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変わった公務員を100人増やしたい!仙台市職員の中西百合さんが、組織にいながら変革を試みる理由

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

行政職員というと、紋切り型のイメージを抱く人は少なくないのではないでしょうか。ですが、東北の被災地では、想像以上に献身的に仕事に就いている人が大勢います。仙台市職員の中西百合さんもその一人。

東北復興に向けて多様な人々のハブになろうと、公私を問わず日々駆け回っています。中西さんに、活動の状況や今後にかける思い、組織にいながら変革を試みる理由について伺いました。

有志で防災プロジェクトを企画

中西さんは仙台市の福祉担部署に勤務。その傍ら、NPO法人日本ファシリテーション協会のメンバーとして東北地区の拠点運営などにも携わり、市役所では同僚たちとファシリテーションの自主勉強会を開催しています。

活動はこれだけではありません。市の職員有志による震災の経験を記録する活動と語り部活動、PTSD(心的外傷後ストレス障害)対策に使われている「EFT」セラピーの普及…。震災後に始めた活動だけでも複数あります。
 
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4月に行われたEFT体験会の様子

現在、力を入れている活動の一つが、震災の経験を生かして将来の防災・減災につなげる「み・まもるプロジェクト」。さまざまな職業に就く有志の仲間10人と取り組んでいるそうです。

震災前からしっかりと防災対策に取り組んでいた人々と、準備をしていなかった人々を対象に、防災対策への意識や過去の経験、考えを聞き取っています。両者にそれぞれの行動を取らせた、あるいは取らせなかった背景を探ることで、人間の行動原理に共通する課題やポイントが浮かび上がる。

その結果を元に、デザインセッション(課題解決に向けて多様なステークホルダーがアイデアを出し合うイベント)を行う予定です。防災意識の薄い人々が行動を起こしやすい仕組みづくりや、防災グッズの開発などにつながるアイデアが生まれればと考えています。

活動は業務が終わった後、連日深夜に及び、土日も県内外を飛び回っています。

市役所職員として多くの仕事を経験し、オフサイトの活動でもさまざまな出会いに恵まれました。公私にわたって学んだことを少しでも社会に還元したいと思っています。

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中西さんはファシリテーターとしても多くの現場で活躍している

協働作業の魅力を知る

中西さんの子どものころの夢は、「小学校の先生」か「編集者」。市役所職員という仕事は、どちらかといえば消極的な選択でした。しかしいつの間にか、仕事にのめり込むようになります。

まちづくりの担当として住民と一緒にイベントを企画したり、選挙広報の担当として広告代理店からマーケティングの基礎を学んだり。外部の人と協働で進める作業の魅力を知り、新しいことに挑戦するようになりました。

市民との協働事業の中で話し合いの魅力と難しさの両方を感じ、ファシリテーションという言葉を知ったのは2003年ごろでした。

中でも大きなターニングポイントとなったのは、市民との協働事業を進める部署にいた2007年のこと。市民活動の草分けとして全国的に知られる加藤哲夫さん(故人)が、中西さんの業務のアドバイザーとなり、一緒に仕事をすることになりました。中西さんは、加藤さんの哲学や人柄に大きく影響を受けます。

加藤さんは、社会を良くしたいという一心で仕事をする、私利私欲のない人でした。10年先、20年先を見据えて行動できる人だった。

仕事の打ち合わせが終わった後、「どうしたら人は主体的に行動できるのか」「自分で課題を見つけられるようになるのか」と、2人で数時間話し込むこともありました。私にとって本当に大切な学びの時間でした。

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生前の加藤さん(右)と中西さん。中西さんは、加藤さんからさまざまなことを教わった。

加藤さんとの出会いは、中西さんに、人生の意義についても問い掛けるようになります。

加藤さんは、人間の喜びにいくつかの段階があると教えてくれました。そして「最上の喜びは、人のために働き、喜ばれることだ」と。仕事については一生懸命取り組んできた私でしたが、「仕事だけの人生で良いのか」「自分が社会に役立てることは何か」と悩み始めました。

そんなことを感じていた2009年ごろ。仕事で職員の研修を担当することになりました。対外的な仕事が多く、市民との対話の重要性と難しさを実感していた中西さんは、ファシリテーションを学ぶ企画を考え、自身もNPO法人日本ファシリテーション協会のセミナーを受講。

それを皮切りに、話し方や発想法など、対話のために必要と思われる技術を次々と学び始めます。

本業で、町内会の住民向けワークショップなどを企画していたのですが、そこで学んだ知識を生かせるようになりました。それ以上に大きかったのは、外部の講座を受けるようになったことで、市役所以外の人との交流が始まったことです。

中西さんは「学びをアウトプットしたい」と、ツイッターやフェイスブックで情報を発信し、同僚にもファシリテーションを教えるように。どんどん仲間を増やし、ネットワークとコミュニティーをつくっていきます。

活躍の場が広がり始めた2011年3月、東日本大震災が発生。本業で震災廃棄物の処理に関わる仕事を任され、多忙を極めました。ですが、「こんなときだからこそ、何かしなければ」という思いを強めていきます。

震災後、師である加藤さんが病気で亡くなったことや、復興に向けて重要な役割を担う産業振興の担当に異動したことも、中西さんに拍車を掛けました。

全国の支援者と被災地をつないだり、震災語り部の会を始めたり。ネットワークやコミュニティーの力を生かし、とにかく必死で動きました。「生かされた者」の使命感かもしれません。

私は加藤さんから本当に多くのことを教わった。東北が震災という大きなダメージから立ち上がるため、被災地で奮闘している人をサポートするために、与えられたものをわずかでも返していきたいと思っています。

市の職員有志による語り部の会は、新しい展開が見えています。仙台市に応援に駆けつけていた横浜市の職員が活動を知り、「横浜でもやってほしい」と申し出てくれたのです。インターネットで仙台と横浜を中継し、仙台の職員が経験を話すことになりました。

被災地の外からの視点で質問を受けると、こちらも気付かされることが多くあります。経験を伝えるという一方的な取り組みではなく、共に学ぶ機会になるでしょう。ほかの地域でも同じように希望されるところがあれば、どんどん広げていきたいと思います。

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「仙台市職員から見た震災記録チーム」の打ち合わせ。右端が中西さん

変わった公務員を100人つくる

さまざまなことに挑戦してきた中西さんですが、組織の中で窮屈な思いに囚われたことはないのでしょうか?

そうですね。外に出て勉強すると視野が広がりますし、困ったときに助け合える人脈もつくれます。

ですが、確かにそれをよく思わない人もいましたし、新しいことをしようとして抵抗されたこともありました。それが嫌で、飛び出そうと思ったこともあります。変わったことをする公務員が少なかったんですね。孤軍奮闘でした。

ですが、公務員は中立な立場で、さまざまなステークホルダーに会えます。人と人を結び付けるためにこんなに良い立ち位置はありません。そう気付いてからは、組織の外で1人で活動するよりも、組織の中に仲間をつくっていく方がインパクトが大きいと考えるようになりました。

今では理解者に恵まれ、若手の後輩たちも活動に共感してくれています。「変わった公務員」が100人になれば、頼もしいですね。

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世代を問わず、誰の話にも明るく耳を傾ける中西さん

「今後は人と人を結び付ける活動と同時に、起業家の支援に携わっていきたい」と話す中西さん。住民目線に立ち、積極的に外と関わろうとする中西さんのような公務員が増えれば、住民と行政の関係はもっとフランクになり、課題の解決に向けてもっとスムーズに協力し合えるようになるかもしれません。

中西さんらが進めている「み・まもるプロジェクト」のデザインセッションは9月20日、21日に仙台で、10月5日に神戸市で開かれます。関心のある方はぜひ、サイトをチェックしてみてください。