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とれたての、ご当地「電力」はいかがですか?市民でつくるみんなの太陽光発電所「非営利型 株式会社 宝塚すみれ発電」

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

ご当地野菜のように、地元のご当地「電力」をつくれるとすれば、みなさんは出資したいと思いますか?兵庫県宝塚市に2カ所の太陽光発電所を持つ「非営利型株式会社宝塚すみれ発電」は宝塚市民の力を集めてつくられた市民発電会社。宝塚「銘柄」の電力を2012年の12月からつくり始めました。

宝塚市では2012年に「新エネルギー推進課」が発足し、持続可能なまちづくりのための「宝塚市再生可能エネルギーの利用の推進に関する基本条例」が2014年6月に制定されました。

全国でも珍しい、新エネルギー推進課独自のFacebookページも公開されています。こうした先進的な取り組みが進んだ理由のひとつには、市民発電所「宝塚すみれ発電」の存在があります。発電所が稼働するまでの経緯や、活動の広がりを代表の井上保子さんと、西田光彦さんにうかがいました。

みんなの宝塚すみれ発電所

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大林寺の敷地をかりて設置された第2発電所。

「まず発電所を見に行きましょう!」と、車で案内して頂いたのが、2号発電所。大林寺というお寺の境内を抜けて山の小径を登っていくと、突然土地が拓け、地面いっぱいに繁ったクローバーの絨毯の上に2号発電所が現れました。

発電所のスペックは下記の通りで、342枚のソーラーパネルが設置されています。

設備費:18,000,000円
「経済性資産のための設定条件」としては、次の数値です。
1.年間平均予想発電量:52,668kWh
2.年間売電収入:2,106,720円+税(@40円/kWh+税)
※2012年7月から実施された全量固定価格買い取り制度を利用
3.借地代:120,000円/年
4.土地賃貸借契約期間:2013年11月~2033年10月(20年間)

発電量でいえば約15軒ほどの住宅の電力をまかなうことができます。

また、兵庫県の補助事業「県民まちなみ緑化事業」を利用して、敷地内の一部を緑化し、敷地内全体には防草対策としてクローバーが植えられています。
 
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「宝塚すみれ発電」の井上さん(左)と西田さん(右)。この日は天気がよく発電量も大きかったとか。

井上さん 私たちが2号発電所の設置場所を探しているときに、住職さんがそれならうちのお寺の敷地を貸しましょうと言ってくださってできた発電所です。

大林寺さんも太陽光発電を自前でやっておられるお寺さんなんですよ。私たちはこうした地元の人のつながりに支えられて事業ができています。

実は技術的な面を支える西田さんと出会ったのも偶然からでした。

井上さん すみれ発電設立のきっかけになるNPOのメンバーが西田さんの会社の近所に住んでいてね。毎日、買い物帰りに「太陽光発電」っていう看板がでているのを見ていたんですよ。それで、ちょっと話をきいてもらいにいきましょ!いこいこ!っとなって押し掛けて今に至ります(笑)。

西田さんは、エンジニアから独立して宝塚で太陽光発電の会社を起こしていました。市民発電にも関心があり、これからの時代は電力を自前でつくる方向が望ましいと考えてので、とんとん拍子で協業することになったのです。
 
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現在の事務所はもともと西田さんが経営されていた会社を利用したもの。

非営利型の株式会社って?

すみれ発電には「非営利型 株式会社」という法人名をつけています。これはどうしてでしょうか? NPOではなくて株式会社?そこにも井上さん、西田さんたちの想いがありました。

西田さん 私たちは賛同者から出資金を1口10万円で募って、10年後に1割の配当をつけて返金する仕組みを取っています。ですから、事前にそれまではいくら売電で利益が出ても、配当はないことを前提に出資してもらっています。

配当はすべて、この発電所の維持と運営の資金に充てさせてもらっています。そういったやり方をするときに、NPOの法人格は制度的に難しかったんですね。そもそもが営利目的ではなくて市民発電所を実践するのが目的だったので「非営利型株式会社」とつけているんです。

井上さん それでも10年定期預金したと思えば、いまの銀行よりはるかに利率のいい「預金」になるでしょ(笑)。

この想いに賛同した人たちは、自主的に発電所の草刈りを手伝うなど、市民発電に気楽に参加できることを楽しんでいる様子です。取材当日も偶然にNPOメンバーの喜多さんが事務所を訪ねてふらりと現れました。
 
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発電所の草刈りリーダーと紹介された喜多さんと電力談義。

喜多さん 僕はね、もう退職しているからできることだけ手伝うの。井上さんたち中核メンバーがしっかりしてるから、一緒に遊ばせてもらっています。面白がっています。

と語る喜多さんも、兵庫から東京まで電気自動車で往復するほどエネルギー問題については実践的だ。高速の充電ステーションを確認しながら12時間かけて東京に着いたそうです!

宝塚の女性たちのパワーに、行政も動く。

宝塚すみれ発電の母体は、30年以上前に市民が中心になって設立された「原発の危険性を考える宝塚の会」です。

エネルギーの問題について長らく取り組んでいましたが、電力会社に説明を求めても毎度言い返される言葉は同じでした。「原発がなくなれば江戸時代に戻る」「代替エネルギーがあればもってこい」「太陽光発電なんてコストがかかるものは実用的ではない」といったものだったと語る井上さん。

それが、福島の原発事故をきっかけにして流れが変わり始めます。2011年に市議会に「再生可能エネルギーでまちづくりを」と請願を提出。2012年には「NPO法人 新エネルギーをすすめる宝塚の会(REPT)」が設立され、市民発電への動きが加速しました。

また、原発事故以前からも世論が再生可能エネルギーに注目し、世界的にも持続可能な社会づくりの必要を実感する時代になったのと、太陽光発電の技術が市民の手に届く価格と高性能を両立できるようになったことで、あとは市民発電に踏み出すタイミングがくるだけという状況でもありました。

井上さん 原発のことがあって、そのタイミングが来たと思いました。電力会社や行政にはずいぶん門前払いを受けてきました。

でも、不思議と発電を始めるときに彼らに対しての抵抗心はなかったんですよ。私らでもできるんやから、やろうよ!みんなでやったら面白いやん!そんな気持ちのほうが大きかったですね。

井上さんたちの行動はついに宝塚市までも動かしました。市役所に「新エネルギー推進課」が設置され、条例ができ、ともに同じ目標に向かって進める基盤が整ってきたのです。
 
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井上さん 行政窓口ができたのは画期的でした。そこから連携を深めていけるし、市民活動としても認められますからね。

ただ、全く新しい部署なので、当然行政の担当者より私たちの方が自然エネルギーについては何倍も詳しいんです。「どういう方針でやっていくの?!」「なにから始めるの?!」「どうするの?」って色々と問い詰めて、たいへん気の毒なことをしたなあと思います(笑)。

でもね。それだけ市民のエネルギーに対する認識が変えられるチャンスだったんです。やっと開いた希望の窓口でしたから。

市民発信と連動して始まった宝塚市の取り組みはユニークです。地方自治体が自然エネルギーの事業主になるのではなく、NPOや事業主、そして市民を結びつける役割を果たすことに徹底し、県、国からの補助金に頼らないモデルケースとして新しい可能性を示しました。

井上さん 私が宝塚市の「宝塚市再生可能エネルギーの利用の推進に関する基本条例」が素晴らしいと思うのは、きちんと市民と一緒に進めていくことを明示してくれたことです。

行政主導に頭ごなしに押し付けられるものではありません。また、他の自治体が真似できることを前提として制定されていることも素晴らしいです。真似するハードルは低くて、理念は高いんです。

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公共施設と市有地を活用した「市民発電所」を設置するため、事業者選定後の協議が整い、宝塚市・中川市長と株式会社宝塚すみれ発電・井上代表取締役との間で協定書の調印が行われました。

全国に、ご当地エネルギーの輪を広げたい。

井上さんは現在「全国ご当地エネルギー協会」の近畿地区幹事としても忙しく、全国を飛び回ってシンポジウムやプレゼンを行っています。

井上さん 野菜であれば、どこの誰がどんな育て方で栽培したかが判る時代になりました。電力も同じように、どこで誰がどのように発電したのかがわかるような時代になれば、エネルギーに対する見方、選択の仕方ももっと意識的になると思いませんか。それに、もうその時代が来ているとも思います。

さらに井上さんは農業や、酪農業などの国内産業として厳しくなっているものの収入補助として太陽光発電を活かしたい、と考えています。

20年間は一定額で買い取ってもらえる電力は、共同で出資を行えば十分に収入源になり、手間もとらない分、本業を継続していける可能性につながるし、そうなるように支援もしていきたいと。

井上さん 私はもともと野菜の産直販売を支援する活動にかかわっていました。よい野菜ができるには、よい土や水が必要でしょ。それらを汚さないエネルギーを考えてきたところから、今につながっています。

ですから太陽光発電の一次産業への応用を支援して都市と田舎をつなぐ役割をやっていきたいと強く強く思っています。

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「全国ご当地エネルギー協会」のウェブサイト。活動が少しづつ広がりをみせています。

おすそわけの、電力。

この取材を通じて感じたのは、井上さんという元気な店主のいる野菜直売所のような空気感でした。畑を見守るような目で発電所を気にかけ。近所の人も、用事はなくても、ちょくちょく様子を見にきます。

そして、穫れたての野菜を「おすそわけ」するように電力を送る。目に見えない電力というものにも、自分たちの暮らしのなかの「見える」ものとして寄り添うことができる。見えるようになることで、その電力を使うことに責任を持ち、使い方もよく考えるようになるのではないでしょうか。それが、この宝塚の市民発電が教えてくれたことのひとつです。