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市民電力で、地域の未来をつくる!コミュニティ発電所「多摩電力」に取り組む、山川勇一郎さんインタビュー

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

3.11以降、自然エネルギーを活用した市民による地域電力が全国で次々と生まれています。住民同士がつながって、地域のために協力することで、新しい取り組みがどんどん始まっているようです。これらの取り組みから伝わってくるのは、自分たちで地域の新しい未来をつくるという熱い思い、未来をつくるワクワク感に加え、かかわっている人たちが生き生きとしていること。

東京都・多摩市で太陽光による発電事業を運営している「多摩電力合同会社」もそんな取り組みの一つ。多摩電力の活動も正に市民のつながりから始まりました。

市民の力で地域に根差した「コミュニティ発電所」をつくっている多摩電力の活動はどのようなものなのでしょうか?日本有数の環境教育法人であるホールアース自然学校で10年間にわたり、プロの自然ガイドを務めた後、2013年4月から活動に参加した多摩電力・多摩センター事務所長の山川勇一郎さんに聞いてみました。

私たち市民が取り組む自然エネルギー事業

多摩電力は、東京都・多摩市で市民が地域の太陽光発電に取り組む事業会社です。この会社がつくられたのは、「市民の力でコミュニティ発電所をつくる」、「地域でヒト、モノ、カネ、エネルギーを循環させて、自立した循環型社会をつくる」という市民の強い思いを実現するため。

「コミュニティ発電所」とは市民が出資を含め自分たちの手でつくる、自然エネルギーを利用した地域みんなの発電所のこと。みんなが安全で安心して使えるエネルギーを活用して、そこから生まれる利益が地域で循環することによって地域が豊かになることを目指しています。

多摩電力は多摩市民である社員10名が資本金670万円を出し合い、出資者全員が社員となって経営にも関与するという合同会社の形態で、2012年10月29日に設立されました。現在は社員21名、資本金は2013年6月に増資され1,200万円に。

都心のベッドタウンとして開発された多摩ニュータウンにはメガソーラーパネルを設置するような広い土地はありませんが、団地やマンションなど集合住宅が集まっています。多摩電力は、土地の代わりに、これらの集合住宅や学校などの民間・公共施設の屋根に太陽光パネルを設置して発電。多摩市の住民(約14万6千人)の7割が集合住宅に住んでいるという地域の特徴を活かしています。

彼らはこれまで電力の消費地だった都市部が発電する地域へ変わるために、他の都市部も採り入れられるような事業モデルの確立を目指しています。都市部で発電できるようになれば、「地方でつくって、都市部で消費する」という従来の構図を変えられます。

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山川勇一郎さん  写真提供:山川氏

市民運動から生まれた活動

では、どのようにして多摩電力は生まれたのでしょうか?

多摩電力は、地域の自然エネルギー普及と循環型社会を目指す「一般社団法人・多摩循環型エネルギー協会」(以下、多摩エネ協)が母体となって生まれました。協会の会員はもちろん多摩市民。多摩エネ協の主な活動は、市民の間で自然エネルギーの活用に関心を持ってもらう啓蒙活動です。

そして、小規模分散型の再生可能エネルギー事業を実行する事業会社が多摩電力。この二つの組織は自転車の両輪のように連動しており、多摩電力がサッカーチームの選手だとしたら、多摩エネ協は監督・コーチ兼サポーターです。

多摩エネ協の前身は、2011年5月に発足した自然エネルギー普及の市民運動である「エネルギーシフトをすすめる多摩の会」。東日本大震災が引き金となった東京電力・福島第一原発の事故を受け、原発に頼らないエネルギーについて話し合う市民の集まりから発展しました。

会の発足後、エネルギーに関する講演会や映画(『シェーナウの想い』、『第四の革命』など)を上映して啓蒙活動を開始。そして、活動を継続していきたいという市民の思いから、1年後の2012年5月11日に「多摩市循環型エネルギー協議会」が設立されました。その後、同年7月23日に営利以外が目的の法人である一般社団法人となり、「多摩循環型エネルギー協会」へ。2013年12月末現在で会員数は152名まで増え、多摩電力の頼もしいサポーターとなっています。

現在は講演会や「エネカフェ」と呼ばれる、市民がお茶を飲みながら自然エネルギーについて話し合う月一回のイベントに加え、エネルギーや環境問題について学び、行動する若者を育成する「次世代リーダー育成プログラム」(2013年度「セブン-イレブンみどりの基金」助成事業)や小中学校への出前授業など教育も積極的に行っています。また、市民が気軽に地域のことを話せるように、事務所を開放して市民のサロン的な場所に。

「住民同士が地域のことでつながりを深めることで、何かが生まれるきっかけになれば」と山川さん。多摩エネ協はこうした活動を通して、地域の人たちがつながり、個人も地域も豊かになることを目指しています。

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エネルギーについての市民の話し合い「エネカフェ」 写真提供:多摩エネ協

一般的に多摩市は地域活動が活発と言われており、多摩エネ協や多摩電力の土台となるコミュニティが存在していたことも、広く協力を得られる要因のようです。さらに、多摩市は2011年11月1日に市制施行40周年を迎えたことを機に、核兵器の廃絶と原子力に依存しないエネルギー社会の実現を目指す「非核平和都市宣言」を制定しており、多摩電力の活動は行政からも理解と協力を得られやすい環境となっています。

また、多摩エネ協は環境省の委託事業である「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」の2012年度募集に応募し、同年9月に採択されました。これを受け、同年10月に多摩電力の設立に加え、地方自治体、金融機関、商工会議所、学識経験者、住民で構成される地域ぐるみの「多摩市再生可能エネルギー事業化検討協議会」が立ち上がりました。

「地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務」とは、全国から地域主導型の再生可能エネルギー事業に取り組む団体を選び、国のモデル事業に育成・支援することを目的とした環境省の公募事業で、3年間の委託事業です。2012年度は全国から52件の応募があり、多摩エネ協は8団体の1つに選ばれました。

パーマカルチャーとの出会いが「次の生き方」のきっかけに

山川さんは自然エネルギーシフトの活動にどのような経緯でかかわっていったのでしょうか?現在は多摩エネ協や多摩電力で活躍されている山川さんも、若い頃は試行錯誤を繰り返しながら、自分の生き方・働き方を模索していたそうです。

山川さんは、登山と渓流釣りが趣味である父親の影響で、小さな頃から自然に親しんでいたそうです。環境問題については大学入学時から関心があり、大学時代も古着を集めて途上国に送る活動や環境保護活動に関わっていたのだとか。

ただ、山川さんが大学を卒業した当時は「CSR(企業の社会的責任)」という言葉もなく、「環境」というキーワードでの就職先はごく限られたものだったため、一旦は環境業界ではない企業に就職。北海道支店に赴任した時に大自然と接することで、ますます自然が好きに。

一方で、趣味の渓流釣りをするために山奥を走っていると、2車線の舗装道路に突然出くわすなど、北海道での開発の実態に衝撃を受けたそうです。「自分たちの知らない所で、とんでもない自然破壊が起きている。これは何とかしなければいけない」。

しかし、ただ反対するだけでは、その開発が止められたとしても、根っこの部分は変わらないだろうと感じていたため、もっと違うアプローチ、例えば、「人のライフスタイルが自然に寄り添う形になっていくべきだ」と考えていた時に出合ったのが「パーマカルチャー」でした。

パーマカルチャーは「持続可能な農業・生活」と訳される農的ライフスタイルの方法論で、それは日本の里山の暮らしをベースにしてオーストラリアで体系化されたものです。私はその思想に強く惹かれ、オーストラリアに学びに行きました。オーストラリアでは専門の学校に通ったり、実践者の家に住み込んだりして学びました。

パーマカルチャーを学びながら、「次の生き方」を模索していたところ、不思議な縁ですが、オーストラリアの人から、「持続可能な暮らしを実践しつつ、それを世の中に問いかけていく、自然学校という業態が日本にある」ということを聞きました。調べてみると、自然学校の草分けである「ホールアース自然学校」が人材を募集していたので、試しに応募したところ、運よく受かったんです。それがホールアース自然学校との出合いでした。

自然学校の活動を通して、社会イノベーションを目指す

ホールアース自然学校は、富士山麓に拠点を置く30年以上の歴史がある自然学校の老舗で、キャンプやトレッキング、熱気球といった自然体験を通じた環境教育を行う民間の団体です。ただ、ホールアース自然学校の特徴として、単なるそうした非日常の体験だけではなく、家畜動物を飼い、畑や田んぼを営むなど、いわゆる「里山の暮らし」を通じて「人と自然のあり方を問い直す」といったことを大切にしています。

実際の仕事は多岐にわたりますが、富士登山やキャンプといった現場のガイド活動がメインで、子どもからお年寄り、外国人に至るまで、組織としては年間6万人、私個人としては年間3,000人ほどの人を自然の中に案内しました。現場の活動に加え、そうした活動をする指導者を育てるため、アマチュアからプロ、またJICAと共同で途上国の国立公園で活動するレンジャーの教育なども行いました。

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写真提供:山川氏

大人向けの四季講座という1年間の指導者養成コースでは、受講者がその経験を機に田舎に移住したり、自然学校を立ち上げたりと、プログラムの参加をきっかけに「人生の新しい一歩」を踏み出す多くの人に立会ってきました。また、キャンプでは今まで食べられなかった野菜を、自分で収穫したことで食べられるようになった子供たちにたくさん出会いました。そうした人々のポジティブな変化の現場に立ち会えることが、この仕事の醍醐味とも言えます。

自然学校はこうした「自然体験」という誰でも入れる広い窓を通じて、人間の生活と離れてしまった自然をもう一度身近に感じ、大切にする心を育むことで社会変革を起こそうという運動です。自然学校が目指す究極の社会は「自然学校のない社会」であり、そうした活動をする団体が必要なくなるほど一般化した時、自然と人との調和した関係が構築されたと言えるのではないでしょうか。

私は自然学校で、自然教育の現場に対するこだわりは持ちつつ、キャリアの後半は「場づくり」、「仕組みづくり」という意識を強く持ちながら、参加者の「意識」や「生き方」が変わる「場」を社会にいかに広げるか、ということに注力していました。具体的には企業と連携した「森づくりプロジェクト」や「古民家再生を通じた人づくり」、デザイナーと連携した「木育プロジェクト」の立ち上げなどです。

また、キャリアの後半では社会イノベーションについて追求したいと思い、働きながら母校の大学院で社会イノベーターコースに入学して、環境教育や自然学校の社会イノベーションについて研究をしました。大学院時代に社会イノベーション分野のネットワークを広げられたのも、その後の活動に活きていますね。

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社会起業家などの仲間と 写真提供:山川氏

故郷でエネルギーシフトの市民運動に身を投じる

ホールアース自然学校(静岡)に長年勤め、大学院で自然学校による社会イノベーションの研究をするなど、仕事も地域も自分に合っていたので、そのまま静岡に永住することも考えていました。そんな状況から、多摩電力と多摩エネ協の活動に身を投じるようになった直接のきっかけは、やはり3.11です。

震災後1週間ほどで福島県のいわき市に支援活動に行き、その後も何度か足を運びました。ほんの少しでも役に立てたと思えた一方で、自分たちが普段意識せずに使っている大量の電気をつくり出すために建てられた発電所で甚大な事故が起きたという現実を改めて目の当たりにし、「自然エネルギーへのシフトの必要性」、「防災への取り組み」、そして「それらと正面から向き合い、真剣に取り組んでいく必要性」を強く感じました。

ただ、当時は株式会社ホールアースの取締役で経営の仕事に日々追われる中、こうした取り組みに対して、立場上、自分ができることの限界も感じていました。

そんな折、生まれ故郷である東京都・多摩市でエネルギーシフト運動が本格化。事業会社を立ち上げて本格的にソーシャルビジネスとしてこの活動を広げていこうとしていること、その中心メンバーに父親がいたこと、一緒に活動してくれる若い人を求めていることを聞きました。

自分の中で故郷に貢献したいという思いに加え、自然エネルギーへのシフトは社会に絶対必要だと考えていたこと、それは「今」やらなければいけないということ、活動に関わる人の本気を感じたこと、単にボランティアではなく、公共性を持ったビジネスとしてやろうという明確な意図があったため、地元でエネルギーシフトの市民運動に参加することを決めました。

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写真提供:多摩電力

市民の手で地域みんなの発電所をつくる仕組みとは

では、市民の手で太陽光発電事業を進める多摩電力の事業モデルとはどんなものなのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

まず、太陽光パネルを設置する場所ですが、団地やマンションなどの集合住宅、学校などの民間・公共施設の屋根に設置します。建物の屋根を貸してくれるオーナーと多摩電力が賃借契約を結んで設備投資をし、屋根貸しオーナーに毎月賃料を支払います。また、屋根貸しオーナーは災害などの停電時には太陽光発電を自家発電に切り替え、無料で電力を使えるメリットも。もちろん、太陽光パネルなどの機材調達、設置や修繕などは多摩地域の施工業者に発注するなど、あくまでも地域にこだわります。

次に太陽光パネルの設置にかかる資金調達ですが、趣旨に共感して出資してくれる市民を“志民”、市民の思いがこもったお金を“志金”として、主に市民を対象としたファンドで集めます。ファンドの募集はトランスバリュー信託株式会社に委託して、「たまでん債」という首都圏初の「ソーラー市民ファンド」で出資を募集。たまでん債は一口10万円から。市民ファンドで足りない分は、多摩地域の金融機関である多摩信用金庫から融資を受けます。

資金を調達する「たまでん債」の信託期間(運用期間)は15年。元本は2年据え置きで13年均等償還されます。トランスバリュー信託によると、1口(10万円)出資の場合、元本は3年目から年に7,700円償還。配当は元本残高に対して2%で、予定配当金は計1万4,396円。15年間で元本と配当を合わせて計11万4,396円を受け取る予定となっています。第1回目の配当の半分は、地域の環境と福祉の向上のための寄付に充てられます。

設置した太陽光パネルで発電した電気は、2012年7月に施行された「固定価格全量買取制度」(FIT)を利用して、一定単価(固定価格)で全量を東京電力に売電。例えば、発電業者の発電設備(太陽光)が国に認められ、2013年度中に売電を開始した場合、出力10KW以上の設備の売電単価は1KWh当たり税抜36円(2012年度は税抜40円)。電力会社の買取期間は20年間です。

FITは建設コストなど多額の費用を長期にわたって、安定的な回収を保証することで、民間による再生可能エネルギーへの発電投資を促しています。ただ、技術進歩や設備の普及、市場競争に伴い、建設・設置コストが変化する(通常は下落する)ため、新たに参入する発電事業者に適用される電力会社の買取価格は毎年見直されます。

多摩電力は売電で得た収入を、たまでん債に出資してくれた人へ配当として、屋根を貸してくれた建物のオーナーへ賃料として支払ったり、地域の環境や福祉の向上のために寄付するため、お金が地域で循環する仕組みとなっています。

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事業の仕組み 多摩電力ホームページより

資金調達と今後の目標

多摩電力は2013~2014年度までに6億円を調達する計画で、半分を「たまでん債」で、残りの半分を地域金融機関である多摩信用金庫からの融資で賄う予定です。コミュニティ発電所第1号である「恵泉女学園大学」向けの資金調達は、特定の個人・団体、関係者に出資を声掛けする私募債の形で、目標額を900万円に設定し、出資を募りました。

結果、同社関係者14人がこれに応じ、目標額の900万円(30口)を調達。一人で複数口を購入しており、一人当たりの出資額平均は64万2,857円。この私募債の償還期間は15年間で配当は元本残高に対して年2%、元本は3年据え置きで12年均等償還です。出資額に対する初年度配当(2014年)の平均額は1万2,857円の予定だそうです。

また、コミュニティ発電所第2号となる「老人福祉施設 ゆいま~る聖ヶ丘」は、不特定多数の出資者を対象としたファンド「2013年度第1期たまでん債」で昨年4~5月に募集し、目標額1,500万円のうち、多摩市民を中心に840万円の応募があったそうです。たまでん債で足りない資金は、多摩信用金庫からの融資で賄う予定。第1期たまでん債に応募した人の中には「配当はいらないよ」という人もいたそうで、地域の取り組みに熱心な人が多かったのだとか。

2013年度の設備認定はおよそ650KW。2014年度には2メガワット(2,000KW)の発電所建設を目標としています。コミュニティ発電所の第1号は「恵泉女学園大学・南野校舎」で、屋上に出力30KW・約500平方メートルの太陽光発電設備が設置されました。昨年7月6日から発電を開始しています。続く第2号は「老人福祉施設 ゆいま~る聖ヶ丘」に約56KWのパネル設置が決定し、昨年12月9日に着工。今年1月に工事を完了する予定で、翌2月から発電を開始する計画です。また、その他の物件も複数交渉が進んでいるそう。

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恵泉女学園大学の屋上に設置された太陽光パネル 写真提供:多摩電力

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恵泉女学園大学 屋上での発電開始式 写真提供:多摩電力

「目標である2メガワットのハードルは高いですが、市民の間に理解が広がれば達成できない数字ではありません。仮に多摩市の集合住宅のすべての屋根に太陽光発電を載せたら、市内の電力使用量の約4割を賄うことができます」と山川さん。現在は多摩市を中心に活動していますが、今後は多摩ニュータウンが広がる他地域(八王子市、稲城市、町田市)にも事業を広げていく方針。

ただ、多摩地域以外へ事業を拡大する予定はなく、「自分たちの事業モデルに共感してくれた他の地域が我々のモデルを採り入れて、住民自らが事業に取り組んでほしい。そのためにも自分たちの事業を確立して、全国のモデル事業になることを目指している」と言います。そうやって各地に屋根借り太陽光発電が広がり、自立する地域が増えていけば、自ずと社会も変わっていくという思いを持って多摩電力のメンバーは事業に取り組んでいます。

原発などの大規模な発電所のように自分たちの地域から遠く離れた所で発電するのではなく、自分たちが住んでいる地域で発電することが大事。そうすることによって地方で発電した電気を都市部が消費するという構図が変わっていくはずです。

事業が軌道に乗れば、人を雇うこともできるようになります。

地域主導で事業を継続していくには、地元での雇用が必要になってきます。また、自然エネルギー事業は設備投資にまとまった資金が必要で、回収も長期にわたる息の長いビジネスであるため、どうしても若い人の協力と参加が欠かせません。父親の世代や僕たちの世代で事業が終わってしまっては意味がないですからね。続けていくことが大切です。

また、自然エネルギー事業が地域に浸透して、市民の意識や生活スタイルがシフトするにも時間がかかります。「これからの時代を担う若い人たちが、地域エネルギーの未来を握っています。だから主役である若い人たちには地域の活動に積極的にかかわってほしい」と、山川さんは多摩エネ協で前職の経験を活かし、昨年6月からエネルギーをテーマにした「次世代リーダー育成プログラム」を始めました。

これは多摩地域の大学に通う大学生・大学院生を対象として、自然エネルギー・地域づくり・環境教育・ソーシャルビジネスをキーワードに、学生が月1回のペースで集まり、体験活動と現場での研修活動を通じて、社会や地域の課題のために行動する次世代を育成する1年間の教育プログラム。

仕事経験も人生経験も豊富な多摩電力・多摩エネ協メンバーが試行錯誤を繰り返しながら、自然エネルギー事業に取り組んでいる姿を生きた教材にしてほしいですね。プログラムの中で、学生が自ら企画し、行動を起こして、そこから学んでいく場が必要だと考え、プログラムを企画しました。

若い人には失敗を恐れず、いろいろなことに、どんどんチャレンジしていってほしいですね。答えのない時代をどう生きるか?自分がいいと考える未来に向かって、行動できる若者を一人でも増やしていきたいんです。

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次世代リーダー育成プログラム 写真提供:多摩エネ協

自然学校の経験が「自然エネルギー事業」や「地域づくり」に活きてくる

山川さんは、ホールアース自然学校での経験・スキルが「多摩電力・多摩エネ協での活動」や「地域づくり」に活きていると言います。

私はホールアース自然学校に10年余り在籍しましたが、自然学校の仕事は自然と人を同時に相手にする仕事で、「リーダーとしての総合的な力」が求められます。これらは自然に対する専門知識やアウトドアスキル、野外で活動するための体力・精神的なタフさはもちろんのこと、様々な教育プログラムをゼロからカタチにしていく企画力と創造力、プログラム参加者に対するコミュニケーション能力やホスピタリティ、人をまとめる力、ハードな状況でもそれを感じさせない笑顔やプロ意識などです。

多摩電力や多摩エネ協の仕事も自然学校と同じように、「リーダーとしての総合的な力」が求められる世界だと感じています。特に、地域での活動は様々な利害関係が交錯します。そうした関係に注意を払い、バランスを取りながら事業を実現していくためには、話し合いを通して立場の違う利害関係者を説得したり、いろいろな問題を解決していく粘り強さ、何が何でも事業を実現するという強い意志とリーダーシップが求められます。

自然エネルギー業界に入って10ヵ月が経とうとしていますが、自然学校の経験から独自性を発揮できるポイントはたくさんあると感じています。教育プログラムやワークショップ、イベントの企画・運営、人材育成などは自然学校で数多く実施してきたことですが、自然エネルギー業界は正にこれからです。また、コミュニティ発電所をつくるには、いろいろな問題をみんなで話し合いながら、一つ一つ解決していくので、コミュニティづくりに似ています。それにはファシリテイターのような存在も重要。これらの分野の知識や経験、スキルがある人は自然エネルギー業界やコミュニティづくりに力を発揮できると思いますね。

他に自然学校での経験が自然エネルギー事業への取り組みに影響を与えているのは、「エネルギーの捉え方」でしょうか。自然エネルギーを単なる電気、石油や原子力の代替手段とかビジネスの手段という狭い範囲で捉えるのではなく、もっと広い「生命の源」というような観点で捉えると、可能性がぐっと広がってくると感じています。そうしたことを地域特有の環境や課題に合わせて、いかに現場の活動に落とし込んでいくかが腕の見せ所だと思いますし、いい意味で人の予想のつかないようなことを世の中に提示していきたいですね。

一人ひとりが幸せに、そして地域も豊かになる仕組みづくり

山川さんは多摩エネ協や多摩電力の活動を通して、どのようなコミュニティや社会を目指しているのでしょうか?

一人ひとりが夢や希望を持ち、多様性を認め合い、幸せに生きていくには、経済至上主義からの転換と新しい未来をつくろうとする行動が必要です。全国で広がっているコミュニティの再生と創造。試行錯誤を繰り返しながら、それぞれが幸せを感じられるような地域を目指して取り組んでいますよね。例えば、人のつながりが感じられる地域、お金ではない豊かさを実感できる地域、安心して子育てや老後を過ごせる地域、緑が豊かで資源が循環している地域。エネルギーの地域循環も、そうした地域の将来像の中で位置づけられるべきですし、多摩エネ協と多摩電力はその一翼を担っていきたい。

自然エネルギーへのシフトは喜ばしいことですが、原発から自然エネルギーに変わっただけでは本質的に世の中は変わらないと思います。人々の意識や暮らし方がシフトしてこそ、自然と調和した社会が築けるのではないでしょうか。そう遠くない将来に、多摩電力が現在行っている屋根借り太陽光発電のような、お互いの顔が見える、地域に根差した公共性の高い事業が全国で次々と生み出され、それぞれの地域を活性化していくのが理想的ですね。それが地域の自立性を高め、より豊かな地域をつくるエンジンになるでしょう。10年後、多摩では多摩エネ協をベースに、新たなコミュニティビジネスがいくつも生み出されているかもしれませんね。

山川さんのお話を聞いてみて、太陽光発電などの自然エネルギー事業は地域にエネルギーシフトを促すだけではなく、人と人が共感してつながり、新たなコミュニティができて地域が豊かになったり、地域の資源を見直して、地域の価値を再発見することで活性化するなど、「地域力」を高める取り組みでもあるということが分かります。

始まりは「人のつながり」から。一人では難しいけれど、地域の仲間と真剣に取り組めば、多摩電力や他の地域電力のように自分たちの手で「コミュニティ発電所」をつくることも不可能ではないでしょう。

これまでの「大規模集中型」から「小規模分散型」の発電システムへ。自宅のベランダにミニ太陽光パネルを置いて発電を始めてもいいですし、仲間と「地域電力」を立ち上げたり、そういう活動を市民出資で支援したり、何か活動を手伝って応援するなど、かかわり方は人それぞれです。

多様なかかわり方ができるのも、「小規模分散型」のいいところ。各地で成功している地域電力は、私たち市民が電気をつくることを通して、自分たちの手で地域も未来もつくっていけるという希望を与えてくれます。次はあなたの地元で、新しい地域電力が生まれるかもしれませんね。