株式会社オープンキューブは、8月14日からパーソナル3Dプリンタ「SCOOVO(スクーボ)」の販売をスタートします。
一般的にプリンタと言えば二次元の紙に文字や図版を印刷する機器のことですが、3Dプリンタは「3D」という文字が示すとおり、3次元の立体物を出力することを可能にしました。
“新たな産業革命”と称されることもある3Dプリンタの普及は、私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。また、3Dプリンタが発売されることで、マーケットにはどのような変化が訪れるのでしょうか。オープンキューブの代表取締役社長の坂口信貴さんに、SCOOVO開発の背景や3Dプリンタが新しく創造する未来について話をうかがいました。
3Dプリンタの基本コンセプトは日本発!
このところ、急激にメディアで取り上げられる機会が増えてきている3Dプリンタ。その技術自体は1970年代から研究・開発が進められてきました。1981年には日本人の児玉秀男氏が3Dプリンタの基本コンセプトを提唱しますが、当時はまだそれほど注目を集めることがありませんでした。
オープンキューブの坂口信貴さんは、3Dプリンタの歴史を振り返って、3Dプリンタの基本的なコンセプトが日本人から生まれていたことへの想いを語ります。
児玉さんが基本コンセプトを提唱したあとに、アメリカのStratasys社と3Dシステムズ社が特許を取得して、マーケットを確立していきました。現時点で3Dプリンタの市場はアメリカが日本を一歩も二歩もリードしている格好になっています。私たちオープンキューブが今回、SCOOVOを開発した理由のひとつには、モノづくり大国としての日本を復活させたいという想いがあります。
かつて、ものづくり大国として、世界に認められた日本の技術力。
しかし、パソコンやスマートフォンなど、ふと見まわしてみると、もう長い間、技術面をリードすることから、日本は遠ざかってしまっているように感じられます。坂口さんは、そんな現状を踏まえて、「日本人の繊細で丁寧なモノづくりで、もう一度世界をリードする製品を供給したいと思っています」と語りました。
3Dプリンタから3Dプリンタがつくれる不思議
3D造形をつくる技術は積層造形法という考え方がもとになっていて、さらに積層造形法には3つの方法論が確立されてきました。
ひとつは光造形で、垂らした液体樹脂にレーザーを照射しながら造形物を積層していく方法です。もうひとつは粉末造形で、粉末にレーザーを当てて造形物を積層していきます。しかし、このふたつの技術については、Stratasys社と3Dシステムズ社が関連する特許を多数抱えており、市場に参入しにくい状況がすでに出来上がっています。
そこで、坂口さんが注目したのが3つ目の熱溶解積層法という方法でした。
3Dプリンタの熱溶解積層法には、イギリスが発祥のレップラップ・プロジェクトというユニークな取り組みがあります。このプロジェクトは、オープンソースにより3Dプリンタを開発していこうというもの。3Dプリンタをユーザーの手によって進化させてもらうために、3Dプリンタを使って3Dプリンタを作りあげる技術を公開したのです。
出力データをパソコンからSCOOVOへ
3Dプリンタの驚異的な製品特性は、3Dプリンタを使って、3Dプリンタをつくってしまうことができるというところです。出力したパーツを組み合わせて3Dプリンタをつくれば、まるで細胞が分裂するように、同じものをつくることができるのです。
レップラップ・プロジェクトでは、このような思想から、たくさんの子機が作られています。そして、ユーザーはさらなる改良を施したら、その情報を公開。オープンソースでより性能の高い3Dプリンタの製造を目指しているのです。そこで使用されている技術はオープンソールであるため、特許などの権利が固まっていないのです。そういった経緯から、SCOOVOは熱溶解積層法で開発されることになったわけです。
3Dプリンタは新しい仕事も生み出していく
自らと同じ製品を作り出してしまう製品。そんなこれまでにない創造性には大きく好奇心が刺激されます。また、3Dプリンタが生み出すものは、単なるプロダクトに留まらない、と坂口さんは指摘しています。
3Dプリンタを誰もが所有して、簡単にモノづくりが行える時代になれば、それにともない新しい仕事などもどんどん生まれてくるのではないかと思っています。たとえば、パソコンが普及する以前は、グラフィックデザイナーに出会うことなどめったにありませんでしたが、今はたくさんいらっしゃいますよね。
それと同じように、3Dデータを開発する人や3Dプリンタでプロダクトの作り方を指導する人など、モノづくりに関わる新しい職業の人たちがたくさん生まれてくるのではないかと思っています。
確かに、身のまわりに、何人ものグラフィックデザイナーがいます。3Dプリンタが普及することで、今後はプロダクトデザイナーが活躍する場が増えてきそうな印象を強く受けます。
SCOOVOから出力したプロダクト
個人的には日本でのノづくりのレベルは相当高いと思っています。しかし、学校でプロダクトデザインを習ったとしても、働く場がないのが現状です。
優れたデザイナーは大企業に就職することができますが、中小企業は体力がないので、大企業から指示を受けてものをつくったり、製品の一部分をつくることに関しては長けているのですが、一からモノづくりをする環境はあまり整えられていないのです。
3Dプリンタが普及すれば、町工場の在り方も変わっていき、小ロットの製品を開発するプロダクトデザイナーの需要も増えて行くのではないでしょうか。
みんなで力を合わせてモノづくり大国へ!
コンシューマ向けの3Dプリンタを開発して、モノづくり大国、日本の活性化を図りたい─━。坂口さんの想いは、単なる製品開発を越えて、世界に誇れる日本の回復まで視野に入っています。
3Dプリンタが秘めている可能性は計り知れないものがあると思っています。だからこそ技術の囲い込みなどはあまりしたくありません。
アメリカでは、オバマ大統領が教育機関に1000台の3Dプリンタを配布したり、プロダクトデザイナーの育成機関を作ったりと、国策として3Dプリンタ市場の活性化を図っています。10年後、20年後に、3Dプリンタの市場がどのような状況になるかを考えて、デザイナーの育成などを図っているわけです。個人的には、そのような姿勢のアメリカにも勝てる日本を形成していきたいと思っています。
坂口さんには、3Dプリンタに関心のある個人、企業、大学、研究機関などが力を合わせて技術交流し、メイドインジャパンの3Dプリンターの発展を試みる「モノづくりオールJAPAN」という構想があるのだそう。
これからは、大量生産・大量消費ではなく、カスタマイズされた少量の製品が求められる場面も増えてくるのではないかと思っています。そんなニーズに対応できる製品が3Dプリンターなのです。
3Dプリンターは、誰もがメーカーになって商売することだってできる時代がきていることを教えてくれます。いまこそ、日本人一人ひとりにモノづくりの心を取り戻してほしいと思っています。
学校やオフィス、家庭などでの使用を目指して開発された「SCOOVO」。これをきっかけに、3Dプリンタが一家に一台、という日もそう遠くないかもしれません。