美しく並べられたボトルには、パスタやスパイスなど、たくさんの商品がぎっしり。思わず、「わー、素敵!」と声に出してしまうような、雰囲気にもこだわりが見られるお店「上勝百貨店」。徳島県上勝町にオープンしてからまだ1年のお店ですが、すでに県外からもファンが訪れる場所になっています。
人々がわざわざ足を運ぶ理由、それは、店内のディスプレイが美しいだけではなく、「ごみを出さない売り方」にこだわるお店の姿勢に共感しているから。
日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を掲げ、ごみを減らす取り組みで一歩先を行く上勝町。そんな上勝町が、“これから目指す姿”を表現したという「上勝百貨店」とは、どのようなお店なのでしょうか。
海の源をたどっていったら、ここに行き着いたんです
トタンでできた外観の無骨さも、見るほどに味わいが出てくる
広い空き地のような眺望の良い場所に建つ、一見倉庫のような平屋。大きな「上」の文字にインパクトのあるこのお店こそが、昨年1月にオープンした上勝百貨店です。
創業者のひとりである小林篤司さんは、21歳の若さでIT関係の会社で起業。そこでコンサルティング業務を行う反面、海苔漁の未来を考え、徳島県の現役海苔漁師たちと「株式会社海苔漁師」を立ち上げ運営するなど、幅広い活躍をしています。
そんな中、海苔漁師さんと話していたら、こう言われたのだそう。
小林くん、海はどこから来ていると思う? 海の向こうには川があって、その向こうには山がある。だから、次は山を守ることをやってくれないか。
その言葉をきっかけに、山のことを調べはじめた小林さん。そして、行き着いた先が上勝町だったのだと言います。
上勝町は、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を掲げた町としても知られています。町のみなさんが本当に回収場所でごみを34分別している姿を見たときは、やはり衝撃を受けました。
そして、同時に、これからは、そもそもごみを出さない“買い方”ができるお店を作ればいいのではないか、それがこれからの上勝が目指す姿なのではないかって思ったんです。
と、小林さんは話します。このようにして生まれたのが、美しく陳列されたパスタや調味料、業務用容器に入ったシャンプー類に至るまでを量り売りで買うことができる、独特のスタイルで営業する“百貨店”だったのです。
「若者が惹かれるような魅力的な仕事を創り出していきたい」と話す小林篤司さん
買った商品は、地元の老人ホームのおじいちゃんおばあちゃんがアクティビティとして作った、オリジナル新聞紙バッグに入れてもらえます!
必要な分だけ重さを量って購入することができるので、独居の方々には既製品よりも経済的。「上勝産」が優先的にならんでいるのも素敵です
「詰め替え用を買っても、その袋がごみになってしまうなら、お店で詰め替えるのが一番効率良いですよね」。ものを買うことは、ごみを増やすことではない。このお店は、日常で何気なく出ているごみについて改めて考える機会を提供してくれるのです。
演奏会や図書館機能まで。進化し続ける百貨店
上勝百貨店は、そのお店のコンセプトや独特の形態の新しさが目を引きますが、それだけにはとどまらず、開店後の今も、新しい取り組みを次々とスタートさせています。
肌寒くなってきた今の季節からは、休憩スペースの暖炉に火が入ります。暖かな雰囲気が漂う憩いの場となり、そこには、読書をする人の姿もちらほら。そう、最近、店内に「上勝図書館」がお目見えしたのです。
ここに並んでいるのは、スタッフが譲り受けたというさまざまなジャンルの本、100冊。将来的には2万冊を目指しているのだとか。その場で読書が楽しめるだけでなく、気に入った本があれば無料で譲ってもらえるのだと言います。買い物のついでにゆっくりと文学に触れられる、素敵なサービスです。
買い物のついでにゆったりと話せるのも魅力
買い物する人たちには考える機会を提供し、働く人には活動のステージを提供する。だからこそ、「この場所で何かしたい」と訪れる若者も多くなる。今までの売り方にとらわれること無く進む上勝百貨店のこれからをお楽しみに!
(Text:taraxacum 中村優)