「みらいずworks」代表 小見まいこさん(写真右)。一緒に団体を立上げた事務局長の本間莉恵さんとともに
「生きていても楽しくない」。
もしあなたの友人や知人からこんな胸の内を明かしてくれたら、あなたはどうしますか?
現在、自らの命を断つ人が年間に3万人以上もいます。さらに、引きこもっている人は70万人も。高校生の3人に2人は、「将来が不安」だと考えているそうです。
誰もが生き生きと、自分らしく生きることができ、信頼し支え合う社会は、きっとつくれる。今を生きる子どもや若者たちが、自分を認め、自分の力で前に進んでいくための力になりたい。そう考えて立ち上がった女性がいます。
今回は、新潟を拠点に学校支援事業、地域づくり事業、社会づくり事業を展開する「みらいずworks」を立ち上げた小見まいこさんにインタビューしました。
子どもと大人のみらいづくり「みらいずworks」
みらいへのトビラ、開けてみる?
「みらいずworks」は、子どもと大人のみらいづくりをテーマに2012年3月に設立されました。生まれも育ちも新潟という小見さんの活動は、新潟をベースに展開しています。
事業の内容は3つ。一つは学校の先生と一緒に子どもたちの授業づくりを企画して、意欲や主体性を育てる学校支援事業。子ども向けだけでなく、先生のためのワークショップも企画しています。二つ目は地域づくり事業として、子どもが参画する地域づくりの企画・運営や、教育における対話の場づくり。
そして三つ目は、社会づくり事業として、企業が学校教育に参加する場をつくることで、働くすべての大人が、存在意義や自分の役割を再発見するようなプログラムを提供しています。
授業やワークショップのはじめは必ずゲームからスタート。子どもたちの笑顔がはじけます
キーワードとなるのが、キャリア教育。キャリア教育とは、一人ひとりの社会的、職業的自立を促す教育のこと。簡単に言うと自分の生き方を考えていくということ。
自分が大事にしたいことは何か、生きていくうえでの軸というか、価値観を持つために小学校の教育現場から積み上げていこうということで、「みらいずworks」は
・「何かやってみたい」と自分から動き出せる
・「この地域で誰かの役に立ちたい」と社会の課題に向き合える
・「自分らしさを活かして働きたい」と一歩踏み出せる
・「大人になるのが楽しみだな」と期待感が生まれる
・「みんなでつくるって面白いな」と関わる喜びを実感する
をビジョンとして掲げ、子どもたちの未来をつくろうとしています。
聴く、問う、寄り添うというファシリテーション
キャリア教育の授業にて、自分と向き合う生徒たち。ふりかえりの時間を大切にしています
小見さんの仕事は、ひとことで言うとファシリテーション。その場や活動が円滑に行われるよう問題を解決したり、合意形成したり、学習を支援する。その対象は、子どもだけでなく、学校の先生や地域の人も。教育にこそファシリテーションが必要ではないかと、学校をフィールドに、一人ひとりの存在を認め、学び合う授業を実施しています。
例えば、発言するだけが貢献ではなくて、みんなの意見を書いてあげることだったり、うんうんと頷いながら聞いてあげることだったり。自分の思いを表現することは大切なんですけど、あまり発言しない子でも、話が終わるとすごく楽しかったとか、気づきがあったと言うんです。すべてを同じモノサシでは測れないんですよね。なので、まずその子と同じ場所で寄り添うということが大事なんだと思うんです。
廃校になった学校の利活用を子どもたちと一緒に考え、秘密基地をつくった
実は、文科省の目指す学校教育も自分の生き方を考えるキャリア教育という点に注力されていて、方向性は同じ。けれども、教育の現場ではどうしても溝があるのだそう。東京では新卒の先生が秋になると辞めてしまうということで、「秋採用」まであるというのが現実です。先生たちは実は困惑していたり、壁にぶつかっている。その間を埋めていくのも自分たちの役割だと言います。
先生向けのファシリテーション研修での一場面
学校支援では、まず始めに、先生の生き方を語ってもらう授業をするんです。そうすると、先生がクラスに認められた気がするとか、すごく楽になりましたと言ってくれるんです。何でも感でも先生頼み、何かあったら学校にクレームというのが今の先生を取り巻く現状です。教師としてあるべき姿のようなものを背負っていて、なかなか一個人としての部分が出せないんですね。
月曜の朝、子どもたちと会いたいなって思えるかどうかって大切なことだと思うんです。先生自身が楽しいと思える学校づくりや人間関係づくりもお手伝いしたいと思っています。大変な状況の中でも、教師であることの誇りや喜びを、あらためて感じてほしいんです。
学校支援といっても予算をもっていない学校も多いことから、企業から協賛をもらって、その企業の社員の生き方や働き方を紹介する、企業の教育CSR活動も企画をするように。
この勉強って将来何に役に立つのか?と疑問を持つこともありますが、今やっていることが社会でこんなふうに応用されているんだよ、といったことを企業側でプログラムをつくって学校の授業に導入することで、子どもたちがもっと社会とのつながりを感じやすくなることを目指しています。
企業の人にとっても、自分の会社の事業を伝えるきっかけになったり、社員のコミュニケーション能力、プレゼン能力の向上にもつながったり、自分の仕事の誇りやモチベーションを高めるような効果もあると考えています。
子どもたちの可能性を広げるのは、身近な大人の存在
このように精力的に子どもと大人のみらいづくりに関わる小見さんですが、どうしてこのような、誰もが自分らしく生きる社会を目指し活動しているのでしょうか。
3年ほど前でしょうか、友人から「生きていても楽しくない」と胸の内を語られたことがあるんです。自分のできること、やりたいこと、求められていることは何だろうかと、もがくように探す日々が続きました。
そんな時、「キャリア教育が人を救う」というメッセージに出会ったんです。自分と向き合い、多様な生き方を知りながら自分の未来をつくっていく、その場づくり、教育づくり、仕組みづくりを通して、子どもたちの生きる意欲や力を引き出してあげられれば、一人ひとりが自分らしく生きられるような社会が実現できるかもしれないと考えました。
さらに、学生時代までさかのぼりますが、新潟大学で社会教育を専攻していた小見さんは、大学1年の秋、とある講演会に参加して大きな気づきを得たと言います。
自分から、自分らしくみんなとともに
弱さは力なり黒板に2つ、大きく書かれていたんです。「自分から、自分らしく、みんなとともに」って、どれも自分はやってないなと思って。それから、今まで強くあることが大事って思い込んでいて、弱いなんてダメだって思ってきたけど、逆に自分の弱さが誰かとつながるきっかけになるのはすごいなって。
さらに別の研修では、教えるのではなくて相手が気付くまで待ったり、一人ひとりから引き出すといった教育が、30年くらい前からあることも知って、大きな価値観の転換とともに、そんな教育に携わりたいという気持ちを持ちました。
自分らしさを引き出すのは、学校教育における教育者だけではありません。子どもの両親はもちろん、子どもに関わるすべての大人たちも…。昔に比べて「生きるのが難しい」と感じている若者が増えているとしたら、子どもや若者の環境に変化があるのではないでしょうか。
宮城県の小学校にて、キャリア教育×地域学習をからめた震災復興学習で、熱心に話し合いをする児童たち
私自身、地域の人に育ててもらったという意識がとてもあります。近所のおじさんやおばさん、おじいちゃんやおばあちゃんのところに遊びに行ったり、学校に行くときに「行ってらっしゃい」って声を掛けられたりと、周りの大人に見守られていたんです。
でも今の子どもたちは、外で遊ぶ場所も限られているし、小さい商店はどんどん閉店してしまって。地域の人の温かい目はもちろん、働く大人の姿を感じにくい社会になっていると気づいたんです。
子どもたちがもっと地域と関わって、いろんな大人とコミュニケーションをとることで育まれるものもあると、「子どもが参画するまちづくり」というテーマで卒論を書くことに。地域社会という広い目で子どもや若者を見守り育てていく、そんな仕組みや場づくりをしたいという思いを、卒業後もずっとあたためてきました。
大学卒業後、印刷会社に就職をしたんですが、週末はまちづくりを軸にする団体のお手伝いをしていました。主に学校の卒業アルバムを制作・印刷する会社だったので、学校支援の仕事もコツコツとやらせてもらっていたのですが、子どもや先生たちと本気で向き合いたいなと考え、30歳になったのを機に退職しました。
その後、NPOの中間支援組織で、学校と地域のNPO団体をつなぐ支援をしていた事務局長の本間莉恵と意気投合し、「みらいずwork」をふたりで立ち上げたんです。
全員参加の学校経営にて。子どもも先生もわくわくする学校にするにはというテーマで話し合っている先生方。エネルギーあふれる場になりました
事業化するにあたって、事務局長の本間さんとは、この事業でどんな社会をつくりたいのか、どんな学校教育にしていきたいのかをたくさん話し合ったのだとか。学校教育は、どうしても閉塞感がある。競争原理もはたらいて、自分なんかこのクラスにいなくてもいいんだ、と思ってしまう子もいます。
教育は、生きる喜びを育むことという言葉を大切にしています。生きていてよかったなとか、生きるって楽しいなとか、そんなふうに生きることに逃げずに向き合うというか。自分には無理とか、自分なんかいなくても…ではなくて、あなたはそのままでいいんだよ、というメッセージを伝えたいんです。
自分の足りないところは誰かに補ってもらって、自分のよさにも気づいて一歩ずつ進んでいけるようになってくれたらいいですね。
信頼や共感をベースにあたたかい関係をつくりたい
子どもたちが自ら考え、一歩踏み出す気持ちは、
「気持ちを伝えたらスッキリした」
「自分の意見をちゃんと聞いてもらえて嬉しかった」
「話し合うことで一人では思いつかないことに気づいた」
こんなシンプルな体験から芽生えてくるのです。そして、小さくたくさん灯れば、きっと何かが変わっていくと言います。
総合的な学習の時間のなかでは、「探求スパイラル」といって、課題を見つけて動いてみて、振り返ってさらにそれをブラッシュアップするという考え方があるのですが、時間数も足りないし、最後までいかないことも多いんです。やりっぱなしだったり、次のステップアップを踏みたくても時間切れになってしまう。
みらいずworksで関わった仙台市の中学校では、そのことを子どもたちが、影で文句を言うのではなく、もっとやりたいということを企画書にして先生たちに提案したと聞いて。みらいずworksの授業を受けてくれた子どもたちが、こうして考える力や関わる力、実行する力をつけているのを目の当たりにして、とても嬉しく思いました。
子どもたちに囲まれていると、元気をもらいます
また、子どもたち向けの授業に付随して、学校と地域の関わりをつくるために、地域教材を学校の先生と地域の住民が一緒になってつくるというプロジェクトも企画。地域教材を活用した地域の担い手を育てるキャリア教育の授業も企画し、先生方に提案しました。それに対して先生たちは、最初は抵抗感を示したのだそう。
何をやらされるんだ?この人たちは何ができるんだ?というところからのスタートでしたが、一緒に授業をつくっていくうちに信頼関係ができて、みらいずworksの研修を受けたいって先生たちから声が挙がったり。そうやって先生たちも少しずつ変わっていかれたんですね。信頼関係が築けるってすごく嬉しいし、受け入れてもらったことがありがたくて。
自分が教えなきゃと力んでいたけど、私たちの授業づくりを通して子どもたちの気づきを待つとかうまく引き出してあげたり、育んでいくという考え方を知って、自分の教育観ががらっと変わったと言ってくださった先生もいます。
何をしているわけでもなく一緒に授業をつくっているだけなんですが、自分たちが大事にしている思いがじんわり伝わっていくというか、先生たちがじんわり変わっていくことが嬉しいなと思っています。
ずっと自分たちが必要だと言われるのはありがたいけど、でもそれでは本来のかたちではない。自分たちでできるよと言ってくれるのは嬉しいことだと小見さんは続けます。
結局、私たちのような外部のファシリテーターが必要なくなることがゴールと思っていて。自立するというか、自分たちで創意工夫しながら自分たち流にしていく、旅立ちを見る瞬間が嬉しいですね。
子どもたちの内なる力を信じきって、耳を傾け、問い、寄り添うことで、子どもたちが一歩踏み出す気持ちを育んでいく。それと同時に、そんな子どもたちの可能性を広げるのは大人であるということを、再確認する。
「教師でなくても、大人として子どもたちにできることはたくさんあります。道で会ったら、挨拶をしてみる。顔見知りになったら、大人側からもう一歩深いコミュニケーションをとってみてほしい」と小見さん。
一人ひとりがそうして助長し合って、やがて大きな実りとなっていったら、わくわくするような楽しい社会だと思いませんか?