グリーンズが毎月第2木曜日に開催している、グッドアイデアと出会う飲み会「green drinks Tokyo」。今回は、わたしたち電力がお届けする小さなソーラー映画館「リトルトーキョー・シアター by わたしたち電力」のオープンを記念して、30分ほどですが、映画上映がされました。
リトルトーキョーシアター館長となった、greenz.jpライターで映画大好き!な石村研二さんと、2009年より映画配給事業を立ち上げ、「市民上映」を普及させてきた「ユナイテッドピープル」代表の関根青龍(健次)さんをゲストに開催された、小さな映画館の市民上映会をレポートします。
原発事故から3年経ってなお、気づかない現実が目の前にある
今回上映されたのは、大震災と原発事故を経て、「本当にこれまでの価値観のままでいいのか?」という問題意識を持った映像作家、フィルムプロデューサーたちが集まって、各自の信念のもと自主的に作品制作を行っている「NoddIN」プロジェクトの『IVAN IVAN』と『マツマチ』の2本です。
この2本の映像を選んだのは、リトルトーキョー・シアター館長に就任した石村研二さん。
石村さん 映画って、感じることや受け止め方は人それぞれだけど、何かしら影響されて、考えたり、行動してみたり、行動しなくても人生が少し豊かになったりするのが面白い。社会課題を解決するヒントも、そこにあるのでは?
と語ります。
石村研二さん
『IVAN IVAN』は、関根光才氏がウクライナのチェルノブイリで撮影した短編映画で、チェルノブイリ原子力発電所事故による放射能汚染で居住制限区域となった故郷(原発から10km圏内)に、一度避難したにもかかわらず、自主帰還して事故後25年間も住み続けているひとりの農夫のドキュメンタリーです。
『IVAN IVAN』
『マツマチ』は、石井貴英氏によってつくられた、福島県浜通り北部にある「浪江町」を舞台に、このまちに帰れなくなった人々の気持ちを想った作品。娘と遊んだ公園。頑張って建てた一戸建ての家。帰りたくても帰れない、人が誰もいない、アスファルトや線路の脇から草木だけがただ茂っていく、からっぽの町が映し出されていました。
『マツマチ』
上映後は、参加者によるシェアタイムとして6〜7人ずつのグループに別れ、作品を観て感じたことを話し合います。
チェルノブイリの原発事故から時を経て、日本でまた同じことが起きている。『IVAN IVAN』の農夫は原発から10km圏内に住み続けているけど、人が暮らせなくなるって、地球が地球でなくなるというか。それって、人が生き物でいられなくなることと同義なんじゃないか。そんな怖さを感じました。
『マツマチ』で描かれていたのは、生まれ育ったいつでも帰れる“故郷”という場所を、得体の知れない何かが突然奪うことの怖さと、理不尽さなのではと思いました。しかも、奪うのは故郷という場所だけじゃない。九州方面へ疎開した母と子、東京で働き続ける父という関係がもたずに、離縁した方を3組も知っています。彼らは、どうして引き裂かれなければいけなかったのか。当たり前の幸せがたくさん奪われているんですよね。
これまでの暮らしの、何が間違っていたのか
原発事故について、3年経った今でも、福島第一原子力発電所の収束にどれくらい時間がかかるのか、地表に降り注いだ、あるいは海に流れ出した放射性物質をどうやって回収するのか、その回収技術を開発するのにどんな手だてがあるのか、いろいろなことが、まだまだ見えない状況です。
これまでの暮らしの、何が間違っていたんだろう。これからを、どう生きるべきなんだろう。参加者の話し合いから私が感じたことは、これまでと変わらない日常がありながらも、決定的に今までとは違う“意識の変化”があるということです。
メディアは、原発まわりの事実をちゃんと教えてくれないんですよね。原発事故が起きる前は、この不透明さ、曖昧さに気づかなかったんです。見ないようにしていたのかもしれないし、無関心だったのかもしれない。自分たちが本当に関心を払うべきことについて、関心を持たないできたというか、持たずに済んでしまっていたのかもしれません。
僕は出身が福島なんですが、福島ではテレビの天気予報で、今日の放射線量が出ている。この状況を、普通のことにしてしまってはいけないですよね。それから、避難区域に入っていないとしても、避難するのが正解なのか、正解じゃないのか、もう自分たちで判断しないといけない。自分たちの手で切り開いていかなければ、未来は手に入らないことが分かったんだと思うんです。
原発事故が起こるまでは、東京電力の原子力発電所が福島県にあることすら知らなかった人も少なくないのではと思います。東京という都市を支えているバックヤードとその構造は、“無関心”によって覆われて見えなかったのかもしれない。もっと言うと、無関心でなければ、原子力産業というのは成り立たないのかもしれません。
無関心のうちに築き上げられてしまった、とてつもなく大きな“ゆがみ”は、そう簡単には戻せそうにもありません。けれども、映画を観た後の“対話”を通じて、これまでのいろんな既成概念を取り払って、家族のこと、仲間のこと、それから政治のこと、経済のこと、エネルギーのことなど、暮らしにまつわるあらゆることに対して問い直すことの大切さを、参加した人それぞれが持ち帰る場となりました。
「市民上映会」を通して、未来への種まきを
この「リトルトーキョーシアター by わたしたち電力」は、エネルギーをつくったり減らしたりすることで生まれる幸せを考える市民活動のひとつとして、50Wのソーラーパネル、20Wh/5Hrのバッテリーでつくった電気をつかって映画を上映する、「市民上映会」かつ「ソーラー上映会」です。
前回の「市民上映会」については、こちらの記事でも紹介していますが、社会課題を解決するようなドキュメンタリー映画や映像をただ観るだけでなく、映画上映後に参加者同士で気づいたことや考えをシェアすることで、ほしい未来をみんなで知恵や意見を出し合って考えていこうもの。
ユナイテッドピープル代表の関根青龍さんからは、「映画でつながる。未来がはじまる。 cinemo」サイトオープンについてのお話をいただきました。
洋服を和服に変えて1ヶ月になるという関根青龍さん。「洗ってはいけないという事実にまず驚いた」という関根さんですが、暮らしの丁寧さ、消費や大量廃棄、洗濯にまつわるエネルギーすべての価値観を変える「着物」もひとつの社会の変え方。出張もこのバッグひとつだと語ります
関根さん 映画配給事業を立ち上げて5年になりますが、持続可能な社会をつくる、もしくは今の社会から脱却するためには、みんなでビジョンを共有して、ディスカッションしていくことが大切なのではと気づきました。そうすれば、その先の未来をつくることができると思うんです。
市民上映会といってもいいし、シネマダイアログといってもいい。対話を通して、社会課題が自分ごとになっていく場をつくりたいと、「cinemo」をオープンしました。
「映画でつながる。未来がはじまる。 cinemo」トップページ
この「cinemo」では、上映映画の予告編やクチコミ、市民上映会情報やレビューが閲覧できたり、市民上映会をやりたいと思ったら、全国にいるファシリテーターに打診をして、各自でスケジュールや謝礼の調整を行うこともできます。
映画には、人に感動を与え、心を動かし、行動を変える力があります。ひとりの関心から、関心を寄せる人たちを増やしていきたい。そんな希望を込めて誕生したのが「cinemo」です。
こうした思いに共感したグリーンズは、ユナイテッドピープルの協力のもと「リトルトーキョー・シアター」として、今後も2ヶ月に1度のペースで映画上映会を開催します。ぜひみなさんも、みんなで映画を観た後の“対話”を通して、ただ映画を観るのとは全く違う“種まき”体験をしてみてくださいね。
最後に、リトルトーキョー・シアター館長からみなさんへオススメ映画をプレゼント。ピンと来る映画があったら、ぜひ周りの市民上映会を開催してみてください!
リトルトーキョー・シアター館長/ライター/映画観察者
「日々是映画-ヒビコレエイガ」
東京生まれ。大学の法学部を卒業するも、法律に向いていないことに気づき、長いモラトリアム期間を過ごしながらひたすら映画を観る。 2000年にサイト「日々是映画」を立ち上げ、書くことを仕事にすべく駄文を積み重ねる。現在、ライター/映画観察者。greenz.jp以外には六本木経済新聞、WIRED.jpなどに出没。暇なときはSFを読んで未来への希望を見出そうとし、世界は5次元だと信じている。
リトルトーキョー・シアター館長、石村研二さんおすすめ映画20選
今回は、5万円程度で上映できる映画からおすすめを選んでいただきました!各映画についての紹介は、石村さんのコメント。ぜひ参考にしてみてくださいね。
<エネルギー/原発>
福島やチェルノブイリの原発事故がもたらしたものを振り返り、これからのエネルギーについて考える5本。
原発事故後、全村避難により6200人が避難生活を送ることになった飯舘村。そこで酪農家として家族とともに暮らしてきた長谷川健一さんが2011年4月から8月までの4ヶ月間を記録、そこに映った村の姿とは。
『プリピャチ』(100分、54,000円)
チェルノブイリ原発事故後も立ち入り禁止区域には、原発で働く人や移住先から戻ってきた人など様々な人が暮らしていた。事故から12年後のチェルノブイリで人々はどのように暮らしていたのか、モノクロの映像で淡々と描く。
『変身 - Metamorphosis』(63分、54,000円)
元NHKアナウンサーの堀潤さんが、福島第一原発事故(2011年)、米国のスリーマイル島原発事故(1979年)、そしてサンタスサーナ原子炉実験場事故(1959年)を取材。時間の経過とともに変化する問題について考える。
『パワー・トゥ・ザ・ピープル』(49分、32,400円)
再生可能エネルギー普及に取り組むオランダやデンマークの人々の活動を通して、わたしたちが直面しているエネルギー問題について考える。エネルギーの未来は消して暗くないと思わせてくれる作品。
『ミツバチの羽音と地球の回転』(135分、800円×人数)
エネルギーシフトを推進するスウェーデンと、対岸に原発が建とうとしている祝島、その2つの場所に暮らす人々の生活から、エネルギーの未来を考える。福島第一原発事故で顕在化する以前の原発問題への考察。
<経済/食>
ちょっと不自然そうな経済と食の組み合わせ、しかし、現代の食事情に大きな影響を与えているのはグローバル経済。経済と食の関係から私達の生活を見直す5本。
2011年9月に起きた「オキュパイ・ウォールストリート」ムーブメントからは単なるデモを超えた何かが生まれようとしていた。新自由主義と格差社会を覆す鍵は「愛」なのかもしれない。
『包囲:デモクラシーとネオリベラリズムの罠』(160分、30,000円)
新自由主義を批判的に捉え、その60年にわたる歴史をインタビューを通して描く。グローバル化を進めていくべきなのか、経済のローカリゼーションを進めていくべきなのか。
『バレンタイン一揆』(32,400円)
3人の女子高生がNPOの支援で児童労働の実態を知るためガーナに行き、チョコレート生産の現場を目撃する。チョコレートを通してグローバル経済と貧困を自分事に引きつける作品。
『モンサントの不自然な食べもの』(108分、52,500円)
アメリカで爆発的に増える遺伝子組み換え作物の種子の大部分を販売するモンサント社の実像に迫る戦闘的ドキュメンタリー。これからは「食」も経済に支配されてしまうかもしれない。
『ある精肉店のはなし(108分、30,000円)』*31人目から+750円
牛の飼育から食肉処理・販売まで全て家族の手で行う大阪府貝塚市の北出精肉店の仕事ぶりを追った作品。生き物を食べるということ、彼らを取り囲む環境の変化から被差別部落の問題までを描く。
<人生>
私達の人生は貧困や差別といったさまざまな社会問題に取り囲まれている。しかしそんな中でも自分なりの生き方を探す人たちを描いた5本。
30年かけてコツコツと現代アートの蒐集を続けてきた郵便局員のハーブと図書館司書のドロシー。彼らを通して「本当に豊かな人生」とは何かを考える。
『ヴィック・ムニーズ』(98分、50,000円)*2014年6月1日から7月13日は25,000円
ブラジル出身のアーティストが世界最大のゴミ処理場でゴミを使ったアートを制作する。彼の活動はそこで働く人たちを巻き込み、彼らの生き方や考え方に影響を与えていく。アートと社会とわたしたちの関係を考えさせられる作品。
『隣る人』(85分、50,000円)
「子どもたちと暮らす」ことを実践する児童養護施設「光の子どもの家」の生活に密着した作品。ふたたび子どもと一緒に暮らしたいという親なども登場し、親と子の関係、人と人との関係の有り様について考えさせられる。
『渋谷ブランニューデイズ』(78分、30,000円)
多い時で50人ほどのホームレスが寝泊まりするという渋谷区役所の駐車場<ちかちゅう>の夜間・休日の閉鎖が宣言された。そこでコミュニティを築いてきた人々が立ち上がる。貧困という重い問題を明るく考える。
『Able』(101分、32,400円)
アメリカでホームステイをすることになった、知的発達障がいのある日本の少年2人を追った作品。彼らを迎えたホストファミリーの夫婦からは、本当のバリアフリー社会について学ぶ事ができるかもしれない。
<戦争/歴史>
様々な記録を残すという部分で映像が果たす役割は大きい。私達が知っておいた方がいい過去、特に戦争や人々の戦いの歴史について知見を深める5本。
タイ・ビルマ国境の6人の未帰還兵に2005年から3年に渡りインタビュー。日本に帰らないという選択をした彼らの証言から戦争の「意味」を考える。
『ふじ学徒隊』(48分、50,000円)
沖縄積徳高女学徒看護隊「ふじ学徒隊」は25人のうち24人が生き残った。今も存命の証言者たちが生々しい体験を語る。戦争について証言できる人がどんどん減っていく中、生の声を映像であれ聞くことができるのは非常に重要。
『マンゴと黒砂糖』(95分、30,000円)
南洋群島帰還者によって毎年行われている慰霊祭に同行し、インタビューを行った。激戦を生き延びた帰還者たちは「生き残った」ことをどう捉え、戦争について何を思うのか。現地の人達との交流からも見えてくる「戦争」の意味。
『雪ノ下の炎』(75分、54,000円)
33年間を刑務所や労働改造収容所で過ごしたチベット僧のパルデン・ギャツォ、彼の生涯とともにチベットの歴史を振り返り、2006年のトリノ・オリンピックで彼が行ったハンガー・ストライキの様子を捉える。「人」から捉える歴史。
『FOR THE NEXT 7 GENERATIONS』(85分、540円×人数)*最低保証16,200円
アラスカ、南北アメリカ、アフリカ、アジアなどから集まった13人のグランドマザー、彼女たちはそれぞれの部族の伝統を叡智に行動を起こす。彼女たちの4年間を追った。大きな世界の歴史ではなく、それぞれのコミュニティに伝わる歴史から学ぶことが、今だからこそたくさんある。
石村さん 今回ミニ上映会を開催してみて強く感じたのは、存在すら知らなかったような作品を観て楽しんでもらえるというのはすごく嬉しいということと、皆さんと対話をする中で学ぶことが本当にたくさんあるということでした。
「市民上映会」というのはみんなで映画を観てそれについて話すという、ただ映画を観るのとは全く違う体験になると思うので、ぜひ一度来てみてください。そしてやってみてください。
リトルトーキョー・シアターの次回の開催は、6月4日(水)。ぜひ周りの人を誘って、足を運んでみてくださいね。