送電網(グリッド)による電力会社との電気売買に頼らない、自立した自家発電システム「オフグリッド太陽光発電」。今回はオール電化住宅でこの発電を始めた奥様と、計6名が働くオフィスにこのシステムを取り入れた設計事務所の社長さんにお話をうかがいました。
オール電化でも、節電できます
鈴木千春さんは、北海道千歳市で暮らす4人家族のお母さん。3.11の震災前に新築したご自宅はオール電化住宅ですが、オフグリッド型太陽光発電を始めてから、鈴木家の暮らしは大きくエコシフトしたそうです。
外出先で、「おうち発電所」で充電してきたケータイ電話を手にニッコリ、の鈴木さん
自家発電を始める時はテレビや扇風機の電力をまかないたいと思っていたのですが、震災後、原発事故の危険性をきちんと伝えないテレビを見ていてイヤになり、せっかく発電した電気をテレビに使うのももったいなくて、ほとんど見なくなったんです。まぁ、テレビをつけていた時も、BGM状態のことが多かったんですけどね(笑)。
テレビを見なくなったら、食後に息子とトランプをしたりいろんな話をするようになって、テレビをつけていた頃よりずっと、家族団らんの時間が増えました。
もともと夫がラジオ派だったこともあり、太陽光で電池をたっぷり充電できるので、テレビの代わりに充電池式のラジオや音楽を聴くようにもなりましたね。電池式の照明も、食卓などで愛用しています。
ラジオ、充電池、ケータイ電話などを、「おうち発電所」からの電気で充電中の図
食卓で使っている照明も、充電池式
写っている2つの照明の電力源は、どちらも太陽光!
自宅で発電している太陽の電気だと思うと使っていても気分がいいし、テレビの情報に踊らされることもなく家族との会話が増え、楽しくてとても豊かな気持ちです。
まだアンペアダウンをしていないのに、ひと月約1万2000円だった電気代が4000円くらい減ったんですよ。今後は冷蔵庫とストーブを見直して、電力会社との契約アンペア数を減らしたいと思っています。
居間の照明2つ、ノートパソコン1台、ご家族のケータイ電話の充電、精米機、扇風機、息子さんのエレクトーンの練習1時間分などを日々まかなっている鈴木さんの「ベランダ発電所」の機材は、以下の4種類。
・100Wの「太陽光発電パネル」2枚=200W分
・容量115Ah(アンペアアワー)の「ディープサイクルバッテリー」2つ=230Ah分
・電気の逆流を防ぎ、バッテリー充電を順調に制御してくれる「チャージコントローラ」1つ
・1000W対応の「インバータ」(12Vで発電した直流電流を、家電が使える100Vの交流に変える変圧器)
これは、以前グリーンズでも取り上げたオフグリッド型太陽光発電のインストラクター、「イオテクノロジー」の早川寿保さん考案の「イオ2」と名づけられた自家発電セットで、機材の合計金額は12万円とのこと。6万5000円の「イオ1」から始まって、「イオ3」「イオ4」と、希望に合わせたいろんな組み合わせのセットがあり、全国に配送可能だそうです。
鈴木家の室内に置かれたチャージコントローラ(左)と、1000W対応のインバータ(右)。下の木製BOXに、ディープサイクルバッテリー2つが収納されています
ふだんは自家発電システムを自分で取り付ける人のサポートがお仕事の早川さんですが、鈴木家の場合は最も発電効率がいい設置方法が通常より難しい形だったこともあり、機材の見立てと施工を請け負ったとのこと。
何度も通って試行錯誤の末やっと完成したシステムでしたが、たびたび訪れては工夫を重ね一生懸命作業する早川さんを息子さんたちは「太陽おじさん」と呼ぶようになり、家族の中に、「太陽おじさんが取り付けてくれた機材でつくった大切な電気」という意識が生まれたようだと、鈴木さんは語ってくれました。
2Fのベランダの外側にせり出す形で設置された、鈴木家の発電パネル
木片と金属でベランダの外側にせり出した太陽光パネルを支える、試行錯誤のオリジナル施工
以前は部屋にいなくても電気をつけっぱなしにしていた子どもたちが、自然に電気を消すようになりました。夫もすぐ暖房をつけることをやめ、まず上着を羽織って暖を取るようになったりね(笑)。それから最近ウチではみんな、トイレの電気をつけなくなったんですよ。トイレの外側の明かりだけで中も充分明るいので、必要ないと気づいたんです。
自家発電を機に意識が変わり、必要なものとそうでないものの判断力が高まってきた鈴木家の皆さん。意識の変化が行動の変化を生み、それが電気代マイナス4000円もの効果となって現れるとは、ココロにもフトコロにも嬉しい現象ですね。でも、実は鈴木家には、さらに大きな“衝撃の変化”も訪れたのだそうです。
「太陽おじさん」の電気でエレクトーンの練習をする息子さん
「オール電化」から、「オール電“下”」へ
私は2011年の震災で原発事故が起きるまで、「原発はCO2が出ないクリーンな発電」だと思っていました。それになんとなく「オール電化は安心で上質なくらしの象徴」というイメージも持っていたので、家を建てることになったとき、「そんな贅沢をしなくても」と反対する親を押し切ってオール電化住宅にしたんです。
でも建てた1年後に震災と原発事故が起きて原発の危険性を知り、おまけにオール電化のこの家で暮らすようになってからひどい不整脈に悩まされるようになって、いろいろ調べた結果、電磁調理器の電磁波が原因である可能性が高いとわかったんですね。
今ではほとんど使わないという、IH調理器
安心だと思っていたオール電化住宅なのにとてもショックでしたが、キッチンをガスに変える出費はかけられない。仕方ないので急遽一口のポータブルガスコンロを買ってきて4人分の食事を作るようになり、実は今もそれ一つだけで、毎日の調理をやりくりしています。
親には「ほら見たことか」と笑われていますが、これがけっこう楽しいんですよ(笑)。自分が電磁波の悪影響を受けやすいとわかったので、電子レンジや電気炊飯器もやめて、土鍋でごはんを炊くようになったらすごく美味しくてね。一口しかないガスコンロなので、最初にごはんを炊いて次におかず作り…と、いろいろ工夫しています。
ガスも節約するようになり料理は以前よりシンプルになりましたが、家族からは文句も出てこないし、みんな風邪も引かなくなって、元気になった気がします。
小さな自家発電を始めてみたらいろんな変化が起こり、オール電化住宅でもできることがたくさんあると知りました。「オール電化だから仕方ない」とあきらめず、新しい道を見つけてゆきたい。悲観することはないと思っています。
ほとんど使わなくなったという調理用家電たち
「今後は冷蔵庫が課題」とおっしゃっていた鈴木さんのお庭には、しっかり家庭菜園コーナーが。「野菜づくりはまだまだヘタで」とおっしゃっていましたが、いろんな作物づくりとそれらのおいしい保存ワザを磨いてゆけば、“脱冷蔵庫生活”も可能でしょうし、電気なしで食品を冷蔵できる「非電化冷蔵庫」を設置してみるのもいいかもしれません。
食べれるお花、ナスタチウムが咲く鈴木家の家庭菜園
ヤーコンも、収穫できたようです
夢は、“町内発電所”!
「将来は自宅の屋根にたくさんのパネルを付けて生活に必要な全ての電力を自給し、余った電気を近所の人々に分ける地域の発電所になりたい」と語る鈴木さんの言葉に、先日環境ジャーナリストの村上敦さんから聞いた、「ドイツには地域住民たちで出資・運営する自家発電所が各地にあり、町内ごとのエネルギー自給が常識になりつつある」という話を思い出しました。
ほんの3年半前までは、大きな電力会社が作った“遠くから運ばれてくる電気”をつかって暮らす「オール電化住宅」に憧れていた鈴木さん。そんなご自身の暮らし方と想いが数年でこんなにも大きく変化したことを思えば、町内ごとのエネルギー自給が当たり前になる日も、そう遠くないように思えてきます。
会社で使う電気の「半分」を発電!
次にご紹介するのは、家庭ではなく、会社。札幌在住の一級建築士、宮島豊さん率いる株式会社「フーム空間計画工房」のオフィスです。こちらでオフグリッド太陽光発電が始まったのは、今年の春。この建物で1日中光が当たる唯一のスペースに、太陽光発電パネル8枚が設置されました。
ツタのからまる大きな一軒家の2Fがオフィス。1Fは宮島さんの母上のご自宅だそう
ここが、「この家の敷地内で一日中光が当たる、唯一の場所」
下から見上げると、こんな感じ。ここなら確かに、日光照射はバッチリです
以前ご両親が建てた大きな二世帯住宅の、40帖ほどある2階部分をオフィスとしてリフォームし、1階には宮島さんの母上がお住まいとのこと。電気代は1階と2階の合算で請求が来るそうですが、ひと月約1万5000円だったのが、発電を始めてからは1万円くらいに減ったそう。約35%オフで月5000円のマイナスとは、大きいですね。
去年の同時期と比べ電気代はそれだけ減っているのですが、社員数は1名増えて6名になり、パソコンも6台から7台に増えているんですよ。うちはソーラーパネル800W+ディープサイクルバッテリー6台+チャージコントローラ2つ+インバータ1つ、という組み合わせで機材を早川さんに手配していただき、それらの合計が30万円。設置や配線はなじみの大工さんや設備屋さんに、趣味の範囲で協力してもらいました(笑)。
3台ずつ並列につなぎ2系統仕様にした、ディープサイクルバッテリー6つ
黒い2つがチャージコントローラで、青い機材がインバータ
足場代や細かい器具の材料費を合わせ、+6,5万円。発電した12Vの直流電流をインバータを通さずにそのまま照明やパソコンに使えるようにした配線はプロの電気工事屋さんに頼み、+18万円。あとは直流12V用の電球やLEDライトの費用を加え、合計60万円以下でこのシステムが完成しました。
12Vの直流電流を、40帖の各部屋に取り付けた計12個の照明につなげる配線システム
太陽光で発電した電気で動くオーディオから流れるジャズとほんわりとした太陽光ライトで、隠れ家BARのような雰囲気の打ち合わせルーム
2つあるスタッフの仕事部屋の照明やPCも、太陽光で発電した電気で稼動
シルバーのコンセントが太陽光の12V直流電力で、白いコンセントは電力会社からの100V交流電力だそう。「電力を選べる」って、いいですね
一般発電システムの、不都合な真実
うちの事務所では自家発電した電気を、照明12個以上、ノートパソコン4台、オーディオ、社員6名のケータイの充電…などに日々使っていて、それは全体の使用電力の50%以上にあたります。特にその多くは100Vの交流電流に変換することなく12Vの直流電流のまま使えるようにしているので、とてもロスが少ないんですね。ちょっとこの絵を見てください。
今ある企業の一般的な発電所では、電気を作る段階ですでに60%のエネルギーをお湯として捨てていて、残った40%が電線を伝って各地に送電されるんですね。でも、送電や変電によって7%のロスがあるので、送電した先に届くエネルギーは、発電のために投入したエネルギーの33%しかないんです。
つまり現状では、電気を買っている側がどんなに節電したとしても、売っている側の発電効率が高まらない限り、総合的には「ほとんど効果がない」とも言えるくらい、効率が悪いんですね。
実は太陽光発電や風力発電はさらに効率が悪くて、100のエネルギーから取り出せる電気は、20%弱しかありません。だから僕は別に「自然エネルギー信望者」なわけではなく、「非効率かつ賛同できない発電をしている電力会社の電気に依存するより、できるだけ自立した方法で、自分たちに必要な電気をムダなく使いたい」と思っているだけなんです。
オフグリッド太陽光発電は、作れる電気がたとえ投入したエネルギーの20%弱だとしても、一度システムを構築してしまえば、降り注ぐ太陽光を原料にして自動的に電気が作れますし、発電した12Vの直流電流を交流に変換するロスなくそのまま使えれば、電力会社の電気を買うより効率がいいと判断しました。もちろん気分もいいですしね。
電気は、「つくる」より「使わない」方がラク
オフグリッド太陽光発電には価値を見出しつつも、「メガソーラーや大規模な風力発電など、大規模な自然エネルギーシステムはナンセンス」と語る宮島さん。さて、その理由は…?
考えてもみてください。33%しか電気を作り出せない現在の火力や原子力発電でさえ効率が悪いのに、効率が20%以下のメガソーラーや大規模風力発電で、しかも曇ったり風が吹かないと発電できない不安定なシステムなんですよ。
それを国策として開発し、大規模な設備をつくるために巨額な資金が投入され、そのお金は結局、税金や電気代として利用者が払うことになるんです。つまり、得をするのは設備をつくる企業や国であって、一般生活者ではないというのが、私の考えです。
なるほど…!でも、自然エネルギー発電が増えれば、原発や火力発電が減るのでは?
残念ながら、現状ではそうはなっていません。たとえ原発停止の状態が続いたとしてもすでに問題は山積みで安心はできませんし、現状では自然エネルギー発電が増えても、安定供給ができる火力発電は減っておらず、CO2も減っていないんです。
住宅用の売電式ソーラーシステムも同じ構造です。電気を売れば確かに一時的にお金は入って来ますが、「安定した電力が確保できない太陽光や風力の電気を一定の金額で買い取る」という国策のリスクを穴埋めする資金源は税金や電気代ですから、増税したり、原発停止を理由に『再生可能エネルギー促進付加金』などの名目で電気料金を値上げすれば、しょせん国や電力会社の腹は痛まない。
売電の代金を払っているのは、実は電力会社から電気を買っている人や、我々納税者なんですよ。
「言われてみれば確かにそうだ!」と気づかされる衝撃的なお話のあと、宮島さんはこう続けました。
そう考えていくと、「電気をつくること」より、「電気を使わなくてすむ暮らしをすること」の方が、ずっと効率がいいことに気づきます。「つくり方より、使い方を考える」。「資源を使わず、頭を使う」。それが最も大切なことなんですよね。
ソーラーパネルは、“神棚”みたいなもの。手を合わせて大切に使うべき「電気」という“ご利益”を確実に与えてくれる機材であり、電気を通して現代人の意識とライフスタイルを変えてくれる存在、と宮島さん。太陽の電気を使うようになったスタッフの皆さんも、「お天道様のありがたさを実感するようになりました」と、しみじみおっしゃっていました。
オフグリッドオフィスで働く社員のみなさん。「雨の日が何日も続きソーラー電気が使えなくなると、太陽光のありがたさを実感します」
オフグリッドな、建築アイデア
そんな宮島さんの考え方は、もちろん建築のお仕事にも活かされていました。その一つが、夏に大活躍してくれる、このサンスクリーン。夏、日当たりのいい部屋の窓をこのスクリーンで“外から”覆うことで、日射による室内のヒートアップを効率よく抑えてくれるとのこと。
窓の外からの明るさは取り込みつつも徹底的に日射熱をさえぎってくれる、ツルツルした丈夫な紙のような手触りの建築用資材でつくったスクリーンで、とても安価とのこと。このシートを窓の外に1枚かけるだけで、外は暑い真夏の日でも室内は森の中にいるような涼しさを実現でき、1000Wのクーラーにも値するほどの効果があるそうです。
見た目は和紙のような風合いなのに、手触りはツルッとスベスベ
「今後、建築家としてどんな建物をつくりたいですか?」と尋ねると、「エネルギー的にも自立した家」という答えが返ってきました。
2011年の震災直後、出版されたばかりの住宅雑誌を見ていたら、田園風景に建つ美しい木造新築住宅が紹介されていました。何気なくその物件のクレジットを見て、思わず凍りつきました。そこには、計画的非難区域に指定された『福島県飯舘村』の名が書かれていたんです。きっと建て主は、こだわって建て、やっとの想いで夢を実現したに違いない…。家のあり方を見つめ直させられた出来事でした。
ニュースなどで家を手放さなくてはならなくなった人々を見るにつけ、コンクリートで固められた住宅の不自由さを思い知り、それ以来、「ライフラインを切られた時にも安心して暮らせて、いざとなったら他の場所にもラクに移動できる家をつくりたい」と思うようになったそうです。
いわゆる“モバイルハウス(家に車輪がついた可動式の家)”にも興味はありますが、どちらかというとそれよりも、「家族4人で快適に暮らせるけれど、移築もラクにできる」というような家づくりを考えてみたいと思っています。簡単には実現できないかもしれませんが、研究していきたいですね。
オフィスにオフグリッド太陽光発電を取り入れるだけでなく、社員の皆さんも、移動にはできるだけ自転車を使うよう心がけている、という宮島さん。
「小さい頃から、いちばんやりたいことは森の再生でした」と語り、大学教授などと一緒に何年も前から、札幌市内の山で「子供と作ろう種から育てる未来の森」という森林再生プロジェクトを主催しつつ、地産木材を使った家作りの大切さも伝えています。
愛車のゲーリーフィッシャーと
先日行われた「子供と作ろう種から育てる未来の森2013」には、大勢の親子が参加。多様な生態系の再生を進める北海道工業大学の岡村教授に教わりながら、地元に自生していた在来種から育てた様々な木々の苗をみんなで植樹しました
たとえオール電化住宅や会社であっても、はたまたほんの小さなシステムであっても、できる範囲で始めてみると、意識と暮らしが明るく気持ちよく“新化”と“深化”を遂げ始める「オフグリッド太陽光発電」。
確実なご利益が望めるこのシステムは、電気を通してこれまで気づかずにいた日々の恵みへの愛と感謝を育み、“自分にちょうどいい暮らし”を取り戻す道具なのかもしれません。
太陽とつながる神棚を置くような気持ちで、あなたのお宅やオフィスにも、お一ついかがですか?