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大切なのは”儲け”よりも”学び”!ローカルフードの流通を変える“アジャイル開発型思考”のフードベンチャー「Good Eggs」

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キャシーさん

サンフランシスコ、ニューヨークなど、アメリカの4つの都市で消費者と土地の生産者をつなぐ「Good Eggs」。都市に住む人が、その地域でつくられた新鮮な野菜やお肉を手軽に買えるウェブサービスとして今、注目を集めています。

greenz.jpでも“ローカルフードのAmazon”と紹介した記事が注目を集めたので、覚えている読者もいるかもしれません。

日本でも近年関心の高い「食の安全」「地域社会の維持・発展」へのひとつの挑戦でもあるGood Eggsのビジネス。日本で活かせるヒントもあるのではと、経営本部があるサンフランシスコ・ドッグパッチ地区のオフィスを訪ねて、マーケティング担当のCathy Bishopさん(以下キャシーさん)にお話を伺いました。
 
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倉庫を改装した巨大なオフィス

二人の創設者

今や毎週数千人が利用するGood Eggsを立ち上げたのは、Rob Spiro(以下ロブさん)とAlon Slant(以下アーロンさん)という二人の若者でした。

ロブさんはGoogle社において「google+」の商品戦略・デザインの経験を持ち、また、アーロンさんはソフトウェア開発会社「Carbon Five」の創始者であり現オーナーであるなど、もともとテック業界で活躍している二人でした。

その一方で、二人に共通していたのは食への高い関心です。

ロブは大学卒業後4年間農場で働き、アーロンは食育に熱心な家族のもとで小さい頃から自分用の庭を持つなど、もともと二人とも食に関して情熱がありました。

そして、大人になった二人の生活の場となったベイエリア(サンフランシスコやシリコンバレーを含むサンフランシスコ湾の湾岸地域)は、アメリカでも特に食への関心が高い地域でした。

近年、大規模農業による環境・人体への影響に対して危機感を持ち、ローカルフード(地元の食材)に関心を持つ人は増えています。その流れはベイエリアで特に顕著です。

その中でロブとアーロンは、テクノロジーの観点から食にアプローチすることを思いついたんです。

解くべき問題

しかし当初は、ローカルフードシーンにどんな問題があり、自分たちに何ができるのかわからなかったふたり。そこで彼らが行ったのは、地域の農家や肉屋さんなどの小規模生産者ととにかく話すことにしました。

会社を起こして最初の6ヶ月間をリサーチに費やした結果、ふたりが発見したのは「地域の食材と地域の人をつなぐものが足りない」という事実です。

ベイエリアには、ローカルフードを扱うお店が比較的たくさんあります。地域の生産者が集うファーマーズマーケットも様々な場所で開かれています。

それでも、もしファーマーズマーケットに行けなかったりローカルフードを扱うお店が近所に無かったりすると、ローカルフードを手に入れる手段はほとんどありません。

「消費者は買いたいと思っており、生産者はもっと売りたいと思っている。それなのに両者をつなぐものが十分に無い」。二人の創業者は、ここに可能性を見たのでした。

スクラップ&ビルド

二人が最初に世に送り出したサービスは、商品を生産者から直接買えるウェブスタンド。手づくりの服や雑貨をつくり手から直接オンラインで買える「Etsy」というサービスをモデルにしたものでした。

生産者ごとにページがあり、購入した商品が生産者から直接届くサービス。非常に魅力的なサービスに感じられますが、リリースから6ヶ月程で方向転換の必要性を感じ始めたとキャシーさんは言います。

このウェブスタンド型のサービスは、手作りの服や雑貨をつくり手から直接オンラインで買えるというサービスをモデルにしたものでした。

例えばあるベーカリーのパンが欲しい場合、そのベーカリーのウェブスタンドで注文すると、商品がベーカリーから直接送られます。そしてパンの他にジャムが欲しかった場合、また別のウェブスタンドで注文し、受け取ります。

でも実際の買い物を思い浮かべてみると、一度の買い物でパンに牛乳に野菜に… といろいろ買いますよね。つまり、いちいちウェブスタンドを移動して別々にものを購入するのは、非常に面倒なんです。

しかも、ばらばらに届く商品を何度も受け取ったり、 生産者によっては自分の家が配送エリア外だったりと、ユーザーにとっては非常に不便な状態でした。

そこで約一年前、Good Eggsは様々な商品を一度に注文できて一度に受け取れる、新たなサービスを実現しました。

自社配送への挑戦

新しいGood Eggsと旧サービスの最も大きな違いは、配送の仕組みです。旧サービスでは配送を各生産者に任せていたのに対し、新しいサービスではGood Eggsが全ての商品を消費者の元に届けます。

この“自社配送”のしくみを支えているのが「Foodhub」と呼ばれる配送拠点です。Good Eggsがサービスを展開するすべての都市に設置されているFoodhub。全ての商品はまずFoodhubに届けられ、野菜は野菜専用の、乳製品は乳製品専用の、というようにそれぞれ最も適した温度に設定された冷蔵室に運ばれます。

その後商品は注文者がリクエストした配送時間にあわせてパッキングされ、その日のうちにGood Eggsの配送車で消費者の元に届けるのです。
 
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この自社配送の実現は、当時のGood Eggsにとって大きなチャレンジでした。経験の無い配送という領域、扱うのは管理の難しい生鮮食品。しかも、それまでのウェブサービス運営には不要であった多くの設備を抱える必要があります。

しかし驚くことに、Good EggsはUPSなど既存の配送サービスに頼らず、独自の配送システムを自分たちの手でつくり上げました。

キャシーさんは当時をこう振り返ります。

私たちは、自社による配送を自分たちのビジネスをより深く学び、成長させるチャンスだと捉えました。もし配送を第三者に任せてしまっていたら、私たちは配送について学ぶ機会を失ってしまっていたでしょう。

また、 生産者と消費者をできる限り近づけたいという想いもありました。配送を自分たちで行えば、両者の間に入るのはGood Eggsだけに抑えられます。

実践から学ぶ、「アジャイル開発型思考」

配送システムの実現において発揮された、学びへの貪欲な姿勢は、Good Eggsのビジネスの至るところで見られます。

ベイエリアから別の都市へサービスを拡大する際も、「どこに行けば儲かるか」ではなく「どのエリアに行くと、どんな学びがあるか」という観点から行き先が検討されました。

気候、顧客層など、私たちがサービスを始めたこのベイエリアとの違いがある街を選んでいます。

ニューヨークは気候が、ロサンゼルスは街の規模やレイアウトがベイエリアと大きく異なります。そしてベイエリアに高所得層が集中しているのに比べて、ニューオーリンズにはより幅広い所得の人々が住んでいます。

もちろん新しい街では、ベイエリアでのやり方が通じない事ばかりです。しかしその違いに応じて、Good Eggsは柔軟にサービスを変化させています。

例えばロサンゼルスは渋滞が酷いので車ではなく自転車を配送に利用していますが、一度に積める荷物の量やロサンゼルスの街の大きさを考えると、効率的とは言えません。そこで途中まで車で荷物を運び、そこから先は自転車で運ぶサテライト方式を今まさに実験中です。

実践とそこからの学びを重視するGood Eggsの精神。サービス成長の原動力となっているこの精神のルーツは、テック系のバックグラウンドを持つ二人の創業者が持ち込んだ「アジャイル開発型の思考」だとキャシーさんは言います。

アジャイル開発とは、ソフトウェア開発の手法のひとつ。短期間で開発・実装・テストといった一通りのプロセスを行い、フィードバックと改善を繰り返すことで徐々にシステムを成長させます。

アジャイル開発型の思考は、私たちの会社の原動力のひとつです。

アジャイル開発型の進め方においては、物事を非常に早い段階で何度もテストします。そしてその際、結果に完璧を求めません。

完璧を目指すよりもまず実践してみる方が、学びが多いものです。まず試し、素早く学び、素早く改善する。その労力を厭わず、どんどん先に進む事が重要です。

もし試した事がうまくいかなかったとしても、それを捨てて次を試せばいいんです。それまでやったことに囚われて、同じものに執着するのではなく。

生産者からの支持

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アジャイル開発のようなテック系のの思考を持つプレイヤー。食に関する業界では非常に新しい存在と言えますが、多くの生産者がGood Eggsのアイデアに共感し、非常に好意的に迎え入れました。

スーパーに行くと、あっちのレタスもこっちのレタスも同じに見えます。つまり、区別の付かない”コモディティ(汎用品)”になっているんです。

私たちはこれに対し、「このレタスは○○農場で○○さんがつくったもの。こっちのレタスは**農場でこうやって育てられたもの」という風に紹介して売れるようにしたいんです。

消費者は、自分たちが食べる物がどこから来ているのかを気にし始めています。そして、その動きを誰よりも生産者が喜んでいます。だからこそ彼らは、生産者にフォーカスする私たちのアイデアを強く支持してくれました。

また、Good Eggsは生産者が充分な利益をあげられるよう、マージンをスーパーマーケットなどに比べて非常に低く設定しています。加えてオーダー状況をメールで通知するなど、毎日多くの時間を農場で過ごす農家などでも使いやすいよう、システムを簡便化しています。

さらに、行ったリサーチ結果を生産者に共有したり、ウェブ上でより商品が魅力的に映るようプロのカメラマンによる写真撮影の機会を提供したりと、Good Eggsのビジネスの至るところに、生産者を支える工夫が隠されています。

Good Eggsがバックグラウンドの違いも乗り越え広く4都市でパートナー生産者を獲得していることは、 Good Eggsが食品の”脱コモディティ化”の仲間であり、 ビジネスを支える強力サポーターであると、多くの生産者から認められている証だと言えるでしょう。

インターネットによる食への挑戦

Good Eggsのビジネスを、キャシーさんは”テクノロジーと食のmarriage(結婚)”と表現します。

テクノロジーにより、物事の効率性は著しく高められます。そして食品産業のいくつかの領域では、そういった効率性の向上が確実に求められています。

しかし面白い事に、食というのは、時に非効率性が大事であるという側面もあるのです。大切な人との食事、子どもと一緒につくる料理など、そこでは効率性は重要ではありません。

テクノロジーが持つ効率性への指向性をただ推し進めるのではなく、食に必要とされる非効率性を認め尊重したい。“結婚”という表現には、そんな想いが込められているのかもしれません。
 
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オフィスにはオープンキッチン付きの大きなダイニングルームがあり、毎日ランチが提供される

ユーザーインタビューで、ある女性が面白い事を言っていました。

彼女に言わせると、テクノロジーは”center of mess” ——食品産業の惨状の中心だというのです。彼女が指すのは、強すぎる殺虫剤や肥料、家畜へのひどい給餌システムなど、人体や環境に害をもたらす大量生産のテクノロジーです。

しかし彼女は「テクノロジーこそ、この状況から抜け出すための唯一の武器だ」とも言いました。つまり、人々にこの現状への認識を広め、別の道を示すためのインターネットテクノロジーです。

一方では危険を生み出し、もう一方では私たちがそこから逃れるのを助ける。テクノロジーはこれまでとは異なる方向へ、足を踏み出しているのです。

大量生産を可能にしたこれまでのテクノロジーに比べて、Good Eggsが紹介するような小規模農家のやり方は非効率的なものかもしれません。しかし、消費者が望むのは必ずしも効率性ではありません。

安心して食べられる食材を子どもに与えてあげられること、つくり手のストーリーと共に食品を楽しめること、それらは消費者に取って大きな価値です。そういった価値を提供する家族経営の農場や個人の生産者の食品へのアクセスは、インターネットという新しいテクノロジーによってさらに広がります。
 
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オフィス内に掲げられたGood Eggsのミッション

「人と人とをつなぐこと」、それがインターネットの力であるとするなら、これまで離れていた生産者と消費者をつなぐGood Eggsのビジネスはまさに、インターネットによる食への挑戦と言えるかもしれません。

新たなテクノロジー、新たな思考のプレイヤーの出現で、食の世界はきっとどんどん変わるでしょう。アメリカで、日本で、そして世界中で、食をよりサステイナブルに、豊かにする変化が生まれて行くといいですね。