与えられる電気だけに頼らず、自然の力を借りて自分たちの手でエネルギーを生み出し、暮らしの中で使いたい。そう考える人たちによるご当地発電が各地に増えつつあります。
一つを見ると小さな活動ですが、電気との付き合い方を大きく変える可能性を秘めたムーブメント。2013年12月には鹿児島市でもソーラーオフグリッドシステムのワークショップが開催されました。
テンダーさんの楽しいワークショップ
講師を務めたのは鹿児島在住、「ヨホホ研究所」主宰の小崎悠太さん(通称テンダーさん)。電気・水道・ガスの契約をせず、ネイティブインディアンの技術から電子回路までを使いこなし、“なるべくお金を使わずにラクに生きるため”の方法を実践、ウェブサイトで公開している人物です。
2012年に「鹿児島電力」を設立し、イベント音響電源を自転車による人力発電で提供したり、独自の電子楽器「パンダフディーオ」づくりのワークショップを開いたりと、ソーラー以外の活動も行っています。今回のワークショップは「green drinks KAGOSHIMA」の菊永さん(きくちゃん)と石川さん(せいちゃん)がテンダーさんに依頼して実現しました。
自分のモバイルゲームが充電できると思うととても楽しみ。ソーラーライフ、バッテリーライフのスタートになればと思って参加しました。
オフグリッドシステムで携帯やパソコンの充電ができると話してもピンと来ていない妻に、実物を見せてその良さを伝えたい。
この日の参加者は4人。まずは自己紹介から始まり、各々がこの日の意気込みを発表しました。お互いのニックネームを決め、緊張もほぐれたところでワークショップは座学へと移ります。
鹿児島電力でんきガイドの始まりだよー
テンダーさんの掛け声で始まったのは、小学6年で学んだはずだけど、いつのまにか忘れてしまっている電気の仕組みについて、改めて勉強する時間。直流、交流、電圧(V)、電流(A)、電流(W)の説明や、たとえばノートパソコンなら40~100Wが必要、など暮らしの中の具体例を出しながら参加者に電気についての理解を深めてもらいます。電気を扱うということで、システムを自作する際の注意点もここで説明されました。
10分弱で座学は終了。いよいよソーラーオフグリッドシステムを組み立てていきます。“テンダーオフグリッドモデル”のキットは以下のセットが基本。
・ソーラーパネル(100W)
・チャージコントローラー(10A)
・ディープサイクルバッテリー(120Ah)
・スイッチ付き4連シガーソケット
参加費は基本セットで45000円前後です(時価のため変動します)。
バッテリーの+と-を確認し、ケーブルでチャージコントローラーにつないだり、ソーラーパネルのコネクタを分解したり、ハンダ付けをしたり。慣れない作業に悪戦苦闘しながら進めていきます。
箱からソーラーパネルを取り出すと「おおおー!」と歓声が
アドバイスをもらったり協力し合ったりしながら、少しずつ完成に近づきます。
参加者からの質問に、テンダーさんはすぐには答えを教えません。「どうすると思う?」とまず考える時間を与え、ヒントを出しながら一緒に答えを導き出します。これは電気のしくみをしっかりと理解してもらうため。自分の頭で考え、手を動かすことで「そもそもこの2本線の意味は何なのか」「電流が流れるということはどういうことなのか」という考え方そのものを持ち帰ってもらおうとしているのです。
その狙いがしっかりと実を結んでいるのは、ソーラーオフグリッドシステムを完成させた参加者のみなさんの感想からもわかります。
今まで手の届かないものだと思っていたソーラーシステムが自分の手で作れちゃったことがとてもうれしい。テンダーも言っていたように構造をよく見ればどのように加えたらいいかがわかりました。
僕の部屋のテレビにつなぐための線を帰ってから作ろうと考えています。アダプタの形はどうだったかな……。電気のことはまったく知らなかったけど、これからハンダゴテを使って作業の日々が続きそうです。
この日から、参加者それぞれのオフグリッドライフが始まりました。
ワークショップの最後にはLEDライトの点灯式が。
電気をどう使うか
実はテンダーさんはソーラーオフグリッドシステムを通過点だと考えています。根底にあるのは“自分たちが生み出せる以上のものを与えてもらうこと”への疑問。人間が自らの力で作れる電力は100~300Wほどと言われています。最終的には人力発電を追究したいという彼は、これで賄えるだけの暮らし方に目を向けるべきだと話します。
でも物事のシフトは急にできるものではなく、同時進行で少しずつ変わっていくもの。まずはソーラー、そして人力と段階的にエネルギーシフトをしていく手段を自分なりに提供していければ。
アイテムのシフト以上に感性を育てることを重んじるテンダーさんと過ごした1日は、“どうやって電気を作るか”だけでなく、“作った電気をどう使うか”と考えることにまでアンテナを振るきっかけを与えてくれました。
エネルギーを自給自足する暮らしは少しずつ始まっています。あなたもこのムーブメントに参加してみませんか?