(C)Nara Yuko
あなたは小さい頃、何になりたかったですか?ケーキ屋さん、プロ野球選手、たくさんの夢があったのではないでしょうか。そして最近の子どもたちに人気なのは、一体どんなシゴトだと思いますか?
たくさんの人が生活する中で、それぞれのニーズを補完し合う形で様々な職業が生まれてきました。そんな職業を通じて、街や地域とのつながりを体験する子ども向けのイベント「Kids City! 天王寺」が11月3、4日の二日間、大阪市天王寺区の区民センターにて行なわれました。
子どもたちは自分たちで街をつくり、仕事をつくり、様々な職業に就いてお金を稼ぎ、お金を使う…サービスを提供する側と、受け手を同時に体験することで、「街」が立体的に機能していることを体感してもらうものです。
「Kids City !天王寺」イベントの概要
企画・運営したのは、子どもを対象に、右脳系・社会系プログラムを提供し続けるNPO法人cobon。これまでに数多く開催してきたイベント「ミニ大阪(開催地の場所で名前が変わる通称ミニシリーズ)」で培った経験をもとに、今後は「Kids City !」というプログラムを実施していきます。その「Kids City !」第1弾は、主催が天王寺区のイベントとして、天王寺区から委託を受けて開催されました。
子どもたちが続々と集まってきます。
イベントの募集は、小学校を通じて告知され、1日目は小学校1〜6年生が131名、2日目は173名の合計304名が参加しました。
「学校が一緒」「学年が一緒」「塾が一緒」…いつもの繋がりを越えた子ども達が大勢集まります。最初は知っているお友達同士でもじもじとしていた小学生たちが、時間を経るごとに一人で考え、実行し、表現し、ひとりの自立した市民として、街の中で様々な活動を展開していきます。
親御さんたちは“子どものまち”が立ち入ることは出来ず、外から様子を見守っています。
ホンモノの区長も駆けつけた!
「Kids City ! 天王寺」は、初代子ども区長による挨拶からスタートします。ここへは、天王寺区長(本物)も登場し、開会の場がぐっと引き締まります。
左より、初代「Kids City ! 天王寺」区長、cobon松浦さん、本物の天王寺区長
街をつくる職業
当日を迎えるまでに、事前に行なわれた4回のワークショップ「こども会議」で選出されたアナウンサーやペットショップ、デザイナーやクレープ屋さんといった29の仕事が、街にはあらかじめ用意されていますが、どんなサービスを、いくらで、誰がどのように提供するかは白紙の状態。子どもたちは、まず最初にハローワークへ行き、自分の仕事を選び、仕事に就きます。
ハローワークの窓口に殺到する子どもたち
さらに、街にはあらかじめ街として機能するための公的機関として下記が用意されています。
・街を機能させるための機関:区役所
・お給料を受け取り、お金を循環させる機関:銀行
・商売の元となる、様々な材料を買う場所:商店街
商店街には、たくさんの材料が揃っています
みんなに人気のお店とは?
男の子も、女の子も、小さい子も、大きい子も。みんな一様に自分の好きな仕事を選んで仕事に就きますが、「ネイルサロン」はいつでも女の子たちでいっぱい。「スタジアム」にはいつでも男の子が溢れ、そしてさすがの大阪Kidsたち、「たこ焼き屋さん」には、いつでもたくさんの子どもたちで賑わっています。
大繁盛のネイルサロン
塗る方も、塗られる方も真剣そのもの。お洒落は、女子の本能!?
スタジアムでは、次々と新しいゲームが開発され、お客さんは対戦を楽しみます。…これも男子の本能!?
焼きたてのたこ焼きを狙う子どもたち
たこ焼きは、別会場にて子どもたちが実際に調理したものが売られます
区役所が「宝くじ」で金儲け!
「Kids City ! 天王寺」では「給料から税金が引かれる」システムがあり、区役所はこの資金を元に運営されます。さらに、初代区長はさらに利潤を生み出すため、早々に「宝くじ」の販売を開始します。
宝くじを宣伝して、盛り上げます
人気の宝くじは、2日目に区役所から独立していました
子どもたちは次々に商品を生み出し、値付けをし、宣伝や告知をし、販売をしていきます。
子どもたちは、働くのが大好き!
仕事をした後にもらえるお給料は、嬉しい!
新規起業もあり!「売買屋」がオープン
スタジアムで一番人気だったゲームを作った3人が、このゲームで儲けた資本を元に新事業「売買屋」を立ち上げます。商店街や他のお店から仕入れてきた選りすぐりの物品を売買したり、商品の交換に応じている模様。
売買屋を立ち上げた男の子…賢そうです
まちの「質屋」はこういう感じで始まったのかもしれません
親御さんたちの声
2日目には、「Kids City ! 天王寺」に参加している子どもの親御さんで、希望者を対象にした「大人のまなび」という時間が持たれました。「Kids City ! 天王寺」本番を迎えるまでに子どもが体験したこと、その時の子どもたちの様子などがシェアされていきます。
気兼ねなく意見を交換できる時間を楽しんでおられました
子ども添乗員による“観光ツアー”に出かけます。大人は区民証を持っていないため、「観光客」の札を下げて街をうろうろ
大人は通貨である“キット”も持っていませんが、「Kids City !」には大人は無料で受けられるサービスも存在します
一生懸命写メを撮る先には・・・
子どものクリエイティブ魂を感じるコメントが!
最後は、みんなで記念写真をぱちり!後列右は、cobonと一緒に「Kids City !」の企画運営に携わるオトナノセナカの小竹めぐみさん
親御さんからは、「自分の知らないところで、子どもが一体何をしているのか、知りたいですが、機会がない。普段とは全く違った自分の子どもの姿を見つけて嬉しかったです」「よくないのは分かっていながら、普段の生活の中でついつい“早くしなさい”と言ってしまいます。「Kids City !」には、“待つ時間”があって良かったです」などの意見が聞かれました。
この「大人のまなび」というプログラムは、今回初の試みでしたが、大人と子どもが一緒に学び合う時間へ発展しそうだと感じました。
大人スタッフの存在
「Kids City !」は“子どもの街”ではありますが、その手助けをするために、大人の姿も存在します。学生さん、お母さん、おじさん、フリーター…色々な職業、色んな年齢の大人たちが「Kids City !」へ可能性を感じてボランティアスタッフとして参加しています。
前日には、ボランティアスタッフを対象にした説明会が行なわれました
説明会を通じて、大人スタッフの意見や感想が「子どもに何がしてあげられるか」という“何かを施す”上からの目線から、「子どもと一緒にどんな世界が見つけられるか。自分も楽しみたい」といった、人と人の関係を結ぶような同じ目線へシフトしていったことが印象的でした。
こちらは「Kids City ! 天王寺」を終えた後の、大人スタッフのアンケートより。
無口で、声をかけると“ビクッ”とするくらい物静かな女の子が、ダンボールで指輪をつくっていたので、「売ってみる?」と聞くと「売れるわけない」と。「値段書いて置いとくだけでいいんじゃない?」と、ちょっとしつこく背中を押すと、しぶしぶ「ゆびわ10キット」とふせんに書いて机に置きました。
間もなく、買い物客の女の子がその指輪に触れてまじまじ見ている様子を、作った女の子はまともに見れないくらい緊張している様子。「これください」と指輪が売れた瞬間、喜びではなく驚きの表情に。
「すごいね」と声をかけると「あの子(買った子)、変だ」と。「もっと作って売ってみたら」と言うと「無理」と言いながらも、知らないうちに2作目を作っていて、それも売れると、今度は喜びの表情に。
女の子は、次第に明るくなって、一緒に働いていた男の子にちょっかいを出し始めました。よく見ると、モールをハート形に曲げて、男の子に渡そうとしてるのです。男の子が照れて逃げ回るので注意しても、全然やめない。社内恋愛がいつの間にか始まっていました。
子どもたちが前に進めるように、寄り添う大人スタッフの姿があります
「子ども会議」を経て、子どもたちが変化
「Kids City ! 天王寺」が実施されるまでの準備として希望者限定で9月21日〜10月27日の間に4回開催された「子ども会議」。ここでは、より丁寧に、考えたり思いを発表する時間が持たれています。
「キッズシティアカデミー」という道徳を改良したプログラムでは、問題が起こったときに「あなたならどうする?」をじっくり内省し、意見を交換し合う時間が持たれました。マイペースで、口々に喋りだすような子どもたちも、「話は最後まで聞こう」「否定しない」等の対話のルールを繰り返し確認する中で、自分たちだけで対話を進めることができるようになります。
発表する際にも、マイクを回す順番などを、子供たちは自分たちで決めていきます
自分たちで考え、気持ちを言葉にし、そして友達の意見を聞く。そんなインプットとアウトプットのプログラムが繰り返し行なわれる中で、子どもたちが、グッと成長した様子を感じました。
子どもたちが、プログラムを通して感じたこと
子どもたちは一体プログラムをどう感じているのでしょうか。
「Kids City ! 天王寺」が「楽しかった」or「楽しくなかった」かの2択には、244名中242名(99.2%)が「楽しかった」と回答し、さらに「来年も参加したいか」「参加したくないか」の2択では、239名中227名(95%)が「参加したい」と回答。存分に楽しんでいる様子が伺えます。
「学校とKids City ! の違いは?」という問いからは、子どもの生の声が聞こえてきます
◯学校ではおなじみの存在が、ない!
・時間割がない
・給食がない
・黒板がない
・先生が1人もいない
◯“同じ学年”を越えた人間関係
・1年から6年までの人が同じ教室にいる
・大人と友達になれた
◯決まり事が少なく、自発的に行動する面白さがある
・自分のアイデアしだいで変わるところ。(学校は結局先生が決める)
・物が作れる。作るための素材が揃っている。
・大人は何も口出ししない!
◯規則やルールすらも自分たちでつくる“自由”な世界では、コミュニケーションも違ったものに!?
・助け合っている
・いじわるがない
・親切な人ばかりでハッピー
さらに、全てを集約するようなこんな意見も登場しました。
・学校では授業だけどKids City !は社会だった!
子どもの感受性の鋭さを感じる、驚きのコメントです。
「Kids City !」で過ごす意味は?
社会の中で、様々な人に出会い、仕事をする中で成長をするのは、大人も同じ。この二日間の「Kids City !」で子どもたちが学んだのも、そういうことなのだと思いました。今の社会にある職業がそのまま子どもの街に存在し、人に必要とされる何事かを実現し、仕事の中で自分を表現し、「ありがとう」をもらい、お給料をもらい、お金を使うこと。それらは喜びの体験です。
子どもたちは自由に遊びながら「社会がこういう風に成り立っているんだ」ということ体感します。その“アソビ”には、クリエイティブに没頭している時間もあれば、友達とふざけ合いながら戯れている時間も含まれています。
そして、多様な人がいる中でこそ分かる、自分の姿。「Kids City !」では、自立している子どもの姿が印象的でした。
もし、今、日本社会で子どもに関する問題がたくさん起こっているとしたら、それはやはり「日本の大人社会」を反映しているものなのかもしれません。子どもたちはコミュニケーションの量を重ねる中で、体感し、学んでいきます。そういう場を大人が教育の機会として提供できているのか…。「Kids City !」には、豊かで素晴らしい時間が流れていました。