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ネット選挙解禁で何が変わる?インターネットと選挙の疑問をOne Voice Campaignに聞いてきました。

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4月19日に成立した「インターネット選挙運動解禁にかかる公職選挙法の一部を改正する法律」に基づき、いわゆる「ネット選挙」が解禁されることが正式に決まりました。とはいえ、ネット選挙と言われてもいったい何ができるのか、そして何ができないのかよくわかりません。

そこで、このネット選挙解禁の影の立役者とも言えるOne Voice Campaignの原田謙介さんと江口晋太朗さんに「ネット選挙」とは何なのか、そして成立までどのような苦労があったのか、さらにはその過程から見えてきた「政治のつかいかた」とはどのようなものなのか、グリーンズ発行人鈴木菜央が「せんきょCAMP」発起人として聞いて来ました。

ネット選挙入門

鈴木 まずは、グリーンズの読者にネット選挙解禁とはどういうことなのか解説してもらえますか。

原田 まず、解禁前の状況を説明すると、昭和25年に制定された公職選挙法の規定でビラなどの文書図画(ぶんしょとが)の頒布(はんぷ)に制限がありました。本来、公職選挙法というのは、選挙活動が平等に行われるように定めたもので、当時はビラの枚数を制限しないと、ビラをたくさん刷って配れるお金がある候補者が有利になってしまうという考え方で規制したわけです。

それがそのままインターネットの「画面」にも当てはめられ、ホームページやブログを更新したりというのが文書図画の頒布に当たるということで規制されるようになりました。インターネットが出てきた初期の頃はインターネットもお金がかかるものだったのでよかったんですが、今ではだれでも使ってるしお金もかからないものになったので現状にそぐわなくなってしまったということです。

それが今回の改正で使えるようになったわけです。実は、有権者についてもこれまでは「誰々に投票しましょう」ということをインターネットで言ってはいけなかったんですが、それもできるようになりました。有権者側から言うと、情報が得やすくなったというのと応援しやすくなったという点が、候補者側から言うとこれまで使えなかったツールを使って有権者と直接コミュニケーションを取れるようになった点が大きく変わった部分です。

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江口 かつて決めた公平性が、社会環境や僕らのライフスタイルの変化によって不公平性になってしまっていたわけです。選挙運動は8時から20時までの間の街宣車や街頭演説という活動が中心だったわけですが、それは法律を作った当時はその時間がもっと多くの人たちに情報が届く時間だったから、その時間に限定することで公平性を担保しましょうというものだと思います。

しかし、次第に働く時間も人によってさまざまになると、情報が昼の時間にしかないというのは、有権者が情報を得る機会という点から見て不公平なものになってしまっています。

また、情報の流通の仕方も変わってきています。ネットも含めて候補者と有権者との双方向のコミュニケーションが重要視されている中、選挙期間中には、メールが禁止されているため、候補者の寺務所に届いたメールに返信することすら、違反だと言われる可能性がありできないという状況だったのです。

そうした状況は、選挙という、政治に対して世の中的にも注目を浴びる期間に情報がブラックボックス化してしまうということにつながります。それが見える化やコミュニケーションが可能とになることで、有権者も応援しやすくなるし、候補者も有権者と繋がれる機会を得ることができるようになるわけです。

鈴木 なるほど、じゃあネット選挙解禁は昼間は選挙区である家にいないサラリーマンなんかにとっても意味があることなんですね。何か規制のようなものはないんですか。

原田 NHKで放送される、政見放送の映像をそのままネットにアップしたりということはできません。

江口 でも、同じ内容を自分で撮り直してそれをアップするのは自由です。また、有権者は誹謗中傷やデマ、匿名の書き込みは禁止されているので、有権者が誰かを応援するためのウェブサイトを作ったりする時は、発信元の個人名やメールアドレスを明記しなければいけないという規定があります。

Twitterは登録するときにメールアドレスが紐付いているので、つぶやきでもRTでも自由にできるような対応になっています。ただ、未成年などは選挙運動は行なってはいけないため、注意が必要です。

原田 簡単なガイドラインが総務省のホームページでも見られるようになっていて、これから細かいガイドラインを作って、公開するということになっているので、それが出ればもう少し細かく、これはいい、これはだめということが言えると思います。

なるほど。要するに「選挙運動」がだれでも自由にネットを通して出来るようになったというのがいわゆる「ネット選挙」だということのようです。しかしもちろんこれで全てが万々歳というわけではありません。続いて、現状でどのような問題点があるのか聞いて来ました。

新たな不平等は仕方がない?

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左から鈴木菜央さん、原田謙介さん、江口晋太朗さん

鈴木 今回成立したものを見て、これは問題だなと感じるところはありますか。

原田 問題だと感じるのは2つあって、一つは有権者が候補者を応援するための手段としてメールが使えないということです。候補者はいいんですが、スパムメール的なやり方で送ることを防ぐ意味で有権者は使えなくしてあるんです。でも、TiwtterのDMやFacebookのメッセージ、LINEなんかはOKになっているので、メールだけ規制してもあまり意味があるとは思えません。

もう一つは有料広告を出せるのが政党のみということです。有権者も含めて政党に属していない個人や無所属の候補者、政党要件を満たしていない地方政党などは広告を出せない、これは不平等だと思うんです。金額などの制限もないので、お金のある政党はいくらでも広告を出せてしまうわけですし。

江口 今回の法律で新たにできてしまった不平等の一つがこの有料広告だと思います。

原田 地方選挙で実践してみると、これ以外にも僕らも含めて想定してなかった不具合というのが色々出てくるんじゃないかと思います。ただ、参院選も含めて実際にやってみてたくさん問題点が出てきても、それでネット選挙がダメだっていうんじゃなくて、問題を解決してさらにプラスの部分を引き出していく方法をみんなで考えて行かないといけないと思っています。

江口 今年がある意味で、ネット選挙元年と言えるため、トライアンドエラーがあって当然で、そこから僕らがどう育んでいくか、揚げ足取りじゃなくてみんなで評価したり応援したり、有意義な取り組みをしていきたいですね。

鈴木 なるほど、僕らは元年に立ち会っているわけですね。失敗もするかもしれないけどネットにいる僕らこそが見守って、育てていかないといけないと。

ネット選挙解禁とは言っても、もちろんすべてがネットになるわけではありません。これまでの活動も継続されるわけで、有権者としては候補者が果たしてどのようなメディアを通じて私たちに語りかけてくるのかも注意深く見て、それを評価していくことが重要になりそうです。

ネット選挙解禁に取り組んでわかったこと

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One Voice Campaignのサイトでは、賛同者の意見を読むことができます

鈴木 今回のネット選挙解禁については大体わかった所で、前回、One Voice Campaignをスタートしてすぐの頃にインタビューをしてからちょうど1年で解禁となったわけですけど、この1年の活動を振り返ってみてどうですか。

江口 1年前は、アメリカではオバマ大統領の2回目の大統領選挙でインターネットと選挙というのがますます注目されるようになっていて、さらに東日本大震災でSNSを使っての情報共有の事例など、様々な可能性を多くの人が持っていた頃でもありました。それで、ネット選挙をなんとか実現しようと多くの人が思い初めていた頃でもあったと思います。

原田 最初は秋ごろに衆院選あるのではないかということで、それまでに実現しようということで盛り上がりを作って行きました。でも、衆院選がもう少し先になるということになって少しムードが沈みかかって、さらにシンポジウムを開き、解禁後にどうしていくか、ということを議論したり、国会議員にあなたはネット選挙についてどう考えですか?というアンケートを行うなどの活動をしていきました。

江口 最初に盛り上がりをつくるということは活動において大事なことなので、その点では成功したと思います。ただ、政治のスピードと民間のスピードには差があるので、僕らが思っているほど早く変わらないですし、僕らはオープンに活動をして行きたかったんですが、誰がイエスと言ったら変わるのかとか建前と本音で違う部分があったりもして全てオープンにするというのは難しかったというのもありました。

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2012年11月に開催されたシンポジウムにて Some rights reserved by eguchishintaro

鈴木 なるほど、でもその過程で見えてきたプロセスもあるんじゃないでしょうか。

原田 そうですね、シンポジウムのときに、民主党の議員が「党内まとめました」ってポロッと言ったりとか。イベントをやらないとそういう言葉は聞けなかっただろうし、実際に多くの参加者が毎回シンポジウムに参加してもらったのは、議員さんにとっても大きな影響を与えたと思います。

江口 イベントをやるときに与党野党問わず全党に声をかけたんですね。それで見えてきたのは、スタンスは違うにしろ何かしたいと思っている政治家が多いということで、僕らもそうした議員の活動をしっかりと見なきゃいけないということです。

原田 今回の件は与党にも野党にもやったほうがいいと思う人がいて、僕達がそれを後押しすることで、そうやって党を超えてやろうと思っている人がいるということをイベントを通して世の中にみせることができたのが良かったかなと思います。

江口 あとは、政治家の懐にちゃんと入ったっていうのもあると思うんです。シンポジウムは4回やったんですが、毎回議員会館でやることにこだわりました。どこかのイベント会場でやったらあそこまで盛り上がらなかっただろうし、メディアに取り上げられることも、議員さんが来ることもなかったでしょう。相手の懐に入って相手と同じ土俵に立って対話をすることに意味があったんだと思います。

今回の活動で感じたのは政治がこれまであまりに遠すぎたということです。それを近づけるためには、議員さんが一般の人達の中に下りてくるということも大事ですが、そうやって僕らが政治の人たちの中に入っていくことで、双方向のコミュニケーションが生まれたほうがより良いんじゃないでしょうか。

鈴木 なるほど、マスメディア通して見てるからどんどん距離が遠くなっちゃうけど、「こんちわ~」って話してみると普通に話せる人達なわけですね。

江口 彼らも同じ人間なんですよ。政治家というと完璧であるべきという「べき論」で語ってしまいますが、「完璧ではない」という前提を受け入れれば、揚げ足取りとか批判をしようという動きに終始することもなくなるんじゃないでしょうか。

1年間のいわゆるロビー活動を通して政治家の実像。本当に政治家、特に国会議員というと非常に遠い存在という感じがしますが、声をかければ意外と届くところにいるんですね。イベントに参加した人の多くが「議員会館に初めて来た」と言っていたそうで、そういう経験をすることで政治が近くなる、それを実践してきた1年間だったということのようです。そしてこの経験は「政治のつかいかた」へとつながります。

政治のつかいかた

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鈴木 無理してネットを使う必要はないというのと、今の政治家との距離ということで思うのは、グリーンズもネットの媒体なわけですが、リアルな場所に人をつなげるツールでしか無いと思ってるということです。ネット上だけで何かをやってもそれはたかが知れていて、そこから何かが起きてつながりが生まれることで初めてネットのツールとしてのすごさが見えてくるわけです。

それを政治でやろうと思って「せんきょCAMP」をはじめました。お金をかけずに市民の側から政治につながっていくということをネットをツールとして使ってやっていこうと。

江口 ネット選挙は、やりようによっては政治家にとってもお金をかけずに市民とつながるツールになると思いますが、お金じゃないかたちで支援を集めるためには、共感力や巻き込み力というものが必要になると思います。でも有権者もただその手が差し伸べられるのを待つんじゃなくて、「応援したい」と思える候補者を自分たちで作っていくことが必要なんだと思います。

自分たちが何をしたいのか、社会がどうあるべきかということをきちんと考え、それをコミュニケーションしやすいツールの1つであるインターネットを通じて、政治とつなげることが可能になったわけです。

それは、これまで選挙をすることだけが政治参加だと考えられてきたところから、ネットを使うことでさまざまな政治参加の形が生まれる可能性につながっていくんじゃないでしょうか。だから、ネット選挙をきっかけに、政治を通して僕ら自身で社会を作っていくということがやすくなるんじゃないかと思います。

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鈴木 ネットの世界ってみんなが自分たちでルールや動き方がどうあるべきかというのを作ってきた実感がある世界だと思うんですよ。それはある意味では自治区で、その自治区でこれまで話すことができなかった政治について話すことができるようになった。それは、自治区の中だけで実現してきたことを現実でも実現しやすくなったってことだと思うんです。

江口 ルールや社会のあり方というのは別に政治家が決める訳じゃなくて、僕らが決めていくのが民主主義の本来の意味でもあります。僕らはこの20年間インターネットで自分たちで何かを決めていく実験をしてきたわけですよね。それが現実の社会で実践できるようになったってことじゃないかと思うんです。

原田 そのためにも、ネット選挙というツールを、候補者じゃなくて有権者にもたくさん使ってもらいたいと思っています。どんどん実験してもらいたい。そうやって、みんなで作っていく文化ができればと思います。

江口 震災の時にみんなで節電しようっていうクリエイティブなポスターが作られたりしましたけど、そういうのが政治でも出てくると面白いんじゃないでしょうか。マニフェストを比較したインフォグラフィックスで表現するクリエイターが出てきて、それをみんなでマッシュアップするみたいな。

原田 つながるということで言うと、有権者が候補者と直接対話できるようになったというのは大きいと思います。今まで候補者と話そうと思ったら街頭で話してるところを呼び止めたりしなきゃいけなかったわけですが、ツイッターなんかだともっと気楽に話しかけられる。候補者としても言いたいことをメディア通して言わなきゃいけなかったのが、自分の言葉で言えることで、本当に言いたいことを言えるようになって、有権者と直接の関係になる事ができると思います。

江口 メディアを通してじゃなくて、政治家と有権者が人間同士として同じ目線で話し合うということになると、僕らも政治家と本質で向かい合わないといけないと思うんです。いいことやったら「いいね」って僕らも純粋に認めてあげないと、政治家だってやってられない。政治家になりたいという人が僕はもっと増えて欲しいと思うんですが、そのためにもそういう人間同士の関係性が大切なんだと思います。

原田 政治という漠然とした大きなものじゃなくて、政治家っていう一人の人間を知れるようになればいいかなって。そうじゃないとイメージが湧かないし、リアルじゃない。一人の人間として政治家と僕らが向き合う場がもっと必要なのだと思います。

江口 政治家と向き合い、そして僕らで政治家を育てていくっていう発想がないから批判してばっかりで、そうすると政治家もモチベーションが下がって悪循環に陥る。それを僕らの意識を変えて、評価し育む良いスパイラルを作っていくことが大切だと思います。

ネット選挙っていうのはそうしたコミュニケーションプラットフォームとしてのツールであって、解禁したから投票率が上がるなどの議論はまだ先の話として、投票率を上げていくためにどのような取り組みをしていくかは、僕ら自身も考えなければいけないというのを一番伝えたいですね。

鈴木 じゃあ、僕らはまず何をすればいいんでしょうかね。

原田 例えば、まずTwitterなんかで政治家をフォローして、気になるツイートがあったらRTして、それで何か感じたら、そこから何をするか考えていけばいいんじゃないでしょうか。

(インタビューここまで)

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「ネット選挙」というとネットを通じて情報が得やすくなるというイメージでしたが、むしろ有権者がインターネットをツールとしてどんどん政治を使っていくことに意味があるのだと考えさせられました。私は選挙に行ってもいつも「届かない感」というのを抱いてきました。選挙の時は選挙区に来るけど、他の時はどこで何をしているかわからない、そんな人たちからどう選べばいいんだと。でも、それはそれを知ろうとしない自分にも責任があったわけです。

せっかく解禁されたので、ネットで発言している政治家を追いかけて、わからないことがあったら聞いてみて、当選したらこういうことをやってくださいという言葉とともに票を投じたいなと思いました。とりあえず、Twitterで発言している政治家をリスト化している「ポリッター」をじっくり見てみます。