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若者が定着しないとはもう言わせない!大学生がはじめるエネルギーを通じた多摩のまちづくり「次世代リーダー育成プログラム」

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多摩次世代リーダー育成プログラムに参加した学生と、地域の大人たち。恵泉女学園大学の屋上に多摩電力が設置したパネルを前に

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

これまで自然エネルギーの利用といえば、豊かな自然が広がる地方が盛んでした。でも、3.11の震災をきっかけに、「原発に頼らない暮らしをしたい」という思いから、エネルギーを消費するばかりだった都会でも発電しようというチャレンジが始まっています。

その一つ、「多摩電力合同会社」は、こちらの記事でも紹介しましたが、東京のベッドタウンである多摩市を拠点に活動するご当地電力です。これまで、大学や有料老人ホーム、そして市の管理する小学校の屋根などに太陽光パネルを設置してきました。

でも、今回は発電プロジェクトの話ではありません。この多摩電力の母体となった「多摩循環型エネルギー協議会(多摩エネ協)」が主催して、大学生を巻き込んで進めているユニークなまちづくりについて紹介します。そこには、都市部のエネルギープロジェクトならではのアイデアと、地域を盛り上げる可能性が発見できました。

どうやって地域と若者をつなげるのか?

ご当地電力は、その地域に暮らす人たちが主体となってエネルギーに関わる活動です。

そこで自分の地域で自然エネルギーを事業にしていこうとする場合、太陽光にしても風力にしても20年くらいの期間で、どうするかを考えていく必要があります。それだけに、若者が興味を持ったり、参加していくことが欠かせません。

ところが、エネルギーをテーマにした集まりでは、その分野に強い関心を持っている理系の年長者ばかりというケースが目立ちます。そういう場では若者が興味を持っても入りにくく、たとえ入ってきてもなかなか自由に意見が言える雰囲気ではないのです。

多摩電力と多摩エネ協でも、設立当初は60代や70代のいわゆる「団塊の世代」が中心になっていました。仕事をリタイアした人が地域のために頑張る事自体は素晴らしいのですが、一方でいろいろな世代が参加していかなければ、地域みんなのプロジェクトにはなっていきません。そこが課題のひとつでした。

「若者が定着しない」という課題は、「たまでん」だけでなく多摩地域そのものの問題でもあります。多摩市には大学がいくつもあって、若者自体は町にあふれています。でもほとんどの学生は学校に来ているだけで、地域との接点はありません。そして卒業後は、たいていは多摩を出て行ってしまいます。

そこで多摩電力のスタッフになった30代の山川勇一郎さんは、エネルギーを切り口にしながら、若者と地域をつなげる企画を立ち上げました。それが、「次世代リーダー育成プログラム」です。
 
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多摩電力の山川勇一郎さん

多摩市で生まれ育った勇一郎さんは、多摩電力ができるまで、富士山麓にある自然学校でプロの自然ガイドをしていました。でも3・11の震災が起こったことで、エネルギー問題に関心を持つようになります。

そんなとき、2012年末に父親の山川陽一さんたちが、地元で多摩電力を立ち上げたことを知ります。勇一郎さんは「関わるなら初めからの方が良い」と一大決心をして、家族を連れて多摩に戻ることになったのです。

その勇一郎さんが目をつけたのが、単に発電するだけではなく、人材育成を通じて町を盛り上げる事でした。

山川さん 多摩には若者もいるのですが、エネルギーどころか、まちづくりに関わる人は少ないのです。大学も行政も、若者が卒業後に地域に残ったり、残りたいと思うような効果的な取り組みができていないように見えました。これをどのようにつなげようかと考えました。

試行錯誤を重ねて、子どもたちに伝える

2013年の春、地域社会のリーダーになれる人材を育てることを掲げて参加者の募集を始めると、8大学から18人の学生が集まりました。幅広く集めるため、あえてエネルギーというテーマには関心のない学生も受け入れました。

期間は1年で、プログラムの前半は、ゲストを迎えた講義やディスカッションなどで学びます。後半は、3〜4人程度のグループをつくって、エネルギーに関する企画を自分たちで考え、地域の人たちの協力を得ながら企画を実行します。その過程では、経験豊富な大人たちが学生をサポートしました。
 
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地域の大人たちと対話を重ねる

企画は「地域」と「エネルギー」に関連があれば基本的に何をやっても良いことになっています。

しかし何かをやり遂げたことのある学生は少なく、はじめての経験ばかりだったこともあり、苦戦の連続でした。そして、最後にお世話になった地域の人たちを前に、1年間で自分たちが学んできたことを発表しました。いわば卒業発表のようなものです。

参加者の一人、多摩大学3年の許田健斗(きょだけんと)さんは、大学生になって初めて多摩にやってきました。特にエネルギーに興味があったわけではありませんが、信頼する大学の先生に誘われて、プログラムに参加しました。

もう一人、大学院生の太刀川(たちかわ)みなみさんは、環境NPOのインターンを経験するなど、もともとエネルギーへの関心が高い学生でした。しかし、地域との具体的なつながりは持っていませんでした。

健斗さんとみなみさんは、もう一人のメンバーと3人でチームを組み、親子を対象に、地域とエネルギーを身近に感じてもらうというテーマで発表を準備します。「子どもたちにエネルギーの事を伝えたいというぼく自身が、子どもと同じくらいわかっていなかったので大変でした」と、健斗さんは笑います。
 
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右:健斗さん、中央:みなみさん

何を伝えたいのか、どうしたら伝わるのかを何度も議論し、時には大人たちから厳しい意見をもらいながら、企画を練り直しました。

最終的にはエネルギーは小学生には見えにくいということもあって、「野菜」で伝えることを考えつきます。地域産の野菜と遠くから運ばれてくる野菜は、どれだけ使われるエネルギーや環境への影響が違うか、ということを考えるカードゲームを制作することになったのです。

また、地元で野菜をつくっている方をゲストに呼び、話をしてもらうことも決まりました。
 
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当日参加した家族とともに

そして、数組の家族を対象に1日エネルギー教室が開催されます。小学校低学年の子どもには少し難しい話だったことや、時間管理がきちんとできなかったこともあり、メンバーにとっては反省点の多い一日になりました。

それでも、イベントの数日後に参加したお母さんから届いたメールのことを、みなみさんが話してくれました。

みなみさん メールには、あの後から子どもが「これはどこでとれた野菜なの?」って聞くようになったり、環境問題の話をするようになったと書いてありました。この反応はすごく嬉しかったです。

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最後には、子どもたちが自分にできることを発表しました。

地域の新しいコミュニケーションの場づくり

他のグループでは、小学校でソーラークッカーで調理をする出前授業をやったり、カフェを借り切ってエネルギーをテーマにしたライブイベントをプロデュースする発表もありました。大変な苦労をしながら、自分たちのアイデアを実現まで持って行った学生たちは、この経験をその後の活動につなげています。
 
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ソーラークッカーの出前教室では、ポップコーンをはじけさせた

みなみさんは、この活動をきっかけに福島県が募集した自然エネルギーを活かすアイデアコンテストに応募。42件の応募作品の中で、みごと最優秀賞に選ばれました。

2014年の8月には、そこで得た賞金を使い、福島の自然エネルギーの取り組みを大学生が見学しに行くツアーを立案して、実施しました。みなみさんは、次世代リーダープログラムでの経験が、コンテストにも活きたと考えています。

みなみさん 私はそれまで頭でっかちだったので、次世代リーダープログラムで地域の人と触れ合いながら実のある体験ができたことは、今後に向けて大きかったと思います。

みなみさんは今後、環境教育の分野で仕事をしていきたいと語ります。

健斗さんは今、大学に通いながら次世代リーダープログラム2期生の事務局スタッフとして動いています。彼はこのプログラムを通じて、多摩で暮らしたいと思うようになったと語ります。

健斗さん 地域に愛着を持つ事ができました。多摩でまちづくりをしている人たちは、みんな熱い思いで取り組んでいて、ぼくもこういう大人になりたいなぁと思ったんです。それで大学の卒業後も多摩に住んで、就職しようと考えています。

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カフェを借りてライブイベントを実施

プログラムをつくった勇一郎さんは、1期生の活躍を見て手応えを感じています。

山川さん 少々失敗しても学生たちが頑張っていると、地域の方がすごく応援してくれるんですよ。コミュニティは、学生を中心に盛り上がっていくんですね。

1期はぼくたちも手探りでしたが、2期はエネルギーや地域に関心ある学生が集まっているので、もっと多摩電力の事業そのものにも関わってもらう予定です。

このプログラムを継続して、地域の新しいコミュニケーションの場にしていければいいと思います。

こうしたプログラムを体験した学生が、必ずしも多摩に住んだり、エネルギーを仕事にするわけではありません。それでも彼らがいずれ自分の地域に目を向け、地域やエネルギーについて取り組むようになれば、意義は大きいと思います。

多摩の取り組みの面白さは、若者たちにとっていい経験になっているというだけでなく、関わっている地域の大人たちがすごく楽しそうにしているところにあります。エネルギーを切り口にしながら、いろいろな世代が関わって地域を盛り上げる。そんなコミュニティの新しい形が、多摩に生まれてきているのです。

(Text: 高橋真樹)
 
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高橋真樹(たかはしまさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ〜楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう〜地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)など多数。