30年後、40年後のみなさんの周りには、困った時に頼りになる“誰か”はいますか?
年齢を重ねていくと外出がおっくうになり、どうしてもだんだんと家の中に閉じこもるようになってしまいがちです。そうすると、周囲との関係はだんだんと希薄化してしまうもの。内閣府によると、そのような人間関係の希薄化が原因で孤立死してしまうケースが年々増えているという問題があります。
一方、いまのみなさんの周りに、仕事や人生のことで悩んだ時に相談できる人は、どれくらいいるでしょうか。同世代、もしくは少し年上の相談できる人はいても、まるでお母さんのように悩みを聞いてくれる人はあまりいないかもしれません。でも、精神的に参った時にそういう存在がいると安心ですよね。
そんな高齢者と若い世代の双方が抱える問題を解決してくれるプロジェクトが、東京都練馬区の光が丘という街で動き始めています。
おじいちゃん、おばあちゃんと若者が一緒に住まうということ
光が丘シェアハウスプロジェクトの方々。シェアハウスになる予定のお部屋で取材させていただきました。
この「光が丘シェアハウスプロジェクト」は、なんとお年寄りの方と若者が一緒に住むシェアハウスを作ろうじゃないか!というもの。光が丘団地の空家を借りてシェアハウスを運営しようと企画されています。
また、一緒に住むまでの関係づくりはとても大切なこと。そのためこのプロジェクトでは、地域のご高齢の方々とこの企画に興味がある若者を招待し、鍋パーティーや餅つき大会などを開催してきました。
プロジェクトの1人である荒川直美さんは、光が丘で在宅介護サービスを行う「NPOむすび」のメンバーの一人。荒川さんは高齢者の生活について、このような問題意識を持っていました。
ご高齢の方は「自宅に住む」か「施設に入る」か等の選択肢があります。しかし、「自宅に住む」と話し相手がいなくてコミュニケーションがとれなくなり、生活が活性化しないことで身体的な機能が落ちていってしまうという問題がある。そのため、最終的には「施設に入る」形になりがちです。
でも、施設って入居者はご高齢の方ばかりで、若い方は職員さんだけなので立場が対等ではないんですよね。そういう現状に対して、人間が暮らしていくうえで同世代の人ばかりが集まっているのはあまり自然じゃないし、自分たちの生活がどこかに置き去りになっているなとずっと感じていたんです。
高齢者の生活について問題意識を語る荒川さん(左)
「人間は人と交流することで、地域のなかで元気に生きていくことができる」。団地の中でドアを閉め、誰とも話さないでいてしまうことが、社会全体に対して扉を閉じることに繋がってしまう。それこそが問題だと荒川さんは言います。
担い手は、学生と主婦
千葉大学大学院工学研究科の佐藤まどかさん(左)とNPO法人むすびの荒川直美さん(右)
「光が丘シェアハウスプロジェクト」の担い手は、なんと千葉大学大学院に所属する20代前半の大学院生と、「NPOむすび」の50代の奥様たち!大学院生の方々は広報とイベント企画を、「NPOむすび」の方々は高齢者への広報と経理等の事務作業を担当されているそうです。
普段は共に活動することのない両者が、なぜ一緒にシェアハウスを運営することになったのでしょうか。その背景について、荒川さんはこのように話します。
私の娘が、千葉大学の研究室に所属していたんです。光が丘団地でシェアハウスができることを知り、ちょうどやってみたいなと思っていたときに、シェアハウスの研究をしている娘の研究室の先生に声をかけてもらい、娘経由でみなさんと知り合ってプロジェクトが始まりました。
荒川さんは、発想が斬新で、研究成果を活動に反映してくれる大学院生メンバーを信頼するようになり、「メールがたくさん来たりすると、すごく嬉しかった」そう。一方の大学院生たちは、荒川さんたちをすごく慕っていて、まるでホンモノの親子のようでした。
「いろんな人が交流するオープンな地域コミュニティにしたい」
光が丘シェアハウスの未来を語る、NPO法人むすびの中井八千代さん(左)と荒川直美さん(右)
最後に高齢者と若者がともに住むシェアハウスの未来についてこんなことを話してくれました。
高齢者と若者が一緒に住んでいるなかでお互いの気配を感じながら、でも対等の立場で住む感覚を大事にしたいです。お互いに助けあい、お互いに“安心”を与えられるといいかなと思います。
それと、オープンな空間になると嬉しいですね。団地では扉を閉じてしまいがちだけど、そこがいろんな人が行き交って助け合うようなコミュニティになるといいなあと。(荒川さん)
また、NPO法人むすびの中井八千代さんは
高齢の方には「若い人を支援する」という気持ちで住んでいただけると嬉しいですね。お年寄りの方にとってはまったく新しい住まい方なので、それをどう理解してもらえるかがこれからの課題。でも、やってみる価値はあるし、これからの当たり前になりうることかなって思うんです。
今後お年寄りが本当に増えていって、なかなか高い家賃の施設に入れない方もたくさん出てくる。そのときのために新しい暮らし方を模索していくことが、いまの私たちの役割かなと思うんです。
光が丘シェアハウスプロジェクトでは、入居を検討している方向けにイベントも開催しているそうです。
光が丘にいる若者は、実家が光が丘にある大学生がほとんどで、卒業後は都心に引っ越してしまうそう。しかし、災害時などのいざというときも含めて、地域コミュニティにおける若者の役割は大きいと、荒川さんは話します。地域で世代を越えてつながり、お互いに助け合う住まい方は今後いっそう求められるようになるかもしれません。
「光が丘シェアハウスプロジェクト」では、実際にシェアハウスに住む方を募集中。興味ある方は、ぜひ連絡してみてくださいね。
(Text:緒方 康浩)