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日本のユニバーサルデザインを世界の誇りに。バリアをバリューに変える「ミライロ」

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

駅、学校、遊園地…誰でも行ったことがあるこれらの場所で、気付かないうちにあなたも”ユニバーサルデザイン”に触れているかもしれません。駅のホームの黄色い点字ブロックだけでなく、目に入ってくる情報、そこで働く人も含めてユニバーサルデザインのひとつの成果なのです。

日本全国には3000万人の高齢者、750万人の障がい者が暮らしています(参考)。20人に1人、つまり学校や職場を見渡せば1人は障害のある方が暮らしているということ。今日ご紹介する「ミライロ」は、建築やプロダクトの設計、障がい者への接客研修を通じて、ユニバーサルデザインの普及に取り組む会社です。

バリアをなくすのではなく価値に変える”バリアバリュー”な社会へ

「ミライロ」代表を務める垣内俊哉さんは、「バリアバリュー」という言葉を大切にしています。障がいをマイナスなことでも不幸なことでもなく、障がいを持っているからこその視点を価値に変えていく。そんな社会を目指しているのです。

私たちのサービスは、建物の設計から人まで多岐に渡ります。いくら建物がユニバーサルデザインになったとしても、そこで働く人がしっかりともてなすことができなければ機能しないのです。

一貫しているのは、私のような車いすの人間や、全盲の人間が研修指導を行うこと。障害のある人間が講師をしたり、仕事の担い手になることで、障がいのある方の経験や視点を活かした事業ができると思っています。

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垣内俊哉さん

ミライロの現場の一つに、結婚式場があります。結婚式を挙げる方や、その参列者の方である、障がいのある方、お年寄り、お子様連れが安心して過ごせる環境を整えました。工事段階の式場で調査を行い、車椅子でも移動しやすい動線に。式場のスタッフには、お客様への声かけ工夫や、おもてなしの研修を行いました。

また、来場する前に少しでも不安を解消できるようにウェブサイトの情報のリニューアルも提案しました。式場内の設備や接客をイメージしやすくすることで、不安を取り除くきっかけになります。これらの工夫で、安心してご家族やお知り合いと過ごしていただける結婚式場が実現しているわけです。

私たちにとって馴染みのある学校もミライロの舞台。例えば大阪大学では、身体の不自由な方の移動経路が一目でわかるバリアフリーマップを作成しました。工学部の学生に向けて「バリアフリー調査セミナー」を実施し、実際に車椅子に乗ってもらいながら、一緒に構内を調査。

当事者の目線を交えて完成したバリアフリーマップはウェブサイトに掲載し、キャンパスを訪れたことのない方もバリアフリー状況をチェックすることができます。障がいのある学生さんからも、移動の際に役立つと喜びの声が集まったそうです。

このような事例を知ると、知らず知らずに見ているもの、何気なく触っているものにも、バリアフリーの思いが込められていることがわかります。

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大阪大学で実際に作成したバリアフリーマップ

魔法にかけられて気付いた時間の大切さ

そんな垣内さんですが、実は先天的な「骨形成不全症」という病気をお持ちです。骨が脆く折れやすいため、幼少の頃から車いすで生活をしています。

最初は悲観していたし、死にたいと思っていた。自分の病気は子どもに遺伝すると言われているので、もし家庭ができて子どもが出来たときに今の社会は生活しづらいと感じていたんです。

でも、自分の子どもには「死にたい」なんて思わないような社会を作っていきたいと思うようになって。今の自分にもできることは何だろうって考えたとき、限られた時間を誰かのために使おうと思った。それがこの会社の形だったんです。

そういって垣内さんが見せてくれたのは、携帯電話の待ち受け画面。そこには、生まれてから今日までの日数、「ミライロ」を起業してからの日数、そして発症するといわれる45歳までの残りの日数“7683日”がありました。

毎日朝起きると僕は嬉しいんですよ。あぁ、今日も話せる。いま手を動かせる。明日は自分の手が動くかわからない分、なんて幸せだろうと思います。時間の大切さに気付けたことを今では感謝しています。それがなかったら、違う形で生きていたと思いますから。

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実際に車椅子で施設を調査し、当事者目線で提案を行います。

はじまりは、教室での2人の議論から

17歳のとき、うまくしゃべることも、車いすを漕ぐこともできなかった垣内さん。「歩きたい!」という強い思いから高校を中退し、リハビリに励んだ後、目指したのは大学進学でした。猛勉強の末、立命館大学の経営学部に合格します。

大学に入って1ヶ月後には、学内のインキュベーション施設で出会ったベンチャー企業で働きはじめます。ウェブデザインの仕事に没頭し、ほぼ大学に泊まり込んで生活していました。一緒に「ミライロ」を立ち上げた民野剛郎さんとの出会いはこの大学時代。

アントレプレナー学科に通うクラスメイトだった2人ですが、「お互いおもしろいことをしているヤツ」と認識していたそう。1年かけて綿密な事業計画を立て、ビジネスコンテストなどで自分たちの事業を発信してゆきます。ビジネスコンテストで集めた300万円の資金を元手に、大学3年生の2010年、株式会社「ミライロ」を創業しました。

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新大阪にあるオフィス入口には歴代の表彰楯などが飾ってありました。

マンションの一室から始まったミライロの一年目の売り上げは、120万円ほど。食べ物を買う余裕もなく、必死で腹持ちのいい豆乳をずっと飲んでいたと当時について話します。泣く日もありながらも、夢や熱意は絶えることなく、2人は動き続けたのです。

「一件でも仕事の相談が来たら、みんなで泣いて喜びましたね」と振り返る垣内さん。2期目、3期目と広がりをみせ、現在は9名体制となりました。そんな「ミライロ」が仕事で心がけていることはいったいなんでしょう?

ひとつは、圧倒的な質の向上だと思います。「ミライロ」のサービスによって、お客様にどんな利益が出るのかを、具体的な数字できちんと伝えるようにしています。

バリアフリーって社会的に良いことだと思われていますが、なかなか優先順位が低いのが現状です。そこから一歩踏み込んで、導入したら何が変わるのか、事故やクレームがどう減るのか、どう利用者が増えるのか、明確に伝えることで相手にも理解してもらえる。その数字を出すためには、私たちもしっかりと調査しなければいけません。

「ミライロ」は正面から人に必要性を真剣に伝え続けたことで、なんとなくの”いいこと”であるバリアフリーを、ビジネスとして導入するまでに人を動かしてきた裏には、絶え間ない努力がありました。

もう一つは、飛び込みで営業したことです。ホテルや結婚式場は、全部飛び込みからのスタートでした。関西では500カ所、東京でも450カ所は回りましたね。普通の人が1日100カ所回るところ、自分が1日にまわれるのは30カ所。遠回りに見えることでも、地道に泥臭く泥臭く、1人1人と向きあってやってきたから今があると思っています。

僕らが伝え続けたことで、さらに人が伝えてくれる。僕たちだけでなく、皆さんが一緒に伝えてくれるからこそ、点であった思いが線となり面となって、これからどんどん広がっていくんだろうなぁって。

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ホテルのスタッフの皆さんに対して行う、ユニバーサル接客研修

真っ白な道にいろいろな色で描いて行ける未来へ

「ミライロ」には、将来への真っ白は道という意味の「未来路」と、いろんな色や形で未来を描いていこうという「未来色」の2つが込められています。

僕はそもそもひとりでした。そんな自分にとって、事業をやりたいというよりも仲間が欲しかっただけかもしれません。今も仕事の依頼が来ればみんなで喜びますし、お客さんから「ありがとう」と言っていただけることが何より嬉しいんです。

最近は、日本のユニバーサルデザインが世界でも注目され、アジア各国から視察も訪れています。「日本のモノづくりが世界に誇れるように、日本のユニバーサルデザインを世界の誇りにしたい」と垣内さんは力強く語ってくれました。

この取材を経て、ヘレンケラーの『障害は不便である。しかし、不幸ではない』という言葉の私自身の捉え方が変わりました。この言葉に表れているように、建物が人が変わることで障害から“不”を取り除くことなのだと思います。

施設の建物が、そこで働く人の意識が変わることで、利用者の私たちの意識も変わり、バリアバリューな社会が現実のものになっていく。今、私たちの生活のすぐそばにあるミライロのサービスが、世界のミライロになる日はすぐそこかもしれません。

(Text:青木優莉)

青木優莉
横浜生まれ横浜育ちのハマっ子。中高時代はオーケストラ部に所属しバイオリンに打ち込みながら、校外活動で読売新聞の子ども記者、横浜開国博Y150のFM横浜ラジオレポーターを務める。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)に通いながら、人をつなげたい!とインタビュー、デザインを足を動かしながら学び中。イベント、WSの企画運営を行いながら、声だけでハーモニーをつくるアカペラにのめり込む毎日。
Twitter:@pandaoki