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あなたも”こだわりの逸品”のオーナーになりませんか?岩手の生産者と消費者をつなぐ「Olahono」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

人々を笑顔にする、美味しい食べものにはそんな力がありますよね。今回は、豊かな自然に囲まれた岩手の地から、自然の恵みをいっぱいに受けた美味しい食材が届くサービス「Olahono~おらほの~」をご紹介します。

「おらほの」というのは、東北弁で「私の」という意味。東北の豊かな農水産物を、そして生産者の日々の努力や直面する様々な課題を、消費者が“自分のもの”として考えてほしい。そんな想いがこめられた「Olahono~おらほの~」は、岩手県の農業・漁業の生産者と消費者をつなげ、自然の恵みがつまった逸品をオーナー制で販売するウェブサービス。扱う食材は、三陸の牡蠣、南部のお米、岩泉の短角牛など、こだわりの果物や野菜です。

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消費者は、収穫前・製造前にオーナーとして養殖牡蠣のロープや畑の区画を購入します。生産者はそれを受け、オーナーとなった消費者のために、まごころを込めて食材を生産し、収穫後の一番旬な時期に食材を届けるという仕組みです。価格は、牡蠣ロープ1/2本(殻付きカキ規格25個)で6,300円。合鴨農法米35kgで25,000円など。

オーナーになることで、自分の野菜や牡蠣が日々大きく育っていくワクワク・ドキドキを全国どこにいても見守ることができます。種植えの時期や収穫期には生産者と一緒に体験して、親子や友人同士で楽しむことも!

現在の一口オーナーは約700名。はじめは被災地の支援の意味で購入された方々も多かったそうですが、大きな箱一杯に旬の食材が届けられると、全国各地から「美味しかった。また来年もぜひお願いしたい!」との喜びの声が寄せられました。

「応援したいから買いたい」から「美味しいから買いたい」へ、岩手の豊かな食が多くの人の心と胃袋をがっちりつかんでいるようです。

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消費者の方たち

環境に配慮した、食のシステムをつくりたい

Olahonoは、代表の渡邊里沙さんが環境への危機感を持ったことから始まりました。

私は岩手県盛岡市出身なのですが、盛岡は毎年冬になると雪がたくさん積もります。小さい頃はよく実家の庭にかまくらを作り、その中で家族みんなで焼肉を食べるのが恒例行事でしたが、年々、積雪は減り、気がついたらかまくらは作れなくなってしまったんです。

幼心に抱いた変わりゆく環境への不安は、大学入学と同時に東京に出て、さらに大きくなります。

水道水は飲めず、出かけると外気で胸が苦しくなり、岩手との環境の違いに驚きました。このままでは日本の環境は悪くなる一方なのかもしれない。どうにかしなくては。

そんな思いから、在学中は環境問題の解決に取り組むNPOやボランティアに参加するようになったそうです。大学卒業後はIBMのコンサルタントとして働いていましたが、ある日、転機が訪れます。

あるプロジェクトで、石油化学メーカーに関わったのですが、そこでは農薬をつくるため化石燃料を燃やし、多くの薬品を使い、製造、運搬、流通、全ての側面に環境の悪化を引き起こす化学エネルギーが多量に使用されていました。「これを自然にまくの?しかも、食べる物に?」とショックを受けましたね。私の実家は飲食業を営んでいることもあり、「食」には人一倍の想いがありました。

日に日にその違和感は大きくなり、「環境に配慮し、エネルギーを極力使わない食の仕組みをつくろう!」と決意した渡邊さんは、会社を辞め、岩手へ帰ることにしました。

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岩手山と盛岡市の風景

全国に広がる協力者たち

地元に戻り、さっそく農家さんや行政機関を回り始めます。

「環境に配慮した、自然の恵みを受けた食を消費者に届けたい!そして生産者と消費者をつなぐ新しいカタチで岩手の一次産業を良くしたい!」渡邊さんは熱意をもって語ります。しかし、最初その想いはなかなか伝わりませんでした。農業や漁業の経験のない渡邊さんに、農家の方々は「おめさん(お前さん)に何がわかるんだ」「できっこねぇ」と言って相手にしません。

弱気になりかけていたとき、一人の合鴨農家の方が呼応します。「私も今のままではダメだと思ってたんだ。一緒にやろう!」その言葉に勇気づけられ、「私があきらめたら誰がやるんだ!」と再び渡邊さんは動きはじめました。

本州最大の広さを誇る岩手の地を走り回り、現地に赴いては地道に生産者と向き合い、消費者にその想いのこもった食材を一つひとつ丁寧に届けていく。着実な歩みはしだいに認められ、一人、また一人と「一緒に頑張ろう!」という生産者が増えていきました。

その想いは全国に広がります。東京をはじめ都市圏での食材の販売イベントに呼ばれたり、各地でOlahonoを応援してPRする人が出てきたりと、日本全国に応援の輪が広がっていったのです。

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都内のイベントでOlahonoに賭ける想いをプレゼンする渡邊さん

地元に帰って5年、しだいに渡邊さんの熱意は周囲に伝わり、地元の状況も変わり始めます。

「今度こんなの植えたらどうかな?みんな喜ぶかな?」
「新しくこんな取組み考えてみたんだけど、どうかな?」

かつては相手にされず、新しい取り組みに消極的だった生産者の方も、今では新たな挑戦について活き活きと渡邊さんに話されるそうです。5年前は一人だった渡邊さんも、今では多くの伴走者と走り回っています。

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農家の方と渡邊さん(左端)

原動力は、3つの「ありがとう」

食材を見守り、良さを知り、生産者とコミュニケーションをとるには、点在する生産地を行き来する必要があります。生産者こだわりの食材をPRするために、日々全国を飛び回る体力的にも大変な日々。そこにはどんな原動力があるのでしょうか?

3つの「ありがとう」ですね。5年間、活動を続けてきましたが、多くの生産者の方から「渡邊さんに会えて良かったよ、ありがとう」と言われ、食材を送った時に消費者の方も「美味しかったよ!ありがとう」と声をかけてくださいます。そして、活動を支えてくれる方々や岩手出身の方々も「Olahonoは良い活動だよね。応援してるよ、ありがとう」と言ってくださるんです。

こんなにたくさんの方から「ありがとう」と言われて、私は本当に幸せ者だと思います。その言葉と笑顔でまた頑張れるんです。私の方がありがたい立場ですよ!

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都心での販売イベントの様子。一緒に活動している弟さんとともに

震災後に思ったこと

2011年3月11日の東日本大震災。映し出される、慣れ親しんだ場所の変わり果てた光景に震えながら、ライフラインが途絶え、食糧も燃料もなくなった盛岡で呆然と立ち尽くすことしかできませんでした。そんな時、電話が鳴ります。「お米ならあるから。持っていくよ」。それは農家の方からでした。

自分たちで食を作る彼らの力強さに、安堵の気持ちでいっぱいになった渡邊さん。「そうだ!この食材をもっとたくさんの人たちに届けよう。生産者と皆をもっとつなごう。」と、農家の方とともに沿岸部の被災地域に食糧を届けて回りました。

そこで、また新たな出会いに恵まれます。壊滅的な被害を受けた陸前高田の広田湾で、牡蠣の養殖を手がける佐々木眞さんです。養殖用の筏、船はそのほとんどが流され、皆が打ちひしがれている時でも、「このままじゃダメだ。一緒に新しい水産業を創っていこう」と、佐々木さんは前を向いていました。

震災から2年経った今でも、佐々木さんは、近隣の山野の間伐材を使って筏を組み、陸前高田の環境に優しい仕組みで「日本一大粒な牡蠣」に挑戦中。一次産業には、TPPや後継者問題、経済事情などたくさんの課題がありますが、渡邊さんが出会った生産者は、日々食材への誇りと愛情をもって育てています。

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佐々木さんと渡邊さん

「岩手で頑張る生産者のこだわりの逸品を多くの人に伝えたい」と活動する渡邊さん。消費者と生産者が日常的につながることで、つくる食材を一緒に考えたり、新たな作物にどんどん挑戦したり。消費者だった人たちが生産者になったり、都市部の消費者が日々の暮らしの中で、作物の様子や東北の気候を気にするようになったり。Olahonoが暮らしの日常になる「食のオーナー制」の未来の形を楽しそうに語ってくれました。

地道にでも、一歩一歩動いてみる。

最後に、マイプロジェクトを志す人たちへメッセージをいただきました。

まず動いてみることです。そして想いをたくさんの人に話してみる。結果はすぐにはついてきませんし、最初はなかなかうまくいかないかもしれません。でも、地道でも着実に結果を積み重ねていけば、1人また1人と応援してくれる人に出会えます。続ければ、きっと大きな流れが生み出せるはずです。

私もOlahonoもまだまだ理想からは遠い形ですが、5年間積み重ねてきて少しずつ手ごたえをつかんできています。コツコツ活動してきた経験は、間違いなく自分の力になります。これからさらに多くの生産者と消費者をつなぐために新たな挑戦をこれからもしていきますが、まずは小さくても一歩踏み出してみようと思っていますよ。

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「食」と「自然」、世界を取り巻く身近で大きな問題を、“おらほの”問題として笑顔で解決していく渡邊さん。あなたも一口オーナーになって、その体験をあじわってみませんか?

(Text:佐藤克唯毅)