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HASUNA白木夏子さんとパタゴニアが語る、「ほしい未来」をつくるヒント [green drinks Tokyo レポート]

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毎月第二木曜日、アイデアとアイデアをつなげる対話の場づくりとして開催される、green drinks Tokyo。7月は、パタゴニア大崎ストアでの開催でした。

今年5月から、greenz.jpで3回にわたり連載された「パタゴニア × 白木夏子さん・鮫島弘子さん・三原寛子さんと語る「私たちがほしい未来」。今回のgreen drinksはいわばこの記事の集大成です。会場には、白木さんやパタゴニアスタッフ(寺倉さん、松宮さん)と一緒に未来を考えようと、大勢の人が集まりました。

記事中でご紹介している、「女子ばかりの山登り会」が生まれたきっかけはこうでした。社員の仕事と遊び、企業としての社会的責任そして事業利益、これらをバランスよく実現させている企業・パタゴニア。グリーンズでこの企業を紹介しようと考えたとき、いつもどおりライターさんが取材して書くのもいいけれど、

社会の仕組みをを変えようと今動いている女性たちに対談してもらったら、きっとすごく面白いことになるよね

編集部でそんなアイデアが持ち上がったのです。

「アクティブに動いている女性たちを連れ出すなら、会議室やカフェでなく、やっぱりアウトドア」とばかり、いざ1泊2日で八ヶ岳へGO!今回のgreen drinksでは、暖炉を囲んで真夜中まで繰り広げられたガールズトーク、山のぼりの後コーヒーを飲みながら語らった様子などを、参加者のみなさんとスライドをみながら振り返り、記事で伝えきれなかったことをシェアすることになりました。

ゲストには、HASUNA代表の白木夏子さん、パタゴニアでマーケティングや広告販促に携わる寺倉聡子さん、大崎ストアに勤務する松宮愛さんをむかえました。ファシリテーターは、山登り会から引続き、greenz.jpプロデューサーの編田博子さんがつとめました。

喜びで身につけるジュエリーの背景には笑顔があってほしい

まずはゲストの方々の自己紹介から。
左から編田さん、白木さん、パタゴニアの松宮さん、寺倉さん。

まずは白木さんから、HASUNAをはじめた思いについてあらためてお話しいただきました。

2009年4月にHASUNAを立ち上げて、現在は国内に3店舗を構え、スタッフは20名です。18金、プラチナ、ダイアモンドを使った結婚指輪、婚約指輪などを扱っていますが、それらは倫理的な道徳的なという概念をもった、人と社会と自然環境に配慮して作られる「エシカルジュエリー」とよばれるものです。

大学時代、インドの貧困層の研究に携わり、アウトカーストの村に2ヶ月ほど滞在するという経験をしたんですが、そのとき出会ったのが鉱山労働者の方たちです。ひどい差別を受けながら、そこの子どもたちは学校にもいけず朝から晩まで働くことがほとんど。5,6歳の子が10kgも20kgもある岩を運びながら毎日苦しそうに生きていました。

「これはちがうんじゃないか」。鉱山からでてくるものって、宝石やジュエリー、家を豪華に飾る大理石など、私たちの生活を豊かにするもの。とりわけ婚約指輪・結婚指輪となるジュエリーは、人の幸せの中心にあるもの。そういうものの裏には悲劇じゃなくて笑顔があってほしい。そう強く感じたんです。

このような発展途上国でもうひとつ大きな社会問題となっているのが密輸や不法買い付けです。鉱山ではたらく少数民族の人たちは、部落の外から不法に侵入してくるバイヤーに買いたたかれ、中国やアフガニスタンに密輸され、ある地域では採掘される90%以上の宝石がそのように不当に扱われているという現状があります。

この解決策として、私たちは現地のNGOと協力関係をむすび、鉱山で採掘している少数民族から宝石を買い取り、現地の貧困層の女性たちに研磨技術を指導、職人として自立ができるよう支援しています。このようにして製品をお買い上げいただいたそのお金が、HASUNAを通じて正当に現地に流れるようになります。このような美しいお金の流れを作りながら、美しいジュエリーを作ることで世界の貧困問題が浄化されていく。このようなコンセプトをもちそれを実践しているのがHASUNAのエシカルジュエリーです。

遊びと仕事のバランスがもたらすもの

右からパタゴニアの松宮さん、寺倉さん。(左)寺倉さん(右)松宮さん

続いて寺倉さんにパタゴニアの魅力を語ってもらいました。

私はマーケティング部で広告や販促物の制作を担当しています。山で滑るのが好きで滑っていたのですが、キャリアウーマンになると決意して就職したものの、疲れて休みの日がエンジョイできなくなり、退社。ニセコの宿で居候生活を送る中さまざまなことを考えました。出した結論がパタゴニアに入ろうということでした。

その後もいろいろとスポーツを楽しんでいたのですが、骨折をきっかけに以前のように滑れなくなり、そこから人生が変わっていきました。ヨガに出会ったのです。ヨガで心も体も開いていく感覚ががわかり、手放すことを覚えました。重いものとか辛いこととか、自分と調和していない何かとか、ハーモニーがとれていないものを取り除いていくということをです。

そうしてインナーピースが整ってくると、人のインナーピースを整えるお手伝いがしたくなります。現在は、タイのお坊さんを鎌倉に呼んでワークショップをやったり、気づきの瞑想の会をおこなったりしています。これらも遊びと仕事のバランスを大切にしているパタゴニアに勤務するからこそ実現しているのだと思います。

パタゴニア大崎ショップのディスプレイ

そしてもう一人、いっしょに山登りをした松宮さんからもパタゴニアで働くきっかけを話してもらいました。

大崎スタッフでありながら海の活動をしています。サマースクールで珊瑚をみたりイルカと一緒に泳いだりするうち、海を守りたいと思うようになり、海洋生物学の道を選びました。その後環境教育学にも興味をもつようになり、外務省がやっているミクロネシアと日本の交換留学に応募。若いリーダーとしてマーシャル島に1週間滞在するという経験をしました。

マーシャルはダイビングのメッカですが、ゴミの問題がすごかったんです。豊かな自然に抱かれ、夕日がストンと落ちるような美しい島。なのにどうしてこんなにゴミが落ちているの?とてもショックでした。

帰国したその日に、”マーシャル環境教育”で検索して見つけたJAICAの青年海外協力隊に入り、マーシャル諸島へ環境教育隊員として2年間派遣されました。そこでは学び学びの日々、悔しいことに自分には何もできませんでした。それを恩返ししたいという一心で、帰国してパタゴニアに入社したんです。

現在は、オーシャンファミリーというNPO法人で、地元の子どもたちに海のおもしろさや苦しさ、生き物の素晴らしさ、資源のことなどを教える活動をしています。ライフワークともいえる海での活動と仕事とを両立させることができるのは、やはりパタゴニアに勤務しているからだと感じています。

後半は曼荼羅トーク!

大勢の参加者に、用意したコールマンのチェアが足りなくなるほど。 大勢の参加者に、用意したコールマンのチェアが足りなくなるほど。

ゲストのみなさんからお話をうかがった後は、山登りの間に気になったことをキーワードとして9つピックアップしていただき、会場のお客さんがそのなかからひとつを選んで、みんなで語るという曼荼羅トーク。

キーワードになったのはこの9つ:

道をつくる
無駄に買わせない
社員一人一人が活動家
10%
失敗→成功
タフ
1番大切なこと
Life work balance
セルフイメージ

曼荼羅(まんだら)は本来「本質を得る」という意味です。さてどんな本音が飛び出したのでしょうか。

モノを売る会社だけど、無駄に買わせない。

まず一つ目に参加者から出たのは「無駄に買わせない」。

編田 これは松宮さんからでたキーワードですね。

松宮 最初はパタゴニア製品のリペア(修理)の話から、もとの値段より修理代が高くなるお客さんがいるということからはじまったと思います。そのお客さんはその製品が大好きで何度もリペアに持ってくる。パタゴニアの製品はそうした度重なるリペアにも耐えられるほどの高品質なんです。大切な資源を使って製造しているのだからそのあとのことも考えていて真剣にやってやろうじゃないか! というこの会社の姿勢に惚れ込んで入りましたね。

最近も、「dont’t buy this jacket.(このジャケット買わないでください)」というCMをうちました。”もし今フリースを持っているのならそれを着てほしい、新しく買うのは無駄になるから。ないのであればこのフリースを買ってください。機能性は高いし、長持ちする、リペアもきいて、最後の最後でお店に持ってきてくれればそれがまた資源になるような製品をわたしたちは作っています”。それが私たちの無駄に買わせない、という姿勢なんです。

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寺倉 松宮さんは、3足も4足も一度にたくさんソックスを買うお客さんに、買わせないらしんですよ。笑

松宮 そうなんです。大人買いをするお客さんへいつも言うんですけど、臭くならないんですよ。発汗剤をちゃんとしているし、消臭の加工もしているから、「2足で大丈夫!」と。どのスタッフも言ってますね。そこで「え?なんで」と思ったお客さんには、消費活動にストップをかけてもいいと思えるほど、環境問題に取り組むパタゴニアの姿勢に興味をもってもらえます。こうしたことを堂々といえるのは誇りですね。

編田 物を売る会社なのに、それ買わないでいいんだよ、と堂々と言える。すごいことですよね。

白木 HASUNAのジュエリーも、作り始めたのは婚約指輪なんですね。それは一生の愛の証、絆の証。あまたある世の中のジュエリー会社で量産をするところもあるんですが、ジュエリーって最後の仕上げには必ず人の手がはいるんです。安くてたくさんの人に使ってもらえる製品の良さもあるけれど、私たちの製品は最後の仕事を職人さんの手によって仕上げるというプライドがあります。それなりのものなんです。一生身につけてほしい、そうねがって作っているのでパタゴニアさんの姿勢には共感します。

寺倉 山でもそんなお話が出ましたね。それぞれビジネスの規模はちがうんですけど、みんなに共通しているのは長く愛情をもって使ってもらいたいという気持ちがあるというところでしたよね。

10%のフリースペースから生まれるもの

右からHASUNA白木さん、司会の網田さん。

次に出たのは「10%」。

編田 私もこのキーワードが一番気になっていたんですけど、「常に10%の空間・フリースペースをあけておかないとだめだよね」ということでしたよね。白木さんに伺いたいと思います。

白木 起業したとき、準備段階からいっぱいいっぱいで寝る間も惜しんでがんばっていたんです。立ち上げたあとも、最初は自分ひとりだったから、「わたしが頑張らなくちゃ会社がとまってしまう」と走り続けました。そして1年くらいたったとき、クリスマス商戦が終わったころでしたが、ぱたりと腕があがらなくなって、デザインの制作意欲がまったくなくなってしまったんです。「私、何のためにやっているんだろう」と空虚な気持ちになったり。

ある人に相談したら「常に10%の時間なり体力なりを残しておかないと次のことができないんだよ。そうなると未来に向けての余裕がないから、いざ目の前に転がってきたチャンスも手にとれなくなるんだよ」と聞いて。それから生活全般を見直し、週に一回必ず休みをとり息抜きをするようにしたんです。

そうしたら見事に創作意欲が戻ってきて、1日なにもしないフリーな日を作っておくと、いい人を紹介してもらったり、いいことが飛び込んでくるようになりました。物事がいいふうに回り始めるんです。10%の余裕をもって行動することで、チャンスがくる。それ以来10%の余裕をもたせるようにしているんです。

編田 パタゴニアさんもそういうスペースを残しておける働き方ができる会社さん、という感じがするんですが。

寺倉 パタゴニアが有給休暇が多いとかそういうことはないのですが、休暇をとってスポーツをしにいったり、そういうことがやりやすい雰囲気というのはありますね。自分のやりたいことをやっているときってパワーがわいてくるしモチベーションがあがってきますよね、そうして一人がそうだとまわりの社員もどうぞどうぞとなる、お互いさまな雰囲気があるんです。

編田 「10%」の作り方もいろいろなのかもしれないですね。1週間単位で考えるのか、年で考えるのか。白木さんはいま美術学校に通われていますけど、それは10%に入るんですか?

白木 微妙ですけど、10%のほうにはいるかな。昨年、西洋美術史、東洋美術史を通して美しさってなんだろうということを学びましたが、ことしは経営に関して勉強しています。週に1日はそこにあて、朝から晩まで経営者に会いにいったり本を読んだりして、自分がリーダーとしてどうあるべきかについて振り返るようにしています。内省の時間というのかな。

パタゴニアのみなさんのはなしをきいていると、遊びがある会社、たとえば、海派のひとが海にいきたいときは山派のひとが会社にのこり、山派のひとが山へいくときは海派のひとが会社を守るそうですね。そういう姿勢が素晴らしいなと思うし、遊びがある会社だからみなさん活き活きと働いているのかなと感じます。

すると参加者から「人が100%になっているときって、10%の余裕がないことにすら気づけない場合があるじゃないですか、そういうのはどうしたらいいでしょうか」という問いが。

白木 わたしの場合、そうなる自分を知っているので、1か月のなかで絶対に何もいれない日をブロックしておくんです。全員がみれるようスケジュールにいれておく。取材も何にもいれないです。

寺倉 それをヨガ的に考えると気づきの瞑想というのがありまして、それは自分に起こっていることに気づくという技なんですね。怒ることなどは誰にでもありますが、言い返す前に「あ、わたし今怒ってるな」と気づけるようになる。それができるようになると、自分がいっぱいいっぱいになっていることにも気づくようになって対策がうてるようになるんです。

白木 あ、わかります。ヨガをすると、自分の体のどこが悪いかが分かるようになりますよね。内省の時間、静かに自分のことを振り返る時間が5分か10分あるだけけで全然違う。朝は生まれ変わる瞑想。夜は振り返りリセットする瞑想。

昔の日本にもそういう瞑想の時間があったみたいですね。朝、家の前をはいたり、家の中を拭き掃除したりして、無心に体を動かしていました。そうすることが、気を整え内省の時間になっていたときいたことがあります。

松宮 私がやっているアウトリガーカヌーの先生が「カヌーピープルは毎日生まれ変わる」といっているんです。朝日が出る前に集合してお祈りをする。すると陸上でおこったことが浄化され、カヌーに乗るときにはそれらをぜんぶ忘れて海にでる。それが安全に戻ってくる秘訣なんですって。

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美味しいお料理を手渡す手と受け取る手がつながります。

ライフワークバランスから、ライフワークミックスへ

3つ目は「Life work balance」。

白木 山登りに参加したみなさんて「仕事が楽しい!」という方々ばかりだったので、ライフワークバランスというかライフワークミックスという感じでしたよね。ミックスしてバランスがとれている、と感じてました。仕事のグチとかいっさいなかったですよね。そんな話しても仕方ないじゃん、みたいな雰囲気でした。

松宮 集まった女子たちは、性格的に「嫌だと思ったらやめてる。好きだからやってやろう」みたいな人たちでしたよね。笑

編田 「今から仕事の話しましょう」とか、「今からプライベートの話しましょう」とか、そういう感じてはなかったですよね。仕事の深い部分が個人的なこととつながっていたり、ライフとワークが分かれていない、といった印象でした。

白木 起業家の方といると仕事の愚痴がないです。好きなことを追求しているから精神的に健全なのかなと感じます。嫌なことがあってもそこを自ら変えていこうという気概にあふれていますよね。パタゴニアの社員の方も、一人ひとりが会社を変えていこう、社会を変えていこう、まわりの人たちを変えていこう、という精神にあふれています。だから良い組織になっているのだと。

寺倉 もちろん大変なときもあるんですけど、自分たちで雰囲気を変えていこうという空気はありますね。会社で働いている時間も自分の人生の一部なんだから、全部ひっくるめて楽しんじゃえ!という雰囲気が。

ライフワークバランスではなく、ライフワークミックス。みなさんはどんな働き方、暮らし方、を望んでいますか。そこから「ほしい未来」はみえてきましたか?トークのあとは会場の参加者どうしで話がつきない夜となりました。

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今回のフードは有機農産物などの食材から調味料まで可能なかぎりオーガニックなものを厳選、農家さんや漁師さんから直接購入している「ピースデリ」さんにお願いしました。メニューは有機サラダ菜と芽ひじき、赤シソ、青大豆の柑橘サラダ仕立てなどとっても豪華!

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次回のgreen drinksは9月12日(木)に開催予定です。どうぞお楽しみに!

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