映画『パワー・トゥ・ザ・ピープル』
グリーンズでも上映会を行った映画『パワー・トゥ・ザ・ピープル~グローバルからローカルへ』、先日、上映イベントのレポートをお届けしましたが、サビーヌ・ルッベ・バッカー監督へのインタビューも行ってきましたので、その模様をお届けします。エネルギーのことはもちろんですが、映画としても非常に面白かったので、そのあたりも聞いてきました。
「楽しさ」から伝わる「良さ」
まずは、映画について。この映画で印象的なのは、人々の笑顔と美しい風景と、ドキュメンタリー映画には珍しい楽しい音楽です。それによって、多くの人を観るだけで「やらなきゃ」という気持ちにさせるのです。そのあたりの映画作りのこだわりについてサビーヌ監督はこう言います。
まず、撮影するとき普通は、どこをどう撮ったら綺麗に見えるかというようなことを考えるんですが、このサムソ島はどこを見てもほんとうに天国みたいに綺麗で、その景色を見ていたら「オーバー・ザ・レインボー」やいろいろな曲が自然と浮かんできました。その美しさを見る人にも身近に感じてもられるように音楽にもこだわりました。
そして、撮影した人たちにも笑顔がたえなくて、楽しい暮らしをしていることをすごく魅力的だと感じました。だから、その楽しい気持ちをフィルムに写して観る人に伝えることで、自然エネルギーで暮らすことが「いいもの」だという宣伝をしたかったんです。
データや統計で「いいものだ」と伝えるのではなく、「楽しい」という感情を通してその良さを伝えようというサビーヌ監督は「いい意味でのプロパガンダ」という言葉も使っていました。プロパガンダというのは見る人の感情を揺さぶることで思想や考えを喧伝することを言いますが、この映画はそれをポジティブな形で使おうと考えているわけです。
実際にこの映画を見ていると「自分たちでもできるんじゃないか」「やったら楽しいんじゃないか」「やってみよう」というように思う人も多いと思います。それを批判することは簡単ですが、そのようなやり方を選択したのには監督なりの考えがあったのです。
サビーヌ・ルッベ・バッカー監督
それは、サビーヌ監督自身が映画を撮ったことによって実際にそのような「行動」にかられたという経験があったからです。
撮影前は「それほど意識が高いわけではなかった」というサビーヌ監督ですが、撮影とその前のリサーチで「環境にやさしい社会に貢献したいという気持ちはみんなが持っているし、自然エネルギーによって電力を自分たちで作るということは金銭的に成り立つということがわかった。そして入れば入るほどこれは実行可能なんだと実感した」のだといいます。
そして映画作りが終わると、「アムステルダムエナジー」という自分たちの手でエネルギーを作る小さなコミュニティに参加したのだといいます。
都会でもエネルギーの民主化は可能か?
しかし、そのようなコミュニティをうまく見つけられたとしても、アムステルダムや東京のような都会で、サムソ島と同じようにエネルギーの民主化が可能なのでしょうか。それについてサビーヌ監督はこう言います。
たしかに難しいですね。規模で考えてもちがいますし、島にはもともと自分たちで自分たちを守っていこうという意識があります。しかし、都会では人はすでにいろいろなものを与えられ、電力会社や政府から供給されるものを使っている状態です。しかし、実際に街の中で農場を作ろうとか、ビルにソーラーパネルを設置しようという活動もあるので実行できたないというわけでは無いと思います。
むしろ問題なのは、小さなコミュニティを小さな規模のまま維持しながら都会の中で活動できるかということです。それについては映画の後半で登場する自営業者休業補償基金が参考になるのではないでしょうか。
映画を観てもらえばわかりますが、それは互助の仕組みで、一言で言えば「顔の見える関係」が重要になる仕組みです。そのうえで、サビーヌ監督はアムステルダムエナジーの活動で重要視しているのは「あらゆる可能性を追求すること」であり、「みんながそれぞれ責任感を持ってやること」だといいます。
この複雑な社会で活動を続けていくためには、実現可能なあらゆるものを追求していかなければならない、そして自分がそれに責任を負わなければ続けていくことはできないというのです。
休業補償基金で「安心」を手に入れる
「やらなきゃ」から「やってみる」へ
“言うは易く行うは難し”ではないですが、日本ではなかなかそういうコミュニティは生まれにくいと私は感じます。オランダでもそうなのか、それともそこに日本とオランダの違いがあるのか、そんな違いを感じたかどうかも聞いてみました。
1ヶ月の滞在でもそれは感じました。オランダ人は非常に直接的だけど、日本人は間接的です。オランダ人はこれが欲しいなら欲しいという国民性で意思表示をはっきりするので、グループで何かを決める時にもそれぞれの考えがわかりやすく早く物事が決まります。
しかし日本人は他の人のことを考えて、「もしかしたらこういうことがあるかもしれない」ということを言います。そういうことを一つ一つ考えていくと確かになかなか進みません。
でも、今回のイベントをやろうという話はたった30分で決まりました。それは、どんな社会でもそうですが、日本でも色々なケースがあるということです。だからオランダでも日本でもやれる時はやれる、やれば出来るんだと思います。
と、心強い言葉を頂きました。映画にかきたてられたエネルギーの民主化を「やらなきゃ」という気持ち、それを「やってみる」へと変えるには、その一歩が踏み出しやすいようなコミュニティを増やしていくことがまず重要なのかもしれません。
この映画は、今後も各地で自主上映会が開催される予定で、配給元のユナイテッド・ピープルでは上映会を開催する団体などを随時募集しています。自然エネルギーへの意識は高くても、実際に自分たちで電気を作るとなるとなかなか踏み出せないというのが多くの人達が感じているところではないでしょうか。グリーンズが展開する「わたしたち電力」などはその一歩を実際に踏み出すための活動ですが、この映画はその一歩を「踏み出そう」と思わせてくれる作品です。