日々の暮らしのなかで、何気なく使っているカレンダー。予定を立てたり、記念日を記したり、豊かな暮らしには欠かせないものですが、改めて「暦ってなんなんだろう?」と、考える機会はあまりないかもしれません。
今回ご紹介する「地球暦」は、よく目にするカレンダーとは少し違います。大げさにいうなら、太陽系に生きている人たちのための“時空間の地図”。
今日は地球暦を頼りに、しばし地球を飛び出して宇宙は銀河まで、太陽系を真上から見下ろしながら、自分の居場所を探る旅に出かけてみましょう!
「地球暦」ってどんなもの?
地球暦と太陽系の星に見立てたピンたち
「地球暦」は太陽系を一兆分の一に縮小(正確には火星まで)して一枚の紙に落とし込み、春分から始まる円の一周で一年を表す暦です。
使い方はシンプルで。水星、金星、地球など惑星の軌道上の今日の位置にピンを立て、毎日ひとつづつ左周りにずらしていくだけ。そうすることで、今、地球が太陽系のどのあたりにいて、どの惑星とどのくらいの距離があるのかがお茶の間にいながら一目でわかるというものです。
地球の軌道には、日本の旧暦「二十四節気」を記載。季節ごとの節目にも意識を向けることができます。
杉山開知さん
地球暦を考案したのは、実家の農業を継ぎながら「半農半暦」な暮らしを実践する杉山開知さん。2004年から本格的に暦を作り始め、古代の暦から天文との関係を学ぶなかで、2007年に「地球暦」を完成させました。
杉山さんは地球暦をつくった理由について、こう話します。
杉山さん 普通に使われている暦は時代や場所が変わると、一瞬にしてまったく表現も意味も違ってくるものです。それは暦が自然に生えている草や花とは違い、人間によって作られた人工的、意図的なものだから。
でも、「今日」という日、「今」という時間はどこにいても違わない。同じです。時間は全ての生き物に平等に流れているからこそ、地球上で暮らす全ての生き物が使うことのできる暦として、地球暦をつくりました。
「今という時間は、言ってみれば「今、どこにいるのか?」ということ」と杉山さん。例えば、「あなたの人生が100歳までだとすると、ざっと3万日くらい。そして今日は1万日目ですね」と言われたら。今日という日が、自分の人生という、たったひとつのストーリーのワンシーンであることに気付きます。
普通のカレンダーに書かれている日付の数字が教えてくれない自分の今の居場所を、地球暦は教えてくれるのです。
杉山さん 私たちは、地球という自らも自転する玉に乗って、流れるプールに浮いたボールのように他の惑星たちと太陽の周りをぐるぐる周り、太陽系もまた銀河の中をぐるぐると周っています。
毎朝、水星、金星、地球のピンをひとつずつずらしながら、「おお、今日も地球はまわっているな」と客観的に自分の位置を見下ろしたとき、もう小さいことなど、どうでもよくなる。それが実は大事なこと。
価値観が変わり、視野が広がることで、結果として主体的に自分の時間を生きていくことができる。それこそが地球暦の重要なポイントなのです。
「地球暦」は鎌倉のまちづくりにも!
現在、地球暦は様々な地域で広がりを見せています。中でもワークショップで積極的に地球暦を活用しているのが、観光地としても有名な古都・鎌倉です。続いては「地球暦の案内人」として、数々のワークショップを展開している柴田信之さんに、お話を伺いました。
鎌倉は長谷にて先住民のクラフトショップ「middles」を営む柴田さん
柴田さん 鎌倉にはおもしろい商店主がたくさんいて、それぞれ面白いことをやっています。それを街全体としてもっと面白いものにするために、仲間との足並みを揃えたいと思っていて、「地球暦」を使い始めました。
というのも、一人のリーダーが引っ張るのではなく、みんながしっくりくる普遍的なツールが欲しかったんですよね。仲間のパン屋の大きなテーブルに、地球暦をばっと広げて、皆でのぞき込んで数秒。「これだ!」ってなった時のことは、今でも忘れません(笑)
まずは10名ほどの仲間で、実際に地球暦を使いはじめてみると、さまざまな変化が生まれていきました。
地球暦の初歩から、様々な用途に応じた活用方法をワークショップ形式で案内する柴田さん。
柴田さん 例えば季節に一度、「土用」という時期が18日間あります。これは四季の変わり目の準備期間にあたり、昔の人たちはこの時に衣替えをしたり、次の季節にそなえていました。そこでこの「土用入り」を機に、僕たちも準備をするようになったんです。
カフェやレストランで新メニューを考えたり、アパレルは次の季節物を備えたり。そして立春など季節の変わり目で、街に並ぶアイテムがガラッと変わる。
こうやって街が地球の軌道に合わせて変わっていくことが、結果として大きなエネルギーを持って、この街にきてくれるお客さんたちを楽しませたり、和ませたりする動きになってるんじゃないかな。
春分、夏至、秋分、冬至などの節目にお祭りを開催するにあたって、「今いる位置(日)からその当日まで、どのくらいの距離、どれだけの時間があるのかが一目で分かるビジュアルことが魅力」と柴田さん。
予定立てや四季の移ろいを感じるツールとしてだけでなく、「一歩がでないときのヒントになれば」という思いで地球暦を広めています。
”学校地球暦” 分かりやすいオペレーションも配信されています。 ©地球暦
付箋に名前と誕生日を書き、自分の誕生日の位置に張る。自分の生まれた位置から十月十日遡ると自分が生命になったおおよその位置、この世に存在していなかった区画などが視覚的にわかるのも地球暦の面白さ
まちづくりで、あるいは小学校などの教育の現場で取り入れられている地球暦ですが、大切なのは「変化を前向きに受け止めること」だと柴田さんは続けます。
柴田さん 僕たちの乗っているこの地球は、一秒に30kmの速度で太陽系の中を移動している。つまり、同じ部屋で朝起きても、実は全然違う場所にいるんです。更にこの太陽系も、ぐるぐる銀河を周っている。根本として、こんなに動いているものの上で暮らしているわけだから、変わらない訳がない。
一日一度、この暦を眺めながら、ぐるぐるしている地球を意識することで、変わって当然と思えるきっかけになればといいですね。
今ってど(度)のあたり?
時間の捉え方ひとつで、目の前の景色をガラリと変えてくれる地球暦。最後に開発者である杉山さんは、「その最も大切な考え方は、一年を度で測ること」だと伝えてくれました。
例えば、イベントなどの日付が決まるとき「めど(目処)が立つ」といいます。そして日が迫ってくると、その角度が鋭くなり、そして当日がやってくる。”角度”やその”間”を感じながら準備する。それを支える度と書いて「支度」という。
そうやって度を意識していくと、「今度、イベントやりましょう!」「今度って何度?」みたいな声も聞こえてくるかもしれません。
手帳やカレンダーの上で予定を立てるのではなく、宇宙の動きを感じながら、旅をするように予定を立てていく地球暦。ぜひみなさんもその奥深い魅力に触れてみませんか?