「日本の労働環境の改善には、他の国の考え方を知っている人から学ぶとうまくいくかもしれない。」「ティーンエイジャーの性教育はどの国にも共通する課題である。」「タイの無医村の状況を改善するための方法は、アメリカのあの人が知っているかもしれない。」
ある国で問題になっている事柄を、その国だけで解決する必要はないし、一つの国で問題になっている事柄は他の国でも問題かもしれません。また、その問題を解決するためには、世界中に協力者がいるほうが良さそうです。そんなダイナミックな発想で問題解決を支援する団体がタイにあります。
その団体の名前は「Change Fusion Institute」。昨年春から日本に地域ディレクターを置き、日本とのコラボレーション事業をスタートさせました。
Change Fusionとは?
Change Fusionは、分野を問わず、その国や地域において問題だと思われることを解決するための支援を行なう団体です。
その方法は、
というように、さまざま。
つながりを最大限に活用して解決へと導く
世界中にいる社会起業家や革新的なことを行なおうとする人、専門家、投資家、寄付者など多くのプレーヤーと繋がり、その繋がりを最大限に活用して、社会問題を解決するための活動を行うのです。
得意分野はICT(情報通信技術)を使ったソーシャルデザイン。例えば冒頭で例に挙げた「ティーンエイジャーの性教育はどの国にも共通する課題である」という問題に対しては、Change Fusionは自らタイで「Me Sex」というスマートフォン用のアプリを開発。
アプリ「MeSex」
タイ保健振興財団と女性の健康擁護基金とChange Fusionが連携し、体の変化や性的欲求などについての情報がわかりやすく提供されています。同様にネットドクターのようなアプリ「Doctor Me」も開発。病院が少ない地域で応急処置をどのように施せばいいのか、また病院に行くかどうかの判断基準などを提供しています。 タイで感染症が流行った時には、どの地域で感染者が出たかがわかるような地図アプリを大学などの機関と共同で開発。感染の拡大を妨げるために役立てられました。
日本でのChange Fusionの活動
Change Fusionは昨年の春から日本の社会起業家との活動を開始。タイでChange Fusionとともに活動していた大和亜基さんが帰国をしたためです。大和亜基さんにお話を聞いてきました。
Change Fusion東アジア地域代表の大和亜基さん
現在、大和さんはChange Fusion の東アジア地域代表として、「The Happy Workplace Program」という幸せな職場を作るための取り組みや、タイの農家支援、タイを中心としたASEAN地域への展開を考えるSocial Enterpriseや社会起業家の支援をする活動を行なっています。
「The Happy Workplace Program」は、Change Fusionがタイ保健振興財団とともに積極的に取り組んでいる活動の一つ。タイならではのエッセンスが盛り込まれた職場における健康促進プログラムを、すでに海外展開している企業あるいはこれから展開を考えている企業の方向けに広く知っていただき協業できるよう、日本にも研究会を発足しました。
参加者がさまざまな立場から対話をし、学び合うことで、働くことを通じて健康を守られたり、幸せを感じられる時間が増えたりという理想の職場環境の実現に向けた取組みを具体化していきたいと考えています。
第一回Happy workplace Project研究会の参加者
また「すらら」というe-ラーニング教育サービスを提供する株式会社すららネットとともに、きめ細やかな教育コンテンツや教師の育成が追いつかない地域における安定した教育サービスの提供を実現するために、タイにおける事業展開を模索しています。
心をオープンにし、解決策をともに探っていく
タイにおいて事業を経験したことのある人は、タイにおける物事の進み方の遅さにびっくりしたことがあるかもしれません。しかし、タイではビジョンや方向性が一致するしっかりとしたパートナーとともに、物事の進め方をしっかりとデザインすれば驚くほど速いスピードで物事が展開していきます。相談をするとすぐに「ちょっと待ってね」と電話をして話を進めるなど、私はそうしたタイのカルチャーがとても好きです。
Change Fusionも、キーパーソンとの繋がりをとても大切にします。代表のSunit Shresthaが大事にしているのが「オープン」ということ。とにかく心を開き、自分たちから提供できることを可能な限り提供しながら、ともに解決策を生み出していこうという姿勢が、多くのChange Fusionのファンにつながっているのかなと感じます。
Change Fusionは人とのつながりを重視するために、対話を通じて活動を行うことが多いとのこと。「対話」というと、greenz.jpでもしばしば紹介しているNPO法人ミラツクが頭に浮かぶ人が多いと思いますが、Change Fusionとミラツクは似ているところも多い、と大和さんは言います。
特に様々な分野の方々が、自立したスキルやビジョンを持ちながら「協業」するためのきっかけを提供し合う、ハブのような存在になっているという点は魅力的です。
大和さんはミラツク代表の西村さんがタイでホスティングのスキルを磨くためのワークショップ「Art of Hosting」を開催した時に、Change Fusionとして参加。その後、ミラツクとChange Fusionのつながりを強化させ、アジアで活躍する魅力的な人材に向けてのリーダーシップトレーニングプログラムを実現できるよう準備を進めています。
人とのつながりをもっと活性化させたい
大和さんがChange Fusion を訪問するきっかけも、人とのつながりにありました。
そもそも大和さんがChange Fusionを知ったのは、特定非営利法人S.T.E.P.22(以降S.T.E.P.22)という、海外で新しいチャレンジを行なう人に奨学金を支給しサポートを行なう団体で活動をしていたときのこと。奨学生の一人が、アジアのソーシャルイノベーション事情について学ぶなら、絶対に訪問したいと言っていた団体がChange Fusionだったそうです。
大和さんがS.T.E.P.22で活動をするきっかけになったのは、学生時代に参加していた日米学生会議の仲間から誘われたのがきっかけでした。ちょうどそのとき、テレビ局勤務だった大和さんは体調を崩してしまい、時間的にゆとりのある部署へ異動したばかり。タイミングの良さもあり、仕事での経験をいかしPRの手伝いなどをしながらS.T.E.P.22の奨学生との時間も大事にしていました。
S.T.E.P.22のメンバーと
そして、実際に大和さんがタイのChange Fusionに関わるようになったのは、ご主人のタイ赴任がきっかけでした。7年間働いていたテレビ局の仕事を辞めてタイへ行く時の気持ちを、大和さんはこう話します。
テレビ局では、広報の仕事である取材活動にとどまらず、エコ委員をやったり、日テレ体験教室といってメディアリテラシーを普及させるために小学校を中継車とともに訪問したり、母校での寄付講座を実現したりと、色々な挑戦をさせてもらいました。
同時にS.T.E.P.22では若者を海外に送り出す支援をしていて、「自分も海外で活動をしたい」という気持ちが強くなっていたのです。そんなタイミングでの夫のタイ赴任だったので、迷うことなく退職して夫についていくと決めました。
日テレ体験教室の運営メンバーと
大和さんがタイに行って2ヶ月ほどした頃。大学時代の友人がディレクターを務めるLearning Across Boardersという大学生向けのスタディーツアーがタイ、マレーシア、シンガポールを訪問するため、タイの活動だけでも参加しないか、というお誘いがありました。そのプログラムの中で訪問したのがアショカ財団タイ支部。大和さんのタイ生活において本当に大きな存在となる仲間との出会いがあったといいます。
Change Fusionの代表もアショカフェローとして選出されるなど、すべての小さな点と点が、時間の経過と共に確実に線になり、今の大和さんの活動につながっているのです。
アショカ財団タイ支部の仲間と
現在、Change Fusion の日本における窓口は大和さんが一人で担当しています。多くの人と会い、つなげるのは大変なのではとないかと感じますが、人が大好きな大和さんにとっては非常に楽しいこととのこと。
人と会うのが好きですし、人と話をするのも人の話を聞くのも大好きなんです。人との繋がりを活性化させて、社会の様々な課題が世界の人の力で解決できたら嬉しいです。
大和さんは会社員時代に一度体を壊した経験から、日々の食生活とワークライフバランスを非常に重要視しています。そのため、夕食の時間にかかるワークショップの場合には美味しい食事を食べながら参加できるようにしたり、ミーティングのときには必ずスイーツを出したりと、工夫をしているのだとか。
今後の展開としては8月下旬にタイで開催されるHealth Promotionのカンファレンスに、「職員の健康」「サプライチェーンマネジメント」といった分野で活躍する社会起業家や企業の担当者、NGOなどを動員し、あらたな「つながり」が生まれるようデザインしたり、NPO法人ミラツクや一般社団法人World in Asiaとの協業でアジアの社会起業家が国を超えて共にSocial Changeを起こすための事業も企画しているとのこと。Change Fusionの今後の展開に目が離せません。