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農民と市民が出会い、小さな「光」が生まれた。 復興への希望「福島りょうぜん市民共同発電所」が完成!

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

あなたが今使っているパソコンやスマートフォンの電気。一体どこで作られているのでしょう?

コンセントの先を想像してみても、実際のところ、どこで、どんな方法で作られていて、どうやって電気が運ばれてきているのか、なかなかイメージが涌きにくいものです。どこか遠くの出来事のように感じてしまいます。

「どこで作られたか分からない電気より、自分たちの手でつくった電気の方がいいんじゃない?」最近、そう考える人が増えてきています。

例えばミニ太陽光発電システムをベランダや庭に置き、身近な電化製品に使う電気を自給する人たち。著書『できた!電気代600円生活』(北海道新聞社刊)を出版され、グリーンズのライターでもあるはらみづほさんや、太陽光発電をうまく活用されている“発電女子”な方など、素敵な人たちをグリーンズでも取り上げてきました。

さらに、自分たちの力で発電所を作ろうとしている人たちもいます。地域に住む住民が力を合わせ、太陽光などの自然エネルギーを活用し発電所を作った(作ろうとしている)地域は全国で数百カ所に上るといわれているんです。

自分たちで電気をつくる。そのきっかけは人それぞれです。電気をつくるのが楽しい、電気代を節約したい、原発の代わりになる発電方法を実践したい、発電所を作ることで地域を元気にしたい……。さまざまな思いが重なりながら、電気を自分たちの手に取り戻す動きが全国で着実に広がっています。

今回は、大阪に拠点を構える「市民」と、福島県に住む「農民」が熱いタッグを組んで作り上げた、「福島りょうぜん市民共同発電所」をご紹介します。

「ふつうの人たち」で作り上げた発電所

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福島県伊達市霊山町。JR福島駅から車で30分ほどの山あいに「福島りょうぜん市民共同発電所」は設置されています。

ずらりと並ぶ太陽光パネルは全部で630枚。併設されている「農民連第一発電所」(後ほど紹介します)と合わせると、約150kWの発電量です。住宅に設置するソーラーパネルは出力が4kW程度だと考えると、約37戸分の太陽光発電パネルが並んでいる計算になりますね。

この発電所は、大阪府のNPOと福島県の農民団体が協力し、つくり上げました。発電所は電力会社や大手のエネルギー企業や商社が建設するもの、とイメージしている方も多いかもしれませんが、この小さな発電所は発電のプロではない、いわば「ふつうの人たち」が主体となって完成したのです。

福島復興を願う大阪の市民と、地域再生にかける福島の農民

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2013年10月5日に行われた完成を祝う会にて。関係者、出資者とともに

最初に発電所の建設を思い立ったのは、福島県で農業を営む、「福島県農民連」事務局次長の佐々木健洋さん。3.11以降、南相馬市を始めとする福島県の被害の現状を全国に伝える活動を続けており、福島第一原発事故によって引き起こされた福島県内の土壌汚染や、農作物の汚染状況を検査してきました。

現在、果樹や野菜、米の放射性物質はどれも基準値以下となっていますが、風評被害も重なって福島県内の農家は壊滅的なダメージを受けています。その現状をなんとかして打破できないか、佐々木さんは方法を模索していました。

そこで見つけたのがドイツの農村の事例です。太陽光や風力、バイオマスといった自然エネルギーの活用を進めているドイツでは、自然エネルギーの活用によって過疎化の進行がゆるやかになり、農村が活性化しているケースが数多くあることが分かりました。

とはいえ佐々木さんや佐々木さんの所属する農民連は、豊富な土地は確保できる見込みはありましたが、自然エネルギーを活用する知恵も技術もありません。そこで知り合いのつてを辿って出合ったのが、大阪府のNPO「自然エネルギー市民の会」の事務局長、早川光俊さんでした。

早川さんもまた、福島第一原発事故によって、人生を大きく左右された一人です。もともと地球温暖化防止の市民活動を続けており、原発にも反対の姿勢だった早川さんは事故以来「自分の力が及ばなかった責任を感じ、ずっと悩んできた」といいます。そんなとき佐々木さんの提案を受け、福島のためなら!とすぐに応じました。

早川さんはこれまでにも、幼稚園に太陽光発電パネルを設置する活動を行っており、事業の進め方のノウハウや施工会社とのつながりがありました。こうして、福島の農民と大阪の市民の恊働が始まったのです。

売電収入の2%を復興支援基金に

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ちなみに「福島りょうぜん市民発電所」の建設費や地代は、市民出資という仕組みによって集められました。普通、大規模な事業を行う場合、自己資産を使ったり、銀行からお金を借りたりしますが、この発電所は建設の目的や趣旨に共感した市民のお金が集まってできているんです。だから「市民共同発電」という名前なんですね。

出資の仕組みは少々複雑ですが、順調に発電さえすれば今後20年かけて出資金が返還される予定です。出資した元本が保証されるわけではありませんが、発電して得た収入で1.2%の利息も支払われることになっています。出資金元本に利息がついて、長い時間をかけて返ってくるのが、いわゆる寄付との違いです。

そして一番の特徴は、売電収入の2%を復興支援基金として積み立てること。事業の運営を通して、福島の復興に貢献することをうたっています。

「福島りょうぜん市民共同発電所」では、全部で63人から出資金が集まりました。全国各地の市民の「自然エネルギーの普及に貢献したい」「福島県の復興のためになるなら」という意志のこもったお金です。

実は筆者も出資者の一人。電気を自分たちの手でつくる取り組みを少しでもお手伝いできれば、という思いを託して投資しました。

完成した発電所を見ると「このパネルの1枚ぐらいは自分のお金なんだな」と思うとパネルに愛着感が湧いてくるような思いがします。自宅で使う電気も、ここで作られた電気を使うことができれば、もっと親近感が持てるだろうなと感じました。

地域でお金を回し、農業に並ぶ事業へ

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一昨年8月から計画がスタートしておよそ2年。発電所は完成し、無事電力会社への送電も開始されています。自然エネルギー市民の会が市民出資分で作り上げた「福島りょうぜん共同発電所」と、福島県農民連の皆さんが自分たちでお金を出し合った「農民連第一発電所」を併設する形となりました。

ちなみに周囲を囲う柵は周辺の山林から出た間伐材。柵の設置を地域に住む人に依頼することで、地元の雇用にもつながっています。

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福島県農民連の方々。左から佐々木さん、大橋さん、阿部さん

発電所を設置した福島県農民連の皆さんはどのような思いなのでしょうか。土地を提供した福島県北農民連会長の大橋芳啓さんはこのように語っています。

周りには桃畑が広がっていますが、この土地はたまたま雑種地で、発電所の建設には好都合でした。福島県内には、放射線量が高いため名産の柿をここ3年も作れていない土地もあります。風評被害だけでなく実害が出ているのです。そんな状況の中、脱原発を掲げ、福島県農民連と自然エネルギー市民の会が力を合わせ取り組んできた事業が実を結び、本当にうれしいと思っています。これからもこの土地を大切に守っていくつもりです。

また福島県北農民連「産直センターふくしま」の代表理事、阿部哲也さんは事業化に向けて意気込みます。

農産物の売上げが打撃を受けており、地域の人口も減少しています。この発電所を農業にと並ぶ事業の一つとして積極的に進め、地域を再生を図りたいですね。企業人でもなく、市民でもなく、土地に根ざして生きるわれら農民が主体となっていることに意味があります。農民による自然エネルギービジネスを、福島から全国へ発信していきたいと考えています。

そして、発電所づくりのきっかけをつくった佐々木さんも今後の見通しを語ってくれました。

声を上げれば協力してくれる団体がある、ということが分かりうれしいですね。将来的に、太陽光発電所でつくった電気を使用できるようになれば、地域の中でお金を循環させることができます。もっと発電所を増やせば、設置やメンテナンスによって地域に雇用も生まれるでしょう。中央集権的な社会から地域分散型社会への転換を、福島の農村から実現していきたいですね。そして何より、大変なこともたくさんありましたが、自分たちで電気をつくることは本当に楽しかった!

そして佐々木さん、発電所にはもう一つのねらいがあるといいます。

こうして形ができれば発電所の見学ツアーができますよね。ドイツに行ったとき、地域のエネルギー事業会社が自然エネルギー発電所の見学ツアーをやっているのを見たんです。興味関心のない人に実際に見てもらう。そうすればその事業性や公益性を分かってもらうことができるんじゃないかと。それに被災地福島がどうなっているのか、ニュースや新聞だけでは分からないですからね。実際に現場を見に来る人が増えてほしいと思っています。

発電所は希望の象徴

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テープカットで笑顔を見せる早川さん(左)

電気を自分たちでつくり地域でお金を回す。自然エネルギーの普及、啓発。そして福島の復興支援。「福島りょうぜん市民共同発電所」にはさまざまな目的が込められています。

この発電所は、ただ電気を作り出すための施設ではなく、関わった人々にとっての希望の象徴なのだと筆者は感じました。

発電所に関わる皆さんは、本当に生き生きと発電所について語り、これからの夢を語ってくれました。震災や原発事故の苦難の中、ようやく見えてきた明るい道だったのだと思います。発電所づくりのために力を合わせることで、明日に向かって希望が持てる。福島県農民連の皆さんはそのようにして力強く歩みを進めようとしていました。

希望の象徴なのは、出資した市民も同じです。東京という大都会の真ん中に住む筆者にとって「何かできないか」という思いを形にする、本当にささやかな方法が市民出資でした。その小さなアクションが、福島県農民連の方たちの希望につながっていると思うと、筆者としても心が満たされていく思いです。

自然エネルギー市民の会の早川さんにとっても発電所の建設は希望でした。

発電所ができて本当にうれしいですね。しかも福島県の農民の皆さんと協力することができ、少しでも原発事故の責任を果たせたかと思うと救われます。もちろんこのくらいで福島に住む人々が受けた苦しみを理解できるわけがないと思っています。これから発電事業を続け、出資者に返還する20年を掛けて、少しでもその痛みが分かるように努力していくつもりです。

佐々木さんにとっても一つの光明になったようです。

発電所の建設を通して、次の世代に可能性を示すことができたのかなと思っています。私は今37歳で子もいます。このまま子どもが大人になって原発やエネルギー問題が山積みの日本を見たとき「親の世代は何をやってたんだろう」と思うんじゃないでしょうか。私は決してそうさせたくない。少なくとも解決するすべがあることを示したいと考えていますし、私にとって自然エネルギーは、その一つの光明だったのです。

発電所はたくさんの「小さな光」を生みました。その光とは、150kWの電気で点すあかりであり、福島県農民連の方々の希望の光明であり、復興支援がしたいと願う人々の心の炎、そして、次世代の子どもたちの目の奥の輝きです。これからもこの光は、少しずつ、強く輝くようになるでしょう。

社会を変えるささやかな一歩

電気を自分たちの手に取り戻す方法はさまざまです。自分で小さな発電システムをつくる方法もあれば、地域で協力し合って発電所をつくることもできる。そして、出資という形で発電所をつくる人たちを応援することもできます。

「福島りょうぜん市民共同発電所」に出資し筆者が出会ったのは、福島で、大阪で、希望を抱き自分たちで電気を作ろうとしている人々の姿でした。そんな人々の取り組みに少しでも参加できたことは、素敵な体験になりました。

自然エネルギーの活用は、市民の手に電気を取り戻す過程です。自分たちのエネルギーを自分たちで決める。つまりエネルギーの民主主義ですね。

今回の出資者募集には、想定を超える数が集まり、何人かにお断りをしなければならないほどでした。日本の普通の市民は、何かしたいと強く思っている。それが分かって、私は感動しました。

エネルギーの民主主義を実現するのはこうした市民の力にほかなりません。私は日本の市民を最後まで信じたい。そう考えています。

早川さんが語ってくれた市民出資の可能性は、「ほしい未来をつくる」ための小さな一歩になっていくことでしょう。