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“お金”が流通する「経済社会」ではなく、“心”が流通する「循環社会」を。地域通貨「よろづ屋」がつくる、ほしい未来とは?

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相模湖畔の旧藤野町で活用される、地域通貨「よろづ屋」 photo:袴田 和彦

わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

こんにちは、greenz.jpライターの高馬卓史です。

わたしたち電力」では、藤野電力が講師となり「ミニ太陽光発電システムをつくるワークショップ」を開催していますが、DIY発電を広げようというムーブメントは、エネルギー単体ではなく、“暮らし”を地域のみんなと一緒につくっていくことなのではと感じています。

地域のみんなと暮らしを一緒につくっている神奈川県の旧藤野町(現相模原市緑区)では、多くの人が地域通貨「よろづ屋」を利用して、例えば子ども用品が捨てられることなく次の人の手に渡っていたり、最終バスに乗り損ねてしまった人が送迎してもらうなど、ちょっとした“困りごと”をみんなで解決しあって、“ありがとう”の輪がどんどん広がっているようです。

先日、この地域通貨「よろづ屋」のシミュレーション・ゲームが開催されると聞いて、体験してみることに。今回は、イベントの様子とともに、どうしてこのような地域通貨が広まったのか、実際に藤野町に足を運んで考察したことをレポートします。

地域通貨とは、「助け合い」を形で現したもの

まずは、地域通貨のシミュレーション・ゲームに参加!ゲームを始める前に、地域通貨「よろづ屋」事務局の池辺潤一さんが、地域通貨について説明をしてくれました。一言でまとめると、地域通貨とは、「お互い様」を形で現したもの、ということになるでしょうか。
 
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地域通貨「よろづ屋」の説明をする池辺潤一さん

地域通貨とは、今の経済成長神話から降りることを目指して、相互扶助による社会を構築するために考えられた、限られた地域の中で使える「円」ではない「お金」のこと。

藤野で使われている地域通貨(単位は円ではなく「萬(よろづ)」)では、紙幣ではなく通帳型の“手帳”を使って、お互いに出来ることや贈れるものを交換し、手帳に記録をします。

一昔前までは、みんなが助け合って暮らしていましたが、今では、それが薄れているようにも思えます。でも、いきなりみんなで助け合おうといっても難しい。そこで地域通貨という、目に見える形での「思いやり」を交換することになったのだと池辺さんは話します。

「萬(よろづ)」は、お金がお金を生むような「マネー・ゲーム」とは無縁で、困ったときには助けてくれる誰かが近くにいる、そんな安心感を持つことのできる、様々な可能性のあるお金です。

手帳には、人に何かをしてあげると「プラス萬」、何かをしてもらうと「マイナス萬」が記載されていきます。「マイナス萬」が増えてもいいんです。マイナスというのは、誰かのプラスをつくるためのものですから。

お金が地域の外に出て行くのか? 地域に残って、回るのか?

さて、いよいよ実際にシミュレーション・ゲームをしてみることに。ゲーム参加者はそれぞれ決められた役(大工や農家、主婦や外資スーパー)を担当し、役割を演じます。それぞれ自分ができることや売れる品物などをアピールし、お金で売買したり、地域通貨で“交換”が成立したら、お互いに手帳に記していくのです。

ゲームは2ラウンドで構成されています。1ラウンド目は仮想通貨「円」だけを使ってゲームを行い、2ラウンド目は「地域通貨」を併用したローカル経済を体験します。

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ゲーム用の「手帳」を片手に、お互いにできることや売れるものを交換します

1回目のゲームが進むにつれて、何か調達が必要な際には、何でも揃っている外資スーパー(ここでは、地域外に資本があるスーパーという意味)から購入していることに気づきます。つまりは、お金は地域の中で循環せず、地域外に流れてしまっているということ。例えば大工であれば、外資スーパーから工具を購入して、農家であれば、外資スーパーから肥料を調達するいった具合です。

外資スーパーばかりが儲かって、地域にお金が残らないのは、何かがおかしい…。けど、今まさに、私たちはそういう社会に住んでいる。それを数字で実感できた瞬間でした。

そこで2ラウンド目は、地域通貨も併用したローカル経済を体験しました。生きていくために必要なモノはスーパーにも売っていますが、地域の直売所や、農家から直接買ったりすることができます。スーパーでは使えない地域通貨も使えて、より新鮮で安いから、みんな直接購入します。そして、地域通貨があることで、さまざまな「財」「サービス」が流通し始めます。

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ペレットストーブ屋の手帳。家電修理キットを購入したり、主婦からクッキーや古着を購入するうちに、自然とペレットストーブの注文が入るように

そして2ラウンド目では、主婦がいきいきとしていたのが印象的でした。手づくりクッキーを50萬+100円で販売したり、子どもの古着を100萬で交換するなど、1ラウンド目では手元に「円」がなくて買い物もできなかった主婦が、俄然元気になって、地域の中で活躍し始めるのです。

こうして参加者のみなさんは、お金が“外”に出てしまうことのないローカル経済の意義を体感します。取り引きで生まれる“地域の中のつながり”が、地域通貨の目的なのです。参加者は、現金を交換してモノを豊かに持つ現在のグローバル経済では、このようなつながりは生まれないことに気づいていきます。
 
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膝づめで、お互いが出来ることや売れるものに、知恵を出し合っています

最後には、自然と参加者が輪になって、どんなものを交換し合えるかをみんなで話し合うという状況に。

振り返ってあらためて自分の手帳を見て見ると、現金ではない「思いやり」や「助け合い」が目に見える形で記録されていることに、感動を覚えていました。

また、1ラウンド目では地域の“外”に出ていってしまうお金が約9割なのに対して、2ラウンド目では約2割。しかも、2ラウンド目で出て地域外に行くお金は、エンジンなどの工業製品と利子くらいと、約8割ものお金が地域の中にお金が残るだけでなく、そのお金がぐるぐると循環して、人がつながり、まちも人も元気になっていくのです。

プラスを生み続けないといけない「グローバル経済(円)」では、人は幸せになりにくいかもしれない。でも、マイナスになることも誰かのためになっている「ローカル経済(地域通貨)」なら、人と人がつながって、心あたたかい幸せな社会を築くことができるかもしれない。

たくさん取り引きが起これば、ものやエネルギーだけではなく“絆”も生まれるのが、地域通貨の価値なのです。

地域通貨「よろづ屋」が生まれた背景とは

藤野版の地域通貨シミュレーション・ゲームの最後に、藤野における地域通貨とその広がりを知る「藤野ワンデー・ツアー」が開催されることを知り、実際に藤野へ足を運んでみました。

ツアーのスタート会場は、藤野の公民館。午前中は、地域通貨についての取り組みと、その背景にある「トランジション・タウン」という概念や市民運動の説明を受けます。(「トランジション・タウン」という概念については、後ほど少し紹介することにしましょう。)

昼食をとった後は、藤野町のさまざまな活動現場に出かけます。

10時くらいから17時くらいまで一日かけて、地域通貨がつかわれている藤野の実際の活動を見て歩く。これが、「ワンデー・ツアー」の概要です。
 
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公民館の会議室で、まずは藤野の活動全体の説明会があります

まずは、実際の活動現場を紹介していきましょう。最初は、地域通貨が実際に使われているシーンです。
 
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日々の暮らしの中で、地域通貨「よろづ屋」が生かされています photo:袴田 和彦

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手帳の中をのぞかせてもらいました。自分が何をしてあげたのか、何をしてもらったのかが、克明に記録されています。そのまま、思いやりや助け合いの記録。とても素敵な思い出にもなりそうです photo:袴田 和彦

地域通貨が実際に使われている現場を見ていると、みなさんそれぞれが、“自分は何ができるのか”を考えていました。また、してもらった人は、言葉や行動で感謝の気持ちを返す。感謝される喜びが、みなさんの生きがいにもなっているんだなと実感しました。

地域通貨から生まれた藤野の「ワーキング・グループ」

場所を変えて、次に訪れたのは、greenz.jpではおなじみの「藤野電力」。ミニ太陽光発電システムの組み立てに途中参加しました。

太陽光パネルをバッテリーにつなげるなどの組み立て作業では、手間取る人もいますが、実際に、自分の手で発電することを達成した時には、とても嬉しそう!自分自身もDIY発電に挑戦してみたくなりました。

ちなみに藤野電力の特徴は、オフグリッドとして個人で電気をつくるだけでなく、そのオフグリッドが地域のなかでゆるやかにつながっているということ。例えば地域に「充電スタンド」をつくって、電気バイクやスマホなどの充電が誰でもできるようにするなど、その取り組みはどんどん広がっています。
 
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小型太陽光パネルの発電で、電球に明かりが灯ると、会場から「おお!」と喜びの声が photo:袴田 和彦

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川の水流を利用した小型の水力発電にも挑戦しています

その次に訪れたのは「お百姓クラブ」です。藤野在住の方々が、畑を耕して食料の自給自足に挑んでいます。作物は試行錯誤とのことで、様々な作物を育てています。畑で汗を流している姿を見ていると、とても自然な暮らしだと思いました。

食べ物や生活に必要なものを、地域の人たちと楽しく一緒につくったり、分け合ったりする日常が藤野にはあるのです。
 

太陽の下で畑仕事をするのは、とても気持ちがいいそうです

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もちろん、収穫した野菜は「おすそわけ」。収穫を祝う食事会も楽しそう! photo:袴田 和彦

最後に訪れたのが、「森部」。藤野は山に囲まれているので、身近に山の森があります。そこでは、間伐が行われていました。

間伐とは、いってみれば木を間引きすることで、健康な森を保つことですが、ここではちょっと変わった間伐をしていました。「きめら樹(皮むき間伐)」といって、表面の樹皮をはぐことで、自然と立ち枯れ状態に持って行くのだそうです。そうすれば、伐る時も運ぶのも楽なのだとか。

みんなで、いっせいに木の皮をはいでいくのですが、するするとむけていくことに驚きました。それにしても、森の中の作業も楽しそう。かなりの体力をつかうのではないかと思いますが、伐り出した丸太が積み上がっていくと、とても達成感があるのだといいます。

日本の森、世界の森を再生するために、まずは身近にある森を大切に活用していくこと。途切れてしまった人と森とをつなげなおして、藤野の森を豊かな里山の森として再生することを目指して活動しています。
 

「きめら樹(皮むき間伐)」をしています。ここも、なんだか楽しそうですね

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昨年には、きらめ樹材を使った家も建てたのだそう

「ワンデー・ツアー」で一番感じたことは、藤野のみなさんは、“暮らし”をみんなでつくることを、とても楽しんでいるということ。

「お百姓クラブ」がつくった野菜が、みんなで分け合って日々の食卓に並ぶ。森部が切り出した木材は、畑を囲む杭や、薪ストーブなどに利用されている。電力が欲しければ「充電スタンド」に立ち寄ることもできるし、「藤野電力」がDIYで電気をつくることを教えてくれる。藤野では、どの活動も、お互いに有機的につながり合っているのだと感じました。

藤野の背景にある「トランジション・タウン」とは?

さて、この藤野町の試みの“背景”にある、「トランジション・タウン」について少し触れることにしましょう。

トランジション・タウンは、イギリス南部の小さなまち、トットネスで始まった、持続不可能な社会から持続可能な社会へ移行するための市民運動のことです。

2005年に、英国のパーマカルチャー講師ロブ・ホプキンスが始めた運動ですが、今では世界1,800市町村に及ぶ広がりを見せていて、なんと、日本はちょうど100番目。日本でトランジション・タウンの活動が最初に始まったのは、この旧藤野町(現相模原市緑区)なのだそう。

大切にしていることは、「地球に気を配ること」、「人々に気を配ること」、「余剰を共有すること」。

自然や生命の循環する仕組みを参考に、持続可能な暮らしをデザインする考え方が「トランジション」の概念です。その中には「脱依存」として、経済成長神話からの依存から降りる「レジリエンス」として、柔軟に対応できる底力を養う「創造力」として、自発的な力を最大限に発揮して、クリエイティブな解決方法を考える、といった考えが含まれています。

最後に、藤野の方々からみなさんへのメッセージです。

あれもこれもなくても、生きていけるかもしれません。手放したら、どんな暮らしになれるだろう?ワクワクする旅をみんなで楽しみましょう!

藤野には、自分たちで自分たちの未来を、まちをつくろうという心意気と、実践することの楽しさがあふれていました。みなさんも、ぜひ、訪れてみたらいかがですか?

(こちらは2014.9.13に公開された記事です)

– INFORMATION –

\旧藤野町が六本木にやってきます/
グリーンズの東京ミッドタウン・デザインハブ第76回企画展 「企(たくらみ)」展 -ちょっと先の社会をつくるデザイン-が11/25(日)~12/24(月)で開催中です!藤野の皆さんにも出展頂いております。

さらに今日の夜には藤野から5名のゲストをお招きしてトークセッションも行います!ぜひ遊びにいらして下さいね◎
企展関連企画:トークセッション「藤野の地域デザイン」