greenz.jpの連載「暮らしの変人」をともにつくりませんか→

greenz people ロゴ

難民が一つ屋根の下で暮らす「グランドホテル・コスモポリス」の旅行者用ホテルが正式オープン!

cafeeingang2-1

以前グリーンズにて、難民問題を解決する社会彫刻として、「グランドホテル・コスモポリス」についての記事が掲載されました。

ここグランドホテルコスモポリスの大きな特徴の一つは、難民が住んでいること。ここは ホテルでもあり、アーティストたちの活動の場でもあり、難民の住まいでもあるのです。

ドイツだけでなく、世界でも珍しいこの社会的かつアーティスティックな取り組みに、多くのドイツメディアが注目しています。また、新聞やテレビなどで知り、この取り組みに 感銘を受けた人たちによって、オープンする前から、すでに宿泊予約の問い合せが来ていました。

そして今年10月3日、南ドイツのアウグスブルクにある「グランドホテル・コスモポリス」の旅行者用のホテルがとうとう正式にオープンしました!このユニークなホテルに、誰もが宿泊することができるようになったのです。

ここのホテルの全ての客室は、さまざまなアーティストたちによって創作されました。そのため、どの部屋も斬新でクリエイティブです。

cindy_sherman

4NULL5

innen_aussen

ダブルルームが12部屋、4つのベットが設置されているホステルが2部屋、全てデザインは全く異なり、いるだけでわくわくしてしまう部屋ばかり。ここのホテルに滞在するということが、この社会的アーティスティックな活動を支えていくことにもつながります。あなたなら、どの部屋でどんな風に過ごしますか?

グランドホテル・コスモポリスはどんなところ?

この不思議な謎の建物「グランドホテル・コスモポリス」。中は一体どうなっているのでしょうか?

まず、ロビー兼1階。個性的なランプが並ぶ廊下を歩いていると、子どもたちが元気に駆け回っている場に遭遇します。難民の子どもたちです。無邪気に廊下を駆け回り、ときには好奇心によりいたずらしたり…。ここが旅行者のホテルでありながら、難民が日常に暮らす住まいでもあることを実感する瞬間です。

また、1階には、カフェ&バーが併設されています。昼間は皆が集まるくつろぎの玄関口であり、夜は地元の人たちの社交場へと変わります。また、時折開催されるイベントの日には、多くの人たちで賑わっています。

GHCcafebar

実は、「グランドホテル」この言葉にもヨーロッパの人たちにとって、少しばかり特別な響きがあるようなのです。昔、「グランドホテル」という場所は、高貴な人たちにとって、思い思いに楽しい時を過ごす社交の場の象徴でした。それが、ここ現代の「グランドホテル」は「コスモポリス」となり、身分や職業、国籍関係なく、誰もが楽しい時を過ごす場として、時代を超えて、 南ドイツのアウグスブルクに蘇ったのです。

人生の豊かさについての追求も、実は 「グランドホテル・コスモポリス」の意味には含まれているのです。

mg_6367

そして、2階から4階にかけては、難民の住まいとアーティストたちのアトリエがあり、5階と6階は、旅行者用のホテルという造りになっています。地下はレストラン、6階は アトリエとなる予定で、現在リノベーション中です。 どうやら、まだまだここは変化の途中のようです。

ふと目に留まったアンティークな家具たち。よくよくみると、全てデザインが違っています。 実は、これらの家具やシーツやベットカバーなどの備品は、寄付されたもの。テレビ、新聞などのメディアで知った地元のお店や住民たちが、家具、寝具、衣類、本、おもちゃな ど、寄付したいとやってくるのです。なかには、その日に売れ残った果物や野菜を持ち寄る人も。

この社会的アーティスティックな活動「グランドホテル・コスモポリス」は、「自分に何ができるだろうか」と考え、行動してくれる人々によって、成り立っているのかもしれません。

価格はゲストが決める!?

「グランドホテル・コスモポリス」のユニークな点の一つは、お金の価格にも現れています。

カフェに入ったら、メニューがあり、飲みたいものと値段を確認して、注文する人が多いのではないでしょうか。ところが、「グランドホテル・コスモポリス」では、違います。というのは、ここのカフェ&バーには特定の値段が決まっていません。飲食代はゲストである顧客が支払う額を決定するのです。

支払いの際、多くのゲストが「いくらですか?」と尋ねます。価格がどこにも提示されていないからです。そして、ここの価格が決まっていないと知ると、驚き、そして少し考えて、戸惑いながら支払います。

私たちの日常では、値段は決まっているものであり、決められた額を支払います。 それがここでは、価格を自分で決めることにより、能動的な行為へと変化させているので す。些細なことにも意識をもって、行動をする、ということ。 ドイツのアーティスト・社会活動家のヨーゼフ・ボイスの考えが根底にある、ソーシャル スカルプチャー(社会彫刻)と呼ばれるプロジェクトならではの取り組みです。

一杯のドリンクをオーダーし、その価格を、あなたが決める。その価格が、この社会的活動を維持していく源となるのです。あなたなら、一杯のドリンクにいくら支払いますか?

難民が異国で暮らしていくということ

football2

今ではアウグスブルクのユニークな存在として、地元住民からも愛されている「グランドホテル・コスモポリス」ですが、実は当初、難民が暮らすということに対して、近隣住民の懸念の声もありました。 国籍も文化も異なる難民が暮らすということに対して、アウグスブルクの治安が悪くなるのではないかと一部の地元住民たちは心配していたのです。しかし、難民が暮らすということは、本当に地域の治安を悪化させる原因になるのでしょうか。

そもそも、難民とはいったいどういう人たちなのでしょうか。

難民条約が定義付けする難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがある ために他国に逃れた」人々です。実際には、政治的な迫害、紛争などから逃れるため国境を越えて来た人も多くいます。

一部の国の一部の地域では、自分の意志を貫こうとすることで、理不尽な理由により国か らの迫害を受けてしまうということがまだ当たり前のように起こっているのです。

なかなか身近に接することのない難民と呼ばれる人たち。しかし、彼らは決して”先進国におけるいわゆる犯罪”を犯した人たちではありません。む しろ、生きるということに対して、主体的かつ意識が高い人たちなのです。

しかし、彼らにとって、言葉や文化の違いがある中での生活は決して簡単なことではありません。生きるため、そして、自由を求めてやってきても、現実には多くの問題に直面し ます。とりわけ、国外退去の危機です。 現在ドイツに滞在することができていても、ほんの数パーセントしか、実際には難民とし て認定されることがないのが現状です。そのため、ドイツで暮らし続けていくためには請 願をしていかなくてはいけないのです。 そのような不安定な状況下における異国での生活において、暮らしていくこと、地元の人 たちとコミュニティを築いていくこと、というのは本当に大変なことです。

しかし、今アウグスブルクには、お互いを知り、尊重しあうきっかけである一つのプラッ トフォームとして、この「グランドホテル・コスモポリス」の存在があります。 地元の人々は、難民と呼ばれる人たちとの未知のコミュニケーションに対する漠然とした 不安を持つ代わりに、自分たちには何ができるのだろうか、と考えをシフトし始めているようです。

intollelanzaTheater-

多くの難民施設は、食事をとって、眠り、娯楽はテレビというところが多いようですが、「グランドホテル・コスモポリス」ではイベントなども、積極的にみんなと取り組むよう努めています。

人が暮らしていくということは、ただ単に、食事をして眠るだけではありません。 言葉が違っても、文化が違っても、その違いを人としてお互いが尊重しあうこと。 毎日顔を会わし会話をして、時に一緒に掃除をしたり、時に難民の人たちの母国の料理を一緒に作ったり、一緒にイベントを楽しんだり。同じ経験を一緒にすることで、日々お互いの価値観を共有し、信頼関係を構築して絆を深めることができています。

先日は、アウグスブルクにある劇場で、アーティスト活動の一環として、みんなで一緒に参加しました。また、市内のサッカーチームからチケットが寄付され、熱気溢れるサッカー球場への初観戦も。

Football1

「グランドホテル・コスモポリス」に住んでいる人たちの表情は活き活きとしている人が多い 理由はこういった皆で取り組むイベントが活発だからなのかもしれません。しかし、ここはユートピアではありません。現実の生きる場、ソーシャルスカルプチャー(社会彫刻)の実体験の場です。時に、いつも色々なことが起こります。 それでも、多くの人が集まり、それぞれが主体的に活動することにより、なんとかなってしまうのが、ここの場の不思議なところです。

社会的でアーティスティックな活動の場でもある、「グランドホテル・コスモポリス」。ここでは、誰が難民で誰が旅行者であるかということは、特にあえて知る必要がありません。

(Text:Fujiko Yamamoto)

Photos; listed in alphabetical order
Hotel rooms by Frauke Wichmann
Football game, Intolleranza,Cafe&bar by Fujiko Yamamoto
Cafe&Bar entrance by Jutta Geisenhofer
Balcony theater by Wolfgang Reiserer