“自給自足できる街”をテーマに、ソーラークッカーを使ったBBQや、松戸のオーガニックエリア「八柱」を巡るツアー、さらには田植えやクラブづくり(!)まで、何でも自分たちの手づくりで実践しているgreen drinks 松戸(以下、gd松戸)。
「電気も自分たちでつくれない?」「エネルギーの自給自足を考えたい」ということで今回、ミニ太陽光発電システムの組み立てワークショップが実現しました。ゲストは全国各地で太陽光発電システム組み立てのワークショップを行っている藤野電力。「マイ発電所を作ろう!」と題し、千葉県松戸市の天真寺を舞台に行われたワークショップの模様をお届けします。
そもそもミニ太陽光発電システムって?
今回のワークショップで使用するのは、出力が50Wのソーラーパネルとバッテリーを使った組み立てキット。発電した電気は、電化製品を直接つないで使用することができます。
どれぐらい電気が作れるかというと、バッテリーにフル充電すれば6WのLED照明やスマートフォンの充電なら30時間、小型のノートパソコンなら4時間は使えるほど(50Wのソーラーパネル、12V 32Ah/20Hr のディープサイクルバッテリーを使用した場合の目安)。まさに小さな「マイ発電所」ですね。
組み立て方は、基本的に各機材のケーブルを順番につないでいくのみ。特別な技術は必要ありませんし、工具さえあれば半日もあると出来上がります。とはいえ、電気を扱う以上最低限の知識が必要。そこで藤野電力の方に説明してもらいながら実際に組み立ててみよう、というのが今回のワークショップの趣旨なのです。
厳かな会場でなごやかに組み立て開始!
時おり雲にかくれながらも、まだまだ強い日射しが降り注ぐ8月24日のお昼。天真寺の本堂にワークショップの参加者が集まりました。天真寺は地域のコミュニティスペースとして市民に開かれたお寺だそうで、gd松戸でもイベントで使わせてもらったこともあったとか。会場にはお線香の香りがかすかに漂い、なんとなく厳かな雰囲気。しかし、参加した皆さんはとてもリラックスムードです。
マイクの電源もソーラーパネルの電気でまかなわれています
教えてくれるのは藤野電力の鈴木俊太郎さん。太陽光発電システム組み立てワークショップで全国を飛び回っています。「ミニ太陽光発電システムは、外から持ってきた電気を使うのではなく、自分で小さな発電所を持って生活で使う分は自給しよう、という考え方から始まったもの。(電気の)家庭菜園を始めるようなイメージですね」。
組み立てキットの機材はこれだけ。
・太陽光を電力に変える「ソーラーパネル」
・発電した電気を充電する「バッテリー」
・ 電気を逆流させない、過充電にならないようにする「チャージコントローラー」
・ 直流の電気を交流に変換し一般的な電化製品をつなぐ「インバーター」
・ 直流でも使える電化製品をつなぐ「DCソケット」
・ 各機材をつなぐ「接続ケーブル」
ちなみに、今日の参加費は、キット代込みで42,800円です。
さっそく鈴木さんの説明に沿って、作業を始めていきます。組み立てに使う工具は電工圧着ペンチという特殊なペンチと電工ドライバーのみ。これまで電子工作をしたことがないような人でも抵抗なく作業ができます。
まずは接続ケーブルを覆っている被膜をむくところから…ですがこれが意外と難しいようで。力加減にコツがあり、「大人よりも子どもがさっとできたりするんですよ」と鈴木さん。
「はい、バトンタッチ!」参加者同士協力しながら実践します
作業中には随時鈴木さんが、「プラスとマイナスを間違えて接続すると機材が破損してしまうことも」「バッテリーの電極同士を何も介さずに直接つなぐとショートするので危険」など、電気を扱う上での注意事項を説明してくれます。参加者の皆さんもその説明に耳を傾け、一つ一つ手順を確認しながら作業を進めていきました。
太陽の力でくるくる回る、ソーラー焙煎システム
小澤陽祐さん
作業も一段落ついたところで休憩タイム。今回のワークショップでホストを務める、有限会社スローの代表取締役でコーヒー焙煎技師の小澤さんが、オーガニック&フェアトレードのアイスコーヒーを振る舞ってくれました。すっきりとした苦みが「スローコーヒー八柱店」のキャラメルナッツ・スコーンとよく合います。
ソーラー焙煎システム
小澤さんはオリジナルのソーラー焙煎機も披露してくれました。50Wのソーラーパネルで発電した電気を使って、小型焙煎機の3Wのモーターを回転させる仕組みです。生豆を焙煎機に入れて、加熱しながら10分ほど焙煎機を回すとパチパチと豆がはぜる音が。コーヒー豆の香りが辺りに広がり、焙煎したてのコーヒー豆が出来上がりました。
小澤さんは「『オーガニック』で『フェアトレード』のコーヒー豆のみを『自社焙煎』する」をコンセプトにおいしいコーヒーを提供してきました。環境への配慮を追求してきた小澤さんにとって、3.11は「根底がゆらいだ」出来事だったといいます。
3.11後の計画停電によって焙煎ができなくなり、コーヒーの販売を一時休まざるを得ませんでした。原発によって作られたエネルギーにこんなに依存していたんだ、と思うと非常にもやもやしましたね。その時考えたんです、焙煎するための電気も自分で作ればいいじゃないかと。実際にソーラー焙煎システムを使ってみたら、どこか自信を取り戻せるような感覚がありましたね。
テイ・トウワが「ノイズなしのクリアな電気で音楽を作りたい」って言ったのと同じで、「ノイズなしのクリアな電気でコーヒーを作ったらグッド・バイブレーションがさらに伝わるのでは?」と思ったんです。
今後需要さえあれば、ソーラーで焙煎したコーヒー豆を販売してみたいという小澤さん。「屋外のイベントなんかに持って行ってもイイかも。香りと音で、きっと盛り上がりますよ!」産地や農法を選んで野菜や果物を買うように、使用されている電気で商品を選ぶ時代が来るかもしれませんね。
ソーラークッカー。手をかざすととっても熱い
その頃屋外では、オーガナイザーのgd松戸代表の殿塚建吾さんによる、ソーラークッカーのデモンストレーションが行われていました。ソーラークッカーは反射板を使って太陽光を一点に集めることで、水を沸かしたりフライパンを使って炒め物ができたりと、ガスや電気を使わない環境に優しい調理器具。太陽の光さえあれば使用できますが……あいにくの曇り!そんな日もあります。
そしてソーラーパネルで作った電気で音楽を聞く、題して「ソーラーDJ」も! ソーラー電源から作った電気は、発電所から送られてくる電気に比べてノイズがなく音質がクリアになるのだとか。太陽光発電の電気を使って録音するプロのアーティストもいるそうです。
ワークショップも終盤!いよいよ点灯です
「ここでしっかり接続しておかないと後でトラブルの原因になりますよ」
各機材をつなぐ作業も進み、段々とシステムが形になってきました。参加者は作業にも慣れ、すっかり打ち解けてきた様子。「ソーラーパネルは増設できるんですか?」「バッテリーはどこに置いておけばいいですか?」と具体的な質問も飛び出しました。
いよいよ全ての作業が終わり、点灯式へ。DCソケットにLED電球をつなぐとパッと灯りがともり、歓声とともに拍手が。ソーラーパネルに蓄えられた電気が光に変わる瞬間は、ちょっとした感動ものです。自分たちで作った小さな電球の光に照らされて、参加者の皆さんの目が輝いていました。
ワークショップのねらいを「学んだことを自分の暮らしの中で活かしてほしい」とオーガナイザーの殿塚さんは話してくれましたが、参加者の皆さんはどのように感じたのでしょうか。
「ここまでくると、まさに『大人の自由研究』という感じで面白いですね。」(実際にワークショップに参加された天真寺の西原龍哉さん)
「これから環境に優しい暮らしを実践したいと思っていたところです。太陽光発電システムなら草刈り機の充電くらいは使えるかな。すぐにでも活用できそうだと思いました。」(千葉県に引っ越し予定の女性)
「太陽光発電ってこんなに手軽に自分できるんですね。会社で小規模な自然エネルギーを活用した仕事に携わることになるかもしれません。今日は良いヒントが得られました。」(都内在住の男性)
ワークショップで組み立てたミニ太陽光発電システムは、福島県から参加された男性がお買い上げ!早速自宅で活用されるそうです。「今日はたまたま誕生日だったので、自分へのプレゼントですよ(笑)。庭にソーラーパネルを置いておけば、友人を自宅に招いたときの話題になりますし、いろいろと使えそうです」。
ワークショップを自分の住む地域でも
殿塚さん(左)と小澤さん
“自給自足できる街”をテーマに、身近な取り組みを実践し、イベントの参加者に伝えてきた殿塚さんと小澤さん。今回のワークショップを「自分たちにとっても念願のワークショップでした」と殿塚さんは話します。
今回はグリーンズさんから「ソーラーワークショップやりませんか?」と声をかけていただいたことがきっかけで実現しました。gd松戸では過去にもvol.1、vol.4とエネルギーをテーマにしてきて、エネルギーは最も興味のある分野でした。ソーラー発電組み立てワークショップは是非やってみたかったので、もしかしたら参加者の皆さん以上に私たち自身が一番喜んでいるかもしれません。
年末、講師になりたい方に向けた合宿があるそうなので、ぜひ参加したいです。今後は私自身がこのワークショップの講師として、手づくりの太陽光発電を広めていけたら、と考えています。
今回の講師は藤野電力の鈴木さんでしたが、ミニ太陽光発電システム組み立てキットはオープンソース。知識と手順を説明することができれば誰でも講師になることだってできます。
ワークショップの進め方やマニュアルは自由にコピーして使ってもらってかまいません。もちろん今回のgd松戸のように、藤野電力に声を掛けてもらえれば、全国どこでもワークショップを行いますよ。手づくりで電気をつくる運動が、全国の各地域で始まっていくことを期待しています。(鈴木さん)
市民の手づくりで電気を作り、使い、市民同士がつながっていく。全国各地で動き出しつつあるムーブメントが、ここ松戸でも盛り上がってきています。あなたも自分の住む地域で、エネルギーの手づくりを始めてみませんか?