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漁業ツアーも開催!食への関心を高めるために、さまざまな入り口をつくる「NPO法人おもしろ農業」

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

あなたが前に土に触れたのはいつのことですか? 土の感触や温度を思い出せますか? 農を営む方々にとってそれはきっと毎日のことですが、都会暮らしの方はいかがでしょう? 子どもの頃以来、触れていないという方も多いのではないでしょうか。

今回ご紹介する「NPO法人おもしろ農業」は、都市部で暮らす方々に“土に触れ、農に親しむ機会を提供する”をキーワードに活動する団体です。しかしよくよくお話を聞いてみると、その活動は農という枠を飛び越えて、日本人の食文化を守ろうとする取り組みだったのです。

農に触れる機会を都市部の人に

「おもしろ農業」が展開する事業は主に2つ、屋上貸し農園と体験ツアーです。屋上貸し農園はその言葉通り、大阪難波のビルの屋上に農地を設け、一般に貸し出すというもの。月3千円の賃料(年会費3千円)で、1メートル四方の農地を自由に使うことができます。会員の方には要望により、土の耕し方、野菜の育て方などのアドバイスも実施。ある程度知識があり、より深く取り組みたいという方には、規模の大きな貸し農園の紹介なども行っています。

また、体験ツアーは京丹波や豊岡市などの農家さんを訪ね、田植えや稲刈りなど第一次産業を“本格的”に体験できるものや、気軽に農家さんと話をしに行ける“レジャー感覚”のものなど、さまざまなモチベーションの方々に合わせて開催。「おもしろ農業」が企画を担当し、旅行会社が開催に協力する形で運営を行っているそう。そのほかにも農家さんと一般の人を集めてのバーベキューを行うなど、いろんな形で都市部の人が農に触れられるきっかけを提供しています。

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田植えツアーの様子

イメージと現実のギャップを埋める

農林水産省が農林漁業生産と加工販売を一体化した、いわゆる“六次産業化”を推進したり、「農業をなんとかしなきゃいけない!」と活動する団体がいくつもある中で、「おもしろ農業」の取り組みはどれも“きっかけづくり”という印象を受けます。その理由を代表の片桐新之介さんに伺いました。

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バーベキューの様子。写真右のバンダナを巻いているのが片桐さん

第一次産業や食文化に関心を持つ人が増えてきているのはいい傾向なのですが、まだまだ少ないし、弱いと感じています。農政局の就農フェアなどに参加する若者も確実に増えていますが、その理由は「農業がやりたい!」ではなくて、「農業だったら就職できると聞いた」という人が多いのが現実です。農業は大変な仕事です。でも、それでも農業をやりたいという人しか続かない。

農水省は、定着する青年新規就農者を年間2万人に増やすと言っています。つまり、続けられる“強い農家”が増える必要がある。そのためには、まずイメージと現実のギャップを埋める体験ができる、“入り口”がもっとたくさんあっていいんじゃないかと思っていますし、そうなろうと心がけています。

ただし、「おもしろ農業」の目的は“就農者を増やすこと”ではないそうです。

「就農者を増やします!」というと途端にハードルが上がってしまう。上級編というか、耕作放棄地の解消を掲げて活動する団体はたくさんあるし、僕自身も「農家のこせがれネットワーク」という団体を通して新規就農者対策に取り組んでいますが、「おもしろ農業」の目的はあくまで都会の人に“土に触れ、農に親しむ体験”をしてもらうこと。

なぜなら、この食べ物に関わる体験こそが食への関心を高めるきっかけになるからです。就農者が増えたり耕作放棄地が減ったりということは、その延長線上にあることだと思っています。

体験を通じて食文化を守りたい

実は片桐さんは12年間、阪急百貨店で魚やお酒の販売をされていた方。当時から、日本人の食に対する関心度が低下していることに危機感を感じていたそうです。

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代表の片桐さん

僕は百貨店に勤めていたことで、いろんな食べ物に出会わせてもらいました。だからか「農業をなんとかしなきゃ」というよりも「食を守りたい」という思いのほうが強いんですね。

というのも百貨店勤めをしていたある日、僕は魚のサバを並べていたんですが、おばちゃんがやってきて「兄ちゃんそのアジなんぼ?」って聞くんですよ。「いやいやおばちゃん、これアジちゃうで」って。

極端な例ですけど、そういうことがどんどん増えていっている。自分の口に入るものなのに、そこまで関心がなくなっているのって実はかなりおかしな状況だと思うんです。違いが分からないということは、本物がわからないということです。本物がわからなくなったらどうなるか…売れなくなるんですよ。売れなくなったら生産者は作れなくなる。つまり、本物が失われてしまうことにつながっていく。これって食文化の危機なんです。

例えば、北海道の真昆布はその9割が大阪で消費されていて、大阪の食文化と言っても過言ではない食べ物なのですが、その消費量は40年前の4万トンに対し、現在は約1万6千トンまで落ち込んでいるといいます。人口は増えていたのに食べる人が減っているんですね。

実際に、とある乾物屋さんも「あと5年で店閉めるわ」と言っているそうです。安ければ良い、テレビで取り上げられていたから良い、無農薬だから良い、有機だから良いではなくて、もっと一人一人が食べ物そのものに興味を持つことが、食文化を守ることになるんじゃないかと思っています。

そんな思いを胸に、片桐さんは会社の早期退職制度を活用して阪急百貨店を退職。飲食店のコンサルティング業などの活動をスタートさせたところに、「おもしろ農業」を引き継ぐ話が舞い込みます。

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「半農半X研究所」の塩見直紀さんとの対談の場面も

ちょうどその頃、「おもしろ農業」の前任の代表が活動を引き継いでくれる人を探していて、僕のところに話が回ってきたんです。入り口の部分を担いたいという思いが共通していましたし、せっかくの貸し農園をなくさないためにも引き受けると決めました。2011年の11月のことです。

代表が僕になってから外に出て行く活動の比率が上がっているので、前任の代表は「なんでこんなことになっているんだろう?」という思いで見ているかもしれませんけどね(笑)

枠に収まらないスタンスが活動の幅を広げる

現在、片桐さんは「おもしろ農業」の活動と平行して、奈良市の中心市街活性化協議会のタウンマネージャーとしても勤務。それ以外にも農商工連携プランナーなどさまざまな顔をお持ちで、ご自身でも「何者なのか分からなくなってきた」と苦笑いされます。

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Facebookの自己紹介欄はこれでもかというほどに肩書きがいっぱい

その枠に収まらない片桐さんのスタンスが「おもしろ農業」の活動の幅を広げつつあります。「大阪市立総合医療センター」では、精神病棟に入院している子どもたちための農地管理をお手伝いし、月一回、子どもたちと一緒に簡単な農作業を行っています。

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土の中から虫が出てきて、子どもたちは大はしゃぎでした

敷地内で野菜を育てるプログラムは病院の先生が始められたことなのですが、スタッフの皆さんも多忙なので結局管理がままならないし、耕し方も何をどう植えたら良いかもよく分からないという状況でした。

そこで人づてに私のところへ相談がきて、「そういうことならぜひお手伝いしますよ」となったんですね。ここに入院している子どもたちはだいたい3ヶ月で退院するので、できるだけ入院期間中に植え付け・収穫など、さまざまな体験ができるようにするためのアドバイスをしたり、定期的に土を耕しておくこともしています。

中には“時間の軸”を認識しづらいという子がいるらしく、そういう子には“植物が育つ”という経験は時間を捉える有効な手だてなのだそうです。僕にできることはわずかですが、一瞬でもそういう子が笑ったりできるきっかけが作れたらうれしいですね。

そのほかにも、兵庫県神崎郡で耕作放棄地の再生を試みる「NPO法人棚田LOVER’s」のコンサルティング業務を担当したり、大学生たちへの農業指導なども行っています。そして、「おもしろ農業」なのに、まさかの漁業ツアーも開催。

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「おもしろ農業」なのに、漁港にだって行きます

名前が「おもしろ農業」だからといって、農業しかやっちゃいけないわけじゃない。重要なのは枠組みではなくて、食べ物を意識する場面をとにかくたくさん作っていくことですから。ただのおいしいもの好きという説もありますけど(笑)

今後は、屋上貸し農園と体験ツアーを拡大して雇用を生み出し、医療センターの農地は地域の人たちが集まってこられるような場所にしていきたいと片桐さんは話します。

何より僕自身がおいしいものをたくさん食べ、おいしいお酒を飲みたい。いろんな人たちと楽しい場を共有したい。そういうことを通して、農業や食べ物への関心を高めていく。遠回りに見えるかもしれないけど、僕にとってはとても大切なプロセスなんです。

今日、あなたは何を食べますか? あなたはその食べ物のことをどれだけ知っていますか? 何が入っているか、産地がどこなのか、その食べ物についてひとつでも知ろうと意識してみてください。普段気がついていない新たな発見が、そこにはきっとあるはずです。

(Text:赤司研介)

赤司研介(Akashi Kensuke)
1981年生まれ。熊本出身の神奈川育ち。奈良県在住。広告制作会社でライター経験を積んだ後、フリーライターとして活動。現在は西日本最大級の生産力を誇る大阪八尾の印刷会社「株式会社シーズクリエイト」CSR室に所属。“生物多様性”“地域活性”“中小企業支援”をキーワードに、これからの社会に必要な“しくみ”と“人の居場所”をつくる活動に取り組む。奈良県の観光産業を盛り上げるバイリンガルフリーペーパー「naranara」副編集長。

シーズクリエイト:Website/ Facebook
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