12/19開催!「WEBメディアと編集、その先にある仕事。」

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“手間”を価値に変えていくデザインとは?贈り物に気づき、循環させる生き方・働き方をつくる「gift* Inc.」桜井肖典さん

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは”ギフト”と聞くと、どんなことをイメージしますか?ギフトという言葉には、”贈り物”という意味だけでなく、“生まれ持った才能”という意味もあります。

人々が生まれ持った創造力を遺憾なく発揮し、みんなが尊い価値を生む存在になれることを目指して。そして、価値が循環することで、消費重視型社会から新しい経済圏へ移行するために。そんな思いではじまった会社が、桜井肖典さんが代表を務める「gift*Inc.」です。

giftに気づこう 〜 淡路島の人たちと一緒に考える”本当に望む生き方”

giftは京都を中心に、ワークショップやデザイン、ブランディング、事業コンサルを通じて、創造型コミュニティづくりを手がける会社です。桜井さんはもともと2000年に「WIPE Inc.」を起業。WEB、グラフィック、パッケージ、インテリアといったデザインやブランディングを多数手がけてきましたが、社会に対するアプローチを少しずつ変えながら、まるで昇華するように、社名を変更しました。

誰にだって、創造力は備わっているもの。例えば「幸せになりたい」と願い、「少し変えてみよう」と工夫すると、それらは立派なデザインになります。まずは、そんな自らの願いに気づくこと。そんな願いのキッカケづくりを行なっています。

例えば淡路島では、地元の「ソーシャルデザインセンター淡路」と恊働しながら、「これからの島のくらしをつくる学校」というプロジェクトを運営しています。今年は「より生きる」をテーマに掲げています。

淡路島は都市部と違って新しい仕事は生まれにくく、行政や農協等の職員になるか、家業を継ぐかの大体どちらかなんです。

そこで「本当に望む生き方はどんな形だろう」といったことを考え、もし今の生活や仕事が自分の生き方や願いとずれているのだったら、少しずつ変えていきましょう、という内容です。

これからの島のくらしをつくる学校

地方では、職業選択の幅が小さいだけではなく、お互いの役割が決まっているがゆえ、業種やセクターを越えて本音で話し合う機会がなかったりもします。

「ここだと本音で話せる」と言っていただけます。昨年度の成果としては、「これからの島のくらしをつくる学校」実行委員へ15名が立候補してくれました。また、障害者雇用を生むためのカフェ・ホテル事業「プチホテル・シエスタ」もスタートしました。

「何かやりたいけど…」と、悩んでいた人が気づき、行動に移してくれたことが嬉しかったですね。

これからの島のくらしをつくる学校

ゲストスピーカーを招いてのインプットや、自分の想いをアウトプットするワークショップを通して、「気づき」を得ていきます。
ゲストスピーカーを招いてのインプットや、自分の想いをアウトプットするワークショップを通して、「気づき」を得ていきます。

開校式ではロゴを作るワークショップを実施。ロゴを“みんなが一緒にいた証”と捉え、浜辺にある素敵な物を順番に並べていきながら形を作りました。

これからの島のくらしをつくる学校

これからの島のくらしをつくる学校

浜辺で宝物を見つけ出し、みんなでつなげた形。風をはらんで、形をひとところへ留めないロゴが完成。 浜辺で宝物を見つけ出し、みんなでつなげた形。風をはらんで、形をひとところへ留めないロゴが完成。

チラシの中でも、ロゴは風に吹かれるように、次々と形を変えていきます。 チラシの中でも、ロゴは風に吹かれるように、次々と形を変えていきます。

giftを実践しよう 〜 “水が合う”仕事を選ぶ

自らの願いに気づいたのも束の間。日常に埋もれてしまい、時には先行きの見えない不安に襲われることもあります。人間は見ている方向へと進んでいきます。とにかく、“願い”を見つめながら、これまでと違う道筋を一歩、また一歩と歩んでいくことで辿り着ける場所があるかもしれません。

自分に“水が合う”と感じるような案件を丁寧に、正直に選ぶうちに、新たな出会いが増え、“願い”から事業をスタートさせたNPOや企業のコンサルティング、そしてブランディングのアドバイス等を手がけるようになりました。

特定非営利活動法人cobonでは、コンサルや事業やワークショップの企画、デザインディレクション等を手がけています。 特定非営利活動法人cobonでは、コンサルや事業やワークショップの企画、デザインディレクション等を手がけています。

大量生産、大量消費の中にはない価値観や願いを実現するには、例えば事業費をどう使い、何を目指すべきなのでしょうか。

店舗のインテリアでいえば、全体を過不足なく整えるより、入り口に大きな植物を据えることが集う人々の心を豊かにすることができるかもしれません。ブランドでいえば、日々発するメッセージの積み重ねがブランドをつくっていくわけなので、マニュアル化するのではなく、みんなが気づいた時に“より善く”“より美しく”改善していける環境をつくることを目標にします。

必要であればNPO法人申請書類の書き方から、銀行融資計画、もしくは人事制度の見直しに至るまで、多様な視点からコンサルティングをします。


giftを交換しよう 〜 コミュニティを育む「HUB Kyoto」

願いが叶った時には、「生きてて良かった」と思ったり、子ども、孫、隣人、自然環境などあらゆるものに感謝したり、優しくなれる瞬間が訪れることがあります。気づいたら、仲間に囲まれているのかもしれません。

「WIPE Inc.」から「gift*Inc.」へ移行する間に、会社規模は小さくなりましたが、心を等しくする仲間は増えたんです。「HUB Kyoto」では、そんな仲間と共にプロジェクトを取り組んでいます。

HUB Kyoto

2013年10月25日、京都に「HUB Kyoto」という世界60都市とつながり、社会をより良く変えたいと願う人々が共に学び実践するような、コミュニティ機能を備えたコワーキングスペースが誕生します。

HUB Kyoto

「HUB Kyotoは、上は70代から下は20代の、幅広い年齢層が集っていることに可能性を感じます。」 「HUB Kyotoは、上は70代から下は20代の、幅広い年齢層が集っていることに可能性を感じます。」

桜井さんは2013年4月に合流し、HUB Kyotoのコンセプトやデザインの提案等の形をつくる役割と、ワークショップやイベント企画等のビジネスづくりを担当しています。現在はHUB Kyoto共同世話人のおひとり中野民夫さんを語り手に、桜井さんが聞き手として、全7回のワークショップ「至福の追求とやさしい革命」も開催中です。

中野さんは「自分の願いに気づき、実践する」生き方を20年以上も前から続けています。僕は36年間の中で、最近になってそういう生き方を見つけました。その年月の差には明らかな違いがあると思うんです。その“違い”を掘り下げながら、“至福を追求する生き方”についてのダイアログやワークを行ないます。

ピンときた方は、ワークショップへ出かけてみるのはいかがでしょうか。「gift」を交換し合える仲間に巡り会えるかもしれません。


「gift」に気づくまで

生まれも育ちも茨城県だという桜井さんは「映画が撮りたい」という夢を持ち、高校卒業後に上京。東京で仲間と映像作品を撮る日々を送っていましたが、やがて「服飾デザイン」に出会い、さらに「企業経営」という新しいクリエーションに目覚めます。

「会社の社長になりたい!」って友達に話したら、京都の社長さんたちとのご縁が出来て、とんとん拍子に出資が決まったんです。

時はインターネット元年と呼ばれる2000年。桜井さんと仲間たちは「WIPE Inc.」を起業し、今でいうSNSのようなサービスを始めたものの、上手くいきませんでした。最新技術やマーケティング等を学ぶうちに、頭でっかちでコンセプトのよく分からないものになっていたと言います。

経営方針を急遽転換し、他社のWEB制作を請け負うようになります。さらに、クライアントの多かった京都へと会社を移転します。

クライアントから、“売りたい・儲かりたい”以外の想いが伝わってこないケースが多々ありました。もともと表現の世界にいたこともあり、「こうなりたい」という願いがないのに、形は作れないと感じ、若干23歳でありながら、生意気にも「あなたは、どうしたいんですか?」ということを掘り下げて聞くようになっていたんです。

今あるデザイン業の体制は、経済成長が上向きだった時代に作られたモデルです。「良い商品をより安く」という価格競争の中、デザイン費は、商品を作ることに付随する作業費=人件費として見積もられているケースが多いですが、桜井さんはこの“作業費”以上の価値をデザインの中に生み出そうと模索していました。

打ち合わせにワークショップを取り入れたり、相手から本当の願いを引き出したり、通常よりも工程に手間暇をかけることで、関わる人を増やしたり。出来上がったものを、そこにいるみんなが“自分に関係するものだ”と感じてくれることを目指していたのかもしれません。手間をコストでなく、価値に変えることがデザインにはできると思うんです。

「京都嵯峨芸術大学」大学案内のパンフレット制作

京都嵯峨芸術大学

京都嵯峨芸術大学

京都嵯峨芸術大学の大学案内。写真家と一緒に幾日も校舎を歩いて周り、学生たちとコミュニケーションを取りながら“最高の瞬間”を拾い集めました。在学生たちも、自分たちが写る大学案内を大切にし、学生の親からお礼の言葉が届いたことも。 京都嵯峨芸術大学の大学案内。写真家と一緒に幾日も校舎を歩いて周り、学生たちとコミュニケーションを取りながら“最高の瞬間”を拾い集めました。在学生たちも、自分たちが写る大学案内を大切にし、学生の親からお礼の言葉が届いたことも。

美容室「Dreap」店内インテリアの提案とブランディング

美容室「Dreap」

美容室「Dreap」

ラグジュアリーな美容室から一新。「サービスを提供する側、サービスを受ける側」という図式を見直し、人間対人間の関係性を表現。お客の写真作品の展示をしたり、お客の手描きコメントと共にオススメ図書を本棚へ並べるなど、“出会い”の仕掛けがたくさんあります。 ラグジュアリーな美容室から一新。「サービスを提供する側、サービスを受ける側」という図式を見直し、人間対人間の関係性を表現。お客の写真作品の展示をしたり、お客の手描きコメントと共にオススメ図書を本棚へ並べるなど、“出会い”の仕掛けがたくさんあります。

桜井さんは対話の中から新しいクリエーションを一緒に生み出すことを求められるようになり、会社は順調に拡大していきますが、同時に本意ではない“労働的な仕事”も事業の割合を占めていくようになります。

2008年9月にリーマン・ショックが起こり、その半年後に京都へ大不況が訪れますが、クライアントさんの態度が一変し、あまり僕と話したがらないようになったんです。新しいことにチャレンジしている場合じゃないという感じで。

そんな時、創業時からともに働いているアートディレクターに言われた言葉で目が覚めました。「面白いものが作れると思って今まで一緒にやってきたけど、今のあなたはすごくつまらなさそう。会社のために仕事をしているの?」

クライアントに新事業開発をする余裕がなくなり、そういった機会が巡ってこなくなる状況下で、経営方針が“いかに効率よく売上をつくるか”に傾き、“人が会社組織のために働く”状態へ陥っていることに気づいた桜井さん。再び、人がクリエーションを楽しむ会社へ変えていこうと決心し、余分なものを手放していきます。

金額的には以前より小さな案件が増えたものの、知識やノウハウ、人脈などが繋がり、仕事同士が相乗効果を生み、自分が生かされ、パートナーからも喜ばれるという嬉しい循環が起きています。

はじまっている僕らの未来

主催イベント「はじまっている僕らの未来」の制作チラシとイベントの様子。 主催イベント「はじまっている僕らの未来」の制作チラシとイベントの様子。

「自由」とは、“自らに由る”と書きます。つまり自分の願いに気づき、信頼できる自分を生きることで自由が手に入ると思うんです。

さらに社名も“自らに由った”名前へ変更。「gift* Inc.」になりました。

京都の三条にある町家を改装したオフィスでは、度々美味しいものと仲間たちが集うミニイベントが開催されています。 京都の三条にある町家を改装したオフィスでは、度々美味しいものと仲間たちが集うミニイベントが開催されています。


これからの「gift」

gift Inc.事務所前

雨上がりの空、雲の切れ間から太陽がサッと刺し込む光景を見ながら、「こういうことがやりたんだよ!」と、笑顔。 雨上がりの空、雲の切れ間から太陽がサッと刺し込む光景を見ながら、「こういうことがやりたんだよ!」と、笑顔。

みんなが“自らの願いに由った行動”を実践できるように後押しして、さらに、そんなひとつひとつを大きなコンテクストにまとめる役割を担っていきたいんです。

想いで起業し、理念に基づき社会への美しいメッセージを体現する会社に、パタゴニアがあります。こんな会社を増やして、これまでの大量生産・大量消費・効率重視型の価値観から、自由な生き方や幸福を追求した上に成る新しい経済圏をつくっていきたいですね。

新しい経済圏へチャレンジとして、11月には学生×企業で未来の新事業を描くプログラム「RELEASE;」をスタートさせるなど、続々と企画は続きます。

元・美術少年が「会社経営」という船でもって大人社会を生き抜いてきた、そのタフな経験を生かして世に贈り出す「gift」。今後、思っている以上に大きな展開が起こりそうだと感じるのは、私だけでしょうか。

(PHOTO:WIPE Inc./gift* Inc./open garden/cobon/Nara Yuko)