北陸の街、福井にて。福井市民が「自分たちの街を楽しくしよう」と、動きが起きています。
シャッター街化した中心市街地に、新しくてセンスの良いお店が次々とオープンし、事務所の移転先として選ぶ人も出てきました。この賑わいのおおきな起点となっているのが「NPO法人きちづくり福井会社」です。
彼らは“基地(エキマエベース)”を拠点にしながら、小さな企画を次々と実現しています。ここにつどうのは、近所の住民、デザイナー、学生、大学の先生、他のNPOで活動する人々、事業を行なっている人々、行政職員などです。
2013年7月には、「オレンジホームケアクリニック」という医療機関が運営する「みんなの保健室」が商店街内にオープン。健康や悩み相談に乗りながら、医療以外のニーズを汲み取り、お年寄りの夢や希望を実現するためのお手伝いをすることを目標にした施設です。
そして同時期に、みんながつどい、まちについて知ったり考えたりする場として福井市まちづくりセンター「ふく+(たす)」がオープン。福井駅から徒歩3分の駅前電車通りに面したビルの1階という便利な立地です。
一度シャッター街化した中心市街地で、なぜこの様な動きが起きているのでしょうか。福井の動きは大変興味深く、また福井が抱えている悩みは全国共通かもしれないことを感じています。全3回に渡って、福井の中心市街地の活性化の様子をお届けします。
福井の概要と、中心市街地の現状
ところで、福井県は北陸3県のうちのひとつです。北から富山、石川と続き、その隣に並びます。
県庁が位置するJR福井駅を下りたつと、改札口がふたつ。自動改札機はありません。駅前広場を歩いても辺りはガラーンとしており、中心市街地と呼ばれる商店街群がひしめくエリアは、シャッター街と化しています。そんな中、現在2016年の完成を目指して西口再開発が進められており、商業棟とマンション棟からなるビルが建設される予定です。
福井駅前の西口再開発の様子
メインストリート沿いに立つ、西武百貨店は、福井一の品揃え
冬は雪が積もる福井では、路面電車は貴重な市民の足です
アーケード付きの新栄商店街は家賃が高い!?シャッター街化が進んでいます
シャッター街の一角に、最近になって、立て続けに新しいショップがオープン
ふれあいサロンも、土日はたくさんの人で賑わいます
メイン通りより西側、北の庄通りには、今風のお洒落なお店がちょこちょこ並びます
30〜40年程前までは、この中心市街地はショッピングエリアとして大にぎわいでした。経済成長と共に“マイカー”や“郊外の庭付き一戸建て”がひとつのステータスへと変わり、まちは中心市街地より郊外へと広がります。典型的な地方都市の姿と言えるでしょう。
「横のつながりをつくりたい。」
中心市街地活性を語る上で欠かせない方がいます。2007年から2012年度まで、福井商工会議所から出向して第3セクターの「まちづくり福井株式会社」に在籍し、地域の方々と密な関係を築いてこられた岩崎正夫さんです。
福井生まれの福井育ちで、福井弁を流暢に話す岩崎さん。福井のことは(美味しい焼き鳥屋さんなど、本当に何でも)知っていて、何を聞いても熱く、そして詳細にお話しくださいます
岩崎さんは、地域に入って活動する中で、気づけば“横のつながりをつくる”ことをされていたそうです。
福井市の中心部では近所に居ながら、商店街や百貨店のイベント情報を関係者だけが知っていて、関わりのない人は全く知らない状態が起きていたのです。
これはもったいないと思い、定期的にみんなで集まり情報交換する“イベント連携懇談会”を開くことにしました。懇談会を重ねる中で、地域を網羅したイベント情報を伝えるタブロイド紙「駅前プレス」を発行することになりました。
この懇談会では “会議資料をつくらない”ことを約束事にしたそうです。なるべく手間を減らして“つづける”ことを重視した提案です。
また、「駅前一帯では、オーナーが店を閉めた後も家賃が高止まりのまま、新しいテナントが入らない」といったシャッター街の事情にも詳しくなっていきます。
「自分の商売を畳んでシャッターを下ろしてしまうなら、家賃を下げて、新しいテナントに貸すのが街の為だ」という一般論はよく聞かれますが、家賃を下げたら周りで賃貸している店舗とのバランスが悪くなり近所づきあいにも悪影響を及ぼしたり、単純にご主人に先立たれてどうしていいか分からない方がいらっしゃったり、オーナーはオーナーで、色々な悩みを抱えてシャッターを閉めているわけです。
なので、オーナーだけが悪く言われるのはちょっと違うだろうということを感じましたね。
後に、空き店舗が集中する新栄商店街において、まちづくり福井がオーナーから物件を借りて、期間限定や、安い賃貸料で他の人へ貸し出したり、オーナーが自分の店舗物件を他人へ貸し出し、自分は他の人の物件を借りるといったような“地域内経済の循環”が少しずつ起こっています。
まちの人と顔見知りになり、それぞれの抱えている問題の本質が見えてくることで、商店街、百貨店、地権者、NPOなどの枠組みを越えないと、次の段階へは進めないことを感じ始めていた岩崎さん。
そんな2011年の夏、「コミュニティデザイン」という本に出会います。地域の人々を巻き込んだプロジェクトの数々を読み、「この手法なら、福井の中心市街地が抱えている問題もブレークスルーできるのでは」と感じ、企画を市役所へ持ち込みますが、年度の途中ということもあり、その時は叶いませんでした。
そこで、岩崎さんは本の著者である山崎亮さんの事務所「studio-L」へ連絡を入れ、担当者の醍醐孝典さんが福井へやって来ます。
そうこうして2012年の3月〜2013年3月の間に、全5回講座「福井まちの担い手づくりプロジェクト」と、続編の全4回講座「福井まちの担い手実践プロジェクト」が開催されました。プロジェクトの初回には、「40名」の定員に対して「80名」に及ぶ応募がありました。
studio-Lの醍醐孝典さん。豊富な経験を元にした的確なアドバイスやアイデアに刺激され、プロジェクトメンバーは立ち上がります。
超満員で、熱気ムンムンの第1回目の様子。
福井の特徴として「参加者にデザイナーやクリエイターが多い」ことを醍醐さんにご指摘いただき、プロジェクトを組み立てていきました。物事を柔らかく考えてしなやかに動ける方が多く、“中間支援を必要とせず、自立して動ける組織”へ育っていったのは素晴らしいことですね。
自走できるチームづくりは、活動を長くつづけていく上で重要です。商店街活性、NPOの活動、まちづくりなど、どこでも大きな目標(課題)として挙げられています。
さて、プロジェクトは講座+ワークショップというスタイルで進行していきました。
「福井まちの担い手づくりプロジェクト」の第5回目には、講師としてstudio-Lの山崎亮さんが登場。
「まちで何かをしたい」という気持ちを持った人々が出会い、もともと備わっていた“形にする力”、まちづくり福井の後押しが合わさり、次々に色んな企画チームが動き出します。
チームのひとつ「きちづくり福井会社」は、メンバーが“志金”を出し合って運営する市民団体を立ち上げ、福井駅前の新栄商店街に「エキマエベース」という基地をつくり、ここへ日夜集うメンバーが作戦会議を行い、いくつもの企画を展開していきます。更に現在はNPO法人化して、日夜作戦会議を繰り広げています。
エキマエベースへみんなが集い、MTGをしています
最終プレゼン時には、初代代表の堀川秀樹さんの名刺が既に完成していました
「きちづくり福井」と同時期に立ち上がった「福イイネ!プロジェクト」も、勢いよく活動を進めていきます。
「福イイネ!プロジェクト」では、食通メンバーが普段使いする美味しいお店をFacebookで発信。こちらも、最終プレゼン時にはロゴが完成していました。後に、冊子「おいしく、つながれ、わがまちごはん。」を発行。
続編の「まちの担い手実践プロジェクト」で後発進したプロジェクト、「ベンチプロジェクト」も形を成していきます。
ワークショップでみんなで作ったベンチは、「ふく+」の前にも置かれています
「タビスル文庫」は、“本を通じて、人や地域がつながるシステム”を目指した企画で、その後、テレビや新聞でも大きく取り上げられるなど、今も尚、その範囲を拡大中です。
システムが分かりやすく記されたチラシ類も完備
市民先行で、次々と企画が実現していきますが、本質的にまちが変わる為には、行政も大きな鍵を握っています。行政が旗ふり役を務めることで、市民は確信を持って活動を推し進めることができるからです。
行政職員も、もっとたくさんの方に参加して頂けたらなぁという気持ちはありましたね。市役所、地元商店街、その他民間人のギャップの大きさを感じており、そこを埋めたいと思っていたからです。
「ふく+」では、市と、市民の接点が生まれました。これからは、商店街と地域の接点をつくっていくことが重要だと思います。“一緒に何かをする”という体験を、簡単でもいいからつくっていけるといいですね。
岩崎さんが思う、まちづくりの醍醐味
さて、地域の人々の間にどっぷりと浸かり、自分ごとのようにまちづくりを考える岩崎さんですが、元々は、まちづくりや商店街に特別に強い思い入れがあったわけではなかったそうです。
商工会議所に入ってからは、商店街の飲み会等には参加していたので、何となくお互いの顔は見えていましたし、ちょっとしたコミュニティはつくれていたかもしれません。まちづくり福井株式会社へ出向してから、更に皆さんと深く話をするようになり、次第に“この人たちと何かやりたいなぁ”という思いが強くなっていきましたね。
岩崎さんと商店街を歩いていると、色々な人から「どうも!」とか、「岩崎さん!」等と声をかけられます。その度に立ち止まり、ちょっとした近況報告を聞いたり、話したり、また「こちら、大阪からいらっしゃった楢さん」等と、必ず相手の方へ紹介をしてくださることも忘れません。
歩いてるだけで声をかけてもらったり、そういうの、すごく心地いいんですよね。それがすごくクセになります。
岩崎さんは、25年度より出向元の福井商工会議所の地域振興部地域事業課へ戻り、地域のお祭りやイベントを担当していますが、これからも個人的に商店街や中心市街地活性へ関わりつづけていくとのこと。また、今でも駅前で「おう!」等と声をかけられることがしょっちゅうだということです。
福井の中心市街地のムーブメント“火付け役”である岩崎さん。福井の中心市街地で何か新しいことを始める際に相談すれば、きっと熱く、温かく、誠実な人柄でもって答えてくれるはずです。
まちづくりのポイント
古くは「類は友を呼ぶ」という言葉がある通り、「誰がプロジェクトを発信するか」「発信者の思い」というのは、呼び寄せられる人々の“層”に大きく関わります。
「福井まちの担い手プロジェクト」では、「福井の中心市街地をなんとかしたい!」という純粋な思いに駆られ、日々行動していた岩崎さんの引力が働いてか、同じく思いを持った素晴らしい方が集まりました。さらに、みんなの思いを具体的な取り組みへ育て上げる過程では、studio-Lという中間支援者による戦略的なプロセスが効きました。
そして主役は、どんな時だって、まちの人々。どんなまちの、どんなプロジェクトにも言えることですが、ひとりひとりが考え、知恵を出し合い、思いをぶつけ、そして一歩も、二歩も行動したことで、このように目に見える動きへと進化を遂げています。