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本日は蓄電日和。太陽光で一泊分の電気をまかなう「サンセルフホテル」が、団地内にオープン!

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わたしたち電力」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

今年4月、茨城県取手市にある「井野団地」の空き部屋に、ユニークなホテルがオープンしました。団地に宿泊するということだけでも何だかワクワクしますが、サプライズはそれだけではありません。

この「サンセルフホテル」で活躍するホテルマンの多くは、井野団地に暮らす住民や近隣に住む方たち。企画の立案から準備、そして当日のゲストの食事やアテンドまで、住民の方々が主体となり運営されているのです。

またこのホテルのもうひとつの大きな特徴が、電力の地産地消です。宿泊客とホテルマンが一緒になって自家製の「ソーラーワゴン」を使って井野団地にそそぐ太陽光を蓄電し、そのエネルギーでゲストが一夜を過ごす一泊分の電力をまかない、そしてホテルの象徴となる「夜の太陽」を夜空に浮かばせ光らせようというのです。

オープンしてから2組目となるゲストをお迎えする9月14日、「サンセルフホテル」にお邪魔してきました。

「サンセルフホテル」ってなんだろう?

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このユニークなホテルは、これまでにも国内外でさまざまな地域コミュニティと協働したアートプロジェクトを行ってきた現代美術家の北澤潤さんが発案し、「アートのある団地」をテーマに活動している「取手アートプロジェクト」と一緒に、3年以上をかけて育まれてきました。

そして発電の要となる「ソーラーワゴン」作りから始まり、約1年間、住民たちがホテルマンとしてホテルに必要なことを考え準備してきました。

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北澤さんを中心にゲストの到着前に最後のミィーティング

太陽と人の関係性を再構築する手段が「蓄電」だったと、北澤さんは話してくれました。

アートという言葉を使うと取っつきにくいのですが、私が仕掛けるアートは個人がつくる「作品」ではなく、「地域のありふれた日常を地域に住む人びとが主体となって、あえてもうひとつ創りだすこと」をテーマとした「活動」です。

サンセルフホテルでは、太陽光発電を使って太陽から電気を集め、その電気で「もうひとつの太陽」に光を灯す、さらに人間が生活する部屋だらけの団地のなかであえて「もうひとつの部屋」としてホテルをつくる。

太陽と人間の関係性を再構築した手づくりの「もうひとつの日常」がこのホテルによって現れてきます。私のこのような提案に対して、地域に住むさまざまな人たちの中に「何だか面白そうだね」という好奇心が芽生え、そのうちに「ホテルにはこんなものがあったらいいよね」という自主的なアイデアを出してもらいながら一緒につくりあげていく。

そうやって関わる人たちの生活の中でいつもの日常と「もうひとつの日常」が往復し始めると、世界の感じ方が変わってくるはずです。

北澤さん自身が大切にしていることはサンセルフホテルの完成形をイメージしないことだと言います。 最初のきっかけは作ったにせよ、関わる人のアイデアによって多面的に変わっていくなかで、みんなの「サンセルフホテル」ができていくことが重要なのだとか。

その言葉通りに興味深いのは、北澤さんと住民のみなさんが対等であるという関係性。

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井野団地内の壁にはチョークで書かれた「よるの太陽祭り」の案内が

ホテルマン一人ひとりの視点から活発に意見が飛び出し、今回の宿泊ではこのホテルに親しむことのできるイベントを、というアイデアから「よるの太陽祭り」の開催も決定。 夜空に浮かぶ太陽バルーンを井野団地の住民と一緒に楽しんだり、ミニ太陽バルーンのプレゼントや自家製サイダーが振舞われたりするなどたくさんの企画も用意されたそうです。

総勢30名のホテルマンは1歳から88歳までの実に多彩な顔ぶれで、 ゲストのご案内やソーラーワゴンによる蓄電を担当する「コンシェルジュチーム」、客室の準備をする「ルームチーム」、調理を担当する「コックチーム」と、ホテルマンそれぞれの得意分野ごとにわかれて参加しています。

今回から新たに「こどもコンシェルジュチーム」も結成されいろいろな場面で大活躍してくれる予感がします。そんなみなさんは、この日の午前中も和気あいあいとにこやかにゲストをむかえる直前の準備をされていました。

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こどもたちだけでゲストとのビンゴゲーム大会のミィーティング

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ホテルマン以外にも団地の住民の方々も様子を見にきています

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鮮やかなオレンジ色のエプロンでコックチームはナン作り

真心こめて、ゲストをおもてなし

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午後1時、いよいよ「サンセルフホテル」にとって2組目のゲストが井野団地に到着。フロントにホテルマン全員が集まり笑顔でお出迎えするおもてなしは高級ホテルでも見ない光景です。

今回ゲストとして選ばれたのはご自身もアーティスト活動をされている鶴岡さんと、都内のデザイン会社に勤めている海岸さんのお二人。サンセルフホテルのウェブサイトにある「太陽とねむる夢を見た。」のコピーと、 井野団地の夜空に太陽バルーンが上がっているイメージ映像が目に焼きつき、ぜひ宿泊してみたいと申し込まれたそうです。

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ポストに「サンセルフホテル」のネームプレート。お部屋が401号室

ホテルの説明や一泊二日のスケジュールの説明を受け、チェックインを終えるとルームチームのホテルマンによって準備された手作りの客室へご案内。 

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着物姿でウエルカムサービスする片山春枝さん。朝早くから客室の準備をされていました

ちょっと懐かしい間取りではあるものの綺麗にリノベーションされた部屋に、石鹸やカーテン、ランプシェードなどホテルマンたちの手作りのアメニティが用意されています。真心のこもった一つひとつにお二人とも驚かれている様子でした。

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太陽の光を求めて蓄電ツアーに出発

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蓄電ツアー前にホテルマンはルートの最終打ち合わせ

客室でひと休みしたあとはいよいよメインとなるソーラーワゴンを使っての太陽光エネルギー集め。 海岸さんがバッテリーの接続をすると無事に作動、直前までソーラーワゴンにトラブルがないかメンテナンスをしていたホテルマンも一安心です。

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電気を少しでも多く集められるよう直前まで話し合われていた太陽光収集ルートをもとに、団地の見所や歴史をガイドしながらの蓄電ツアーに出発。 このソーラーワゴンは大小2つあり、大きいタイプは夜空に浮かべる太陽バルーンを内部から光らせるLEDライトに使われ、 小さいタイプはゲストが一夜を過ごす客室の電気に使われます。

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どちらも太陽光がソーラーパネルに当たることで電力が生まれ、その電力をソーラーワゴンに搭載されたバッテリーに蓄電する仕組みになっています。 約1時間をかけて集めた電力ですが、さてこれでどれぐらいの電気が賄えるのか楽しみです。

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蓄電担当である矢口太一さんのガイドで団地内を移動。矢口さんは電気の事を詳しく教えてくれました

その後はホテルマンたちと一緒に「よるの太陽祭り」のライトアップに使うキャンドル作りや、「こどもコンシェルジュチーム」によるビンゴ大会などがおこなわれ ゲストのお二人も和やかに時間を過ごしていました。

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今日までの準備スケジュールがびっしり書き込まれた黒板の前でキャンドル作り

蓄電したバッテリーで客室に灯りがついた!

ゲストやホテルマンたちが楽しんでいる時間の合間に北澤さんと矢口さんは真剣な表情で打ち合わせ。蓄電されたバッテリーでどれぐらい時間が持つかなどを細かく計算している真最中でした。

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だんだん空が夕暮れに近づいてきた17時頃、ソーラーワゴンで蓄電したバッテリーを客室に運び、客室にバッテリーを設置していよいよ点灯。 室内に灯りがつくとゲストの二人からも思わず「わー」という声があがります。

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この客室で使用される電力は私たちが日常使う交流方式ではなく、直流方式で使われます。 私たちが普段使用している交流方式は直流から交流へ電力を変換することで実は約20%も余分な電力を使っているのだとか。 サンセルフホテルでの地産地消のエネルギーは、無駄なく電力を使うためにひと手間もふた手間もかけられていました。

この日集められた太陽光発電による電力は、室内の照明やオーディオコンポ、映像モニターなどの電気製品をすべて同時に使ったとしたら約60分で使い切ってしまうそうです。

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ソーラーワゴンのバッテリー設置スペース。

すこし不安な気持ちにもなりますが、照明をひとつだけ点けていたとしたら約30時間は大丈夫とのことでした。 ゲストのおふたりは電気の使い方を自ら考えながら過ごす貴重な夜になりそうですね。 最後に蓄電担当のホテルマンが「太陽光発電の電気で音楽を聴くとノイズが無くなりとてもクリアな音で聴けるんですよ」とCDをかけてくれました。

そういえば以前オーディオマニアの方も遠くの遠く何百Kmも離れたところで発電し送電されてきた交流電気はノイズだらけだという言葉を思い出しました。確かに音が澄んで聴こえるようで、ちょっと贅沢な電気の使い方も教えてもらいました。

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取手産ブルーベリーのラッシーで乾杯

そして待ちに待ったディナーの時間。 前回は客室でディナーというスタイルでしたが、今回は団地内のおやすみ処兼取手アートプロジェクトの活動拠点でもある「いこいーの+Tappino」でホテルマンたちと一緒におしゃべりしながらいただきます。 これも「みんなと一緒に食事した方が楽しいよね」というホテルマンの意見によるちょっとした改善点。

事前にアンケートでお二人はカレーライスが好きということを聞き、メインディシュに特製カレーが振る舞われます。 その他にも「団地産ゴーヤのおひさまやき」「カラフル夏野菜の素揚げバイキング」「茨城名産れんこんのピクルス」など、団地で収穫した食材なども使いながら「コックチーム」が 一日かけて一品一品を作った気持ちのこもったメニューが用意されました。

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「よるの太陽」が夜空に輝く

ディナーのあとは「よるの太陽まつり」がスタート。ホテルマンたちの事前の告知活動が功を奏し、今回は子どもたちから年配の人までたくさんの住民の方が集まりました。こどもたちにはミニ太陽がプレゼントされ、キャンドルの灯りと相まってなんとも幻想的な空間が団地の中にあらわれました。

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VIP席はこどもたちが占領

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「夜の太陽バルーン」にヘリウムガスを入れ人の背丈以上に膨らませる作業も進み、風船の中のLEDライトと蓄電バッテリーをつなぐだけ!となったところでヘリウムガスが抜けるというトラブルが発生しホテルマンたちは大慌て。なんとかこれを乗り切り、予定より30分遅れでようやく点灯式がスタート。

みんなが見守る中カウントダウンの声にあわせ点灯された太陽バルーンが、陽の沈んだ夜空に少しずつ浮かび上がると大きな歓声と拍手がわきあがりました。

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さてお二人が過ごされた客室の電気はちゃんと足りたのでしょうか?自治会長さんのお宅のお風呂に案内されたお二人はそこで話が盛り上がり、部屋のに戻ったのが23時過ぎだったとのことで、実は部屋で電気をほとんど使う機会もなく翌朝までちゃんと使えたそうです。ただそのことを通じてみんなで一緒にいたり分け合ったりすれば、個人としては無駄に電力は使わないのかな」と鶴岡さんは話してくれました。

電気を使わなければ使わないで太陽との関係性を意識できるって、やっぱりサンセルフホテルは素敵ですね。

「サンセルフホテル」の朝はラジオ体操で

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翌朝はモーニングコールからはじまり、ホテルマンと一緒にラジオ体操をしてひと汗かいたところで朝食の時間。お二人はホテルマンたちとすっかり打ちとけた様子です。

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いよいよチェックアウトの時間という前にまたまたサプライズ。「こどもコンシェルジュチーム」が中心となって作ったお土産屋さん「サンセルフショップ」がオープンし。こっそり用意していた手作りグッズがたくさん並べられ、お二人に宿泊の記念としてプレゼントされました。

用意された傘には子どもたちが描いた可愛いイラスト付き。最後の最後まで手作りのおもてなしを感じられる「一泊二日のサンセルフホテルの旅」となりました。

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ホテルマンたち一緒に撮った記念写真もプレゼントされました

「サンセルフホテル」の宿泊体験をおふたりはどう感じたのでしょうか。北澤さんが話してくれたようにいつもの日常とは違う日常の中で、普段が感じることのできない貴重な時間を過ごされたようです。

アートとは無縁の団地の人たちがアートを通してひとつになってその日常が重なり合い僕もまたそこに関われたことを大変うれしく光栄に思っております。(鶴岡さん)

日常の暮らしそのものである団地の正に内側にアートを軸に回るコミュニティがあって、住む人たちの暮らしの間に作品がつくられていること。またその作品がオブジェなどのずっとそこにあるものではなく、みんなが共有する時間であるということ。そんな場所に参加してホテルマンの方と接する中で、その不思議な感じとワクワク感を肌で感じることができました。(海岸さん)

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ふたりが乗ったバスをホテルマン全員でお見送り

最後に北澤さんにこれからの「サンセルフホテル」のことを聞いてみました。

今日の様子を見ていると気づいたかと思いますけど「サンセルフホテル」の活動は「団地の空き部屋をなんとかしよう!」とか「蓄電してエネルギーのことを考えよう!」といった、いわゆる地域の課題や社会の課題を解決しようという目的意識で動いていません。じゃあアートは何を変えるんですか?ってよく聞かれるんですが、「サンセルフホテル」の特別な一泊二日に触れてみればきっと誰でも分かるはずです。

この活動で変わりつつあるのは地域に住む「人」です。小さな子どもからお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんまで、団地に住む一人ひとりの価値観が変わりはじめています。それは「サンセルフホテル」に他では経験することのない「心を動かす何か」があるからだと思います。井野団地のホテルマンたちはこの感覚に共感しているからこそ「サンセルフホテル」を私も驚くぐらいに変化させながら楽しんでくれています。

これからは、この活動やホテルマンの姿に共感して「サンセルフホテル」をやってみたいという地域が増えてくると面白いですね。ひょっとしたら日本各地で同時に「夜の太陽」に光が灯る日がやってくるかもしれませんね。

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「サンセルフホテル」はアートだったり、地域コミニュティだったり、エネルギーのことだったりたくさんのコンセプトを持ったホテルです。ただ北澤さんの言うようにあまり肩に力を入れずこのホテルで過ごしてみるのが一番いいのかもしれません。昼の太陽の光を蓄電し、私たちを照らす黄色く大きく輝く「夜の太陽」を眺めているだけで、あらためて太陽と私たちのつながりを感じることができたのですから。

こんなホテルが近くにあったらいいなと思いながら、第3回目の募集があったら自分も応募してみようと思いました。

(Text:山本雅美)
(Photo:9月14日/山本雅美、9月15日/伊藤友二)