじめて改めて思うのは、PechaKuchaのフォーマットはとてもアーカイブしやすい、タイムレスな形式ということ。

動画は演出も編集もコストがすごくかかるし、時代によってフォーマットも変わってしまいますよね。だけど20画像1セットの方式なら、とってもシンプル。

すでに、3000点のプレゼンがアーカイブされているので、6万枚のイメージがデジタルにアップされていることになります。

こうやってオンライン上でもコミュニティが可視化されたことで、世界中のアイデアに触れられることはもちろん、「PechaKuchaツーリズム」のような現象も生まれつつあるといいます。

たとえば、はじめて訪れる場所。友人がいない街でも、PechaKuchaのサイトでイベントの開催場所や日時を調べることができます。そこにどんなクリエイターや話題が存在するのかがわかるし、イベント日にあわせて訪れると、クリエイティブな人々と交流することができます。

実際に、クリエイターが自分のポートフォリオ的なプレゼンを携えて、各地のPechaKucha Nightを行脚して仕事を探したりもしているとか。
 

世界のどこで今夜どんな「PechaKucha Night」が開催されるか?もWebサイトを見ればわかる。

建築事務所としての「クライン ダイサム アーキテクツ」にとって、PechaKucha Nightはあくまでボランティア的位置づけ。

取材を申し込んだ日も、建築プロジェクトの打合せで多忙を極めていた人気建築家のおふたりですが、それでもパワフルにPechaKuchaコミュニティをひろげている情熱はどこにあるのでしょうか?

マークさん 僕たちがやりたいのは、リアルだけでもデジタルだけでもなく、「デジタルtoフィジカル」のアプローチです。それってきっと、これからとても大事なこと。そしてそのコミュニティをもう10年以上も続けていられていることがひとつの価値だと思っています。

「ことづくり」に注力しても、意外と抜けてしまうのが「ことを残す」活動。リアルな場で生まれている価値をどんな形で記録し、残していくのか。その視点と地道なアーカイブ活動が、PechaKuchaコミュニティのつながりを一層強くしているのかもしれません。

創始者とボランティアチームのクリエイティブに対する情熱はもちろん、リアルイベントもデジタルプラットフォームも同じ「場」としてデザインしてしまう。それも建築家らしいクリエイティビティのように感じました。

2020年は「PechaKuchaオリンピックス」をひらきたい!

最後にこれからの展開について聞いてみました。

アストリッドさん もっともっと、クリエイティブの領域を拡げていきたいですね。例えばプレゼンターに、パン職人、テーラー、染色職人など、ふだんなかなか表舞台にでてこないクリエイティブな人達にどんどん参加してほしいです。

マークさん そうそう、あとPechaKucha的ナンバーである「2020年」に開催される東京オリンピックにあわせて、「PechaKuchaオリンピックス」をやるのも夢! 世界中の色々な都市から、PechaKucha発祥の土地である東京に人が集ってクリエイティブなプレゼンと交流を築きたいです。

アストリッドさん どんな小さな場所でも、個人の活動でも、アイデアを共有すれば世界とつながることができる。ひとりじゃないということにみんな感動してくれている。こんなに拡げるつもりは、元々はなかったけれど、ありがとうと言われると続けないわけにはいかないですね!

場をつくる、コミュニティをつくる。言葉にするのは簡単ですが、継続したり拡げていくのはすごく難しいこと。それを10年以上、東京から世界110カ国をつなげて展開しているPechaKucha Nightから、学ぶべきことは多そうですね。

さあ、今週もどこかの街でPechaKucha Nightが開催されているはずです。20枚の画像で、あなたも世界とつながってみませんか?

(Text: 中田一会)