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ご近所づきあいから始める、暮らしのつくりかた。“通りに住まう”をデザインする「いえつく」角田大輔さんインタビュー

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(PHOTO:SHINICHI ARAKAWA)

どこに住み、どんな暮らしをつくるのか。本当に必要なものは何か。「暮らしのものさし」は、株式会社SuMiKaと共同で、自分らしい住まいや好きな暮らし方を見つけるためのヒントを提供するインタビュー企画です。

みなさんは、どのくらい“ご近所づきあい”をしていますか?

顔を合わせば挨拶くらいはするという人もいれば、「しょっちゅう一緒に遊びます!」という人まで。ご近所さんとのちょうど良い距離感は、人によって差のあるところかもしれません。

今回は、以前こちらの記事でもご紹介した、“ご近所づきあい”をデザインする建築プロジェクトの施主であり、「いえつく」メンバーでもある角田大輔さんに、その後の暮らしを聞きました。

家を建てるときから始まった、“ご近所づきあい”のデザイン

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この街を選んだ理由や地鎮祭のお知らせが手書きで書かれた「建築計画の概要」

東京・西荻窪からほど近い路地裏。住宅の建築予定宅にこんな看板が現れたのは2011年5月のこと。角田さんご夫妻をかたどった等身大のシルエットは、建築計画の概要。よく見ると、この街を選んだ理由や地鎮祭のお知らせまで書かれました。

これは“ご近所づきあい”をデザインする建築プロジェクトの、さまざまな「仕掛け」のひとつ。

他にも、ネイリストである奥さんが、工事中の敷地で開店したネイルサロン「青空ネイル」や、工事が進むと家に掛けられる養生シートに、通りがかる人が自由に絵やメッセージを描いてもらう絵馬を用意するなど、引っ越しをする前からご近所さんとつながる仕掛けが展開されていきました。

さらに施工後には、ご近所のみなさんを新居に招待する「ご近所祭」も。大人から子どもまで、たくさんの方が集まって、ここでの角田さんご夫妻の“暮らし”が始まったのでした。
 
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ご近所さんがたくさん集まってくれた「ご近所祭」の様子

ご近所さんとつながる、餅つきという“恒例行事”

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「いえつく」メンバーの角田大輔さん(PHOTO:SHINICHI ARAKAWA)

ご近所祭では、本当にたくさんの人にこの家に来てもらったと話す角田さんですが、住み始めてからは仕事が忙しくなり、家にいる時間が少なくなっていたそうです。

今振り返って考えてみると、引っ越して来る前に“ご近所づきあい”を始めてよかったと思っているんです。あの機会を逃していたら、ご近所の方と触れ合う機会ってほとんどなかったかもしれない。

週末に会えば世間話もするし、近くのカフェに行くとばったりとご近所さんと会って一緒にごはんを食べたりもする。コミュニケーションの土台が既にあると、会う頻度は少なくても自然と会話が弾みますね。

引っ越して来た年から、角田さんは、年末にご近所さんを呼んで餅つきをすることに。1回目はご近所さんのツテで臼と杵を貸してもらい、2回目は業者からレンタル。そして3回目となった昨年は、これからも毎年餅つきをやるのであれば、臼と杵を自分で持っていてもいいのではないかと、ついに購入に踏み切りました。
 
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通りで開催した、餅つきの様子

彼女が、自然とご近所の女性同士で連絡を取り合って、餅つきの準備をしていました。年始に食べるお餅や、鏡餅をご近所さんと用意できればいいなと思って始めたことですが、だんだん、餅のつき方なんかもうまくなっています(笑)。

餅つきの案内は、これまでは直前に声をかけていたのですが、昨年末には、毎年この日にやりますよ、とみなさんにお伝えしました。今年の年末から通りの恒例行事になりそうです。

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「ご近所さんと自然と連絡が取れる距離感っていいですよね」と笑う美花さん(PHOTO:SHINICHI ARAKAWA)

最初のまだ関係が浅いときは、誘い方って難しいなと思いました。それもあって、餅つきの案内をした際には、出欠の有無は聞かないようにしました。『餅つきやりますので、よかったらどうですか?』と。

もし自分が誘われたときにその場で来れるか、来れないかを聞かれたら、参加がちょっと難しいなというとき、断りにくいじゃないですか。

誘った時に相手に気を遣わせてしまうなという思いがありました。でも実際、やるほうはドキドキ感がありますけどね。何人分の餅米を用意すればいいのか検討がつかないですし(笑)。

単純に二人がやりたくてはじめようと思ったことですが、みんなでやったほうが楽しいかなとご近所さんに声を掛けてはじめた餅つきですが、やったことのある人はあまりいなくて、みんな面白がってくれているといいます。

今では冬になると、「今年もやるの?」って声を掛けられたりします(笑)。普段は見かけないけど、年に一度の餅つきで顔を合わせるというご近所さんもいる。同級生みたいですよね。一度仲良くなってしまえば、久しぶりに会っても、何気ない話で会話が弾みます。

家だけでなく、地域でもない 。“通り”という単位

角田さんが大事にしている“ご近所づきあい”は、家だけで完結しない、家のすぐ前の“通り”まで含めた住まいの考え方に根付いています。
 
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角田邸の前の“通り”(PHOTO:SHINICHI ARAKAWA)

住まいというものを、家の中だけで完結したくないと思っていました。普通は、家と家の外で大きな境界線がありますよね。家はプライベートなスペース。外はパブリックなスペース。このようなはっきりとした境界線を作ったことによって、外での活動が徐々に減ってきたのではないかと思います。

それによって、近所の人と会う機会が減り、近所に誰が住んでいるか知る機会も減りました。家の外で活動することの怖さというのはそこにあるのではないかと思っています。だから、ご近所に暮らす人を知っていたいと思いました。

そんな意識から生まれた建築のコンセプトは、“通り”まで含めた空間とすること。通りを家の空間の一部と考え、デザインされました。
 
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玄関を入るとすぐにあるのは、家と外との中間のような、土間のようなスペース

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通りに面して、玄関とは別の小さなドアがある。人の背丈ほどもない大きさに、あのドアは何だろう思わせる仕掛けがある(PHOTO:SHINICHI ARAKAWA)

地域として考えると少し大きな話になってしまうけど、“通り”という単位にすると考えやすくなる。

すごくシンプルなことですが、ご近所さんと会えば挨拶+αの会話がある。それくらいのゆるやかな関係性をどうやって暮らしのなかにつくっていけるかというのが、僕らの「暮らしのものさし」になるのかなと思います。

角田さんは、ご近所づきあいにはお互いに無理強いしない、ちょうどよさが必要だといいます。

昔は、ご近所さん同士がすごくつながっていたのではないかと思います。

決して町内会などの組織を否定するつもりはないのですが、町内会という組織ができ、まちの中での役割分担やルールがたくさんできてくると、それが堅苦しく思い、徐々に家の中で完結するような生活になってしまったのではないかと。その結果として、隣に住んでいる人をよく知らない、というのが今なのではないかと思います。

まずは外でご近所さんに会ったら、挨拶+αのコミュニケーションをする。何てことではないですよね。

挨拶くらいはするかもしれない。でも、「こんにちは」の次にもうひと声を掛けるのは、なかなかできていないことかもしれません。
 
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ネイリストである美花さんのネイルサロン「Ricetto(リチェット)」。看板のない隠れ家サロン(PHOTO:SHINICHI ARAKAWA)

今年の2月に大雪が降りましたが、通りの雪かきに外に出て見ると、みんながこの通りの雪かきを全部してやろうというみたいな意識を持っているように感じました。誰かがやってくれていたり、自分もやったり、一緒にやったり。すごくあたたかい感じがしますよね。

それでも、まったく交流のないご近所さんもいるのだとか。そういう温度差があるのは、ごく自然なこと。人付き合いのちょうどいい距離感は、人によって異なるものだし、強制できるものでもないのです。

昔は、お醤油をきらしたらご近所さんに借りるなんてことが日常だったと思うのですが、今は近所にコンビニもあるし、連絡手段も増えて便利になったことで、顔を合わせなくても、隣にどんな人が住んでいるのか知らなくても、暮らしが成立してしまいますよね。

でも、自分たちの生活をより豊かにするために、通りを通してご近所の方と関わりのある生活を大事にしたいと思っています。

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インタビュー中、ずっとご機嫌だった栞太(かんた)くん。音が気に入っていたのと、「栞」の語源「しおる」には、道しるべを残すという意味があり、自分自身で考えた一つ一つのことを栞として、先の見えない世の中を、その栞を頼りに切り開いていってほしいという思いを込めて名付けたのだそう(PHOTO:SHINICHI ARAKAWA)

ご近所さんとの、ちょうどいい距離感ってどのくらいだろう?自然と連絡を取り合える距離感は、どうやったらつくれるだろう?

ご近所さんとは、会えば挨拶くらいはするけど、顔を合わさないほうが気が楽だと感じることもあるかもしれません。

顔を合わせなくても、挨拶をしなくても暮らしは成立してしまうけど、あえて自分から挨拶をしてみること。さらに、挨拶+αの会話をしてみること。そうすることで、暮らしは変わっていくのかもしれません。

角田さんにとって、暮らしをつくることは、ご近所づきあいをつくること。

みなさんも、難しいことを考えずに、挨拶をすることからご近所づきあいを始めてみませんか?