毎年夏の終わりに、鹿児島の深い森の中にたたずむ廃校を舞台に開催される「グッドネイバーズ・ジャンボリー」。その名のとおり“善き隣人たち”が会場に集い、音楽、クラフト、デザイン、アート、写真、映画、文学、食など、あらゆるジャンルを超えたクリエイティブな活動を自然の中で楽しむフェスティバルです。ゴミステーションをご紹介したこちらの記事も多くの方にシェアされました。
ローカル・コミュニティーからの発信をテーマに掲げた“善き隣人たち“の活動は、今やフェスティバルのみにとどまりません。そこで今回は、その起点となった「グッドネイバーズ・ジャンボリー」を主宰する坂口修一郎さんにお話をうかがいました。
鹿児島にグッドネイバーズが誕生したわけは?
鹿児島市出身の坂口さんは、1993年に東京発の無国籍音楽楽団・Double Famousを結成。ミュージシャンとして、野外フェスへの出演経験も豊富でした。バンド活動と並行しつつ、イベントのオーガナイズも手掛けていたことから、約5年前に「自分でも何かやってみたい」と考え、鹿児島でのフェスの開催を模索しはじめたといいます。
坂口修一郎さん
高校卒業後すぐに上京したから、その時点ですでに20年近く東京に住んでいたけれど、自分で何かやるって考えた時に東京でやるのはしっくりこない気がしたんです。
例えば、川崎、横浜、埼玉でも僕が考えていたことはできたと思うんだけど、何かストーリーがないというか。ただ住んでいるからやるのもなんか違うしなって思っていたんです。
ちょうどその頃、同郷で同じ年のランドスケーププロダクツ代表・中原慎一郎さんが鹿児島に店を出すことになり、2008年からたびたび鹿児島を訪れていたという編集者の岡本仁さんは「ぼくの鹿児島案内」の執筆に入っていました。
当時、中原くんが鹿児島でやっていた「DWELL(デュエル)」の周辺にはすでにいろんな方々がいて、ここでやったら絶対に盛り上がるだろうな、と。それに鹿児島で何かやるということがやっぱり自分にピッタリきたんです。
『続・ぼくの鹿児島案内』表紙
地元の人と一緒につくるフェスティバル
イベントを行う以上、その町でなければできないことを、地元の人たちと一緒にやっていくのが坂口さんの信条。そこで、鹿児島で活動している人たちがジャンルの垣根を越えて外に向けて発信できるイベントを企画しました。
鹿児島から発信するというのが一つと、もう一つは“コンサート”ではなく、ちゃんと“フェスティバル“、“お祭り”にしたかったんですよ。
お祭りって、誰か有名な人が出るからじゃなく、みんなそのお祭り自体が楽しくて行くじゃないですか。みんなで参加して、ものづくりをして、みんなが発表する場というのを、みんなで一緒に作りたかったんです。
みんなで楽しむお祭りをつくるために、欠かせないのがスタッフたちの力。「業者さんや協賛の方にも、本当に楽しんでほしいから」と、坂口さんはその思いを一生懸命に語り続けたといいます。
グッドネイバーズ・ジャンボリー2012より
こういうことがやりたいとふわっと言っただけで、いろんな人が、いろんなことを教えてくれて。だから一人でやってることは、ほとんどなくて、僕はそれをまとめてカタチにしているだけです。
みんなでつくるプロセスを大事にしているからこそ、主宰者としての責任を果たすことも大切だと考えています。
僕もバンドをやっているから、いろんな街のフェスに出るんですが、有志が集まってやるイベントって本当に多いんですよ。そういうのはどんどんやればいいと思うのですが、一番難しいのは裏側の組み立てです。表向きにはみんな参加してくれればいいんだけど、責任もみんなものにしちゃうと、細かいことで分裂したり、長続きしないというのもよくあります。
グッドネイバーズ・ジャンボリーは、みんながどうしたら一番動きやすいかを考えて、最終的な責任は全部僕がとるというスタンスでやっています。
「MADE IN KAGOSHIMA」にこだわる
グッドネイバーズ・ジャンボリーは、つくり手だけでなく、出演者も基本的に地元のミュージシャンで構成されています。
地元の人のお祭りなんだけど、外への発信力を考えて、一組だけゲストを呼ぶというのが基本的なスタイルです。もちろん、ライブにしても、ワークショップや食にしても、もし東京から誰もこなくても成立するカタチになっています。
地元で面白いことをやっている人たちを発掘して、鹿児島県内のほかのイベントにも紹介したりして。やっぱり場がないと、活動は広がっていかないし、ジャンボリーは年1回しかないから。
そうやって活動の場を増やして、面白いことができる土壌をつくって。3年、5年後にこれを見て”自分もやってみようかな”と思う人が増えてくるといいですね。
ジャンルを超えて集う“善き隣人たち“
さらに、ジャンルを超えたクリエイティブが集うのも、もうひとつの大きな特徴です。
音楽が好きでイベントに来たんだけど、ワークショップをやってみたら、陶芸にハマったとか、その逆でワークショップをやりたくて来て、たまたまステージを見たら、演奏していたミュージシャンにすごく興味を持ったとか。
そういういろんなジャンルの人たちの横のつながりが生まれていくと面白いという話を岡本さんにしたら、それってまさに“グッドネイバーズ“だねという話になって。
グッドネイバーズ・ジャンボリー2012より
「Be a good neighborsーよき隣人たれ−」。それは、名付け親である岡本さんが、サンフランシスコの道端で出会った言葉だそう。
アメリカに行くと、「騒音に注意しましょう」というのが「Respect your neighbors」と書いてあったり、わりと一般的な言葉なんですよ。キリスト教的な思想もあるのかもしれないけれど、「隣人を尊敬しましょう」と。僕らはクリスチャンじゃないけれど、その考え方自体がいいと思ったんです。
かくして誕生したグッドネイバーズは、ローカル・コミュニティーからの発信をテーマに、さまざまな分野へと展開されています。
例えば、グッドネイバーズの名を冠したショップは、鹿児島市住吉町にある石蔵「GOOD NEIGHBORS」と東京・千駄ヶ谷にある「BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK(ランドスケーププロダクツ)」、またランドスケーププロダクツのスタッフが旅先で出会ったおいしい食料品を紹介する「GOOD NEIGHBORS’ FINE FOODS(ランドスケーププロダクツ)」も注目を集めています。
BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK (Landscape Products co.,ltd.
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GOOD NEIGHBORS’ FINE FOODS (Landscape Products co.,ltd.
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全国に広がる「グッドネイバーズ」のイベント
そんな中、2012年に発足した新たな取り組みが「グッドネイバーズ・カレッジ」。ローカルを見つめ、身の回りにある身近なものを使って、新たなものを作り出す力を身に付けるコミュニティ・カレッジです。
ある日、写真家の若木信吾くんに「鹿児島ってなんでそんな盛り上がってるんですか?」って聞かれて。彼も静岡の浜松に自分のお店があるんだけど、「いまいちこんなふうにならない、何が違うんだろう」って。
じゃあ鹿児島に来てみたらということで、鹿児島に来る理由をつくるために、第3回のジャンボリーでグッドネイバーズ・カレッジって名前をつけて、iPhoneで撮影した動画を編集するワークショップをやることになったんです。
グッドネイバーズ・カレッジ001 「ぼくらのホームタウン案内をつくろう」写真家 若木信吾による映像編集ワークショップ
グッドネイバーズ・カレッジの第一弾企画『ぼくらのホームタウン案内をつくろう』は、鹿児島を皮切りに浜松、高松でも開催され、遠方からの受講者も各地で見られたといいます。
いま鹿児島の中で行っているイベントを47都道府県に広げようとか、大それたことは全然考えていなくて。ただやって欲しいという要請があれば、勝手に姉妹都市みたいになって出掛けていくという状況です。気が合えば、サンフランシスコでもいいし、台湾でもいいというぐらい。
これまで情報はすべて東京から落ちてくると思っていたが、そんな時代はもう終わり。今後はゆるやかなつながりを横に広げることで、ローカルに暮らす人々が「最近、東京に行かなくてもよくなったね、十分楽しいね、と言えるようになるのが理想的」だと語ってくださいました。
グッドネイバーズ 成功の秘訣とは?
全国に先駆けて、ローカル・コミュニティーからの情報発信に取り組み、徐々に成果が現れつつあるグッドネイバーズ。その成功の秘訣を知りたいという人も多いはずです。
グッドネイバーズ・ジャンボリー2012
鹿児島が成功といえるのかどうかは分からないけれど、盛り上がるきっかけにななったのが、地元のいいものを発見して、キレイに磨いて見せること。「鹿児島でやってることもこんなにいいものなんだよ」って、自分たちでプレゼンテーションして、それをみんなが「いいね!」って言いはじめて。このやり方は、他の街にも伝えられるような気がします。
地元の人には身近過ぎて、気付かないこともあるからこそ、「外からの視点は絶対に必要」だといいます。
だからジャンボリーも外からのゲストを一組だけ呼ぶようにしてるんです。それに有名だと思っていた人が“鹿児島ってすごい!”というと、やっぱりうれしい。いいねと言われたことが自信になって、自分たちで発信できるようになるんだと思います。
「グッドネイバーズ・ジャンボリー2013」の見どころ
いよいよ2週間後に迫った『グッドネイバーズ・ジャンボリー 2013』。坂口さんいち押しのアーティストは、台湾から参加のスミン。
スミンは台湾ではすごく人気のあるアーティストで、普段は台北と地元の台東を行き来して音楽活動を行っているんだけど、本当は地元に帰りたくてしょうがない。
もともと写真家の若木くんが紹介してくれたんですが、東京と鹿児島を行き来して、地元でお祭りをしている人が日本にいるよ、って聞いて、去年のジャンボリーを見に来てくれたんです。
それで同じことを自分もやりたいと言って、今年、台東でイベントをやったんですよ。僕もそれに参加したので、今回のジャンボリーには、スミンにも出演してもらうことにしました。
スミン
なんと、グッドネイバーズ・ジャンボリーからは、新たな国際交流も生まれていたのです!当日は台湾の先住民族アミ族に伝わる、しなやかで力強い音楽を聴かせてくれるそう。
また会場では、総勢200名以上の“善き隣人たち“がスタッフとして、ゲストをおもてなしします。
200人以上でサービスするイベントだと考えると、ものすごくゴージャスだけど、スタッフの200人もすべてお客さんなんです。たまたま店やブースの中にいるか、外にいるかの違いぐらいであって。
スタッフもお客さん同様にイベントを楽しみながら働いているのも、このイベントならでは。
やっぱりね、一番楽しいのは自分で何かすることだから。だって、どんなすごいアーティストや有名人が毎日来ても街は楽しくならいでしょう。いちいち行くのにお金がかかるし、それも毎日だったら、普通になっちゃう。それより自分でちょっと参加できることがあるほうが、生活は楽しくなる。阿波踊りみたいなもので、踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿保なら踊らにゃ損々、ってね。
決して受け身にならずに、自ら楽しむのが、グッドネイバーズ・ジャンボリーの流儀。この夏の最後の思い出に、あなたも“善き隣人たち“に出会いに出掛けてみませんか?
(Text:里山真紀)
(グッドネイバーズ・ジャンボリー2012 撮影:安藤アンディ)