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「”ライフワーク”ってなんだろう?」パタゴニアに勤めながら、環境問題の解決に取り組む但馬武さんに聞いてみました

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは、”ライフワーク”という言葉を聞くと、どんなことをイメージしますか?

ライフ(生活)であり、ワーク(仕事)でもある。辞書には「一生をかけてする仕事」とありますが、「仕事」と言っても賃金をもらう業務とはちょっと違うような気がします。暮らしと働きが合わさった仕事とは、どういうことなのでしょうか?

そこで今回は、アウトドアメーカー「パタゴニア」に勤めながら、環境保護や社会問題への取り組みをライフワークとしておこなっている、但馬武さんにお話を聞いてみました。


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パタゴニアの但馬さん

パタゴニアのなかで通販やカスタマーサービスを担当するダイレクトセールス部門で、ディレクターを務めている但馬さん。その傍ら、自らNPOに所属して活動したり、ビジネスを通じて得たマーケティング関連の知識をNPOの方に提供したり、ソーシャルビジネスを営む人たちをつなぐ交流会を開いたりしています。

環境問題に目覚めたきっかけは、パタゴニアの求人情報だった

パタゴニアで働いて16年になる但馬さんですが、最初からそのような活動を始めたわけではなく、入社当時はもやもやしていたそう。

パタゴニアの前は通信会社に勤務するも、「社会に役立っている実感がなく、次の仕事ではそういう実感の持てることをやりたい」という思いから退職。直後の冬のあいだ、両親が始めた福島県・猪苗代で経営していたスキー客向けコテージを手伝うことに。

スキーシーズンが終わった春、東京に戻ろうと職を探していたところ、パタゴニアの求人募集を偶然見つけたそうです。その動機は「アウトドアスポーツをしていたいから」とシンプルなものでした。

しかし、面接での反応はイマイチ。

なんでかなぁと思って、一次面接の直後にパタゴニアのウェブサイトを見てみたら、環境保護への取り組みについて書いてあって、そのとき初めて知ったんです。読んでいるうちに、「やりたいことはこれだ!」と確信しました。

すぐに「一次面接での話は忘れてください」と手紙を書き、その熱意が伝わったのか二次面接に通過し合格。通販部門のパートタイムスタッフとして働き始めました。
 
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但馬さんが由比ヶ浜をランニング中に撮影。勤務中もよく走りに行くそう。

原発と戦う、祝島との出会い

パタゴニアは「ビジネスを通じて環境問題に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」という企業理念のもと経営しています。環境や人権に配慮された製品をパタゴニアが持つ価値観とともに販売すること。そのためにはお客様の価値観を変えていく必要がありますが、むしろ「やりがいのある仕事だ!」とすぐにのめりこんでいきます。

働くにつれ、「会社がやっている環境への取り組みを、もっと自分の言葉で話せるようになりたい」と思うようなり、やがてパタゴニアが取り組んでいる環境問題の現場に積極的に訪問するように。それはパタゴニアで働き始めて、数年が経過していたころでした。

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渓流自然保護ネットワーク」訪問時、砂防ダムにて

自分の部署では何ができるか考えたときに、カタログの紙と、パソコンの電気をすごく使うから、森林と電力にフォーカスしようと考えたんです。そうやって電気のことを調べているうちに、原発問題を知ったんですね。特に青森の六ケ所村(にある使用済み核燃料の再処理工場)については、2008年から会社を通じて反対活動を始めることにしました。

これを機に、原発への関心を強く持った但馬さんは、30年以上、中国電力に対して反対活動を続けている山口県の祝島の方々を知ります。

「地道に本質的な活動を続けている人たちのために何かできないか」と、祝島のある地域にてパタゴニアが支援している環境団体の一つ、「長島の自然を守る会(現「上関の自然を守る会」)」を訪れることに。この団体は上関原発が建設予定されている山口県上関町で、地域の生物多様性を守る活動をしています。

祝島のある上関町は、当時の町長が原発誘致を表明してから31年間、今も建設への反対運動が続く町。建設予定地は瀬戸内海に面しているため、周辺海域の生態系に影響が出るのではないかと懸念されているのです。そんな祝島へ訪れたのは、2011年3月11日。奇しくも東日本大震災の日でした。

震災があった時点で福島原発がああなることは想像できましたね。猪苗代にある両親のコテージでも、その後半年もの間、避難民の方々の対応に追われていました。原発について活動をしている自分が、その祝島で震災を迎えたのは、「ライフワークとして原発問題に取り組め」と言われているのかな、と感じました。

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上関での調査活動の様子。正面が祝島

これまでは曖昧だった個人の理念が「孫の代まで地球環境を残すこと」と明確になったのはこの時期だったそう。

ネイティブ・インディアンのイロコイ族の言葉に「意思決定をするのに7世代、先のことまで考える」とあるんです。僕はそんなに先まで考えられるか自信はありませんが(笑)、でも孫の世代のことなら実際に会えるわけなので、しっかりコミットして動けている気がしています。

「交通費とおいしいお酒があれば、どこにでもいきます」

ダイレクトセールス部門の責任者として、パタゴニアの枠を活用してメッセージを伝えてきた但馬さんですが、「ここ一年半くらいはパタゴニアで培ってきた経験や知識、人とのつながりから活動の幅が広がってきた」と言います。

そのひとつが、NPOやソーシャルビジネスの方々に対するマーケティング関連の勉強会。ビジネスを通じて得た知識や経験を共有することで、新たなプレイヤーを増やしていったり、もっと力をつけてもらいたい、とさまざまな団体に実施しています。交通費とおいしいお酒をいただければ、どこにでもお話に行くのだとか。

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交流会の様子

また、勉強会をセットにした交流会も毎月のように実施しています。テーマは「砂防ダムと辺野古の問題について勉強しよう!」「未来と愛について語ろう」「欲しい未来を創るためのリーダーシップとは?」など、さまざま。毎回30人ほどが参加し、対話を重ねています。

仕事を通じて知り合ったNPOやソーシャルビジネスの方々とお話をしていると、ある側面ではとっても先進的なのですが、ご自身の専門分野以外では、どうしても視野が狭い印象を持つことがあります。

みんなも異業種の人たちともっと会った方がヒントがあるのでは、と思い、人と人をつなごうと、ゆるい飲み会を開くことにしました。でも、ただ飲むだけではつまらないので、ゲストとして誰かを招いて、話をしてもらっています。

ほんとこの世界にはかっこいい人がいっぱいいて、みんなに紹介したいんですよ。

さまざまな人と出会い、会った人たちをつなげていく。これもライフワークのひとつのようです。

自分なりの、社会をつくるプレイヤーになる

「会社でやっていることと、個人でやっていることの線引きが難しい」と言うように、まさにライフとワークが一体化している但馬さんですが、ご自身も、日本人の父とポルトガル人の母を持つハーフで、子ども時代に外見の違いからいじめられていたそうです。

母も多くの差別を受けてきていましたが、そんな状況であっても老人ホームや障がい者施設、乳児院などでボランティアを続けていました。小さなことかもしれないけど、普通の暮らしのなかで行うひとつひとつの実践が、何より難しいことですよね。それを積み重ねてきた両親は私にとって間違いなくヒーローですし、私の子どもにとってもそうあっていたいと思っています。

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今では二児の父となった但馬さん。写真は息子さんと富士山にて。

「いろんな人を巻き込んで社会を変えていくためには、”正しさ”だけでなく”楽しさ”が大事ですよね」というように、但馬さんは本当にいつも楽しそうで元気いっぱい。かと思うと真面目にエネルギーの話を始めたり、冗談を言ってみんなを笑わせたり。人をひきつける力があふれています。

グリーンズみたいに「一緒にやろうよ」とゆるやかなムーブメントを起こすタイプや、「巡の環」の阿部さんみたいに地域に入って新しいビジネスをつくりながら実証していくタイプとか、社会をつくるプレイヤーにはいろんなタイプがいます。僕はその中でも「こんなやり方があるよ、成果も上がっているからぜひみんな真似てみてね」って、ビジネスを通じて実証をしていくようなアルピニストタイプですね。

でも交流会の場づくりを楽しんでいるように、自分のなかにいろんな自分がいます。どれも正解な気がして、現時点ではまだまだひとつには決めないですね。それはそれでよくて、心の中に多様性を持つことも大切にしたいです。

仕事で得た知識や経験、人脈が仕事以外で誰かの役にたったり、またその逆に仕事ではないところで出会った人との間に、これまでとは想像できなかった素晴らしい仕事につながっていく。

誰でも会社の自分、家族といる自分、趣味をしているときの自分…といった“多様な自分“がいます。それぞれを分けずに一つに考えて行動したとき、もしかしたらライフワークと出会うのかもしれません。