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みんなが元気になる本を。人と地域の魅力に出会うガイドブック『三陸人』制作の裏側に潜入してきました!

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

地域と人との出会いを楽しむためのガイドブックシリーズ「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」。 以前もお伝えした通り、現在、第三弾として、岩手県と宮城県を対象とする『三陸人』を制作中です。

制作チームは地域の魅力を伝えようと何度も現地に入り、取材に駆け回りました。 今回、取材と執筆をメインで担当しているライターの高山裕美子さんにお話を伺いながら、今月初めの取材ツアーに同行してきました。

『三陸人』のつくりかた

『三陸人』の取材チームは9月末から10月初旬の6日間、宮城県石巻市と女川町などを訪れました。編集部のある東京から東北へ取材に入ったのは4度目。東京へ戻る最終日は朝から4カ所を回りましたが、「今日は移動も取材件数も少なくて楽な方なんですよ」と高山さん。スケジュールが詰まっているときは、早朝に宿泊先を出て、戻るのが深夜に及ぶことも多かったそうです。

石巻では地元の高校生が中心になって企画・運営する、いしのまきカフェ「」(かぎかっこ)を訪問。高山さんは、メンバーの神橋由佳さん(18)にインタビューし、お店のロゴデザインに別のメンバーのアイデアが生かされたこと、接客の楽しさなどについて話を引き出していました。

かぎかっこ
お店のロゴデザインになった、指差しジェスチャーでポーズ

高山さんは、参考にと「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」の第二弾『福井人』を手渡しました。カニ剥き日本一の女将、県民こぞって食べる水ようかんの特集…。どのページにも表情豊かな人の写真、ローカルでユニークな話題が満載です。神橋さんは「すごく面白い。こんな形で『三陸人』ができてみんなに読んでもらえたら、石巻のあったかい人柄が伝わりますね」と嬉しそうでした。

次に高山さんが向かったのは、女川町のトレーラーハウスを使った宿泊村「EL FARO(エルファロ)」。震災で被災した旅館業者4社が組合を作って運営しています。理事長の佐々木里子さんが出迎えてくれ、話を聞かせてくれました。


取材中の高山さん(左)と佐々木さん(右)

トレーラーハウスを使った宿泊施設は被災地初の試みで、行政の許認可を取るのが大変だったこと。地域の仲間が応援してくれたこと。大好きな両親を亡くした悲しみも打ち明けてくれました。困難や悲しみに負けず、復興に向かって明るく頑張る佐々木さんの言葉に、高山さんは時折涙ぐんだり、大きく相槌を打ったり。共感した様子で耳を傾けます。

佐々木さんが「トレーラーは町のいろんな場所に置き、いろんな使い方をすることができる。復興に合わせていろいろな表情を見せてくれると思うの」と話すと、高山さんは「最高ですね!楽しそう。わたしもまた女川を訪ねます」と答えていました。

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佐々木さんは、『三陸人』への期待をこう話します。

東北の元気は、日本の元気になります。『三陸人』を読んで、「東北が元気になった」と感じてほしい。「女川でこんなことができたんだから、自分たちにも何かできる」と思ってもらえれば嬉しいです。完成が楽しみ。読者の中で、誰か1人でも私に会いに来てくれる人がいるかな?なんてね。

広い三陸を北へ、南へ。ハードな取材ツアー

プロジェクトで定義されている「三陸」は、北は岩手県宮古市から南は宮城県石巻市まで。震災の被害が大きかった三陸沿岸です。取材チームはこの中でも岩手県沿岸南部(宮古市~大船渡市)、宮城県沿岸北部(気仙沼市・南三陸町)を中心に、いずれも数日~10日間かけて取材しました。

取材の難しさと言えば、日程の調整です。現地に滞在できる数日のうちにできる限りの対象者を取材しなければいけませんが、相手の都合もあります。エリアが広いので、次の取材先まで数時間かかるということも。被災地は宿泊先が少ないのに復興関係などで利用者が多く、宿の確保にも苦労しました。

忙しさのため、車中でパソコンを開き、原稿を書いたり、メールの返信を打ったりすることもしばしば。それでも高山さんは、「取材が楽しかった」と言います。

三陸人・車中

元気になれる本を

高山さんは普段、東京を中心に活動しています。三陸人の取材にあたり、初めは戸惑いや不安もあったそうです。

取材対象者の中には家族を亡くされた方もいます。どんなふうに話を聞いていったらいいか、傷付けるようなことを言っていないか。気遣いながら取材を進めました。

しかし、次第に人の強さや魅力に出会い、元気をもらうことが増えていきました。

若者がスケートボードの練習場を探していた時に、地元の社長が空き倉庫を貸してくれたとか、ちょっとしたことなのですが、世代を超えたつながりが多いように感じました。年齢などに関係なく、互いをリスペクトしている。もともとあった地域のつながりが、震災でより強まったのでしょうか。前向きで、失ったものを数えない人が多いことにも感激しました。

被災地の復興に役立てればと、制作に加わったという高山さん。「『三陸人』に登場してくれた人、読んだ人、みんなが元気になってくれたら」と願っています。

頑張っているけれど光の当たっていない人を発掘

「COMMUNITY TRAVEL GUIDE」シリーズは、その地で暮らす魅力的な人を紹介し、人々と出会う旅を提案するガイドブック。第一弾が島根県の海士(あま)町を紹介した『海士人』、第二弾が福井県嶺北地方の『福井人』です。『福井人』の制作プロジェクトは、2013年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

第三弾の『三陸人』は、被災地で頑張る人を旅と出会いのパワーで応援し、復興を後押ししようと企画されました。今年4月には「魅力的な三陸人を探そう!」と題するワークショップを仙台市で開き、岩手、宮城に住む参加者からアイデアを募集。来年2月の発売に向けて制作が進んでいます。

プロジェクトリーダーであり、「issue+design」代表の筧裕介さんに、進捗状況を伺いました。

三陸人・筧さん (2)
プロジェクトリーダーの筧さん(中央)

取材はほぼ終わりました。現在は原稿執筆と編集・デザインの作業を進めています。約130ページに150組程が登場する予定です。

取材先をどのように選んでいるのでしょうか。

地域の人から見て魅力的な方を紹介したいと思っています。そのためワークショップで対象者を推薦してもらい、現地でも新しい取材先の発掘に努めました。復興支援で頑張っているけれど光の当たっていない人、まだまだ支援が必要な人も、意識的に取り上げています。

仙台で開かれたワークショップで
仙台で開かれたワークショップ

制作の難しさ、面白さについても聞いてみました。

取材エリアは県境をまたぎ、数百キロに及びます。企画の目的の一つに、三陸の縦のラインをつなげて連携を促すことがありましたが、まず共通軸を見出すことが大変でした。一方、登場する人の生きざまや価値観が強く表れ、『海士人』や『福井人』以上に内容は濃いと思います。

震災から2年以上経ち、「軽い」ものは淘汰されたということなのでしょう。残った「濃い」ものを知り、発信できる機会を持てたことを嬉しく感じます。

『三陸人』と三陸に応援を!

編集部は制作資金の調達のため、クラウドファンディングのREADYFOR?に挑戦しています。

三陸人ready

11月5日のスポンサー募集締め切りまでまだ時間はありますが、資金は思うように集まっていません。「直接的な支援と違って、ガイドブック=復興に役立つというつながりが見えにくいのかもしれません」と推測する筧さん。それでも「活動の意義を伝えていくしかない」と言います。

三陸の復興には産業の振興が欠かせません。観光もその一つです。1人でも多くの人にガイドブックを読んでもらい、三陸へ行ってもらうことが、長い目で観た観光復興につながります。日本全国から三陸への注目が集まる。地域の産業が盛り上がり、復興が進む。「三陸人」が、その血流を後押しする存在になれればと思っています。応援よろしくお願いします。

取材や制作の状況は、READYFOR?の特集ページで詳しくレポートされています。ぜひ読んで、「三陸人」の制作と三陸を応援してくださいね。