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震災でばらばらになった町民の絆を再生するために。ともに考え、ともにつくる福島県浪江町のアプリ開発プロジェクト「Code for Namie」

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東日本大震災の被害で今も全町避難が続き、全国各地で離ればなれに暮らしている福島県浪江町の町民のみなさん。2014年8月末現在、およそ20,000人が和歌山県を除く46都道府県に散らばり、そのうち約6,000人が県外で生活しています。

今年4月、そんな町民の方々に情報を提供し、心をつないでいくための公共事業がスタートしました。使用するツールはタブレット端末用のアプリ。住民も参加して「ともに考え、ともにつくる」プロジェクト「Code for Namie」をご紹介します。

住民参加型アプリ開発プロジェクト「Code for Namie」

「Code for Namie」は、浪江町と一般社団法人「Code for Japan(コード・フォー・ジャパン)」が連携し、総務省による東日本大震災復興対策「ICT地域のきずな再生・強化事業」などの認可のもと、始まったプロジェクトです。

大きな特徴は、町民も参加して企画を練る“アイデアソン”や“ハッカソン”と呼ばれる手法を導入していること。技術者と町民、一般の人も含めてアイデアを出していき(アイデアソン)、その内容をうけて、技術者がアプリの試作品をつくる(ハッカソン)という手順で開発が進められています。
 
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「アイデアソン」は、「アイデア」と「マラソン」からなる造語。限られた時間内に様々なテーマでアイデアを出していきます。

2014年5月末から6月末のひと月、東京と福島県内で合計6回開かれたアイデアソンは、毎回大盛況。町民と一般公募から延べ400人近くの皆さんが参加しました。

アイデアソンで出された770もの案を管理委員会が整理・選定し、その後、ハッカソンを2日間に渡って開催。つくられた試作アプリを、町民が評価しました。
 
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アイデアがぎっしり。東京と福島では、それぞれ異なるタイプのアイデアが生まれたそうです。

その中から選ばれたのは、浪江町のローカルニュースや放射線量、行政からの情報を配信する情報配信アプリや、タブレットを使い続ける工夫も取り入れた、浪江町のキャラクターと方言でコミュニケーションできるガイドアプリなど8つのアイデア。

9月には公募の中からアプリ開発の業者も決まり、すべての機能がつくられることになりました。2015年1月のタブレット端末配布を目指し、プロジェクトは熱気を帯びて進行中です。
 
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多彩な8つのアプリ案が選ばれました。

バラバラに暮らす2万人の住民と故郷の絆を再生するために

プロジェクトの根底にあるのは、浪江町役場の「失われた地縁を再生してコミュニティを維持していきたい」という思い。このプロジェクトをスタートするにあたって、町長の馬場有さんは、ホームページで次のようなメッセージを発しています。

馬場さん 浪江町では、震災前から“町民協働のまちづくり”を進めていました。その矢先に、あの大地震そして、未曾有の原子力災害。

家族も地域コミュニティも町もバラバラになり、3年を経過して今なお全町避難を強いられています。こうした困難な状況の中で、町民の絆をなんとか維持し、再生したい。

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浪江町は避難地域になっていてまだ人が住めません。

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津波の被害も受けた請戸(うけど)小学校を関係者が視察。600軒ほどが流された地域。草も生え放題です。

浪江町役場は、「どこに住んでいても浪江町民」の意識のもと、これまでも毎月35ページにも及ぶ広報誌やメルマガ、facebookページ「つながろう なみえ」による配信など、避難住民へのアプローチに力を注いできています。

そして今回、町民に行政や防災に関する情報を迅速に届けるために、タブレット端末を利用したいと考えました。

しかし、浪江町役場には躊躇する思いも。行政と企業が開発したIT機器が、住民にスムーズに受け入れられ役立てられるとは限らない事例もあるからです。

悩んだ挙句、担当者のみなさんは、「中立的な立場で助言をしてくれる団体があればいいのではないか」と考えつきました。そして、各地のコミュニティに対して情報技術を活用して地域課題の解決を支援してきた実績を持つ、一般社団法人Code for Japanに、事業を委託したのです。

浪江町復興推進課の小島哲さんは次のように語ります。

小島さん すでにタブレット端末を導入している例などを見ると、高齢者の利用が進まないなどさまざまなハードルがあり、最初は反対する職員もいました。

しかし、「ばらばらになった町民をつなぐためには、ITの力が有効」という考えも捨てがたく、解決策を考えました。そして、“町民を交えた”企画立案を進めるCode for Japanとの連携に踏み切ることにしたんです。

IT企業への直接発注でなく、支援団体であるCode for Japanと連携する形を選ぶという、行政としては画期的な決断でした。

中立的な立場で地域課題の解決を支援する「Code for Japan」

一方のCode for Japanにとっても、被災地の支援は初めてのことでした。しかし、代表の関治之さんは、「震災の被災地であっても、どこであっても、“地域の課題を自分たちで解決していく”という、根本的なスタイルは同じ」だと言います。
 
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Code for Japan代表の関治之さん

Code for Japan が目指すのは、先端のテクノロジーをもつ技術者や、行政、地域の当事者も参画する関係性の中で「ともに考え、ともにつくる」という活動理念を実践することによって、地域の課題を解決すること。

そのためのノウハウや専門的な知識を、中立的な立場で探り提供していく形の支援を行っています。

今回の事業を進めるにあたって、Code for Japanのスタッフは、県の内外に避難する町民を訪問し、聞き込みに努めました。

日常生活にIT機器を取り入れるには、高齢者が多い地域ならではの問題などもあるため、実態を見極め工夫しながら、協働の実現を図っています。

さらに、今回Code for Japan として初めて、「フェローシップ制度」も実施。民間から公募した技術者を、一定期間“フェロー”として自治体の中に派遣し、行政と技術者と支援者との緻密な連携をかなえるしくみです。この“フェローシップ”も7月にはスタートし、3名が活躍しています。
 
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浪江町民や、サイトやFacebookの告知をみて興味をもった一般の人も参加しました。

さらにCode for Japanがプロジェクトを推し進めた根底には、関さんの、震災とITへの思いもあります。

関さん 私にとってCode for Japan は、Hack for Japanという震災時のITによる支援活動がスタート地点となっています。当時、実は、「深刻な被害のその時にインターネットなんて役に立たないじゃないか」ってヘコみました。

でも、ITで何かやりたかった。オープンデータやクラウドソーシングなど有効なものがある。せっかくのITの技術や仕組みが現地でうまく活用されない様子もみて、「ITがうまくデリバリーできれば」と考えたんです。

この強い思いが浪江町側のIT技術活用への思いと重なり、プロジェクトは一気に動き始めました。浪江町職員とCode for Japan、そして町民のみなさん。それぞれの思いと挑戦を支えに、プロジェクトは歩みを進めています。

本当のゴールを目指して

そして今回のプロジェクトは、浪江町民へのタブレット端末配布で終了ではありません。浪江町の陣内一樹さんは、

陣内さん 深刻な課題を抱える浪江町の事例や今回つくり出されたものを、ぜひ、ほかの地域でも役立ててほしい。

と、企画立案について、試行錯誤の様子も含め様々なプロセスや結果をできるかぎりオープンにしています。できたアプリも、オープンソースとしてほかの技術者も使える形で仕様を公開。自治体としては非常に珍しい形を取っています。

今回の取り組みが、浪江町民のみならず、他の地域の課題解決にもつながっていくこと。これが、Code for Namieの目指す本当のゴールなのです。

10月には、Code for Namieをはじめ、Code for Japanが取り組むテクノロジーと市民参画をかけあわせた事例や学びを紹介するイベント「Code for Japan Summit2014」が開催されます。日本各地で巻き起こっている地域課題解決の新しい風を感じに、会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。

課題のなかでの絆の再生に向けて

役場が実施するアンケートでは、「浪江町に戻りたい」とする町民は毎年減り続け、「判断つかない」とする回答が多いのも事実。

深刻な課題も多く抱えるなか、このような課題解決の方法とテクノロジーの力に希望を託した人たちが、それぞれの立場から、住民と故郷のつながりを再生する新しい試みを進めています。

まだ自由に出入りすることができない浪江町ですが、Code for Namieのタブレット事業の行方や、町の復興の様子は、公開され続けます。

町民の絆が再生することで、参画する人たち、同じ課題をもつ人たち、それぞれの形で応援する人たちの、新しい絆も生みだされていきそうです。

あなたも、この絆の未来を、自分の暮らす町から見つめてみませんか。
 

Code for Namie の紹介動画